この絵本、やはり文と絵の相乗作用がすばらしい。うちの子どもは今日は、ゴリラの背中の絵に注目していました。黒く大きくりっぱな背中です。ラストページの「ねえ、みんなも みんなの すきになれる 世界を つくってみない?」という呼びかけには、「好きになれる世界っていったら、それは恐竜の世界でしょう。だって、恐竜に会えるから」なんて言っていました。うーん、そうか。ただ、「世界」という言葉の意味がまだよく分からなかったようです。いや、お父さんもよく分かっていないんだけどね。とはいえ、この絵本は、具体的な何かではなく、「世界」そのもの、より正確には徹頭徹尾ことばとともにある「世界」を目の前に差し出してくれる、そんな気がしました。
▼長田弘/あべ弘士『あいうえお、だよ』角川春樹事務所、2004年
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長田弘/あべ弘士『あいうえお、だよ』
長田さんの文は詩といった方がよいと思いますが、「あ」「い」「う」「え」「お」の5つの言葉が「みんなでみんなの世界をつくる」お話。木や鳥や湖や風や星、冬や春や雨や夏や秋、いろいろな色や線、いろんな動物に、「あ」「い」「う」「え」「お」がなります。この詩は、とても感慨深く印象的。そして、あべさんの絵がこれまたすばらしい。文によって描き方を変えているのですが、たとえば季節を描いたところでは、描き方の違いによってその季節の一面が鮮やかに切り取られていて、美しいです。また、いろんな色や線を扱った文には動物や虫の絵が付けられており、これはあべさんならではでしょうか。抽象的な内容をその深みを損なうことなく具象的な絵によってつかみとる、そんな印象を受けます。最後の方では、「あ」「い」「う」「え」「お」の呼び声に応えて、「か」から「ん」までの言葉たちがみんな登場します。
みんなで なにか をしよう。
か から ん まで あつまってきた みんなが いいました。
みんなで みんなの 世界を つくろうよ。
あ と い と う と え と お が いいました。
こうして、みんなで みんなの 世界を つくったんだよ。
あ と い と う と え と お は いいました。
こうして、みんなで みんなの 世界を つくれるんだよ。
あ と い と う と え と お が いいました。
ねえ、みんなも みんなの
すきになれる 世界を つくってみない?
うちの子どもは読んでいる途中で「これは字を覚える絵本なの?」と言っていましたが、このラストページの呼びかけには「そりゃあ、知らない字で歌を作る」と応えていました。そうか、歌か。なるほどなあ。この絵本、おすすめです。
▼長田弘 作/あべ弘士 絵『あいうえお、だよ』角川春樹事務所、2004年