ウィリアム・スタイグ『ザバジャバ ジャングル』

 今日は1冊。やはり謎の多い物語。「へんてとこなトリ」(どうも「フローラ」という名前らしい)はどうして「レオナルド」を助けたんだろう? 「レオナルド」はなぜ動物の裁判にかけられたんだろう? 「レオナルド」のお母さんとお父さんはどうして捕まっていたんだろう? いろいろサイドストーリーがありそうな感じです。それにしても、「レオナルド」、いつも沈着冷静、果敢に前に進んでいく姿はなんだか大人びていて、りっぱ。でも、物語のラストでお父さんやお母さんといっしょになる場面では、笑みが広がり、子どもらしい表情です。
▼ウィリアム・スタイグ/おがわえつこ 訳『ザバジャバ ジャングル』セーラー出版、1989年

もとしたいずみ/荒井良二『すっぽんぽんのすけ デパートへいくのまき』

 「すっぽんぽんのすけ」シリーズの第3弾。今回、「すっぽんぽんのすけ」は「おかあさん」と一緒にデパートに出かけるのですが、そこに現れるのが、ご存じ、イヌの忍者たち。大暴れをする忍者たちに、「すっぽんぽんのすけ」が立ち向かいます。
 第1弾はお風呂上がり、第2弾は銭湯と、これまでのところハダカなのが当たり前の舞台でしたが、今回はお客さんがいっぱいいる、まちなかのデパート。いったいどうやって「すっぽんぽんのすけ」に変身(?)するのかと思ったら、なるほどねーのアイデア。つまり、スーパーマンですね。
 でも、そうはいっても真っ裸なわけで、それに声援(?)を送るお客さんや店員さんが、なんともおかしい(^^;)。みんな当たり前に接しているんですね。
 そんななか、今回、注目なのが「係長」。いや、何のセリフもありませんし、文章中にもまったく出てこないのですが、絵のなかにだけ描き込まれている人物です。メガネをかけて七三分け、割と真面目そう。この「係長」だけは、なぜか「すっぽんぽんのすけ」が「すっぽんぽん」であることに焦りまくり、汗をダラダラ流して、表情豊かに反応しています。この「係長」のリアクションを見ているだけで、いろいろ伝わってきます(^^;)。あるいは、裏の主人公かも。
 うちの子どもは、「すっぽんぽんのすけ」の術に突っ込みを入れていました。「返しの術だけだねえ」。相手が攻撃してこないと使えないという、考えてみれば不思議な術ですね。
 あと、「すっぽんぽんのすけ」の「おかあさん」、洋服選びに夢中で、自分の息子がどうなっているのか、まったく分かっていません。いいかげん気付けよ!って感じです(^^;)。
▼もとしたいずみ 作/荒井良二 絵『すっぽんぽんのすけ デパートへいくのまき』鈴木出版、2004年

佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』

 今日は2冊。この絵本は「ムッシュ・ムニエル」シリーズの1冊。ひょんなことでサーカスの一員になった「ムニエル」が、いろんな魔法を見せる物語。たくさんの魔法の呪文を使うのですが、同じ呪文でも一つが成功すると別のものがおかしくなって、サーカスは大混乱。絵は以前読んだものよりもだいぶマンガ的。コマ割りやセリフのフキダシがけっこうあります。とはいえ、魔法の結果がめくった次のページに描かれており、めくったときのインパクトがおもしろいです。
▼佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』絵本館、2000年

長新太『つきよのかいじゅう』

 今日は1冊。昔から怪獣がいると言われている山奥の深い湖。もう何十年も怪獣が出てくるのを待っている一人の男の前に、ついに怪獣が浮かび上がってきます。その正体とは……。いやー、これはびっくり! いわばゲシュタルト転換。驚きの展開に口あんぐりです。一度知ってしまうと表紙もまともに(?)見られなくなります。
 それはともかく、月の光に青く照らされた湖の風景がとても美しい。小さく描かれた男の影も、その姿勢の変化が実に多くのことを物語っています。満月だった月がラスト、半月になっているのも印象的。この絵本、おすすめです。
▼長新太『つきよのかいじゅう』佼成出版社、1990年

佐々木マキ『ぶたのたね』

 今日は1冊。走るのがとても遅くて、これまで一度もブタを捕まえて食べたことがない「おおかみ」(食べるのは野菜と木の実だけ)、「きつねはかせ」からなんと「ぶたのたね」をもらいます。この種をまいて「はやくおおきくなるくすり」をふりかけると、「ぶたの木」の芽が出てどんどん大きくなり、ついにたくさんの「ぶたの実」がなります。りっぱな木に鈴なりになった「ぶた」「ぶた」「ぶた」……! いやー、実にシュールでインパクトのある画面です。他にも「ぞうのマラソン」など「えっ!」と驚くおかしさ。この絵本、おすすめです。
▼佐々木マキ『ぶたのたね』絵本館、1989年

ウィリアム・スタイグ『ザバジャバ ジャングル』

 今日は1冊。誰も入ったことがないという「サバジャバジャングル」。主人公の「レオナルド」は、不思議な動物や植物と出会ったり、いろんな危機を乗り越えて、先を進んでいきます。この絵本、まず設定がおもしろい。最初「レオナルド」は、どうして自分がジャングルにいるのか自分でも分からず、それでも「とにかく すすまなくちゃ!」ということでどんどん歩いていきます。物語の最後になってジャングルにいる理由が明らかになるのですが、いろいろ謎が残ります。説明があまりなくて、なんだか魔法をかけられたような感じ。それはまた、先に何が現れるかまったく分からない未踏のジャングルを進む「レオナルド」と同じ境遇で、おもしろいです。絵は、濃密なジャングルの草木の合間にいろいろ生き物が描き込まれていて、これも楽しい。カラフルな色合いで草木にまぎれているので、発見があります。うちの子どもは、怪獣の化石の「おしりのあな」に受けていました。好きだねえ。原書の刊行は1987年。
▼ウィリアム・スタイグ/おがわえつこ 訳『ザバジャバ ジャングル』セーラー出版、1989年

デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』

 ある日、学校の課外授業でニューヨークのエンパイア・ステートビルを訪れた男の子。展望台で小さなの雲の子と出会います。雲の子に載って空に飛び立った男の子がたどり着いたのは「セクター7」、ニューヨークの周辺地域にさまざまな雲を送り出し管理する空中浮遊施設。そこで巻き起こる騒動が描かれています。
 この絵本は、文字がなく絵のみ。そのため、絵を見ながら自分でストーリーと会話を考えて読み聞かせをしました。これがなかなかおもしろい。なにより絵がとても魅力的で、まるで一編の映画を見ているよう。文章を考えるのにも、まったく苦労しません。いろいろ細部を発見しながら読み聞かせに工夫することもできます。
 絵は、ふわふわ浮かぶ雲の描写も表情豊かで素晴らしいのですが、心引かれるのはやはり、タイトルにもなっている「セクター7」。お城のように巨大な空中浮遊施設で、そのメカニックな造形は、ハイテクというよりは、どことなく懐かしさを感じます。プロペラや風車、人力の大きなボード、職員たちはクリップにコルクボードで鉛筆を使い、古い型の受話器にスタンド、雲のスタイルが描かれた青写真の図面……。施設の内部は古いつくりの大きな駅を思い起こさせます。こういういわば人間(?)くさい部分が物語の楽しい結末にも生きているような気がします。
 カバーの著者紹介によると、ウィーズナーさんは、この絵本のために視界ゼロの日を選んでエンパイア・ステートビルを訪れたのだそうです。その日にビルの展望台にはウィーズナーさん一人だったとのこと。原書の刊行は1999年。この絵本、おすすめです。
▼デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』BL出版、2000年

クリス・ヴァン・オールズバーグ『ゆめのおはなし』

 今日は2冊。主人公の少年「ウォルター」が夢に見た未来の姿、それはかっこいい自分専用の飛行機もロボットも、食べたいものがボタン一つで出てくる機械もない、荒涼とした地球だったという物語。「ウォルター」が眠るベッドはそのまま未来へと飛んでいき、ごみに埋まったまちや薬品工場の巨大な煙突の上、エベレストの頂上に建つホテルのそば、渋滞でまったくクルマが進まない高速道路やスモッグで何も見えないグランドキャニオンに降り立ちます。未来の悲しい景色は文字のない見開き2ページいっぱいに描かれ、めくったあとのページに文章が付いているという作り。ページを戻りながら読んでいきました。ある意味、ディストピアが描かれているわけですが、絵そのものはむしろ静謐で美しいとすら言えます。だからこそ逆に恐ろしい未来が真に迫ってくるかもしれません。結末は一応ハッピーエンドになっています。ただ、ちょっと教育的すぎるかなあ。ディストピアにしても物語の結末にしても、少々類型的というか、少し抵抗を感じます。原書の刊行は1990年。
▼クリス・ヴァン・オールズバーグ/西郷容子 訳『ゆめのおはなし』徳間書店、1994年

チョン・スンガク『くらやみのくにからきたサプサリ』

 訳者の大竹さんの説明によると、「サプサリ」というのは、「鬼神を見つける狗(いぬ)」という意味の名前を持つ韓国固有のイヌだそうです。昔の韓国の人々は、サプサリの絵を家や蔵の門に貼って厄除けにしたとのこと。この絵本は、そのサプサリの由来を韓国の昔話をもとに描いたものです。天にある暗闇の国に火をもたらそうとする「火のいぬ」(のちのサプサリ)の神話。玄武、朱雀、青龍、白虎の四神も登場します。なにより絵が非常に美しい。大竹さんの説明にもありますが、基本的に五方色(赤・黒・白・青・黄)と金で描かれているのですが、鮮やかな色合いで圧倒的な迫力です。浮き彫りにした板(?)を布をおおい、そのあとで彩色してあるとのこと。たしかに画面が立体的に浮かび上がってくるよう。物語がはじまる前と後には、それぞれ見開き2ページを使い、くらやみの世界とひかりの世界が表現されていて、これも印象的です。原書の刊行は1994年。この絵本、おすすめです。
▼チョン・スンガク/大竹聖美 訳『くらやみのくにからきたサプサリ』アートン、2004