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神沢利子/堀内誠一『ふらいぱんじいさん』

 これは絵本というよりは絵童話。少し長めで幾つかの章に分かれています。といっても、ほとんどのページに絵が付いていて、どんどん読めます。

 主人公はフライパンのおじいさん、「ふらいぱんじいさん」。卵を焼くのが大好きで、いつも目玉焼きを子どもたちのために焼いていたのですが、ある日、「おくさん」が新しい目玉焼き鍋を買ってきました。そのため、卵を焼かせてもらえなくなった「ふらいぱんじいさん」は旅に出ます。ジャングルや海でいろんな動物たちに出会いさまざまな体験をした「ふらいぱんじいさん」ですが、そのうち足が曲がってしまい、小さな島の砂浜に打ち上げられてしまいます。「ふらいぱんじいさん」はどうなってしまうのか……といった物語。

 この絵本(絵童話)、うちの子どもはだいぶおもしろかったようで、最初は「半分ぐらい読んで残りは明日」と言っていたのですが、結局、終わりまで一気に読みました。どうなるんだろうと先が気になる展開です。読み終わると、うちの子どもは「ふぅー」と息を付いていました。

 老いたものが自分の居場所を探し見つけるというモチーフは他の絵本でもけっこうあると思うのですが、この物語では、「ふらいぱんじいさん」が最後に見つけたその居場所が実に印象深いです。なんとも暖かな気持ちになります。

 考えてみれば、料理は命を育むと同時に、しかし他の生き物の命を奪うことでもあるでしょう。その道具のフライパンがたどりついた新しい世界とは、まさに命を育むことだった……。いや、そんなに難しく考える必要はない、おもしろいお話なのですが、いろんな含意が込められているように感じました。

 絵は太い輪郭線とカラフルな色彩が軽やかで楽しい雰囲気。夜や嵐の画面の描きなぐったような筆致もよいです。よく見ると、いろんな台所道具から雲や波といった無生物の多くにも目と口が付いています。こういうところにも、もしかすると、生きていることをめぐる物語のモチーフが表れているかもしれません。

 神沢さんの「あとがき」では、この童話を書くに至ったきっかけが語られているようです。「ようです」というのは、ウソかまことか不明なため。南の島での神沢さんと「フライパンじいさん」の出会いです。

 この絵本(絵童話)、おすすめです。

▼神沢利子 作/堀内誠一 絵『ふらいぱんじいさん』あかね書房、1969年

神沢利子/片山健『いいことって どんなこと』

 《こどものとも》傑作集の一冊。雪国に訪れた最初の春の息吹を描いた絵本です。同じモチーフの絵本としては『はなをくんくん』が有名と思います。『はなをくんくん』は躍動感あふれる歓喜に満ちた描写でしたが、『いいことって どんなこと』はたいへん静謐な描写になっており対照的だなと思いました。じっさいに雪国を知る者としては、『いいことって どんなこと』の方がしっくりきます。主人公の女の子の表情(あるいは無表情)がよいです。この絵本、おすすめです。

▼神沢利子 さく/片山健 え『いいことって どんなこと』福音館書店、1993年