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上田真而子/斎藤隆夫『まほうつかいのでし』

 魔法使いの先生が出かけている間に、その弟子が魔法の呪文を試そうとする物語。結局、魔法を止める呪文を覚えておらず、お城中水浸しになってしまいます。

 この物語の原作はゲーテのバラード(物語詩)。サブタイトルに「ゲーテのバラードによる」と記してありました。かなり有名なバラードで、小説な童話や映画などいろんなものの原作になっているみたいですね。

 そういえば、いま気が付いたのですが、先月読んだバーバラ・ヘイズンさんとトミー・ウンゲラーさんの『魔術師の弟子』も同じゲーテのバラードに基づいた絵本ですね。当然ながら、同じ物語でも作者によって描写が違い、なかなか興味深いです。同じ原作から複数の絵本が生まれることは、いわゆるおとぎ話や昔話にはけっこうあると思いますが、物語詩を原作にしたのは珍しいかも。

 ウンゲラーさんの絵もなかなか強烈でしたが、斎藤さんの絵も独特の雰囲気。物語はほとんどお城のなかで展開するのですが、黄土色の壁のレンガ模様が全体の基本トーン。よーく見ると、魔法の道具や動き出すほうき、さらには壁に飾ってあるさまざまな彫刻や植物にも眼が付いており、じっと弟子の様子を見ています。しかも、弟子の動きに応じて目玉が左右に動いている……。

 また、収拾がつかなくなった弟子を助けに魔法使いの先生が帰ってくるのですが、この先生、なかなか恐い。太陽を背にしてほとんど全身真っ黒。画面の中央にすっくと立っています。よく見ると暗い顔に目や鼻や口がうっすらと浮かんでいて、なんとも不気味。ちょっとおかしいかもしれませんが、映画『スター・ウォーズ』のダークマスター(?)に似ているような。ウンゲラーさんの『魔術師の弟子』でも、表紙に描かれていた魔術師は黒ずくめで目だけ光っていました。どちらも人間ならざるものを感じさせます。

 この絵本、おすすめです。

▼上田真而子 文/斎藤隆夫 絵『まほうつかいのでし』福音館書店、1992年