山へ草つみに行った「うさこ」、「こねこくん」が食べていたお弁当の天ぷらを少し分けてもらいます。これがとてもおいしいので、材料を買ってきて家で自分でも作っていると、いいにおいに誘われ、山の「おばけ」が「うさこ」の家に忍び込んでくる、という物語。「おばけ」と「てんぷら」の取り合わせがまず、すごい。ふつう思いつきません。また、「おばけ」も「うさこ」も、なんだかとぼけていて、それがおもしろく、また愛らしいです。天ぷらをつまみ食いしている「おばけ」の実においしそうな顔、目がたれています。「うさこ」は「おばけ」が入ったころもを、「おや、なんだろう!ぴょんぴょん はねてるわ。いやに いきの いい やさいね。まあ いいや これも あげましょう」なんて言って油に入れてしまいます。そんな野菜、ないって!誰か言ってやれよっていう感じです(^^;)。いや、この間の抜け方がよいです。
▼せなけいこ『おばけのてんぷら』ポプラ社、1976年
アンドレア・ユーレン『メアリー・スミス』
主人公の「メアリー・スミス」は、ロンドンに住んでいた実在の人物。裏表紙には、1927年当時のスミスさんの写真が載っています。で、この絵本では、そのスミスさんの仕事が描かれているのですが、それがなんと、朝、まちのみんなを起こすこと。ノッカー・アップ(knocker-up)、めざまし屋と言うそうで、信用できるめざまし時計が安く手に入るようになる前に、じっさいにイギリスに存在した仕事だそうです。巻末に説明がありました。ノッカー・アップで一番多かったのは、長くて軽い棒でベッドルームの窓をたたいたり引っ掻いたりする方法でしたが、この絵本の「メアリー・スミス」は違います。かたいゴムチューブに乾いた豆をこめ、それを「プッ!」と豆てっぽうのように吹いて飛ばし、窓にカチン!コツン!と当てて起こすのです。すごいですね。裏表紙の写真も、スミスさんがゴムチューブに口をあてまさに吹こうとしているところ。絵本のなかでは、こうした仕事ぶりがユーモラスに描写されています。最初のページには次のような献辞がありました。
メアリー・スミスその人へ捧げる
[中略]
それから、メアリーのことを教えてくれた母さんには
特別のありがとうを。
原書の刊行は2003年。この絵本もおすすめです。
▼アンドレア・ユーレン/千葉茂樹 訳『メアリー・スミス』光村教育図書、2004年
ヘレン・ウォード/ウエイン・アンダースン『ドラゴンマシーン』
今日は3冊。ある雨の木曜日、窓の外にドラゴンが見えるようになった「ジョージ」。それからというもの、まちのあちこちにドラゴンを見つけます。いたずらばかりしているドラゴンをなんとかしようと、大きな空飛ぶドラゴンの機械、「ドラゴンマシーン」を作り、「だれも行ったことがない荒野の果て」、ドラゴンの楽園へとドラゴンたちを連れていきます。この絵本、絵はたいへん幻想的で美しく、「ドラゴンマシーン」の目のなかで身体を丸めて眠る「ジョージ」を描いた表紙も印象的。登場するドラゴンたちは、恐いというよりはおちゃめでユーモラス。そして「ドラゴンマシーン」が実にメカニカルでかっこよいです。うちの子どもも気に入っていました。この絵本は、物語もまたいろいろと考えさせます。大人たちには見えないドラゴンは、うち捨てられた子どもたちのメタファーであり、ジョージもその一人であることが示唆されています。
でも、だれもドラゴンに気づいていません。
きちんと見ていないから見えないのです。
気にかけていないと目にもとまらないのです。きっと。
(それって、だれもジョージのことをきちんと見てくれないし、
気にもかけてくれないのに似ているかも)
じっさい、この文の付けられた画面で「ジョージ」は、大人たちが足早に通り過ぎる道ばたで、どことなく薄くいまにも消え入りそうに描かれています。そんなに強い主張ではありませんし、ラストは一応ハッピーエンドなのですが、重層的なメッセージが感じ取れます。原書の刊行は2003年。この絵本、おすすめです。
▼ヘレン・ウォード 作/ウエイン・アンダースン 絵/岡田淳 訳『ドラゴンマシーン』BL出版、2004年
鈴木まもる『鳥の巣』
世界中のさまざまな鳥の巣を扱った科学絵本。鈴木さんの絵は写実的で、分かりやすく説明がついています。一口に鳥の巣といっても実に多様。はじめて知ったことばかりで、おもしろく読めました。外敵から卵やヒナを守るための驚くべき工夫や、かたちの精緻さ、また美しさには目を見張ります。クモの糸を接着剤にしたり、なんとクモの糸で葉を縫って巣を作る鳥もいるのだそうです。すごいですね。まさに精巧な工芸品です。直径10メートルにもなる巨大な巣、湖の真ん中に作られた巣など、驚きの連続。一番興味深かったのは、世界中のおよそ9000種の鳥のなかには、どこでどんな巣を作ってどんな卵を生みどのようにヒナを育てているのか、まだ分からない鳥が何種類もいるということ。誰にも見つかっていない鳥の巣がいくつもある……何かロマンというか、生き物の世界は奥が深いなあと実感しました。
▼鈴木まもる『鳥の巣』「たくさんのふしぎ」2004年4月号(通巻229号)、福音館書店、2004年
山下洋輔/元永定正/中辻悦子『もけら もけら』
今日は2冊。いわば言葉の響きと絵それ自体を楽しむ絵本。ストーリーはとくにありません。不思議なかたちをした生き物のようにも機械のようにも見えるものが次々と登場します。抽象的にシンプルな線で描かれているがゆえに、むしろ想像力が刺激されます。絵に付けられた山下さんの文もまたユーモラス。オリジナルな擬態語(擬音語?)が続きます。たとえば
ころ もこ めか めけけ け け け
しゃばた しゃばた しゃばた ぱたさ
てぺ ぱて ぴこ ぱた ぴて ぴた
ずばらば
この語感はジャズピアニストの山下さんならではでしょうか。今日は、ただ読み聞かせをするのではなく、私が読んだら、子どもが続けて読むようにして、二人で声を出しました。これがとてもおもしろく楽しかったです。なんだか踊れそうなくらいです。実はうちの下の子どもはまだゼロ歳児なのですが、上の子どもと私の間に寝かせていっしょに絵本を見せていたら、手足をバタバタさせてうけていました。裏表紙には「2才から」と推奨年齢が書いてありましたが、赤ちゃん絵本としてもよいかもしれません。
▼山下洋輔 文/元永定正 絵/中辻悦子 構成『もけら もけら』福音館書店、1990年
赤羽末吉『おへそがえる・ごん ぽんこつやまの ぽんたと こんたの巻』
いやー、やっぱり、おもしろい。うちの子どもも、この絵本、気に入っているようです。この絵本では、白黒以外の色は緑と赤しか使われていません。しかも、ごく一部だけに彩色されています。もちろん、主人公の「おへそがえる・ごん」には緑が使われているのですが、限定された色づかいがとても印象的です。また、基本的に背景や舞台の描写は省略され、登場する動物や人間や化け物だけがシンプルに描かれており、紙面が横長に広く活用されています。空間の使い方や動物の描き方など、なんとなく昔の絵巻物(たとえば鳥獣戯画とか)を彷彿とさせ、加えて現代のマンガのような味わいもあり、おもしろいです。それはまた、物語の内容にもぴったり合っています。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん ぽんこつやまの ぽんたと こんたの巻』小学館、2001年
角野栄子/井上洋介『おさんぽ ぽいぽい』
今日は2冊。「おとうさん」と「おかあさん」と「イッポくん」が森に散歩に行き、木になるというストーリー。木になった「イッポくん」たちには、風やトンボやセミやウサギやヘビ、クマ、雨雲の親子が「おさんぽ ぽいぽい」とやってきます。まっすぐに立って足に力を入れ両手を高く上げると、当然のように緑いっぱいの木になり、「よいしょ」と足を持ち上げるとすぐに元に戻る、その自然な変身ぶりがおもしろい。ラストページで「イッポくん」は「こんどぼく みずたまりになりたいなあ」なんて言っています。うーむ、木は楽しそうだけど、水たまりは踏まれるばかりだし、あんまりよろしくないんじゃないかなあ。
▼角野栄子 文/井上洋介 絵『おさんぽ ぽいぽい』福音館書店、1995年
トミー・ウンゲラー『エミールくん がんばる』
うちの子どもが好きな絵本に、にしかわおさむさんの「大だこマストン」シリーズがあるのですが、この絵本の大だこ「エミール」と「マストン」はよく似ています。うちの子どもも「似てるねえ」と言っていました。ストーリーなどはまったく異なるのですが、もしかすると、にしかわさんは、ウンゲラーさんの絵本に影響を受けているのかなと思いました。
▼トミー・ウンゲラー/今江祥智 訳『エミールくん がんばる』文化出版局、1975年
松竹いね子/堀川真『じかきむしのぶん』
「じかきむしのぶん」が卵から生まれて成虫になるまでを描いた絵本。といっても、科学絵本というわけではありません。もちろん、じっさいの「じかきむし」の生態をふまえているのでしょうが、トンボや蝶が「いっしょに あそぼうよ」とまだ幼虫の「ぶん」を誘ったりします。色もカラフルで楽しい雰囲気です。実は私は、この絵本を読むまで「じかきむし」という虫のことをまったく知りませんでした。そういう虫がいること自体、はじめて知ったくらいです。名前の由来は、幼虫が葉のなかを食べ進んだ跡がまるで字を書いたようになっているからだそうです。「ぶん」が葉っぱを食べていく場面は、歌みたいな文を付いていて、これがまた、なんだか生命を感じさせます。
さくさく さくさく さくさく
さくさく たべると トンネルできる
さくさく たべると うんちも でるよ
ぽと ぽと ぽと
▼松竹いね子 作/堀川真 絵『じかきむしのぶん』「こどものとも年中向き」2003年7月号(通巻208号)、福音館書店、2003年
桂文我/梶山俊夫『えんぎかつぎのだんなさん』
今日は3冊。桂さんと梶山さんが組んだ「らくご絵本」シリーズの1冊。極端なまでに縁起をかつぐ呉服屋のだんなさんのお話。「うえ」「かみ」「あがる」という言葉を聞くと喜び、「した」「しも」「さがる」と聞くと怒るんですね。いろいろユーモラスなエピソードが続いておもしろい。でも、うちの子どもにはちょっと難しかったようで、どうなっているのかよく分からないと言っていました。まあ、「縁起をかつぐ」ということ自体、子どもにはあまりなじみがないでしょうね。
▼桂文我 話/梶山俊夫 絵『えんぎかつぎのだんなさん』福音館書店、2004年