しばらく前から我が家の定番に加わっているのが、この『わにわにのごちそう』。「わにわに」シリーズの1冊です。
主人公の「わにわに」が台所に入ってきて、お肉を料理して食べるという、きわめてシンプルなストーリー。「こどものとも年少版」で刊行されたものなので、小さな子どもでも十分ついていける物語です。
しかし、この絵本、大人の目から見てもとても魅力的です。何が良いって、まずは主人子「わにわに」の造形。ワニが料理するわけですから、当然、その行動は擬人化されています。
とはいえ、「わにわに」それ自体は比較的リアルなんですね。かわいこぶっているところがあまりなく、黄色い目にしても、鋭い刃が並んだ口にしても、深い緑の皮膚にしても、野性味があります。骨太な筆致が効果的で、這いずり方一つとっても、ずっしりとした重さが伝わってくるような描写です。
そして、このリアルなワニが這いずっているのが、どことなく懐かしさを覚えるような少し古めの日本家屋であることも面白い。木の柱に木目の床、木製のテーブルとイス、ステンレスの流し、「丸大豆しょうゆ」の瓶や竹かごに入った野菜が部屋の隅におかれ、アパートや長屋の中古物件の雰囲気をかもしだしています。壁のホックにかけられたエプロンや手袋、真っ白なスリードアの冷蔵庫にはマグネットでメモが止められ、洗いかごには食器が並び、なんともこぢんまりとした生活臭がただよってくる……。この舞台設定のなかでワニが這いずり料理して食べるという、いわば地に足の付いたナンセンス(?)が独得のおかしさを生んでいると思います。
もう一つ、手書きふうに印字された文章もとても良いです。簡潔にしてメリハリがきいていて、声に出して読んでいると、とても楽しい。なんていったらいいのか、歌で例えたらサビがきちんと効いているんですね。ぐっと力の入るところがあるわけです。
また、幾つか擬態語が効果的に使われていて、これも盛り上がります。まずは重力を感じる這いずり音。そして、とくに肉を食べているときの擬態語と描写は、なんとなく食べることの本来的な凄みを感じさせると言ったら言い過ぎでしょうか。凶暴でありながら快楽的な食です。
食べるといえば、裏表紙もおかしいですね。いったい、どんなふうに食べてるんだろう。ここはとてもカワイイです。
▼小風さち 文/山口マオ 絵『わにわにのごちそう』「こどものとも年少版」2002年9月号(通巻306号)、福音館書店、2002年、[印刷:日本写真印刷、製本:宅間製本紙工]