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野坂勇作『たこのえ いかのえ』

 夏休み、お母さんといっしょに列車に乗っておばあちゃんの家からまちの家に帰る「みいちゃん」は、途中の海辺の駅で不思議な体験をします。海のなかから大きなタコとイカが現れ、「みいちゃん」の言うとおりに砂浜に絵を描き、どっちが絵がうまいか、「みいちゃん」に決めさせようとします。列車に乗っていた大人たちはみんな眠ってしまい、「みいちゃん」だけがタコとイカに出会うというのは、なんだか白昼夢。暗く描かれた列車の車内と明るい海辺の対比も印象的で、タコとイカが現れるとともに曇り空も晴れていきます。砂浜に描かれた絵は、何を描いても、タコはタコ、イカはイカになってしまうのですが、木の枝でなぞって描いた跡もおもしろく、波に洗われて消えて、そしてまた描くのは、遊びの楽しさが伝わってきます。
▼野坂勇作『たこのえ いかのえ』「こどものとも年中向き」1995年8月号(通巻113号)、福音館書店、1995年