樋口淳/片山健『あかずきん』

 今日は2冊。ご存じ「赤頭巾」のお話。巻末の「あとがき」によると、「赤頭巾」にはペローとグリムの二つの型があり、それに対して、この絵本はフランスのトゥーレーヌ地方の語りをもとにしているそうです。そのため、一般に知られている「赤頭巾」のお話とは細部がいろいろ違います。世界各地の民話や日本の民話とも共通のモチーフが見られるそうで、おもしろい。とはいえ、この絵本の「おおかみ」は、かなり恐いです。うちの子どもはそんなに恐くないと言ってましたが、私は「えーっ!」とのけぞりそうになりました。絵は、よく見ると部分的にコラージュされていて、片山健さんの絵のなかでは珍しいのではないでしょうか。主人公の「あかずきん」があまりかわいく描かれていないのも、新鮮です。
▼樋口淳 文/片山健 絵『あかずきん』ほるぷ出版、1992年

井口真吾『バンロッホのはちみつ』

 おなかにチャックがついたテディベア、「バンロッホ」、いつものようになんとなく歩いていると、蜜を集めているミツバチを見つけます。蜂蜜をなめたくなった「バンロッホ」はいろいろ探しているうちに木のてっぺんに登るのですが、このあとの物語の爆走ぶりがおかしい。上へ上へと上昇していき、自分の住んでいた世界がどんどん相対化されていきます。しかし、最後は戻ってきて、やはり蜂蜜。絵はシンプルで色合いも均一的、グッとクローズアップしたり遠くを俯瞰したりする画面もおもしろいと思います。
▼井口真吾『バンロッホのはちみつ』学研、2001年

荒井良二『そのつもり』

 「そのつ森」という森の一角で、動物たちが会議を開いて話し合いをするというお話。会議のテーマは、森にある空き地をどう使えばよいか。何年も何年も話し合っているのですが、なかなか決まりません。おかしいのは、誰かが何か提案すると、みんな少し考えてから「いいねえ、それ」と言って、「そのつもり」になってしまうところ。これじゃあ、決まりませんよねえ。とくに「オバケを住まわせたい」というコウモリの提案、みんなの「そのつもり」ぶりがおもしろい。そんななか、リスが「何もしないでこのままがいいと思います」と言うと、誰も「そのつもり」になれず、そのあと、みんなが勝手にしゃべりはじめ大混乱。このままだからこそ「そのつもり」になれるのに、でも「このままがいい」という真実は「そのつもり」になれないから受け入れられない……いろいろ寓意を読みとれるような気がします。不思議な味わいの物語です。
▼荒井良二『そのつもり』講談社、1997年

武井武雄/吉田絃二郎/宮脇紀雄『たおされた き』

 今日は3冊。この絵本は「武井武雄絵本美術館」シリーズの1冊。ある高い山の上にある大きな一本のクスノキ。夜には小鳥の宿になり、下に生えている小さな草花たちを雨や風から守っていたのですが、殿様のお城を直すために切られてしまうという物語。草花たちは、自分たちがクスノキに助けられて生きていることをまったく分かっておらず、結局、枯れていきます。ラストシーンも象徴的で、少し教育的と言えるかもしれません。絵は、顔がおもしろい。殿様の顔、太陽の顔、草花にも顔がついていてシュールです。でも、クスノキには顔は描かれていないんですね。
▼武井武雄 絵/吉田絃二郎 原作/宮脇紀雄 再話『たおされた き』フレーベル館、1998年

たむらしげる『おばけのコンサート』

 古い家に住んでいる「ちいさな おばけ」がハーモニカを吹いていると、いろんなお化けが楽器を持って訪ねてきます。みんなで陽気に演奏会、お化けの歌を歌い踊るというお話。見開き2ページを基本にし、「トントン!」というドアをたたく音に合わせてページをめくるごとに新しいお化けが登場するという楽しい趣向。このリズムがラストのおちにも生きています。よく見ると、たむらさんの絵本でおなじみのロボットの「ランスロット」も小さく描き込まれ踊っています。2000年に一度刊行されたものの再刊。この絵本、おすすめです。
▼たむらしげる『おばけのコンサート』福音館書店、2004年

赤羽末吉『おへそがえる・ごん 3 こしぬけとのさまの巻』

 「おへそがえる・ごん」シリーズの第3巻。完結編です。今回は、かみなりの「へそとりごろべえ」が登場。「ごん」や「けん」、「どん」、そして「ぽんた」と「こんた」、みんなで協力して、「あかぐん」と「みどりぐん」のいくさをやめさせます。ユーモラスな描写は相変わらず絶好調で大いに笑ったのですが、と同時に、今回は激しい戦争とそれがもらたらすものが印象深く描かれています。シリーズの他の巻と同じく、白と黒以外は赤と緑の2色のみが使われているのですが、その赤の色使いがこれまでになく鮮烈。それは表紙にもはっきりと表れていて、子どもを背負って走る「おへそがえる・ごん」を赤黒い炎が取り巻いています。ところで、「おへそがえる・ごん」シリーズ、これで終わりだと思うとなんだか悲しいです。第3巻で物語はもちろん完結していますが、登場するキャラクターの実に生き生きとした活躍からすると、まだまだおもしろい続きがありそうなのに、もうおしまい。名残惜しい気持ちになりました。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん 3 こしぬけとのさまの巻』福音館書店、1986年

アネット・チゾン、タラス・テーラー『まほうにかかった動物たち』

 今日は3冊。「まほうの色あそび」シリーズの1冊。今回、「ハービィ」とイヌの「アンジェロ」は、古い魔法の本に載っていた実験の話を読み、色の魔法を使って、からだの色を変える不思議な動物を創造します。パーンと飛び出した動物たちを追いかけて、湖の古いお城のある島に向かうというストーリー。シリーズの他の絵本と同じく、紙のページの間に彩色した透明なビニールのページがはさんであり、それをめくると鮮やかに動物たちが浮かび上がってきます。紙面とビニール面の色や模様が重なりずれていくときの美しさ。めくるというアクションによって二次元の色と形がダイナミックに変化していき、おもしろいです。うちの子どもも、一人でビニールのページを動かして楽しんでいました。通常の紙面での彩色の仕方や白の残し方もスタイリッシュ。独特の味があります。原書の刊行は1980年。
▼アネット・チゾン、タラス・テーラー/竹林亜紀 訳『まほうにかかった動物たち』評論社、1984年

ヒルデ・ハイドゥック-フート/佐久間彪『きいてよ こいしが はなしてる』

 この絵本はだいぶ前に古本屋で購入したのですが、至光社から刊行されている「月刊カトリック保育絵本」の1冊。裏表紙には「かみさまに はじめて きがつく えほん」と書かれたマークも付いています。とはいえ、そんなに宗教色は強くありません。画面はいろんな色と大きさの石がさまざまに配置されて描かれ、それに文章が付いています。寓意的な物語。なんとなく個人と社会の関係のあり方について考えさせられます。

それに ぼく きゅうくつなの すきじゃない
ほらね このほうが ずっと いい
いっしょなのに ひとり
ひとりなのに いっしょ

奥付を見ると、もともとはドイツで出版された絵本のようです。
▼ヒルデ・ハイドゥック-フート 作/佐久間彪 文『きいてよ こいしが はなしてる』「こどものせかい」第48巻第5号、至光社、1995年