先に紹介した『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1』のなかで、もっとも印象深かったのが松居直さんへのインタビュー(94~100ページ)。とくに絵本とは何かについて語られているところでは、目から鱗が落ちました。長いですが引用します。
大人が絵本を読むのと子供が絵本を読むのは、読み方が違うんです。絵本は自分で読んだら三分の一くらいはわからない。文章を読むと絵が見えないし、絵を見ると文章が読めない。絵本は読んでもらうものなんです。
僕の編集方針は「絵本は子供に読ませる本ではない」ということです。大人が子供に読んであげるものです。大人に読んでもらうと、子供は文章を耳で聞きますね。そして、同時に絵を見ます。絵を読むんですよ。絵はぜんぶ言葉ですから。言葉にならない絵はないんです。目で読む言葉の世界と耳で聞く言葉の世界が、ぴたっとひとつになるんです。子供の中で絵の世界は生き生きと動いている。動物も話をしています。それはまさに絵本の力です。この絵本体験がないと絵本の本当の面白さはわからないですね。大人でもそうなんですよ。(100ページ)
これを読んで、とても考えさせられました。絵本は一人で読むものではなく、読んでもらうものだということ。これは絵本のもっとも大事な特質の一つと思います。
誰かに読んでもらってはじめて絵本の世界に入ることができる。絵本は、つねに自分以外の誰かを必要とし、誰かと誰かの間ではじめてその姿を現す。だから、一人で読んでいたのでは、絵本の本当のおもしろさは分からない……
大人になると、読み聞かせを「する」ことはあっても、読み聞かせを「される」ことは、あまりありません。自分が読み聞かせをするときはどうしても文章を追ってしまうし、一人で読むときも、文章と絵を交互に読んでいきます。子どものように「目で読む言葉の世界と耳で聞く言葉の世界が、ぴたっとひとつになる」という絵本体験は、まずないですね。
もしかすると、図書館等の読み聞かせ会への参加が、「ぴたっとひとつに」なれる希有な機会なのかもしれません。それでも、大人のばあい、絵と文章が一体になって一つの世界が立ち上がる、そんな感覚はなかなか得られないと思います。
私も子どもに読み聞かせをしながら、いろいろ自分勝手な感想を書き散らかしていますが、絵本を本当に了解するのは無理なのかもしれないなと思いました。まあ、当たり前といえば当たり前ですが……
▼みづゑ編集部 編『みづゑのレシピ 絵本のつくりかた1 あこがれのクリエイターとつくるはじめての物語』美術出版社、2003年、定価 1,995円