稲田和子/川端健生『しょうとのおにたいじ』

 この絵本、2年ほど前にも簡単な紹介のエントリーを書いています。稲田和子/川端健生『しょうとのおにたいじ』です。

 そのときは、いろいろ謎があるなあと思っていたのですが、最近、やっと分かりました。うちの子どもと一緒に読んでいて、ハッと気が付いたのですが、鬼が「3匹」というのは、そういうわけだったんですね。地の文には何も語られていませんが、絵のなかにさりげなく描き込まれています。

 もう一つ、この絵本の裏表紙もまた、物語の結末を表現していることに気付きました。本文は、鬼退治の少しだけ残酷な描写で終わっているのですが、裏表紙には、その後の「しょうと」の姿が描かれていると思います。「しょうと」がどこにいるかがポイントかなと思いました。

 上記の両方とも、文には表されることなく、絵のみによって表現されています。川端さんの絵の描写は、なかなかすごいです。

 というか、このくらい最初に読んだとき気付よ、自分、って感じですね(^^;)。

▼稲田和子 再話/川端健生 画『しょうとのおにたいじ』「こどものとも」1996年2月号(通巻479号)、福音館書店、1996年、[印刷・製本:精興社]

講談社がコンビニで絵本を販売(その2)

 先日のエントリー、「講談社がコンビニで絵本を販売」でふれたコンビニでの絵本販売ですが、YOMIURI ONLINEの9月11日付けの記事、絵本はコンビニで : 出版トピック : 本よみうり堂 でも取り上げられています。

 記事によると、すでに2004年末に講談社はコンビニで絵本の販売を始めているそうです。写真も掲載されていますが、回転式の専用棚を用意しているとのこと。

 出版社側の事情としては、先のエントリーでも紹介したのと同じく、絵本販売の新規ルートの開拓ですね。今回の記事では、コンビニ側の事情として、昼間の売上増とイメージアップの2点が挙げられています。実際、幼稚園の近所や病院内のコンビニでは絵本がよく売れているとのこと。なるほどなーと納得です。

 また、記事では、これまで絵本販売の中核を担ってきた中小書店の減少により、ここ数年、絵本の売り上げが伸び悩んでいることが記されていました。

 思うのですが、中小書店が減少していった背景要因には、郊外型の大規模書店の進出やネット書店利用の拡大と並んで、コンビニの普及もあったように思います。つまり、通常の書籍については大規模書店やネット書店にお客を取られ、雑誌やマンガについてはコンビニにお客を取られるという構図です。

 そうしてみると、コンビニも一つの要因となって絵本の販売ルートが縮小していき、それに対応するために、コンビニで絵本を販売していくというわけで、なんだか皮肉な展開にも思えてきました。

 あと、今回の記事で注目されるのは、コンビニの販売時点情報管理システム(POS)で売れ筋を分析し、販売絵本を入れ替えていくという点。コンビニですから、絵本の販売実績もシビアに解析されていくわけですね。

 ある意味、当然の販売戦略と言えます。しかし、ちょっとどうかなーと感じるところもなきにしもあらず。

 通常の書店であれば、販売実績だけでなく、いわば絵本の「質」を重視して棚をつくることもあると思います。売れるかどうかはともかく、この絵本を読んでほしい・読ませたいという思いで絵本を置くこともあるでしょう。これに対し、コンビニの場合には、すべて「売れる」絵本でおおわれる傾向が強い気がします。もちろん、スペースが限られていることもあるでしょうが、しかし、POSで分析して売れる絵本だけで棚をつくるとなると、そこには絵本に対する「思い」が入り込む余地はあまりなくなるように感じます。

 まあ、考えすぎかもしれませんね。でも、せっかくだから、おまけ付き絵本だけじゃなく、もうちょっとスタンダードな絵本も置いてほしいところです。コンビニにとっても、そのほうがイメージアップになると思うのですが、どうでしょう。

父親の絵本読みきかせ

 JPIC 財団法人 出版文化産業振興財団が刊行している季刊誌、『この本読んで!』のサイト、えほん大好き(読みきかせ・絵本大好きな方々のコミュニティ)に興味深い記事が載っていました。特集 お父さんだって、読みきかせたい。です。

 『この本読んで!』の読者の夫、100人に対し、家事・育児へのかかわりや読みきかせについて実施したアンケートが掲載されています。もちろん、サンプルが100人ですから、平均的父親とは言いにくいですし、また『この本読んで!』を定期講読しているとなると、比較的絵本に親しんでいる家庭かもしれません。それでも、一般的な傾向は読み取れると思います。

 上記のウェブページの左側には、アンケートの単純集計がグラフで表されています。それを見ると、まず意外だったのは、父親がかかわっている家事・育児の第3位に読みきかせが挙がっていること。複数回答で、全体の42%です。けっこう読みきかせをされているお父さんが多いと言えます。

 その一方で、読みきかせが好きだと答えた父親は28%、読みきかせが得意と答えた父親は21%しかありません。「どちらともいえない」が半分以上を占めていますが、けっこう低い数値ですね。

 この傾向は、上記のウェブページの右側にまとめられている自由回答からも読み取れます。たとえば「自分にはできない」「何がおもしろいのかわからない」「面倒くさい」「自分が眠くなってきて、つらい」といったネガティヴな回答が並んでいます。比較的、絵本の読みきかせに積極的なお父さんでも、明確に前向きな回答は少ないような気がします。

 特集のタイトルは「お父さんだって、読みきかせたい。」ですが、調査の結果からは、とてもそう言えない現状が浮かび上がってくると言ったら言い過ぎでしょうか。

 アンケートのまとめに記されているように、お父さんにとっての読みきかせは発展途上かもしれませんね。単なる印象論にすぎませんが、一つには、「恥ずかしい」「どうしたらよいのか分からない」といった、読みきかせをはじめる以前の尻込みがあるように思います。もう一つには、仕事が忙しく疲れている父親の姿があると言えるでしょう。

 私の個人的な体験から言うと、子どもと一緒に絵本を読むことは、それ自体、仕事の疲れを取ってくれる最高の時間です。恥ずかしい、分からないといった最初のハードルを越えたら、あとは楽園、もうやみつきです(^^:)。

 特集のパート2で鈴木光司さんが触れているように、子どもの教育のためといったこともないわけではないでしょうが、私の場合は、むしろ、自分自身のためにも読みきかせをしていると言えます。読みきかせは、仕事のストレスを忘れさせてくれると言ってもよいです。

 まず、絵本は一つの独創的な表現様式であって、それにふれること自体が楽しみになると思います。すぐれた絵本は一個の芸術作品であり、それを体感することが楽しいわけです。

 もちろん、子どもと一緒に絵本を読むことはコミュニケーションですから、独りよがりなものではうまくいかないと思います。そうではなくて、子どものぬくもりを感じ、やりとりを楽しみ、一緒に笑ったりしんみりしたり、場を共有することそれ自体が、子どもにとっても自分にとっても貴重で、そしてまた楽しいのです。

 とにかく、まずは自分と子どもが楽しい時間を過ごす、そのことだけを考えるのがよいかもしれません。何かのためではなくて、それ自体を楽しむことが大事で、実際、絵本はそういう楽しみをたくさんもたらしてくれると思うのです。

 えほん大好き(読みきかせ・絵本大好きな方々のコミュニティ)ひとのページで、飯野和好さんが次のように語っています。

 絵本を人に読んであげるとき、たとえ相手が何人でも「芸能」になる。人に向かって表現するわけだからね。それをただ「読んで聞かせよう」とする人がたくさんいるんだね。芸能として考えたとき、もっと表現方法があると思うんだ。子どもを「いい子に育てよう」とかあまりかたく考えないで楽しんでほしいなぁー。

 大事なことはまさに上記で言い尽くされていると思うのですが、どうでしょう。

ポプラ社の中国法人書店

 中国の対外放送を行う中国国際放送局(サイトは中国国際放送局)、8月26日付けの記事、蒲蒲蘭絵本館 china radio international。ポプラ社の中国法人が2005年10月に北京にオープンした書店を紹介しています。書店の名前は「KID’S REPUBLIC蒲蒲蘭絵本館(ポプラ絵本館)」。

 写真も何枚か掲載されていますが、なかなか良い雰囲気ですね。中国語はもちろん、英語や日本語の絵本も揃っているとのこと。週末には読み聞かせなどの子ども向けイベントが開かれているそうです。

 ウェブサイトもあります。蒲蒲兰绘本馆です。当然、中身は中国語ですが、かわいいデザインですね。ただ、かなり重いです。

 また、ポプラ社のサイト会社概要のページを見ると、関連会社として「北京蒲蒲蘭文化発展有限公司」が挙げられています。

 で、それはともかく、上記の記事で一番驚いたのは、中国ではいわゆる「絵本」はこれまで存在しなかったという記述。うーむ、そうだったのか!

 なんとなく思ったのですが、これが事実だとすると、ポプラ社はかなり戦略的に中国に進出していると言えますね。少々うがった見方かもしれませんが、絵本という一つの文化を中国に持ち込み定着させることができたなら、これは巨大な市場になる気がします。日本とは比較にならない規模かと思います。

 三カ国語の絵本を扱っているのも、一つには北京在住の日本人を念頭に置いているのでしょうが、それ以上に、中国には従来なかった絵本文化を広めていく目的が大きいでしょう。

 実際、この試みは、記事を読むかぎりではある程度うまくいっているようです。口コミで来店者が増えているとのこと。

 ただ、おそらく、絵本出版社の中国進出はポプラ社以外にも試みられているかと思います。確実なことは分かりませんが、日本の出版社にはそれほど広がっていないとしても、アメリカやヨーロッパの出版社はだいぶ入っているのではないでしょうか。すでに厳しい競争があるのかもしれません。

経済産業省が「キッズデザイン賞」を創設

 NIKKEI NET、8月24日付けの記事、経産省が「キッズデザイン賞」・安全への配慮表彰。経済産業省が、子どもの安全や発育に配慮した製品や絵本、取り組みなどを表彰する「キッズデザイン賞」を創設するそうです。2007年度に第1回の作品を表彰し、以後、毎年実施とのこと。表彰事業の実際の運営は、「キッズデザイン協会」が行うとあります。

 最近は思いもかけない子どもの事故が起こっていますし、なかなか有意義な取り組みですね。ただ、記事中、一点、気になったのが、具体的な表彰対象として「倫理観をはぐくむ絵本」も想定しているというところ。子どもがケガをしにくいデザインのテーブルやイスはともかく、「倫理観をはぐくむ」ことのどこが「デザイン」に関係するのだろうと疑問に思いました。また、どんな倫理観なのかという点で、少々、あやういものも感じました。

 そこで、関連サイトを検索。

 まず、METI/経済産業省の報道発表のページに当該のプレスリリースがありました。「キッズデザイン賞」の創設について 報道発表(METI/経済産業省)です。PDFファイルで詳しい資料も閲覧できるようになっています。

 ざっと見てみましたが、NIKKEI NET の記事にあるような「倫理観をはぐくむ絵本」なんて記述はどこにも見あたりません。また、表彰対象に「絵本」は明記されておらず、そのかわりに「書籍」が入っています。しかし、これは、「商品デザイン:玩具、遊具、書籍、食品などのプロダクトデザイン」という表彰対象カテゴリーの一例として挙げられています。

 「プロダクトデザイン」ですから、基本的にはモノとしてのデザインと理解するのが自然ですよね。実際、小さな子ども向けの絵本は、紙の厚さや角の処理、使用するインクなど、安全であるために様々に工夫されていることがあります。この意味でのデザインが表彰の対象になるわけで、「倫理観をはぐくむ」といったような直接、内容にかかわってくるものではないと思われます。

 商品デザイン以外にも、建築デザイン、環境デザイン、コミュニケーションデザイン、リサーチデザインが対象になっていますが、いずれも倫理観を問題とするようなものではないでしょう。あえて関連を探すなら、特別賞のテーマ例として、「ジャパンバリューデザイン (日本的価値の提案に優れたもの)」が入っているくらいでしょうか。でも、これも「倫理観」というのは無理がありますね。

 念のため、今回の事業を主催・運営するキッズデザイン協会のサイトも検索してみました。KIDS DESIGN ASSOCIATIONです。サイト内のKIDS DESIGN AWARDにキッズデザイン賞の説明がありましたが、ここも基本的に経済産業省のページと同じ内容になっており、「倫理観をはぐくむ」といったような記述は見あたりませんでした。

 うーむ。NIKKEI NETの記事は何をもとに書かれたのかな? ちょっと謎です。経済産業省の担当者からそのような話を聞いたとか……。あるいは、8月24日に開かれたという「キッズデザイン賞創設シンポジウム」でそういう議論があったのか……。まあ、細かい話しではありますが、ちょっと違和感が残ります。

 それはともかく、上記の関連サイトに資料が掲載されていますが、キッズデザイン賞の受賞作品に付与される「キッズデザインマーク」、非常に斬新ですね。グラフィックデザイナーの佐藤卓さんがデザインされてます。佐藤さんご自身の主旨説明がPDFファイル等で読めますが、「優しく子どもを守る形をつくるのではなく、敢えて危険や不完全さを可視化」したとのこと。

 「子どもの安全安心と健やかな成長発達につながる生活環境の創出を目指したデザイン」として優れていると表彰されたものに対し、「危険や不完全さを可視化」したマークを付けるわけです。かなり大胆。表彰された側がマークの付与を敬遠したりしないかなと要らぬ心配をしてしまいます。

 でも、表彰されたからOKというわけではなく、子どもを取り巻くあらゆる「もの」「こと」を常に問い直し見直す必要があり、その作業に終わりはない……そうした意味で、このマークはたしかにぴったりかもしれません。

 表彰によって安住したりせず、なおいっそう前進し続けること。今回の賞に限らず、一般的に、なんらかの受賞に対するマークのデザインとして考えても、これはとても新しい気がします。

ヴィルヘルム・ブッシュさんの関連情報

 しばらく前に読んで衝撃的だった『マックスとモーリッツ』、その作者であるヴィルヘルム・ブッシュさんの記念館があることを知りました。日本経済新聞で毎週土曜日に掲載されている、多和田葉子さんの「溶ける街 透ける路」、8月12日付けの第31回「ハノーファーの罠」で取り上げられていました。

 ドイツの都市、ハノーファーのヘレンハウゼン王宮庭園のなかにあるそうです。ヴィルヘルム・ブッシュさんはハーノーファーの生まれとのこと。検索をかけてみると、ウェブサイトもありました。Wilhelm-Busch-Museum Hannoverです。なかをのぞいてみると、ヴィルヘルム・ブッシュさんの写真もあります。ブッシュさんの作品のコレクションはもちろんのこと、風刺画のコレクションも所蔵しているようです。トミー・ウンゲラーさんのイラストがサイトには掲載されています。

 多和田さんによると、『マックスとモーリッツ』は、ドイツでは知らない人がいないほど有名だそうです。そこで、少し関連サイトを検索してみました。

 まず日本語で読めるもの。

 Wikipediaには、マックスとモーリッツ のページがあります。ここの説明によると、漫画の歴史においても重要な作品だそうです。

 また、酒寄進一研究室ドイツ語文化圏データベースには、ヴィルヘルム・ブッシュに略歴や作品リストが掲載されています。

 続いてドイツ語のサイト。非常にたくさんの関連サイトがあります。

 上記の酒寄進一研究室のページからもリンクが張られていますが、著作権フリーのドイツ文学作品をデジタル化しているプロジェクト・グーテンベルク、Projekt Gutenberg-DEには、『マックスとモーリッツ』の原文がそのまま集録・公開されています。Max und Moritzです。ただし、挿絵はないようです。『マックスとモーリッツ』以外のブッシュさんの作品も、パブリック・ドメインになっているようですね。

 同様にして、Vorleser.netでは、オーディオブックのように、朗読の音声データを無料でダウンロードできます。Wilhelm Buschです。

 ドイツのWikipedia、Wikipediaにも、Max und Moritzのページと、Wilhelm Buschのページがありました。かなり詳しい記述になっています。ブッシュさんの自画像も掲載されています。りっぱなヒゲです(^^;)。

 また、個人の方が運営されているサイト、Wilhelm-Busch-Seitenには、関連情報が集められています。そのなかのWilhelm Busch Museenのページには、ブッシュさんの生家など、多くの記念施設の説明とリンクが載っています。生家はきちんと保存され公開されているようですね。ウェブサイト、Wilhelm Busch Geburtshausもあります。

 さらに、「ヴィルヘルム・ブッシュ賞」というものがあるそうです。上記のドイツのWikipediaに説明のページがありました。Wilhelm-Busch-Preis – Wikipediaです。風刺作家、ユーモア作家に授与されるようです。サイト、Wilhelm-Busch-Preisもあります。

 さらにさらに、「ヴィルヘルム・ブッシュ協会」というのもあるみたいですね。サイトは、Wilhelm Busch.deです。

 そして最後は、ドイツのアマゾン、Amazon.deで、「Max und Moritz」で検索してみました。Amazon.de: Max und Moritz: Suchergebnisse Amazon.deです。実にたくさんの関連商品があるようです。ポップアップ絵本や、なかには「 Max und Moritz Reloaded」なるDVDもありました。どうやら舞台を現代に移した映画のようです。うーむ、どんな内容なんだろう。あの物語を現代でやるとなると、相当にブラックなものになると思いますが……。

 まだまだ関連サイトがあるようですが、少し調べただけでも、ドイツの人たちにとって、いかに『マックスとモーリッツ』が身近で、ヴィルヘルム・ブッシュさんが親しまれているか、よく分かるような気がしました。

講談社がコンビニで絵本を販売

 8月23日付け、NIKKEI NET:企業 ニュースの記事、講談社、コンビニで絵本販売・独自商品も出版

 講談社が、今年中に大手コンビニ約7000店に専用の棚を設置し、絵本の販売を強化するそうです。常時24作品を用意し、独自商品も出版するとのこと。すごいですね。

 今回の計画の背景について、記事では、中小書店の減少に対する新たな販路の開拓を挙げています。しかし、中小書店が減っていることはだいぶ以前からの傾向でしょうし、なんとなくですが、他にも理由がある気がします。

 一つは、出版社側の事情のみならず、コンビニ側にも絵本販売への積極姿勢があるのではないかという点。地域のコンビニ出店が飽和状態にあり、コンビニ業界の成長が鈍化していることは、以前から新聞でも報道されていたと思います。そのため、これまでとは違った戦略が試みられている気がします。

 たとえば、8月22日付けの北國新聞の記事、金大にカフェ風店舗 サークルKサンクス 石川に個性派コンビニ続々 ローソンは緑地併設店にあるように、従来はあまり見られなかったような場所に出店したり、店舗の設計を変えたりすることもその一例でしょう。

 同様に、7月2日付けのNIKKEI NET:企業 ニュースの記事、ローソン、高齢者向けにコンビニ改装・全体の2割に、7月1日付けの神戸新聞の記事、高齢者向けのコンビニ開店 淡路市内にあるように、高齢者という従来はコンビニの中心的な顧客ではなかった世代にターゲットを拡大する試みも行われているようです。

 こういった店舗戦略の流れのなかに今回の絵本販売も入ってくる気がするのですが、どうでしょう。

 実際、「高齢者向けコンビニ」を計画しているローソンは、その一方では、現在、ハッピー子育てプロジェクトを推進しています。その趣旨は、子育てを応援するコンビニ、コンビニを子育て中の母親のコミュニケーションの場にすることとされています。子どもや子育て中の母親が使いやすい店舗の立地やレイアウト、「思わず来店したくなるサービス」や商品の開発が目指されています。計画では、「高齢者向けコンビニ」と同様に(?)、モデル店で検証をおこない、多店舗展開を目指すようです。

 このコンセプトからすると、絵本の販売は、まさにぴったり趣旨に合いますよね。絵本の販売は、コンビニにとっても、新しい顧客を開拓するうえでポイントが高いのではないかなと思います。

 そういえば、ローソンの「ハッピー子育てプロジェクト」のキャラクターは、ミッフィー。ミッフィーの絵本といえば、講談社ですよね。ただの偶然ではないと思うのですが、ちょっと考えすぎでしょうか。

 でもまあ、ローソンでミッフィーの絵本を買えるのは、それはそれでよいかなと思います。ただし、上述の講談社の絵本販売の記事によると、販売されるのは、模型やミニカーを付けた絵本とのこと。うーむ。どうせなら、そんなギミックものではなくて、正統な(?)絵本にしてほしいところです。

 しかし、それではコンビニで売れないのかもしれませんね。なんだか絵本が置かれている現状を象徴しているような気もしてきます。

フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン『うえきやのくまさん』

 「くまさん」がいろんな仕事に就いているシリーズの一冊。この絵本では植木屋さんです。お隣のお庭の手入れをしたり、自分の畑でとれた野菜を売ったり、1日の様子が描かれていきます。

 主人公の「くまさん」だけがクマで、他の登場人物はみんな普通の人間たち。だから、奇妙と言えば実に奇妙なのですが、テディベアの「くまさん」の姿はとても可愛らしく、うちの子どもも大好きです。

 描写はどことなくファンシーな部分がありますが、中身はいわば仕事絵本。たんたんと静かな描写ながら、「くまさん」が誠実に自分の仕事に取り組んでいることがじんわりと伝わってきます。きちんと手入れされている道具を見ても、後片付けをしっかり行うことや決してあいさつを忘れないことを見ても、仕事に対する「くまさん」の真摯な態度が伺えます。

 いわばプロですね。自分の仕事をいいかげんにはしない。自分なりのルールを持ち、乱れることなく黙々とやるべきことをやっていく。そして、それが多くの人びとに支持されている。すごいなあと思います。なんだか見習いたいくらいです。

 もう一つ、仕事以外の生活の豊かさも素晴らしい。部屋に飾られている花々、質素でありながら趣味のよい家具や調度品、きちんと片付けられた部屋、お庭には温室やミツバチの巣、小鳥の巣箱があり、植栽がきれいに整えられています。

 「くまさん」が決して仕事人間ではないことが分かります。仕事だけでなく、生活そのものに誠実に向き合い、またそれを楽しんでいるわけです。やっぱり、すごいと思います。私なんぞは、生活がすぐにおろそかになりがち。「くまさん」の爪の垢でも煎じて飲まないといけませんね。

 ちょっと変かもしれませんが、「くまさん」の生活の豊かさは、どことなく「ぐりとぐら」シリーズを思い起こさせます。いずれも、素朴でつつましやか、上品な暮らしぶりです。

 あと、気になった点は、「くまさん」には家族がいないこと。白ネコを1匹飼っているみたいですが、独身の一人暮らしなんですね。

 これもおかしな発想かもしれませんが、「くまさん」のライフスタイルは、いまの日本の独身男女、というか、とくに女性にとって、一つの理想に近い気がしました。いや、もちろん植木屋さんをやりたいと考えている人は少ないと思いますが、具体的にどんな職業に就くにせよ、自分で自立して自分のルールで仕事に誠実に取り組めること、しかも、それが人びとに広く受け入れられること、これは一つの理想でしょう。

 また「くまさん」の豊かで品の良い独身生活も、非常に魅力的なのではないかと思います。ヘンな例えですが、NHK総合で放送されている「ゆるナビ」の世界観に相通じるものがあるように感じました(といっても、私は「ゆるナビ」は一回しか見たことがないのですが……)。

 しかし、幾ら生活が質素とはいっても、半日、お庭の手入れをしてたったの500円とは、ちょっと安すぎないか。いやまあ、ここだけ、若干、疑問を持ったのでした(^^;)。

 原書“Teddy Bear Gardener”の刊行は1983年。

▼フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン 作・絵/まさきるりこ 訳『うえきやのくまさん』福音館書店、1987年、[印刷:三美印刷、製本:多田製本]

ジョン・ヴァーノン・ロード『ジャイアント・ジャム・サンド』

 暑い夏、4百万匹のハチの大群に襲われた村が、みんで協力してハチを退治するお話。どうやって退治するかがポイントです。荒唐無稽、驚きの大作戦が繰り広げられます。どんな作戦なのかというと、ヒントはタイトル。うちの子どもも大受けでした。

 ハチ一匹一匹は小さきものですが、それを退治するためにとんでもなく巨大なものが作り出されるわけで、この対比が面白い。どこからこんな発想が出てきたのかというくらいのスケールの大きさなのですが、なんだか怪獣映画を見ているような趣きもあります。

 考えてみると、怪獣やウルトラマンなど、巨大なものって、それ自体、魅力があるなあと思います。絵本のモチーフとしても、絵にしたときのインパクトと面白さは格別です。どでかいものをテーマにした絵本って、他にもいろいろあった気がします。

 なんとなく思うのですが、巨大なものを中心にすえたとき、たぶん、二つの展開がある気がします。一つは、たとえば怪獣ものがそうですが、人間にはどうしようもない力、人間の小ささやか弱さが表される場合。ばんばん町が破壊され、いくら抵抗しても勝てないという展開ですね。もう一つは、その巨大なものが人間の生み出したものであり、だから、人間の力のすごさが表現される場合。まあ、ちょっと考えすぎかもしれませんが、両方がミックスされることも多い気がします。

 で、この絵本は、どちらかというと後者かな。村人たちみんなで協力し合って、ばかでかいものを作りあげ、ハチを退治していくわけです。その制作プロセスは豪快そのもの。ヘンな言い方ですが、なんだか清々しくなってきます。村の大問題に取り組むわけですが、くそまじめではなくて、快楽的なんですね。みんな楽しそうに作業をしています。

 一番楽しんでいるのは、もちろん、パン屋のおじさんとお百姓さん。二人とも大活躍です。とくにお百姓さんは、帽子に隠れて顔の表情がぜんぜん見えないのですが、たぶん、最高に面白がっていたんじゃないかなと思います。

 あと、よーく見ると、画面の端々にユーモラスな描写が見つかります。うちの子どもはヘリコプターに反応していました。それから、最初の方のページに登場する3人のおじさん。他のページにも小さく描かれていて、面白い。村人たちの作戦とは別にずっと戦っています(^^;)。他にもサイドストーリーが描き込まれているかもしれません。

 裏表紙には3匹のハチ。「3匹」というのがポイントですね。これがほんとの結末かな。

 原書“The Giant Jam Sandwich”の刊行は1972年。

▼ジョン・ヴァーノン・ロード/安西徹雄 訳『ジャイアント・ジャム・サンド』アリス館、1987年、[印刷・製本:大村印刷]

マージョリー・W・シャーマット/マーク・シマント『きえた犬のえ』

 「ぼくはめいたんてい」シリーズの第1巻。タイトルからも伺えるとおり、探偵ものの絵本です。全ページに絵が付いているので、絵本といえば絵本ですが、頁数が少し多めなので、絵本と児童文学の中間のような感じです。

 主人公は9歳の少年、「ネート」。彼は「めいたんてい」で、様々な事件を解決してきました。今回、「ネート」は、友達の「アニー」が描いたイヌの絵を探します。「アニー」は、家で飼っているイヌの「ファング」の絵を描いて机の上に出しておいたのですが、いつの間にかなくなってしまったのです。その絵を見たのは、なかよしの「ロザモンド」、弟の「ハリー」、そしてイヌの「ファング」だけ。「ネート」は「アニー」とともに、一人ひとりあたっていきます。

 いやー、これは面白い!! うちの子どもも大満足の一冊です。犯人はいったい誰なのか、物語に引き込まれます。もちろん、恐いことはまったくありませんが、展開の妙味はなかなかのもの。

 とくに最後の謎解きが絵本ならでは仕掛けになっていて、素晴らしいです。うちの子どもも「あっ!」と声を上げていました。おもしろいよねー、これ。

 それから、登場するキャラクターがまた魅力的。大人は一人も出てきません。それとなく存在が示唆されるのみで、子どもたちとイヌだけでお話は進んでいきます。で、この子どもたちが、かなり個性豊か。というか、言ってしまえば少々ヘンなんですね。品行方正、健康優良児とはちょっと違う、それがまた興味深い。

 主人公の「ネート」は「めいたんてい」ですから、もちろん、切れ味抜群、沈着冷静、頭脳明晰なんですが、と同時に、独得の個性があります。なんといえばよいか、つまり、ハードボイルド。最初の登場シーンからしてクールです。

 「しごとは いつも ひとりで します」し、「しごとちゅう」は笑ったりしませんし、「アニー」へのほのかな好意(?)も素直に表したりなんかしません。会話もどことなくウィットに富んでいますし、ラスト、雨の後ろ姿には私もちょっとしびれました(^^;)。

 その一方で、大好物のパンケーキへのこだわりが妙に可笑しい。着ている服装も、探偵ものの定番。だぶだぶの格好は、なんだか大人子どもでかわいいです。

 巻末には訳者の光吉夏弥さんの「あとがき」があり、シリーズの紹介と作者の簡単なプロフィールも記されていました。原書“Nate the Great”の刊行は1972年。ストーリーも絵もまったく古さを感じさせません。アメリカでは、ペーパーバックスにもなったヒットシリーズだそうですが、納得です。

 この絵本、うちの子どもも私も、たいへん気に入ったので、ぜひシリーズの他の巻を読んでいきたいと思います。

▼マージョリー・ワインマン・シャーマット 文/マーク・シマント 絵/光吉夏弥 訳『ぼくはめいたんてい1 きえた犬のえ』大日本図書、1982年、[印刷所:株式会社精興社、製本所:株式会社若林製本工場]