「おばけのいちにち」とはいっても、夜の「おばけ」ではありません。この絵本に描かれるのは、朝から夜までの明るい昼間の「おばけ」。
朝の歯みがき、スーパーで買い物、同じ「おばけ」のお客様とおしゃべり、読書に運動に洗濯と、「おばけ」の日常が長さん一流のナンセンスで描写されていきます。クスクス笑いたくなってくる感じ。
見開き2ページの中央に、主人公の「おばけ」の家が置かれ、基本的にそのまわりで物語が進んでいきます。おかしいのは、この「おばけ」、顔も足もない、全身緑色ののっぺらぼう。水滴を上下逆にしたようなかたちです。恐いことはまったくなく、むしろポップでかわいいくらいです。
そして、その「おばけ」のなんとも普通の、しかしどこか奇妙な日常が実にユーモラス。うちの子どももゲラゲラ笑っていました。とくにおもしろがっていたのは、「おばけ」の歯ブラシと野球の練習。あと「おばけ」のパンツにも大受けでした(^^;)。
長さんの絵本を読むといつも思うことですが、いったい、どこからこんな発想が飛び出してくるんだろうというくらい、アタマがクラクラしてきます。いや、もちろん、それが楽しくて長さんの絵本を手に取るわけですが(^^;)、なんだか良質のトリップのようなものかもしれませんね(なんていうと失礼かな)。
それはともかく、この絵本で、おもしろいなと思ったのは、「おばけ」の家のまわりに描き込まれている生き物たち。近くに小さな池があって、魚やカエルやザリガニが見え隠れしています。蝶や鳥も飛んでいます。ネコもやってきて「おばけ」とけんかをするんですが、それ以外は、とても平和でのどかなんですね。これも「おばけ」とのギャップがあって、おもしろいです。
あと、ラストページも必見。たいへん美しい夜の訪れです。
▼長新太『おばけのいちにち』偕成社、1986年