アンドレア・ユーレン『メアリー・スミス』

 今日は2冊。この絵本はラストもなかなかユニーク。まちのみんなを起こす仕事を終えて、「メアリー・スミス」が家に帰ると、娘の「ローズ」が学校から家に帰されています。その理由を聞いた「メアリー・スミス」がどうするかが話のオチでおもしろいです。と同時に、いかに「メアリー・スミス」が自分の仕事を誇りに思っているかが伝わってくるようです。
▼アンドレア・ユーレン/千葉茂樹 訳『メアリー・スミス』光村教育図書、2004年

秋山とも子『ふくのゆのけいちゃん』

 この絵本は、うちの子どもに絵本を読み始めてからの大のお気に入りで、何十回、いやもしかすると百回も二百回も読んでいます。文章を覚えてしまうくらいです。だいぶ長く読んでいなかったのですが、今日は久しぶりに読みたいとのこと。
 タイトルのとおり、「ふくのゆ」という銭湯が舞台。5月5日の子どもの日に菖蒲湯をするのですが、その1日の様子がていねいに描写されています。ペンキ屋さんが1年に一度、お風呂場の絵を描き換えにやってきたり、廃材屋さんが薪にする木を持ってきたり、「けいちゃん」のお父さんとお母さんのいろいろな仕事も、銭湯を開ける前の準備からお客さんが帰ったあとのお風呂場の掃除に至るまで、一つ一つ描かれています。とくに家事や育児とお風呂やさんの仕事をうまく調整しながらやっている様子がそれとなく示唆されていて、興味深い。一口に仕事といっても、いろいろあるわけですね。お風呂でお客さんが菖蒲湯を楽しんでいるところもセリフの書き込みがおもしろいです。この絵本、おすすめです。
▼秋山とも子『ふくのゆのけいちゃん』「こどものとも」1993年5月号(通巻446号)、福音館書店、1993年

小林勇『あげは』

 今日は2冊。この絵本は「かがくのとも傑作集」の1冊。アゲハチョウが卵から生まれ、幼虫、さなぎをへて成虫になり、そしてまた卵を生むまでが描かれています。精密な描写、またじっさいの大きさも示されており、アゲハチョウの生態がよく理解できます。うちの子どもは、幼虫がしばしば鳥に食べられてしまうことが気になっているようでした。著者の小林勇さんは、巻末の紹介によると、絵画性と科学性の高度な結合を考え理科美術を提唱し、1956年に日本理科美術協会を設立されたのだそうです。
▼小林勇『あげは』福音館書店、1972年

河竹黙阿弥/飯野和好/斎藤孝『知らざあ言って聞かせやしょう』

 斎藤孝さんの「声にだすことばえほん」シリーズ、第三弾はなんと、わが家の家族みんなが大好きな飯野和好さんと組んで、歌舞伎の『弁天娘女男白浪(白浪五人男)』の弁天小僧菊之助のセリフ。飯野さんの絵は本当にすばらしく、画面の端々にまで力がみなぎっています。主人公の菊之助が実にワルでカッコよくて、色気がにおいたつよう。妖しい目がよいです。画面の構図もきまっていて、ページをめくるたびに、おーっという感じです。
 絵は本当によいのですが、でも、絵本全体としてみると、ちょっとどうかなと思いました。というのも、菊之助のセリフ、声に出して読んでも、それだけでは何のことやら意味が分からないのです。うちの子どももよく分からないと言っていました。巻末には斎藤さんの口語訳が載っていますが、それをそのまま読んでも、まだ分かりません。子どもはもちろん、大人の私にもよく理解できないところがあります。意味ではなく声に出すことが大事なんだということかもしれませんが、しかし、これでいいんだろうかと疑問が浮かびます。
 たとえば、じゅげむじゅげむとか「声に出すことばえほん」シリーズの以前のものだと、まさに音そのものを楽しめたと思うのですが、今回はなかなか難しい。少なくとも読み聞かせには向かないような気がします。
 もう少し仕掛けが必要なんじゃないかな。たとえば、巻末には歌舞伎役者のセリフまわしが収録されたCDブックのあることが記されていましたが、それなら、最初からCDを付けるとよいように思います。CDを聞きながらセリフまわしのおもしろさを知ると、だいぶ楽しめるんじゃないでしょうか。
 口語訳についても、註をもっと増やして、もう少し分かりやすくするとよいと思います。斎藤さんのあとがきにはいろいろ説明が書かれているのですが、やはり小さな子どもにとってはまだ難しいでしょう。
 こんなことを書いているとなんだか斎藤さんのファンには嫌われそうですが、飯野さんの絵がすばらしいだけに、もう少し、なんとかならないかなと思ってしまいました。
▼河竹黙阿弥 文/飯野和好 構成・絵/斎藤孝 編『知らざあ言って聞かせやしょう』ほるぷ出版、2004年

栗原毅/長新太『やぶかのはなし』

 今日は2冊。夏といえば、蚊。うちでも毎晩のように蚊と戦っています。この絵本は、蚊の生態を描いた絵本です。オスは血を吸わないことや、メスが血を吸うのは卵を育てるためであること、水のあるところに卵を生むといってもいろいろ条件があること、さらには交尾や蚊のうんちについても説明されています。はじめて知ったのですが、トンボやクモは蚊を食べるのだそうです。にっくき蚊とはいえ、一つの生命体として生きていることがよく分かります。絵は、白と黒以外は緑と黄とオレンジの3色のみ。夏の暑さや血の色も連想させ、人間の世界とは違う蚊の独自の世界が画面から立ち上がってくるようです。すごいなと思ったのは、蚊の生態を描いているとはいっても、蚊の身体をクローズアップしたりせず、ほとんど通常の蚊の大きさと変わらずに描いているところ。画面のなかで本当に小さく飛んでいます。でも、だからこそ逆に、ブーンという正体不明な音が聞こえてくるようで、いつものあのすばしこい黒いカゲ、つぶしたと思ってもつぶせていない、にっくき黒いカゲを体感することができます。と、書いていたら、たったいま私の左よりブーンという不穏な音が……。蚊です。……つぶしました。血は吸っていないようなので、もしかしたらオスだったかも。この絵本、おすすめです。
▼栗原毅 文/長新太 絵『やぶかのはなし』福音館書店、1994年

夏休みの図書館

 先日、いつもの公共図書館に行ったときのこと。驚いたことに、絵本の棚がどれも、いつもの3分の1くらいなくなっていました。えー!と思い、貸出窓口の方にたずねたところ、夏休みの宿題などの関係で借りられ毎年この時期は棚がスカスカになるとのことでした。

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小林伸光『ロケットがゆく』

 今日は1冊。「おおきなポケット」はもともと小学生向けなので、うちの子どもには少し難しいと思うのですが、この『ロケットがゆく』は大のお気に入り。もう何十回も読まされています。日本のH2Aロケットの1段目と2段目が工場からトレーラーや船やクレーンなどを使って発射場に運ばれ、そこで組み立てられて宇宙に飛んでいくまでを、CGを使って写実的に描いています。こんなふうに運んでいるのかと、はじめて知ることもいろいろ。ロケットのリアルな描写で、うちの子どもがこの絵本を大好きな理由はよく分かるのですが、正直言って私はあまり好きじゃありません。なんだろうな、つまり、CGを使う必要性がよく分からないのです。これだけリアルに描写するなら、むしろ、実物のH2Hロケットの様子を撮影して、写真絵本にした方が何倍も興味深いと思うのですが。というのも、CGで作られた画面にはまったく一人も人間の姿がないのです。ロケットをはじめ輸送機械や発射場だけで、そこで働いているはずの人間が一人もいないというのは、リアルなCGだけに、あまりに不自然! ちょっと、どうかと思います。でもまあ、子どもに読んでと言われたら読むわけですが……。
▼小林伸光『ロケットがゆく』「おおきなポケット」2002年4月号(通巻121号)、福音館書店、2002年

長田弘/あべ弘士『あいうえお、だよ』

 長田さんの文は詩といった方がよいと思いますが、「あ」「い」「う」「え」「お」の5つの言葉が「みんなでみんなの世界をつくる」お話。木や鳥や湖や風や星、冬や春や雨や夏や秋、いろいろな色や線、いろんな動物に、「あ」「い」「う」「え」「お」がなります。この詩は、とても感慨深く印象的。そして、あべさんの絵がこれまたすばらしい。文によって描き方を変えているのですが、たとえば季節を描いたところでは、描き方の違いによってその季節の一面が鮮やかに切り取られていて、美しいです。また、いろんな色や線を扱った文には動物や虫の絵が付けられており、これはあべさんならではでしょうか。抽象的な内容をその深みを損なうことなく具象的な絵によってつかみとる、そんな印象を受けます。最後の方では、「あ」「い」「う」「え」「お」の呼び声に応えて、「か」から「ん」までの言葉たちがみんな登場します。

みんなで なにか をしよう。
か から ん まで あつまってきた みんなが いいました。
みんなで みんなの 世界を つくろうよ。
あ と い と う と え と お が いいました。
こうして、みんなで みんなの 世界を つくったんだよ。
あ と い と う と え と お は いいました。
こうして、みんなで みんなの 世界を つくれるんだよ。
あ と い と う と え と お が いいました。
ねえ、みんなも みんなの
すきになれる 世界を つくってみない?

うちの子どもは読んでいる途中で「これは字を覚える絵本なの?」と言っていましたが、このラストページの呼びかけには「そりゃあ、知らない字で歌を作る」と応えていました。そうか、歌か。なるほどなあ。この絵本、おすすめです。
▼長田弘 作/あべ弘士 絵『あいうえお、だよ』角川春樹事務所、2004年

ジョナサン・アレン『メチャクサ』

 今日は2冊。「メチャクサ」というのは主人公のヘラジカの名前。なぜ「メチャクサ」かといえば、めちゃくちゃくさいから。くさい臭いに引きつけられて、「メチャクサ」の頭はハエだらけ、そのハエを食べにカエルや小鳥たちまで頭に住み着いてしまうほどです。で、森で一番いばっているオオカミが「メチャクサ」を襲って食べようとするのですが、何度やっても、猛烈な臭いにバタンキューと逆に倒されてしまうという物語。この痛快なお話と、なにより「くさい」という子どもの大好きな生理感覚が効くのか、うちの子どもには大受け。私もつい吹き出してしまい、二人でゲラゲラ、笑いのツボにはまってしまいました。主人公「メチャクサ」の絵はいかにもくさそう、というかバッチイ感じでよいです。この絵本、くさいのはイヤという人には向きませんが、でも多くの子どもは大好きなんじゃないでしょうか。えー、一応、おすすめです。原書の刊行は1990年。
▼ジョナサン・アレン/岩城敏之 訳『メチャクサ』アスラン書房、1993年