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片山健さんの表紙 富士ゼロックスの広報誌『グラフィケーション』142号

 今日、届いた富士ゼロックスの広報誌、GRAPHICATION グラフィケーションの最新号(142号)、片山健さんが表紙の絵を担当されています。冬の野外(?)で遊ぶ子どもたちの姿が描かれています。のびやかで暖かで、なかなか、よい感じです。

 GRAPHICATION、1年くらい前から送ってもらっているのですが、毎号、非常に興味深い特集で、楽しみにしています。今回の特集は「子どもたちは、いま…」。片山健さんの表紙と呼応しています。また、連載の執筆陣も、粉川哲夫さん、平井玄さん、結城登美雄さん、池内了さん、他と、かなり強力です。

 あと、GRAPHICATION の表紙は毎号、いろんな方が担当されているのですが、絵本作家の方も割とよく描かれています。たとえば、ここ1年くらいだと、スズキコージさん、ささめやゆきさん、山口マオさん。

 これだけの内容を備えたメディアが、原則無料で購読できるのは、本当に驚きです。ずっと刊行し続けてほしい広報誌です。関心のある方は、ぜひ、上述のサイトをのぞいてみて下さい。バックナンバーの表紙や目次も見ることができます。

片山健『もりのおばけ』

 これはおもしろい! 弟とかけっこをしていて森に入った主人公の「ぼく」。暗くて薄気味悪い森のなかで、「おばけ」に追いかけられるという物語。

 絵は、全編モノクロの鉛筆画。なにせ1969年の作品ですから、片山さんのその後の絵本とは、画材も筆致も彩色も、かなり趣が違います。とはいえ、画面の緊張感と迫力、生命を吹き込むかのような細部の筆遣い、うっそうとした森の描写などは、後年の作品とどことなく共通するところがあると思います。ただし、同じ森とはいっても、生命あふれる森ではなく、暗く何が出てくるか分からない森。まったく逆のベクトルと言えるかもしれません。

 すごいなと思ったのは、森をわたっていく声の響きや「おばけ」の飛翔を、連続した絵の重なりで表現しているところ。いわば波動です。静止画でありながら、非常にダイナミックで、不思議な効果を生んでいると思いました。なんだか「おばけ」がすーっと接近してきて、画面の外に飛び出してきそうな印象すらあります。

 そもそも、この「おばけ」、「ぼく」の呼び声に応えるようにして現れるんですね。声とはまさに言霊であることを感じさせられます。

 登場する「おばけ」は、ほとんど巨大な顔だけ。しかも、無表情でありながら、どことなく薄ら笑い。これは不気味です。うちの子どもも少し緊張していました。なんだか悪い夢でも見そうなくらいです。

 いや、もちろん、直截に恐いというわけではなく、シュールでユーモラスな感触もありますし、ちゃんとハッピーエンドにもなっています。それでも、木のうろの白く光る目や途中から消えてしまう動物たち、不安そうな「ぼく」の表情、転んで飛ばされる「ぼく」のくつ、など、なんとも常ならぬ雰囲気があるんですね。非常にサスペンスフルで、それがこの絵本の大きな魅力です。

 あらためて見直すと、一番最初のページには「ぼく」と弟が公園(?)を散歩している様子が描かれているのですが、向かいのページでは黒い影の男の人が木の根もとに座って新聞を読んでいます。ここからすでに、あやしさが漂っています。

 ところで、この絵本、図書館から借りたのですが、なかに折り込み付録「絵本のたのしみ」が添付されていました。片山健さんの写真とエッセイ、「『もりのおばけ』を描いたころ」が掲載されています。この写真がまた若いんですね。いまとは、だいぶ顔つきが違うような……(なんて、失礼ですね^^;)。

 エッセイでは、この絵本を福音館書店に持ち込み、ほとんど即決に近いかたちで採用されたこと、年の離れた二人の幼い弟をモデルにしたこと、描いている途中で友人に遊びに誘われたこと、片山さんのお子さんもこの絵本を好んでいたこと、などが記されています。なかなか興味深いです。

▼片山健『もりのおばけ』「普及版こどものとも」11、福音館書店、1969年

片山令子/片山健『たのしいふゆごもり』

 久しぶりに『たのしいふゆごもり』。何度読んでも、ニコニコしてくる絵本です。うちの子どもも楽しそう。

 今回思ったのは、この絵本、「こぐま」の成長物語でもあるんだなということ。物語の冒頭、「こぐま」は一人で眠れなかったのですが、最後は「おかあさん」が作ってくれた「ぬいぐみ」と一緒に一人で眠れるようになります。そして、この「ぬいぐるみ」、「こぐま」の小さくなってしまったオーバーをこわして作るんですね。たしかに、オーバーを着た「こぐま」の姿からは、袖や裾など合わなくなっている様子がうかがえます。

 たぶん「おかあさん」は、「こぐま」の成長を喜びながら「ぬいぐみ」を作っていたんじゃないかな。

 うちの子どもも、いまは一人で眠れるのですが、しばらく前までは私や妻にぴたっとくっついて眠っていました。そのときのことを少し思い出しました。

▼片山令子 作/片山健 絵『たのしいふゆごもり』福音館書店、1991年

森山京/片山健『おべんともって』

 「くまのこ」が林で働いている「おとうさん」のところにお弁当を持っていく物語。途中、「きつねのこ」や「さるのこ」、「たぬきのおじさん」「うさぎのおばあさん」に出会います。「おとうさん」といっしょにお弁当を食べたあとは林のなかを探検。最後に「おとうさん」と家に帰ります。

 季節は秋。赤とんぼが飛び交い、林の木々もすっかり色づいて地面にはたくさんの落ち葉。「くまのこ」が林のなかで出会う「のねずみのこ」や「りすのこ」も冬ごもりの準備に大忙しの様子です。

 『たのしいふゆごもり』もそうですが、片山さんの描くクマの子どもは本当にかわいいです。表情が豊かなわけではないのですが、ちょっとしたしぐさや身振りがいろんなことを伝えています。お弁当を食べたあと「おとうさん」と「くまのこ」が草原に寝ころんで話をしたり、「くまのこ」が落ち葉の山で遊んだり落ち葉のふとんで寝ている様子は、実に気持ちよさそう。

 絵は、色づいた林の描写はもちろんですが、なにより空の色の変化が美しい。途中まではさわやかな青空。落ち葉のなかで寝ている「くまのこ」を「おとうさん」が起こす画面では林の木々の合間に空がのぞいており、ここではすでに濃い青とうすい紫。そしてページをめくると、真っ赤な夕焼けです。空も地面も林もまわりがすべて赤に染まり、常緑樹の緑も赤い空にあたかも溶け込んでいくかのような描写。

 今日は「おとうさん」の声のところだけ低く太い声で読み聞かせをしたのですが、うちの子どもにだいぶ受けました。

▼森山京 文/片山健 絵『おべんともって』偕成社、2004年

片山健『コッコさん おはよう』

 片山健さんのコッコさんシリーズの1冊。もとは1986年発行、うちでは1995年発行の第2刷を持っています。コッコさんシリーズは多くが単行本になっていますが、これはまだ単行本化されていないようです。

 この絵本で描かれているのは、朝の訪れ。ニワトリや森の鳥たちが目覚め、空の色が変わっていき、「おとなりの おばあちゃん」が起き、「おにいちゃん」も起き、そして最後に「コッコさん」が起きます。朝のゆっくりとした変化が、繊細な彩色で描き出されています。空の色の変化、木々の色の変化が、たいへん美しい。カーテンのすきまから入ってくる光の描写もすばらしいです。

 「コッコさん」と「おにいちゃん」の寝相は、うちの子どもみたいでかわいいなと思いました(親ばか^^;)。この絵本、おすすめです。

▼片山健『コッコさん おはよう』「こどものとも 年中向き」1995年6月号(通巻111号)、福音館書店、1995年

神沢利子/片山健『いいことって どんなこと』

 《こどものとも》傑作集の一冊。雪国に訪れた最初の春の息吹を描いた絵本です。同じモチーフの絵本としては『はなをくんくん』が有名と思います。『はなをくんくん』は躍動感あふれる歓喜に満ちた描写でしたが、『いいことって どんなこと』はたいへん静謐な描写になっており対照的だなと思いました。じっさいに雪国を知る者としては、『いいことって どんなこと』の方がしっくりきます。主人公の女の子の表情(あるいは無表情)がよいです。この絵本、おすすめです。

▼神沢利子 さく/片山健 え『いいことって どんなこと』福音館書店、1993年

片山健『タンゲくん』

 ある日の晩ご飯のとき、小学生の「わたし」の家にのっそりと入ってきた一匹のネコ。それが「タンゲくん」です。この絵本では、その「タンゲくん」と「わたし」のかかわりあいが描かれています。

 この絵本で魅力的なのは、なにより「タンゲくん」のたたずまい。

 絵本に登場するネコというと、きれいで人なつこくてかわいいネコを思い浮かべるもしれませんが、「タンゲくん」はまったく正反対。表紙と裏表紙で一枚の絵になった「タンゲくん」をみても、世間一般で言うところのかわいさとは無縁です。名前のとおり、左目は大きな傷跡でつぶれていて片目、右目でぎょろりにらんでいます。毛並みもぼさぼさで、トカゲやバッタや気味の悪い虫を取ってきては「わたしたち」を驚かせます。お世辞にもきれいとは言えません。

 しかも、人にこびるところがありません。「タンゲくん」は一応「わたし」の家のネコになるのですが、でも完全に飼い猫になるわけではありません。たとえばこんな感じ。

わたしは タンゲくんが だいすきです。
だから わたしは いいます。
「タンゲくんは わたしのねこだよね」
でも そんなとき、タンゲくんは「カ、カ、」と
へんなこえで ないて、すっと そとへ でていって
しまいます。

 「わたし」が外で「タンゲくん」に会っても、「タンゲくん」は知らんぷりしたり隠れたりします。声をかけても、他のネコといっしょにどこかに逃げてしまいます。

 そんな「タンゲくん」ですが、どこかにくめないんですね。まちでネコのケンカの声がすると、「わたし」は「タンゲくん」じゃないかなと心配になります。夜になると「タンゲくん」は家に帰ってきて「わたし」の上でまるくなります。「わたし」は「タンゲくん」を起こさないように、いつまでもじっとしているのです。

 この「タンゲくん」と「わたし」の関係は、適度な距離がありながら、しかし深いところで通じ合っているようで、魅力的です。ベタベタしているだけより風通しがよくて、こういう関係が絵本のなかに描かれるのは、子どもにとっても(大人にとっても)けっこう大事なんじゃないかなと思いました。

 また、そもそもネコは(野良ネコならなおさら)そんなに人なつこくないのが普通と思います。だから、へんにかわいく描かれたネコより、この絵本の「タンゲくん」の方がよほどリアルに感じます。

 もう一つ、この絵本で気になったのが、「わたし」のお父さんとお母さん。この二人の関係もなかなか良いです。細かなところですが、たとえば、晩ご飯の場面でお父さんがお母さんにビールをついでいたり、別の場面ではお父さんが台所に立って炊事か晩ご飯の後かたづけをしている姿が描かれています。これらは物語の背景にすぎず、さりげない描写なのですが、「わたし」の家族の居心地のよさが伝わってきます。こんなお父さんとお母さんだからこそ、「タンゲくん」がはじめて家にやってきたときも何も言わずに受け容れたんじゃないかなと思いました。

 絵はあざやかな水彩で、まずは「タンゲくん」がど迫力です。また、「わたし」が「タンゲくん」のことを心配したり気にかけたりする様子が繊細に描き出されていて、その気持ちの動きがよく伝わってきます。

▼片山健『タンゲくん』福音館書店、1992年

片山令子/片山健『たのしいふゆごもり』

 傑作が目白押しの片山健さんの絵本のなかでも、(いまのところ)私の一番のお気に入りです。この絵本は、片山健さんの絵はもちろん、片山令子さんの文章もすばらしく、おすすめです。(表紙や裏表紙、奥付ページにいたるまで)すみずみまで、非常によく考えて作り込まれていると思います。

 何がすごいって、まずは絵と文の並べ方。見開きの左側に文章、右側に絵が配置されていて、リズムがよいのです。また、左側のページの文章は、そのまわりをストーリーにかかわるものの絵が囲んでいて、これもきれいです。それから、いくつか見開き2ページまるまる絵のページがあります。文章はありません。これが全体のリズムのアクセントになっています。絵本を開いた一番はじめのページ(最初の扉の前)にも、2ページまるまる秋の森の絵があって、それが最初に目に入ってきます。

 片山健さんの絵は、この絵本では水彩画かと思いますが、色づいた秋の森とあたたかな熊の家が魅力的です。とにかく小熊がかわいい。とくに、だんろを前にして眠っている小熊。それから、熊のお母さん、「はちにさされたって ぜーんぜん へいき」「かわを ざぶり ざぶりと あるいて、おおきなさかなをいっぱい とる」、たくましく、そしてやさしいお母さんです。

 ストーリーは、冬ごもりの準備をしていく様子が、見開き2ページごとに一つ一つ進んでいきます。これもとてもリズミカル。りすの親子、小熊のおじいちゃん、かえるの親子、やまねの親子がそのつど登場します。

 ただ一つ残念(?)なのは、このお話には、小熊のおじいちゃんは出てきますが、お父さんは出てきません。熊の家族は父親がいないのがふつうなのかもしれません。

▼片山令子/片山健『たのしいふゆごもり』福音館書店、1991年