今日は1冊。「なんだったかな?」と動物園ではじめて見た「すてきな どうぶつ」を思い出そうとする絵本。カバでもない、ライオンでもない、ゾウでもない……とあれこれ思案して、最後にやっと思い出します。動物たちの太く黒い輪郭線には、他の色がずらして付加されており、隣り合ったり重なり合ったりした色が不思議な効果を生んでいます。色の付いた半透明のセロファンを重ねたような感じ、あるいはブラウン管の画像がゆれているような感じ。あと、とくに美しいと思ったのは、思い出そうとして目をぎゅっと閉じた画面と、そのあとページをめくって、ようやく思い出した動物がすっくと立っている画面。鮮烈な黒です。
今江さんの「新版/あとがき」によると、この絵本は、もともと1967年発行。このときは「カラー・ブック」という主旨で、12人の作家と画家がそれぞれの「色」を受け持って物語を考え絵をつけるという企画。今江さんと長さんのコンビは、誰も選ばなかった「黒」をやることになり、長さんはけっこう苦労されたようです。三歳児、四歳児、五歳児向きにという建前で3冊作り、その後、絶版になっていたのが理論社から一冊本として再刊。このとき長さんは絵をすべて新しく描いたそうです。で、それから15年たって、2002年にBL出版から一冊ずつ独立に復刊されることになったとのこと。今回は長さんが表紙をあらたに書き下ろしです。
うーむ、ロングセラーの一方ですぐに絶版になってしまうという絵本のきびしい出版状況がうかがえます。と同時に、時間がたっても変わらない絵本の強い生命力もまた感じ取れます。
▼今江祥智 文/長新太 絵『なんだったかな』BL出版、2002年
月別アーカイブ: 2004年8月
トミー・ウンゲラー『ラシーヌおじさんとふしぎな動物』
もと税金集めのお役人でいまは悠々自適に生活している「ラシーヌさん」、おいしい梨のなる庭の梨の木が自慢だったのですが、ある日、梨がきれいになくなっています。梨どろぼうをつかまえようと見張っていたところ、出会ったのが「ふしぎな動物」。この絵本では、「ラシーヌさん」とこの「ふしぎな動物」の交流が描かれていきます。
ちょうど仔牛くらいの大きさ。
遠くからみると、ボロ毛布の小山のようです。だらっと長い、くつしたみたいな耳が、目がついていそうもない顔の両がわで、パタパタしています。ごわごわのふといたてがみがはえていて、長い鼻を下にたらし、ふうふう息をしています。足は切り株みたいだし、ひざは乗馬ズボンみたいにだぶだぶ、うんともすんともいいません。
「ふしぎな動物」のあっと驚く正体は物語のラストで明らかになりますが、絵を見るかぎりではとにかく不気味。「ラシーヌさん」は楽しく付き合っているようですが、正直言って、あまり近くにいてほしくないタイプの動物です。でも、それがこの絵本のおもしろさですね。
あと、よく見ると、画面のあちこちに不穏なものがたくさん散りばめられています。実はスプラッター絵本かも。全体を通じて色遣いもなかなかエグいですし、ずぶずぶと深みにはまりそうなあやしい魅力に満ちています。原書の刊行は1971年。この絵本、おすすめです。
▼トミー・ウンゲラー/たむら りゅういち あそう くみ 訳『ラシーヌおじさんとふしぎな動物』評論社、1985年
赤羽末吉『おへそがえる・ごん 2 おにのさんぞく やっつけろの巻』
今日は2冊。昨日に続いてまたまた『おへそがえる・ごん』。この絵本では、第1巻と同じく、白と黒以外の色は緑と赤しか使われていません。しかし、これが非常に印象的。とくに山賊の頭の鬼は、なかなかの迫力です。最後の対決の場面では、タヌキの「ぽんた」とキツネの「こんた」が化けた化け物が鬼と戦うのですが、これがまたシンプルでありながら見開き2ページをいっぱいに使った描写で、しかも笑えます。うちの子どもも大受けしていました。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん 2 おにのさんぞく やっつけろの巻』福音館書店、1986年
赤羽末吉『おへそがえる・ごん 2 おにのさんぞく やっつけろの巻』
「おへそがえる・ごん」シリーズの第2巻です。図書館から借りてきました。通常とは違うところに保管されていたらしく、出してもらうのにも時間がかかりました。図書館の職員の方は「1986年の本でかなり古いので……」と言ってましたが、86年で古いということはないと思うのですが。
それはともかく、「おへそがえる・ごん」、第2巻も絶好調。今回は、子どもや女性をさらいお米やお金をうばっていく悪い山賊と対決します。いっしょに旅をする「ごん」、人間の子「けん」、手のあるへびの「どん」に加え、第1巻に登場したタヌキの「ぽんた」とキツネの「こんた」もまた登場し、みんなで力を合わせて山賊退治。前作同様、絵巻物のような趣で、ユーモラスな描写がてんこ盛り。うちの子どもにも受けていました。
今回すごいなあと思ったのは、山賊たちに捕まった「ごん」がおなかに空気を入れられて風船がえるにされ、空に飛ばされてしまうところ。残酷といえば残酷、「ごん」にとってもえらい災難なのですが、この描写がなんともおかしい。複数のページにわたって、「ごん」がひゅーっと空を飛んでいきます。風に流されてどんどん飛んでいき、だんだん「ごん」が遠く小さくなっていく画面のすごさ。なんだか気持ちよさそうにも見えてしまいます(^^;)。この絵本、おすすめです。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん 2 おにのさんぞく やっつけろの巻』福音館書店、1986年
野坂勇作『たこのえ いかのえ』
夏休み、お母さんといっしょに列車に乗っておばあちゃんの家からまちの家に帰る「みいちゃん」は、途中の海辺の駅で不思議な体験をします。海のなかから大きなタコとイカが現れ、「みいちゃん」の言うとおりに砂浜に絵を描き、どっちが絵がうまいか、「みいちゃん」に決めさせようとします。列車に乗っていた大人たちはみんな眠ってしまい、「みいちゃん」だけがタコとイカに出会うというのは、なんだか白昼夢。暗く描かれた列車の車内と明るい海辺の対比も印象的で、タコとイカが現れるとともに曇り空も晴れていきます。砂浜に描かれた絵は、何を描いても、タコはタコ、イカはイカになってしまうのですが、木の枝でなぞって描いた跡もおもしろく、波に洗われて消えて、そしてまた描くのは、遊びの楽しさが伝わってきます。
▼野坂勇作『たこのえ いかのえ』「こどものとも年中向き」1995年8月号(通巻113号)、福音館書店、1995年
直江みちる/今井俊『ペレのはなび』
今日は2冊。この絵本は、もう何十回も読んでいて、うちの子どものお気に入り。久しぶりに読みました。メキシコの小さな村に住む「ペレ」、花火職人のお父さんといっしょに隣村の秋祭りに行き、お父さんの仕事をはじめて手伝うという物語。「ペレ」はお祭りに気をとられて手伝いがおろそかになってしまい、仕掛け花火作りでは少し失敗してしまいます。その心の動きやお父さんの職人としての仕事ぶりなどが丹念に描き出されています。メキシコのお祭りの様子や日本とは違う仕掛け花火など、なかなか興味深いです。絵は、おそらく版画と思いますが、黒くがっちりとした輪郭に、かっと日に照らされて土のにおいのしてきそうな彩色。夕やみせまる村祭りの鮮やかな花火も美しいです。この絵本、おすすめです。
▼直江みちる 文/今井俊 絵『ペレのはなび』「こどものとも」1995年11月号(通巻476号)、福音館書店、1995年
赤羽末吉『おへそがえる・ごん ぽんこつやまの ぽんたと こんたの巻』
やはり、おもしろい。うちの子どももかなり気に入っています。今日も大受けしていました。
この絵本の特徴の一つは、擬態語がたくさん出てくるところ。たとえば「ぱくぱくぱく」「ふわふわふわ」「もくもく」など、フォントも他とは違っていて目立ちます。このたくさんの擬態語がリズミカルでおかしさを生んでいます。
ところで、主人公のかえるの「ごん」はふつうの人間なみの大きさで言葉もしゃべりますし、二本足で立っています。お化けがえるですね。で、「ごん」が人間のまちに行って闘鶏を見ていると、まわりの人間からこんなふうに言われます。
かえるのくせに、こんなところへ
くるとは なまいきだ。どけっ!
これに対して「ごん」は一言、
えばるな にんげん!
このセリフ、とても印象的。そうだよなあと妙に納得します。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん ぽんこつやまの ぽんたと こんたの巻』小学館、2001年
アンドレア・ユーレン『メアリー・スミス』
今日は2冊。この絵本はラストもなかなかユニーク。まちのみんなを起こす仕事を終えて、「メアリー・スミス」が家に帰ると、娘の「ローズ」が学校から家に帰されています。その理由を聞いた「メアリー・スミス」がどうするかが話のオチでおもしろいです。と同時に、いかに「メアリー・スミス」が自分の仕事を誇りに思っているかが伝わってくるようです。
▼アンドレア・ユーレン/千葉茂樹 訳『メアリー・スミス』光村教育図書、2004年
秋山とも子『ふくのゆのけいちゃん』
この絵本は、うちの子どもに絵本を読み始めてからの大のお気に入りで、何十回、いやもしかすると百回も二百回も読んでいます。文章を覚えてしまうくらいです。だいぶ長く読んでいなかったのですが、今日は久しぶりに読みたいとのこと。
タイトルのとおり、「ふくのゆ」という銭湯が舞台。5月5日の子どもの日に菖蒲湯をするのですが、その1日の様子がていねいに描写されています。ペンキ屋さんが1年に一度、お風呂場の絵を描き換えにやってきたり、廃材屋さんが薪にする木を持ってきたり、「けいちゃん」のお父さんとお母さんのいろいろな仕事も、銭湯を開ける前の準備からお客さんが帰ったあとのお風呂場の掃除に至るまで、一つ一つ描かれています。とくに家事や育児とお風呂やさんの仕事をうまく調整しながらやっている様子がそれとなく示唆されていて、興味深い。一口に仕事といっても、いろいろあるわけですね。お風呂でお客さんが菖蒲湯を楽しんでいるところもセリフの書き込みがおもしろいです。この絵本、おすすめです。
▼秋山とも子『ふくのゆのけいちゃん』「こどものとも」1993年5月号(通巻446号)、福音館書店、1993年
小林勇『あげは』
今日は2冊。この絵本は「かがくのとも傑作集」の1冊。アゲハチョウが卵から生まれ、幼虫、さなぎをへて成虫になり、そしてまた卵を生むまでが描かれています。精密な描写、またじっさいの大きさも示されており、アゲハチョウの生態がよく理解できます。うちの子どもは、幼虫がしばしば鳥に食べられてしまうことが気になっているようでした。著者の小林勇さんは、巻末の紹介によると、絵画性と科学性の高度な結合を考え理科美術を提唱し、1956年に日本理科美術協会を設立されたのだそうです。
▼小林勇『あげは』福音館書店、1972年