うーん、これはおもしろい! 子どもは遊びに熱中するとご飯を食べることも忘れてしまいがち。うちの子どもも「ご飯だよ」と言っても、ちっともテーブルにつかないで遊んでいたりします。で、よく怒るわけですが(^^;)。この絵本は、そんな子どもたちと食事をモチーフにしています。
登場するのは、「トラウトベックさん」とその「おくさん」、息子の「ジュリアス」。「ジュリアス」はいつも忙しくてお父さんやお母さんといっしょにご飯が食べられません。何が忙しいのかといえば、イスやカーテンやほうきで部屋に小さな家を作っていたり、世界の反対側に行くために穴を掘っていたりと遊んでいるわけですが、だんだんエスカレートしていき、エジプトのピラミッドを登ったり、ロシアの荒れ野をそりで横断したり、チベットの山の頂上で日の出を見たりと、すごいことになっていきます。この暴走ぶりがとてもおかしい。というか、子どもの遊びにはこういうところがあるなあと思います。
で、「トラウトベックさん」や「トラウトベックのおくさん」がご飯を「ジュリアス」のところに運んであげるわけです。運ぶといっても、なにせアフリカやロシアまで行くわけで大変です(^^;)。すごいなあと思うのは、「ジュリアス」がテーブルにつかないからといって怒るわけでもなく、実にたんたんと料理を作り「ジュリアス」のところまで持っていくこと。これは物語の最後の最後まで一貫しており、表紙と裏表紙にも描かれているのですが、私にはとてもまねできません。すぐに怒ってしまいそうです。まあ、ここまでやってあげるのは甘やかしすぎという気もしますが、でも「ジュリアス」の楽しそうな様子を見ていると、たまにはありかな。
この絵本は、ページのつくりもおもしろい。はじめの見開き2ページで「トラウトベックさん」や「トラウトベックのおくさん」がご飯を作っている様子(左ページ)とご飯を運んでいる様子(右ページ)が描写され、セリフのなかでメニューも紹介されます。で、めくった次の見開き2ページいっぱいに、アフリカやロシアやチベットにいる「ジュリアス」の様子が描かれるようになっています。ここには文章はなく、また非常に美しい彩色です。最初の見開き2ページがかなり白っぽい画面であるため、なおさら、めくった次の見開き2ページの印象が強烈。ご飯をいっしょに食べるなんて、そんな小さなことはどうでもよくなってきます。
それからもう一つおもしろいのが、必ず一匹の動物が登場して「ジュリアス」のご飯を少し食べてしまっているところ。最初の見開き2ページにすでに出てきています。「あ、ソーセージを食べてる!」「今度はオレンジ!」……といったふうに、うちの子どもとだいぶ楽しみました。とても愉快な趣向です。
ところで、この絵本にはイギリスの家庭料理がたくさん登場します。なかにははじめて聞くものも。そのためか巻頭には辻クッキングスクールによる料理の説明が載っていました。なかなか興味深いです。ローリーポーリープディングとかアップルクランブルといったお菓子がおいしそう。
原書の刊行は1986年。この絵本、おすすめです。
▼ジョン・バーニンガム/谷川俊太郎 訳『ジュリアスは どこ?』あかね書房、1987年