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小風さちさん、「わにわに」シリーズの誕生

 日本海新聞、2006年12月24日付けの記事、子どもら夢中で本選び 絵本ワールド開幕。「絵本ワールドinとっとり2006」が12月23日と24日の両日、鳥取県米子市で開催されたというニュースなのですが、そのなかで、小風さちさんの講演会が少しふれられています。

 非常に興味深かったのは、「わにわに」シリーズの誕生秘話について語られている部分。引用します。

リアルなワニのキャラクターで人気を集める小風氏の絵本『わにわに』シリーズが生まれたのは、東京都内の公園でワニの出没騒ぎがあったことがきっかけ。ワニを心待ちにしているうちに「ずる ずり ずる ずり」とワニが体を引きずる音が聞こえてきたといい、「お話が自ら生まれてこようとしていて、私が媒体となったうれしい瞬間だった」と話した。

 あの「わにわに」の背景にはこんなエピソードがあったんですね。なるほどなあ。たしかに、ワニが体を引きずる音は、「わにわに」シリーズのとても重要な要素と思います。声に出して読んでいると、あの擬態語がとても気持ちよいのです。力が入るというか、リズムが刻まれるというか、非常に体感的。その「ずる ずり ずる ずり」という音から、まさに「わにわにシリーズ」は生まれたわけで、たいへん興味深いです。

 少し検索してみたら、実際に講演会に出席された方のブログがありました。子育て支援ネット西部-すこもも – livedoor Blog(ブログ)の、絵本ワールド  小風さち さんです。すこももさんの記事でも、小風さんの講演の内容が少し触れられています。「赤ちゃんは言葉を食べてしまう、だからできるだけ良い言葉を食べさせたい」という小風さんの考えは、「わにわに」シリーズにも体現されているように思いました。

 あと、すこももさんの記事によると、小風さちさんは松居直さんの娘さんだそうです。ぜんぜん知りませんでした。いや、びっくりです。

 ちなみに、「絵本ワールド」は、子どもの読書推進会議が主催で2006年度は全国11会場で開催しているとのこと。絵本ワールドに紹介があります。また、絵本ワールド開催予定にはスケジュールと詳細が掲載されています。

小風さち/山口マオ『わにわにのごちそう』

 しばらく前から我が家の定番に加わっているのが、この『わにわにのごちそう』。「わにわに」シリーズの1冊です。

 主人公の「わにわに」が台所に入ってきて、お肉を料理して食べるという、きわめてシンプルなストーリー。「こどものとも年少版」で刊行されたものなので、小さな子どもでも十分ついていける物語です。

 しかし、この絵本、大人の目から見てもとても魅力的です。何が良いって、まずは主人子「わにわに」の造形。ワニが料理するわけですから、当然、その行動は擬人化されています。

 とはいえ、「わにわに」それ自体は比較的リアルなんですね。かわいこぶっているところがあまりなく、黄色い目にしても、鋭い刃が並んだ口にしても、深い緑の皮膚にしても、野性味があります。骨太な筆致が効果的で、這いずり方一つとっても、ずっしりとした重さが伝わってくるような描写です。

 そして、このリアルなワニが這いずっているのが、どことなく懐かしさを覚えるような少し古めの日本家屋であることも面白い。木の柱に木目の床、木製のテーブルとイス、ステンレスの流し、「丸大豆しょうゆ」の瓶や竹かごに入った野菜が部屋の隅におかれ、アパートや長屋の中古物件の雰囲気をかもしだしています。壁のホックにかけられたエプロンや手袋、真っ白なスリードアの冷蔵庫にはマグネットでメモが止められ、洗いかごには食器が並び、なんともこぢんまりとした生活臭がただよってくる……。この舞台設定のなかでワニが這いずり料理して食べるという、いわば地に足の付いたナンセンス(?)が独得のおかしさを生んでいると思います。

 もう一つ、手書きふうに印字された文章もとても良いです。簡潔にしてメリハリがきいていて、声に出して読んでいると、とても楽しい。なんていったらいいのか、歌で例えたらサビがきちんと効いているんですね。ぐっと力の入るところがあるわけです。

 また、幾つか擬態語が効果的に使われていて、これも盛り上がります。まずは重力を感じる這いずり音。そして、とくに肉を食べているときの擬態語と描写は、なんとなく食べることの本来的な凄みを感じさせると言ったら言い過ぎでしょうか。凶暴でありながら快楽的な食です。

 食べるといえば、裏表紙もおかしいですね。いったい、どんなふうに食べてるんだろう。ここはとてもカワイイです。

▼小風さち 文/山口マオ 絵『わにわにのごちそう』「こどものとも年少版」2002年9月号(通巻306号)、福音館書店、2002年、[印刷:日本写真印刷、製本:宅間製本紙工]

小風さち/山本忠敬 『ちからもちのタグボート とーとー』

 タグボートの「とーとー」がはじめて仕事をする物語。タグボートの紹介や進水式もあり、他の船も幾つか登場します。巨大な貨物船を一生懸命引っ張る「とーとー」の姿がよいです。

▼小風さち ぶん/山本忠敬 え『ちからもちのタグボート とーとー』「こどものとも」1997年3月号(通巻492号)、福音館書店、1997年