「くまさん」がいろんな仕事に就いているシリーズの一冊。この絵本では植木屋さんです。お隣のお庭の手入れをしたり、自分の畑でとれた野菜を売ったり、1日の様子が描かれていきます。
主人公の「くまさん」だけがクマで、他の登場人物はみんな普通の人間たち。だから、奇妙と言えば実に奇妙なのですが、テディベアの「くまさん」の姿はとても可愛らしく、うちの子どもも大好きです。
描写はどことなくファンシーな部分がありますが、中身はいわば仕事絵本。たんたんと静かな描写ながら、「くまさん」が誠実に自分の仕事に取り組んでいることがじんわりと伝わってきます。きちんと手入れされている道具を見ても、後片付けをしっかり行うことや決してあいさつを忘れないことを見ても、仕事に対する「くまさん」の真摯な態度が伺えます。
いわばプロですね。自分の仕事をいいかげんにはしない。自分なりのルールを持ち、乱れることなく黙々とやるべきことをやっていく。そして、それが多くの人びとに支持されている。すごいなあと思います。なんだか見習いたいくらいです。
もう一つ、仕事以外の生活の豊かさも素晴らしい。部屋に飾られている花々、質素でありながら趣味のよい家具や調度品、きちんと片付けられた部屋、お庭には温室やミツバチの巣、小鳥の巣箱があり、植栽がきれいに整えられています。
「くまさん」が決して仕事人間ではないことが分かります。仕事だけでなく、生活そのものに誠実に向き合い、またそれを楽しんでいるわけです。やっぱり、すごいと思います。私なんぞは、生活がすぐにおろそかになりがち。「くまさん」の爪の垢でも煎じて飲まないといけませんね。
ちょっと変かもしれませんが、「くまさん」の生活の豊かさは、どことなく「ぐりとぐら」シリーズを思い起こさせます。いずれも、素朴でつつましやか、上品な暮らしぶりです。
あと、気になった点は、「くまさん」には家族がいないこと。白ネコを1匹飼っているみたいですが、独身の一人暮らしなんですね。
これもおかしな発想かもしれませんが、「くまさん」のライフスタイルは、いまの日本の独身男女、というか、とくに女性にとって、一つの理想に近い気がしました。いや、もちろん植木屋さんをやりたいと考えている人は少ないと思いますが、具体的にどんな職業に就くにせよ、自分で自立して自分のルールで仕事に誠実に取り組めること、しかも、それが人びとに広く受け入れられること、これは一つの理想でしょう。
また「くまさん」の豊かで品の良い独身生活も、非常に魅力的なのではないかと思います。ヘンな例えですが、NHK総合で放送されている「ゆるナビ」の世界観に相通じるものがあるように感じました(といっても、私は「ゆるナビ」は一回しか見たことがないのですが……)。
しかし、幾ら生活が質素とはいっても、半日、お庭の手入れをしてたったの500円とは、ちょっと安すぎないか。いやまあ、ここだけ、若干、疑問を持ったのでした(^^;)。
原書“Teddy Bear Gardener”の刊行は1983年。
▼フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン 作・絵/まさきるりこ 訳『うえきやのくまさん』福音館書店、1987年、[印刷:三美印刷、製本:多田製本]