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長新太『にゅーっ する する する』

 これはすごい! 地面のようなものから一本の「手」が「にゅーっ」と突き出て、いろんなものを「する する する」と引きずり込んでいくという物語(?)。文章のほとんどは「にゅーっ」と「する する する」の繰り返しになっています。

 とにかく絵のインパクトが強烈。「手」に捕まったいろんなものが地面(?)にアタマからずぶずぶとはまりこんでいきます。足の先だけが地面(?)から突き出ていたりします。靴が脱げて転がっていたりします。

 いや、これは見ようによっては、明らかににホラーですね。突き出てくる「手」にしても、ぐにゃぐにゃしていて、この世のものとは思えません。地面のように見えるものも、地平線いっぱいにまで広がり、赤オレンジ色をしています。空はピンクと黄色です。ある種、彼岸の景色かもしれません。

 うちの子どもも、ちょっと怖かったようです。読み終わったあとで「読まなければよかったかなー。夢に出てくるかも」なんて言っていました。

 いや、もちろん、長さんの絵本ですから、どことなくユーモラスです。最後のページも、おかしみがあります。面白いような怖いような、なんともいえない魅力のある絵本です。

 ところで、「手」が出てくる地面なんですが、「地面」とは簡単に言えない気がしてきました。もっと柔らかで、なま暖かいもの。泥とか。もしかすると、絵の具かもしれないな。固形ではないです。

 考えてみると、こういう柔らかなものにはまりこむというモチーフは、長さんの他の絵本でも読み取れる気がします。あくまで、なんとなくなんですが……。

▼長新太『にゅーっ する する する』福音館書店、1989年(「年少版こどものとも」としての発行は1983年)、[印刷:大日本印刷、製本:多田製本]

「こどものともセレクション」が刊行

 福音館書店から1月に「こどものともセレクション」が刊行されるそうです。福音館書店に案内のページ、福音館書店|こどものともセレクションがありました。引用します。

「こどものとも」50年の歴史の中から、1970年代を中心に近年の話題作まで、物語絵本、民話、ナンセンス、写真、字のない絵本など、様々なジャンルの絵本15冊を厳選しました。思い出の絵本がハードカバーで再登場です。

 ラインナップを見てみると、なかなかバラエティに富んだ内容です。読んだことがないものが多いのですが、 なかがわりえこさんと、やまわきゆりこさんの『ちいさいみちこちゃん』、谷川俊太郎さんと和田誠さんの『とぶ』、谷川俊太郎さんと長野重一さんの写真絵本、『よるのびょういん』が惹かれます。

 そして、非常にうれしい単行本化が二つ。長新太さんの『どろにんげん』と、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』です。

 長新太さんの『どろにんげん』は、これまで単行本化されなかったのが不思議なくらいの大傑作だと思います。いや、傑作というよりは怪作と言った方がよいかもしれません。これはもう、未読の方はぜひ読んでみて下さい。もちろん、長さん一流のナンセンスなのですが、どことなく底知れないというか、独得の凄みのある絵本です。

 いや、別に何か怖いわけではありません。しかし、この『どろにんげん』も含めて、長さんの絵本には、ある種のホラーの系譜があると私は思っています。

 それから、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』。こちらの単行本化は、本当にうれしいの一言です。「こどものとも」版で、うちの子どもと一緒に何百回も読んだ、まさに思い出(いや、まだ早すぎるかな?)の絵本です。ぼろぼろになって、表紙や背表紙を補強してさらに読みました。テキストは完全に覚えてしまいました。なぜあんなに好きだったのか謎なのですが、とにかく、うちの子どもの一番のお気に入りだったのです。

 実は、今はあまり手に取らなくなってしまったのですが、せっかくなので、購入してみようかなと思います。単行本で持っていたい絵本です。でも、たぶん、ぼろぼろになった「こどものとも」版もずっと持っているでしょうね。

長新太さんと安西水丸さんの原画展

 朝日新聞地域情報、7月20日付けの記事、asahi.com : マイタウン静岡 – 朝日新聞地域情報:長新太・安西水丸両氏の原画展

 長新太さんと安西水丸さんの原画展が静岡県伊東市八幡野の「NPO法人アートの里 伊豆高原絵本の家」で31日まで開催されています。展示されているのは長新太さんの『おとしものしちゃった』と安西水丸さんの『あげたおはなし』の計24点で、両方とも中山千夏さんが物語を書いた絵本とのこと。中山さんのトークイベントもあるそうです。

 「NPO法人アートの里 伊豆高原絵本の家」のサイトは、伊豆高原 絵本の家。写真を見る限りでは、とてもアットホームで居心地がよさそう。

長新太さん逝去

 先の記事、絵本を知る: こどものとも50周年記念ブログがスタートの下書きを書いているときに、長新太さんの逝去を知りました。

 死を前にして何を言っても言葉足らずにしかなりませんが、子どもと一緒に長さんの絵本を読む時間が持てることをあらためて幸福に感じ、また感謝したいと思います。今はただただ、ご冥福をお祈りいたします。

長新太『おばけのいちにち』

 「おばけのいちにち」とはいっても、夜の「おばけ」ではありません。この絵本に描かれるのは、朝から夜までの明るい昼間の「おばけ」。

 朝の歯みがき、スーパーで買い物、同じ「おばけ」のお客様とおしゃべり、読書に運動に洗濯と、「おばけ」の日常が長さん一流のナンセンスで描写されていきます。クスクス笑いたくなってくる感じ。

 見開き2ページの中央に、主人公の「おばけ」の家が置かれ、基本的にそのまわりで物語が進んでいきます。おかしいのは、この「おばけ」、顔も足もない、全身緑色ののっぺらぼう。水滴を上下逆にしたようなかたちです。恐いことはまったくなく、むしろポップでかわいいくらいです。

 そして、その「おばけ」のなんとも普通の、しかしどこか奇妙な日常が実にユーモラス。うちの子どももゲラゲラ笑っていました。とくにおもしろがっていたのは、「おばけ」の歯ブラシと野球の練習。あと「おばけ」のパンツにも大受けでした(^^;)。

 長さんの絵本を読むといつも思うことですが、いったい、どこからこんな発想が飛び出してくるんだろうというくらい、アタマがクラクラしてきます。いや、もちろん、それが楽しくて長さんの絵本を手に取るわけですが(^^;)、なんだか良質のトリップのようなものかもしれませんね(なんていうと失礼かな)。

 それはともかく、この絵本で、おもしろいなと思ったのは、「おばけ」の家のまわりに描き込まれている生き物たち。近くに小さな池があって、魚やカエルやザリガニが見え隠れしています。蝶や鳥も飛んでいます。ネコもやってきて「おばけ」とけんかをするんですが、それ以外は、とても平和でのどかなんですね。これも「おばけ」とのギャップがあって、おもしろいです。

 あと、ラストページも必見。たいへん美しい夜の訪れです。

▼長新太『おばけのいちにち』偕成社、1986年

冨成忠夫、茂木透/長新太『ふゆめ がっしょうだん』

 冬の木の芽を拡大して写した写真絵本。1ページに1つずつ写真が配置され、その下に長新太さんの文が付けられています。

 木の芽はどれも何かの「顔」のように見え、とても「表情」豊か。うちの子どもと一緒に「これは眼だねー」「鼻みたい」「大きな耳!」「宇宙人みたいだねえ」などと、一つ一つの写真を見ながら、いろいろ話をしました。なかなか楽しいです。

 長さんの文は、まるで歌のような趣。同じフレーズが幾つかあり、そこには同じ木の芽の写真が載っています。これが全体のアクセントになっています。

 巻末には「おとなの かたへ」と題された説明がありました。「顔」に見えるところは実は落葉した葉の柄が付いていた跡で、また眼や口のように見える模様は、葉に養分を送っていた管の断面とのこと。その上にある円形ないし円錐形の部分が冬芽で、春にはそこから葉が伸びてくるのだそうです。写真一つ一つの木の名前も載っていました。

 春を待ちながら少しずつ静かに準備をしている木の芽たち。その息吹はたしかに何か歌を歌うようなものかもしれませんね。写真の木の芽の「顔」それ自体、口を開け、眼を開けて、みんなで歌を歌っているようにも見えてきます。冬のしんしんとした林のなかで、そんな木の芽たちの静かな歌声がゆっくりと流れていると思うと、寒い冬も楽しくなるかのようです。

▼冨成忠夫、茂木透 写真/長新太 文『ふゆめ がっしょうだん』福音館書店、1986年(「かがくのとも傑作集」としての発行は1990年)

長新太『おなら』

 これは人間や動物たちのおならを取り上げた(一応)科学絵本。まず表紙がすごい。ゾウのおしりを正面(?)から見たもの。で、最初のページがゾウのおなら。インパクトがあります。

 本文では、なぜおならが出るのか、おならが臭い理由、おならが臭いときと臭くないときの違いなど、長さんのシンプルでユーモラスな絵とともにいろいろ興味深い説明がされています。へぇーと思ったのは、健康な人は一回に約100ミリリットル、牛乳瓶で半分弱くらい、おならをするということ。1日だと約500ミリリットル出しているそうです。いや、こんなにたくさん、おならをしているんだと意外でした。というか、あんまり自覚していないからかな?。

 おならをしないでいると身体に悪いという画面で、うちの子どもに「ちゃんとおならしてる?」と聞いてみたら、素直に一言「うん」(^^;)。

▼長新太『おなら』福音館書店、1978年(「かがくのとも傑作集」としての出版は1983年)

長新太『ぼくのすきなおじさん』

 今日は4冊。いやー、この絵本はすごい。おすすめです。「ぼくのすきなおじさん」はものすごい石頭で、車も月も、巨大なダイヤモンドも、大きなピラミッドのような「オバケのしろ」(!)もそして「オバケ」も、全部あたまで「ドーン!」とぶっとばしてしまいます。見た目ははげ頭のふつうのおじさんなのに、とんでもなく固いアタマなのです。というか、驚きと脱力で、こちらのアタマのなかはぐにゃぐにゃになってきます(^^;)。そういえば、長新太さんの『ゴムあたまポンたろう』とはアタマの設定がちょうど逆ですね。ラストの文はなかなか味があります。

ぼくのしってる おじさんは、
こんな すごい あたまをしています。
あたまのなかみは わからないけど、
ぼくは みんなに じまんしてるんだ。
ぼくは、このおじさんが
だいすきです。

▼長新太『ぼくのすきなおじさん』童心社、1993年

長新太『くまさんの おなか』

 「ぬいぐるみのくまさん」のおなかに動物たちがどんどん入っていく物語。魚、カエル、ネコ、イヌ、ブタ、はてはゴリラ、そして最後は太陽まで「くまさん」のおなかのなかに入ろうとします。 なんとなく、エウゲーニー・M・ラチョフさんの『てぶくろ』を思い出しました。

 でも、こちらは手袋ならぬ、まぶしいピンクのぬいぐるみ。しかも、動物たちがそのおなかに入っていく様子がそのまま描かれています。ありえないかのように思えることが有無を言わさず描写されていて、その迫力には、クラクラきます。ゴリラが「くまさん」のおなかに半身をうずめている画面のすごさ! よく考えるとけっこう恐い話だと思うのですが、でもユーモラスな描写で、なんだか不思議な感覚になります。

 うちの子どもは、「くまさんは重くてたいへんだね」なんて言っていました(^^;)。この絵本、おすすめです。

▼長新太『くまさんの おなか』学研、1999年

長新太『こんなことってあるかしら?』

 今日は1冊だけ。この絵本、画面に付いた文はどれも「こんなことってあるかしら?」で締められています。これに「ない、ない!」「ある、ある!」と突っ込んで楽しんでいました。

 ところで、巻末の著者紹介のところを見ると、次のように書いてありました。

長新太
ちょう・しんた 1927年東京生まれ。ナンセンスってこういうことではないかしら、と生まれた作品は、たくさんのナンセンスファンを生む。……

 たしかになあ。長さんの作品ではじめてナンセンスの神髄を知る、そんな感じがします。

▼長新太『こんなことってあるかしら?』クレヨンハウス、1993年