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栗原毅/長新太『やぶかのはなし』

 今日は2冊。夏といえば、蚊。うちでも毎晩のように蚊と戦っています。この絵本は、蚊の生態を描いた絵本です。オスは血を吸わないことや、メスが血を吸うのは卵を育てるためであること、水のあるところに卵を生むといってもいろいろ条件があること、さらには交尾や蚊のうんちについても説明されています。はじめて知ったのですが、トンボやクモは蚊を食べるのだそうです。にっくき蚊とはいえ、一つの生命体として生きていることがよく分かります。絵は、白と黒以外は緑と黄とオレンジの3色のみ。夏の暑さや血の色も連想させ、人間の世界とは違う蚊の独自の世界が画面から立ち上がってくるようです。すごいなと思ったのは、蚊の生態を描いているとはいっても、蚊の身体をクローズアップしたりせず、ほとんど通常の蚊の大きさと変わらずに描いているところ。画面のなかで本当に小さく飛んでいます。でも、だからこそ逆に、ブーンという正体不明な音が聞こえてくるようで、いつものあのすばしこい黒いカゲ、つぶしたと思ってもつぶせていない、にっくき黒いカゲを体感することができます。と、書いていたら、たったいま私の左よりブーンという不穏な音が……。蚊です。……つぶしました。血は吸っていないようなので、もしかしたらオスだったかも。この絵本、おすすめです。
▼栗原毅 文/長新太 絵『やぶかのはなし』福音館書店、1994年