トランプの兵隊たちは「だんへ だんへ」と怒鳴り合ってけんかをします。自分も口に出して言ってみるとおもしろくて、家族のなかでは口癖になりそうです。それはともかく、この「だんへ」、なんとなくドイツ語っぽいなあ、どういう意味なんだろう? と思っていたのですが、今日はじめて気が付きました。要するに「さかさま」ですね。もっと早く気付よ、自分、という感じですが。ただ、「さかさま」だとしても、兵隊たちの足音、「ぺる ぺる ぺる」は意味がよく分かりません。こちらはただの擬態語なのかな? それとも何かタネがあるのかも。うーむ、細かなところまでおもしろい絵本です。
▼安野光雅『さかさま』福音館書店、1969年
ヘルガ・ガルラー『まっくろネリノ』
今日は2冊。真っ黒な色の「ネリノ」は、兄さんたちが遊んでくれず、いつもひとりぼっち。そんな「ネリノ」が鳥かごに捕まえられた兄さんたちを助け出すお話。美しいパステル画で「ネリノ」の兄さんたちは実に鮮やかな色彩。これに対し「ネリノ」は真っ黒。でも、黒いことが実は「ネリノ」を助け兄さんたちを助けるわけですね。漆黒の画面では「ネリノ」の大きな丸い目と足とアタマの毛だけが浮かんでいて、かわいいです。うちの子どもも気に入っていました。でも、「ネリノ」が木のてっぺんで悲しむ画面やきれいな色になりたいとお花にたずねたり薬びんの間にたたずむ画面は、なんだか切ない。原書の刊行は1968年。この絵本、おすすめです。
▼ヘルガ・ガルラー/矢川澄子 訳『まっくろネリノ』偕成社、1973年
加藤チャコ『おおきなカエル ティダリク』
今回うちの子どもは、蝶結びになったウナギを見て「ティダリク」が笑い出すところが、おもしろかったようです。見開き2ページをいっぱいに使った「ティダリク」の顔のアップはなかなかの迫力。ずっと口をヘの字に曲げてむすっとした顔つきだった「ティダリク」、目尻が下がり、笑いをこらえて歪んだ口の端から水がしたたり落ち、そして「はあっはっはっはっ ほおっほっほっほおおお」と大笑い。口から水が噴水のようにふき上がっている画面は、なんだか解放感に満ちています。
読んだあとで、うちの子どもは「むっつり」ってどういう意味?と聞いてきました。「むっつり」した顔をしてみせたら、「へぇー」という反応でした(^^;)。
▼加藤チャコ 再話 絵『おおきなカエル ティダリク』「こどものとも」2000年9月号(通巻534号)、福音館書店、2000年
デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』
今日は2冊。この絵本、うちの子どもはかなり気に入ったようです。今回もまた、主人公の男の子と雲たちの会話をいろいろ作り、読み聞かせをしました。当然ながら、毎回、言葉遣いや表現が変わり、それに応じて絵のニュアンスも変わってきて、なかなか新鮮です。今回うちの子どもといっしょに発見したのは、主人公の男の子のオーバーコートのポケットには、物語の最初から紙と鉛筆が入っていて、そこにはどうも魚の絵が描いてあること。伏線が張ってあって、おもしろいです。こういうところもこの絵本の魅力かなと思います。
▼デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』BL出版、2000年
佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』
「ムニエル」は、今回、サーカスでいろいろ魔法を披露するのですが、やっぱり一番驚くのはゾウですね。「だんちょうも、ムニエルも、これには ゾーッとしました。」なんて、ちと「さむい」駄洒落まで付いています。
ちょっと思ったのですが、佐々木さんの絵は、動きのあるものを静止画で切り取っていて、それが独特の浮遊感というか、間のおもしろさを生んでいます。あ、そうか。たとえばマンガだったら、動きのあるものにはいろいろ線が描き込まれ、そのスピードやベクトルを表すわけですが、佐々木さんの絵にはそれがほとんどありません。だから、空中に浮いているような止まっているような微妙な表現になるのかなと思います。
というか、これは、佐々木さんの絵本に限らず、絵本一般の表現とマンガの表現の大きな違いの一つなのかもしれません。
▼佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』絵本館、2000年
片山令子/片山健『たのしいふゆごもり』
今日は2冊。これからだんだん秋が深まっていきますが、この季節にぴったりなのが『たのしいふゆごもり』。久しぶりに読みました。やはり、すばらしい。
一番最初の見開き2ページ、色づいた秋の森が画面いっぱいに広がっています。ため息の出る美しさです。子グマが暖炉の前でぬいぐるみを抱いて眠っている様子は、何度読んでも、なんとも言えないほどかわいく愛らしい。その前のページでは初雪が描かれているのですが、これがまた、最初は窓の外にそれとなく描き込まれ、ページをめくると見開き2ページいっぱいに静かに雪が降りてきます。この画面の流れにもため息が出ます。そして、ラスト、お母さんが眠ってしまったあと、ベッドのなかで子グマだけがぬいぐるみといっしょに起きているのですが、めくった次のページに描かれるのはぐっすりと眠る子グマ。閉じた裏表紙には、すっかり雪が積もっている様子が描写されています。最後の最後まで時間が流れていき、ゆっくりと眠りにつく冬ごもりが、ページをめくるというアクションのなかで浮かび上がってくるように感じます。
ところで、読んでいて子どもといっしょに気付いたのですが、一番最初の秋の森を描いた画面やまた魚とりの画面には、川のほとりに小さく動物が描き込まれています。他の動物たちも冬ごもりの準備でしょうか。また、よーく見ると、クマの親子が住んでいる大きな木には煙突が付いており、それには目と口が描かれています。なんだか笑っているよう。
うちの子どもが今日、興味を持ったのは綿つみの場面。「この綿にさわってみたいなあ」と興味津々でした。
▼片山令子/片山健『たのしいふゆごもり』福音館書店、1991年
安野光雅『さかさま』
今日は1冊。トランプの家から出てきた兵隊たちが、どちらがさかさまなのか、けんかをするお話。たとえばエッシャーのそれのように、どの絵も、部分的に上下が逆転し、空間がねじれていて、おもしろい。見開き2ページを180度回転させながら読んでいきました。なんだかアタマがくらくらしてきます。ラストページは地球。まるい地球のうえにいるから、誰もがみんな上下さかさまってことかもしれませんね。
ところで、うちの子どもが気が付いたのですが、どのページにも必ずジョーカーが登場します。「あ、ここにいる!」とそのつど見つけて楽しみました。あと、裏表紙が必見です。まさに「さかさま」。この絵本、おすすめです。
▼安野光雅『さかさま』福音館書店、1969年
デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』
今日は、ラストページに描かれている、主人公の男の子の部屋に注目。うちの子ども曰く「お魚ばっかりだねえ」。たしかに、魚介類をモチーフにしたいろんなものが部屋に飾ってあります。なるほど。主人公の男の子は魚介類ファン(?)で、だから、魚介類のかたちの雲を描いたというわけですね。とすると、一番最初のページで、男の子がバスの窓に指でなぞって魚を描いていたのも理解できます。いろいろ伏線が張ってあって、おもしろいです。
▼デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』BL出版、2000年
ジョン・バーニンガム『ショッピング・バスケット』
今日は2冊。お母さんにおつかいを頼まれた「スティーブン」、ところが途中でいろいろな動物たちが品物をよこせと言ってきます。それを切り抜けていく物語。どの動物もけっこう乱暴で、なんというか、まちなかでカツアゲをしているような描写。「スティーブン」の肩に手をおいて顔を近づけ、すごんでいます。うーむ、こういうのって私が中学生のときにもいたなあ。これに対し「スティーブン」はいつも沈着冷静、創意工夫で突破していきます。でも、結局は、買ったばかりの品物を一つずつなくしていくのですが……。
基本的に見開き2ページで動物たちが「スティーブン」にすごんでいる場面が描かれ、めくった次の見開き2ページで「スティーブン」がそれをどう切り抜けたのかが描写されています。緊張と解放が交互に現れ、次はどうなるんだろうと楽しめます。最初の方のページには「スティーブン」が動物たちに出会う場所があかじめ描写されており、また一つずつなくなっていく品物もそのつど描かれていて、これもおもしろい作り。あ、カツアゲなんて書きましたが、絵はとてもユーモラスで、恐いということはないです。原書の刊行は1980年。
▼ジョン・バーニンガム/青山南 訳『ショッピング・バスケット』ほるぷ出版、1993年、[表紙デザイン:羽島一希]
斉藤洋/杉浦範茂『ルドルフといくねこくるねこ』
最近は読む絵本が1冊のことが多いのですが、その理由がこれ。しばらく前にNHK教育の「テレビ絵本」で取り上げられ、それを見ていたうちの子どもは、ぜひ読んでみたいと言うので、図書館から借りてきました。毎日1章ずつ読んでいって、ようやく今日、読了。1章ずつとはいっても、絵本とは格段に文章量が多いため、これ以外に読む絵本は1冊くらいにしています。
もともとこの本は、小学生の中学年向き。挿し絵も少ないですし、内容も幼児にとっては難しいと思うのですが、5歳のうちの子どもは楽しんで聞いています。「分からないといえば分からないけど、でも、おもしろい」と言っていました。「テレビ絵本」で一回見ているので、理解が容易なのかもしれません。
分量が多いので、物語の最初の部分はうちの妻が昼間にも読んでいて、夜は私が担当。そのため、私も物語の全体がよく分かっていません(^^;)。読み聞かせのやり方としては、あまりよくないかもしれませんね。とはいえ、後半はほとんどすべて私が読んだので、最後のいくつかの章は、子どもといっしょにだいぶ盛り上がりました。なかなかおもしろかったです。
この本はシリーズの三作目。で、うちの子どもは、今度はシリーズの一作目と二作目を読んでみたいと言っているので、また図書館から借りる予定です。まあ、とにかく文章量が多いので、なかなかたいへんです。
▼斉藤洋 作/杉浦範茂 絵『ルドルフといくねこくるねこ』講談社、2002年