うーむ、これはおもしろい! 子どもを育てそして老いていくことを非常に象徴的に描いた絵本。もしかすると、子どもより大人(とくに子育て中の大人)の方が楽しめるかもしれません。
幸せに楽しく暮らしていた「ジョージ」と「ベラ」。ある日、小包が届きます。開けてみると、なかには「ザガズー」と名札のついた「ちっちゃな ピンクの いきもの」。赤ちゃんが入っていたわけです。二人は「ザガズー」を放りっこして幸せな日々を過ごします。ところがある朝、「ザガズー」は、恐ろしいキイキイ声で泣く大きなハゲタカの赤ん坊に変わってしまいます。別の朝には、なんでもメチャメチャにする小さなゾウ、泥だらけにするイボイノシシ、怒りっぽい竜、コウモリとどんどん変わっていきます。そのうち毛深く「とらえどころのない」生き物になってしまって……という物語。
まさに副題のとおり「じんせいって びっくりつづき」。でも、それを、コミカルな描写でサラリと風通しよく描いているところが魅力です。
考えてみると、最初に小包で赤ちゃんが届くというのは、たしかに荒唐無稽なんですが、けっこう感覚的に分かるような気がします。いや、それは私が男性だからかもしれませんが……。
また、「ザガズー」が最後に変身(?)する「とらえどころのない」生き物。これは、なんだか身につまされますね。たしかになー、自分もそんなときがあったなあと思わず我が身を振り返ってしまいます。もしかすると、いまもそうかもなあ。
しかしまあ、この物語、比喩ではなく真面目に受け取るなら、かなり重い内容が含まれていると思います。家族内のさまざまな暴力の背景となる部分もあるでしょう。しかし、この、マンガのような描写と白味の多い画面が実に軽やかに前向きに、読んでいる私たちの肩をポンポンとたたいてくれる、そんなふうに感じました。
また、一番すごいと思ったのがラスト。「ああ、そうか、そうだよなあ」と子どもといっしょに読みながら心のなかでうなずいてしまいました。誰かに育てられ、誰かを育て、そしてまた誰かに育てられる……。人間が「自立した人間」であるかに見えるのは限られた時間内のことで、誰かを必要とする、「人間」ではない時間がはじめとおわりにあるんですね。そもそも「自立」なんてのは一種の幻想かも……。「ジョージ」と「ベラ」と「ザガズー」そして「ザガズー」のパートナーの「ミラベル」が互いに肩と腰に手をあてて紙面の向こうに歩いていく画面からは、そんなことも考えてしまいました。
ところで、うちの子どもには、「ザガズー」がどんどん変身していくところがおもしろかったようです。もしかすると、ハゲタカに変わったところでは、うちの下の子どもと重ね合わせていたかも。ゾウになったところでは「ハゲタカの方がましだねえ」なんて言っていました(^^;)。
原書"Zagazoo"の刊行は1998年。この絵本、おすすめです。
▼クエンティン・ブレイク/谷川俊太郎 訳『ザガズー』好学社、2002年