アネット・チゾン、タラス・テイラー『バーバパパのさんごしょうたんけん』

 「バーバパパ世界をまわる」シリーズの5冊目。エジプトの紅海にやってきたバーバパパ一家、犬のロリータがケガをしてしまいます。

 バーバパパのシリーズはたくさんあって(「バーバパパのちいさなおはなし」とか「バーバパパ・知識のえほん」とか)、うちの子どもも大好きなのですが、私はやはり最初のシリーズがストーリーも絵も一番よかったと思います。

▼アネット・チゾン、タラス・テイラー/山下明生 訳『バーバパパのさんごしょうたんけん』講談社、2000年

せな けいこ『ふでこぞう』

 せな けいこさんのおばけ絵本シリーズの1冊。筆のおばけ「ふでこぞう」と卵のばけものの大冒険。

 字がじょうずに書けない子どもが冒頭に出てくるのですが、ちょっと身につまされました(私は字が汚いのです^^;)。この絵本、うちの子どもは恐がりなのでどうかなと思っていたら、とても気に入ったようで、次は『くずかごおばけ』を読みたいそうです。

▼せな けいこ『ふでこぞう』童心社、2002年

ラーシュ・クリンティング『なんでも しゅうりいたします』

 ビーバー(?)のフリッペがはじめた修理屋さんのお話。壊れたものを修理するはずが、もっと愉快なものに作り替えてしまいます。お客さんはみんな喜んでいるのに、フリッペ自身はすまなさそうなのが、おかしい。

 工作大好きなうちの子どもも気に入っています。

▼ラーシュ・クリンティング/とやま まり 訳『なんでも しゅうりいたします』偕成社、2000年

アーサー・ガイサート『ノアの箱船』

 旧約聖書の創世記をモチーフにした絵本。とはいえ、宗教的な要素はそれほど強くありません。

 銅版画の圧倒的な美しさに目を奪われます。巨大な箱船をヨコにタテに輪切りにしたり、視覚的にもおもしろい。ノアの家族と、そしてたくさんの動物たちがていねいに描き込まれています。

▼アーサー・ガイサート/小塩節・小塩トシ子 訳『ノアの箱船』こぐま社、1989年

かみや ひろ/みやもと きょうこ『ダボちゃんとドドちゃん』

 私はあまり好きではない(むしろ、きらいな)のですが、うちの子どもが割と気に入っています。でもまあ、子どもがこの絵本を好きな理由はなんとなく分かります。

 文章が日本語と英語の両方で書かれていて不思議。教育絵本ということかな。

▼かみや ひろ さく/みやもと きょうこ え『ダボちゃんとドドちゃん』発行:コーチャル出版部、発売:星雲社、2000年

ルードウィッヒ・ベーメルマンス『マドレーヌといぬ』

 うちの子どもも私も大好きなマドレーヌシリーズの2作目。軽妙な描写のなかに美しいパリの風景が織り込まれています。「せんせいのミス・クラベル」が実にいい味を出してます。

▼ルードウィッヒ・ベーメルマンス/瀬田貞二 訳『マドレーヌといぬ』福音館書店、1973年

『絵本のつくりかた1』(その2)

 先に紹介した『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1』のなかで、もっとも印象深かったのが松居直さんへのインタビュー(94~100ページ)。とくに絵本とは何かについて語られているところでは、目から鱗が落ちました。長いですが引用します。

 大人が絵本を読むのと子供が絵本を読むのは、読み方が違うんです。絵本は自分で読んだら三分の一くらいはわからない。文章を読むと絵が見えないし、絵を見ると文章が読めない。絵本は読んでもらうものなんです。

 僕の編集方針は「絵本は子供に読ませる本ではない」ということです。大人が子供に読んであげるものです。大人に読んでもらうと、子供は文章を耳で聞きますね。そして、同時に絵を見ます。絵を読むんですよ。絵はぜんぶ言葉ですから。言葉にならない絵はないんです。目で読む言葉の世界と耳で聞く言葉の世界が、ぴたっとひとつになるんです。子供の中で絵の世界は生き生きと動いている。動物も話をしています。それはまさに絵本の力です。この絵本体験がないと絵本の本当の面白さはわからないですね。大人でもそうなんですよ。(100ページ)

 これを読んで、とても考えさせられました。絵本は一人で読むものではなく、読んでもらうものだということ。これは絵本のもっとも大事な特質の一つと思います。

 誰かに読んでもらってはじめて絵本の世界に入ることができる。絵本は、つねに自分以外の誰かを必要とし、誰かと誰かの間ではじめてその姿を現す。だから、一人で読んでいたのでは、絵本の本当のおもしろさは分からない……

 大人になると、読み聞かせを「する」ことはあっても、読み聞かせを「される」ことは、あまりありません。自分が読み聞かせをするときはどうしても文章を追ってしまうし、一人で読むときも、文章と絵を交互に読んでいきます。子どものように「目で読む言葉の世界と耳で聞く言葉の世界が、ぴたっとひとつになる」という絵本体験は、まずないですね。

 もしかすると、図書館等の読み聞かせ会への参加が、「ぴたっとひとつに」なれる希有な機会なのかもしれません。それでも、大人のばあい、絵と文章が一体になって一つの世界が立ち上がる、そんな感覚はなかなか得られないと思います。

 私も子どもに読み聞かせをしながら、いろいろ自分勝手な感想を書き散らかしていますが、絵本を本当に了解するのは無理なのかもしれないなと思いました。まあ、当たり前といえば当たり前ですが……

▼みづゑ編集部 編『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1 あこがれのクリエイターとつくるはじめての物語』美術出版社、2003年、定価 1,995円

『絵本のつくりかた1』(その1)

 以前紹介した『飯野和好と絵本』が含まれている「みづゑのレシピ」シリーズの第一弾。『飯野和好と絵本』と同じく、絵本を自分で作りたい人向けの本です。

 「おりがみ絵本」や「ポップアップ絵本」、「布絵本」「ものさし絵本」「色紙や包装紙を使った絵本」といった手作り絵本の作り方が説明されています。それぞれ、100%ORANGEさん、あだちなみさんといった絵本作家の方々、わたなべいくこさん、立本倫子さん、アトリエ・グリズーさん、赤崎チカさんといったデザイナーの方々にじっさいに制作してもらい、そのプロセスが具体的に分かるようになっています。

 手作りの造本方法についても写真付きで一つ一つ詳細に説明がありました。さらには、印刷や自費出版に関しても紙幅がさかれています。かなり実践的です。

 絵本作り以外には、絵本作家の方へのインタビューや絵本にまつわる話題がいろいろ載っていました。どれもそれほど分量はありませんでしたが、おもしろかったものを紹介します。

 まず、酒井駒子さんのインタビュー(40~48ページ)。絵本の世界に入ったきっかけが語られています。酒井さんはもともと和物のテキスタイルデザインの仕事をされていて、その後、編集者でトムズボックスを主宰する土井章史さんと編集者兼デザイナーの小野明さんによる絵本のワークショップ「あとさき塾」に通ったのだそうです。

 以前紹介した『ロンパーちゃんとふうせん』や『赤い蝋燭と人魚』の鉛筆描きのダミーも写真が掲載されていました。最初、「ロンパーちゃん」は人間の子どもではなくヒツジだったそうです。上記の2冊も含めて、それぞれの絵本の着想や背景が語られていて、なかなか興味深いです。

 それから、巻末には絵本作家15人へのアンケートがありました(108~111ページ)。質問は、「Q1 これまでつくった絵本のなかで、ベストワンをあげるとしたら?」「Q2 絵本作家になるための資質とは、どんなものだと思いますか? 作家になるための勉強とは? 絵本作家を志す人へのアドバイスをお願いします。」の2つ。

 個性的な回答が寄せられており、おもしろいです。とくにQ2に対するスズキコージさんの回答は、まさにスズキコージさんならではのものと思います。引用します。

A2 迫力ある生活をする事
(109ページ)

 妙に納得できます(笑)。

 その他、武井武雄さんの刊本作品の紹介や、荒井良二さんと竹内通雅さんが即興で共作した巨大絵本(見開きで約2メートル四方!)のレポートなども、興味深かったです。

 ただ、残念なことに、この本は季刊『みづゑ』の記事の再録が多く、どれもそれほど分量がありません。もう少し詳しく知りたいなあと思いました。

▼みづゑ編集部 編『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1 あこがれのクリエイターとつくるはじめての物語』美術出版社、2003年、定価 1,995円

『子どもの本~この1年を振り返って~2003年』(その2)

 日本子どもの本研究会絵本研究部の代田知子さんが担当された「今年の絵本」(16~29ページ)では、赤ちゃん絵本とブック・スタートについても書いてありました。興味深かったので紹介します。

 代田さんによると、2003年の一つの傾向は、赤ちゃん絵本がたくさん刊行されていることだそうです。たとえば「いないないばあ」の絵本はなんと8点も出ているとのこと。

 たぶん、このあたりが、以前の記事で紹介した『いないいないばあ』の著作権問題の背景なのかなと思います。

 それで、代田さんは、いまの赤ちゃん絵本について2つほど問題点を指摘されていました。

 一つは、赤ちゃん絵本といいながら、実は、もう赤ちゃんではない子どもたちが喜ぶものが多いということ。これは図書館の読み聞かせで代田さんがじっさいに経験されていることだそうです。本当の赤ちゃんにはあまり受けず、3歳ぐらいの子どもがとても喜ぶのだそうです。

 なんとなく思ったのですが、赤ちゃん絵本はまだあまり蓄積がなく、発展途上なのではないかということ。私もそんなに詳しくないので間違いかもしれませんが、たとえばゼロ歳児に絵本の読み聞かせをするのは、それほど昔からではないでしょう。歴史が浅いがゆえに、絵本作家の方々や絵本の編集者の方々もまだ試行錯誤の段階なのかなと思いました。

 いわゆる赤ちゃん学の領域では、ゼロ歳児が絵本をどのように受け入れているのか、いろいろ研究が進んでいるようです。これについては、以前の記事で紹介したNHK教育の「すくすく子育て」でも少し取り上げられていました。ただ、そういう研究が、じっさいの絵本作りの現場に生かされることはあまりない、あるいは生かせるほどの研究成果になっていない、ということかもしれません。

 もう一つ、代田さんが指摘されていたのはブック・スタート運動のあり方。赤ちゃん絵本がたくさん出版されている背景の一つに、ブック・スタート運動が挙げられます。代田さんが危惧されているのは、ブック・スタート運動が絵本の質をきちんと考えているかどうかということ。引用します。

……今ブック・スタートの多くは、図書館ではなく保健所が現場になっているわけですが、「赤ちゃんに本を」というふうに言いながらも、本の魅力や大切さを伝えるというところが欠けていて、母子遊びの道具として使っている。もちろん道具でいいのですが、文化財である絵本を使うからには、やはり質の高いものと出会わせるような工夫をしていかないと、ブック・スタートの運動も片手落ちになってしまうのではないのかと不安になりました。(18ページ)

 代田さんが出席されたブック・スタートの全国大会の分科会では、絵本をもっと安くできないかという話が出たそうです。出版社の方が「うちでは350円の絵本も出しています」と言い、これに対し司会の方が「もっと安く、150円になりませんか」と言うと、「では社長に相談してみます」と答えたとのこと。これに対し、代田さんは次のように発言されたそうです。

「今、100円のジュースを平気で買い与える親が多い中で、そんなに350円の本、高いですか?私は1000円でも高いとは思いませんけれど」(18ページ)

 私が住んでいるところではブック・スタートはないので、よくは分かりません。ただ、誰がどのように絵本を選んでいるのかが、たぶん問われるのだろうと思います。保健所だからダメということはまったくないでしょうが、絵本の質をきちんとふまえた取り組みが必要なのかもしれません。

 最初の指摘と合わせて考えるなら、質を問うことなく、ある種ブームのように赤ちゃん絵本がばんばん出され、それに流されるように赤ちゃんに絵本が与えられていく……これがいまの赤ちゃん絵本の危うさということでしょうか。

 とはいえ、赤ちゃん絵本の「質」をどう捉えるかがまた大問題かもしれませんね。

▼NPO図書館の学校 編集・発行『子どもの本~この1年を振り返って~2003年』発売:リブリオ出版、2004年、定価 1,365円