演奏会に向けてオーケストラの105人はいろいろ支度をしていくのですが、そのなかでとくにいいなあと思ったのは、家を出るときの画面。ここでは105人を送り出す側が描かれています。
105人の 男のひとと 女のひとは
みんな「いってきます」と いいます。
おかさん おとうさん ご主人 奥さん
また 友だち 子どもたち 犬たち
小鳥たち 猫など 家に のこるものに
「いってきます」と いいます。
演奏会に出かけることは105人にとって、また「家にのこるもの」にとっても、一つの仕事なんですよね。だから、家の者は特別に何かをして送り出すわけではなく、ごくふつうに日常のこととして送り出す。
たとえば、妻は台所で洗い物をしながら送り出すし、夫あるいはお父さんは読んでいた新聞から顔を上げて送り出す、そしてまた子どもは宿題をやっている机から送り出す。しかも、この子はなんとなくつまらなそうな顔をしています。猫や犬も「あ、行くの」といった感じの表情です。こういう描写はとてもリアルだなあと思いました。
と同時に、このいつもと変わらぬ日常のあることが、おそらくはオーケストラの105人の仕事を支えていることもなんとなく感じ取れます。
もちろん、105人のなかには一人暮らしの人も当然いると思いますが、画面には壁にかけられた絵や観葉植物も描かれていました。これらもまた「家にのこるもの」であり、一人ひとりの日常生活を供にしているものと言えるかもしれません。
▼カーラ・カスキン 作/マーク・サイモント 絵/岩谷時子 訳『オーケストラの105人』すえもりブックス、1995年[新版]