月別アーカイブ: 2004年2月

図書館のおはなし会

 今日は週に一度の図書館の日。いつも通り近くの公立図書館に行ってみると、偶然、おはなし会がおこなわれていました。私たちが図書館に着いたときがちょうどはじまるところ。子どもも「見てみたい」と言うので、いっしょに楽しんできました。

 以前にも何度か図書館のおはなし会に出てみたのですが、うちの子どもはすぐに途中で飽きてしまって、最後までいたためしがありませんでした。ところが、今日は、お話がおもしろかったのか、しまいまでずっと座ってお話を聞いていました。幼稚園でも絵本の読み聞かせをしているようなので、みんなでお話を聞くのに慣れてきたのかもしれません。

 おはなし会の内容は、絵本の読み聞かせ、おはなしの語り、紙芝居と盛りだくさん。とくにおもしろかったのは「エプロンシアター」。たくさんポケットのついたエプロンを付け、人形とそのポケットで物語を語るというものです。エプロンにはマジックテープがはってあり、人形などを貼り付けることができます。私ははじめて見たのですが、なかなかおもしろかったです。

 よほど楽しかったのか、うちの子どもは、幼児向けのおはなし会のあとに時間を空けておこなわれた小学生向けのおはなし会にも参加していました。私が目を離したすきに、いつのまにか一人でおはなし会の部屋に入り小学生向けのお話を聞いていて、びっくりしました。ついでに出席カードとシールまで余分にもらってきて、しかも、そのおはなし会で読み聞かせをした絵本までちゃっかり借りてきていました。

 ところで、今日のおはなし会、参加者はやはり子ども連れのお母さんがほとんどで、お父さんは私を含めて2人だけでした。ちょっと残念。図書館の絵本コーナーでもお父さんは少数派ですし、お母さんの参加者が多いおはなし会の部屋にはなかなか入りづらいところです。

 でも、今回、最初から最後まで参加してみて、おはなし会はなかなかよいなあと思いました。担当の方の実演を見ていると、絵本の読み聞かせの仕方とか、参考になります。おはなし会の出席カードももらいましたし、機会があったら今後も出てみようと思いました。

 お父さんにもっと参加してもらうには、おはなし会での絵本や紙芝居の読み聞かせに男性も加わるといいかもしれないですね。内容もバラエティに富んでくるし、子どもたちにとってもおもしろいのではないでしょうか。

 というか、図書館のおはなし会は、もう少し展開の可能性があるような気もします。おはなし会は女性(お母さん)がするもの(参加するもの)みたいな先入観を一度壊してみてはどうでしょう。女性(お母さん)だけでなく、男性(お父さん)、さらには少し前まで子どもだった高校生や大学生、あるいはお年寄り……、老若男女、性別・年齢を問わずいろんな方が絵本や紙芝居の読み聞かせをしたら、すごくおもしろくて楽しくなると思うのです。さまざまな人生経験のある方(ない方)がそれぞれの解釈で読み聞かせをやってみる、それは子どもたちにとって有意義であるのみならず、読み聞かせをする方にとっても得るものが多いと思います。そういう場があると、広く絵本をめぐる状況もかなり変わってくるような気がします。

スズキコージ『きゅうりさん あぶないよ』

 てくてく歩いていく「きゅうりさん」、クマやシカ、ハリネズミにヤマネコにウシ、イヌにニワトリにカラスにヤギと、いろんな動物から声をかけられます。

きゅうりさん
そっちへいったら あぶないよ
ねずみがでるから

 ところが「きょうりさん」はぜんぜん気にしません。声をかけた動物たちからあれこれものをもらって、どんどん歩いていきます。クマからは帽子、シカからは角と手袋、ハリネズミからはベルトとハリ、ヤマネコからはリュックといった具合で、だんだんすごい格好になっていきます。

 そして、ついに「ねずみ」に出会うのですが、「あぶない」のは「ねずみ」の方なんですね。「きゅうりさん」に出会うと「ねずみ」は「あぶない!!」と大声を上げます。逃げる「ねずみ」を「きゅうりさん」が追いかけているところがラスト。

 この絵本、なんとも不思議なストーリーで、あれこれ謎があって、想像力が刺激されます。

 たとえば「きゅうりさん」は動物たちからいろんなものをもらうのですが、これは本当にもらったんだろうか、それとも奪ったんだろうか? というのも、もらうのは、モノだけでなく、シカの角とかハリネズミのハリとかヤギの髭もあるんです。実は「きゅうりさん」、あんなにやさしそうな顔をしていてとても乱暴だったりとか……

 また、一番の不思議は裏表紙。裏表紙には、大きな銅像の「きゅうりさん」を人びとが見上げている様子が描かれています。銅像の台座には「ORYPEU」と彫られているのですが、これは何語なんだろう? 意味は分かりません。本文には動物しか登場しないので、裏表紙にふつうの人間が出てくるのはちょっと謎です。

 そしてまた「きゅうりさん」が銅像になっているのもなんだか意味深です。もしかして「ねずみ」はとっても悪いやつで、それを「きゅうりさん」が退治したってことかなあと思いました。なんといってもこの「ねずみ」、白いスーツに毛皮を着込み、運転手付きのクルマにのっているみたいなのです。うーん、なんかワルっぽいような気がしてきます。

 そんなわけで、この絵本、同じセリフが繰り返され、文章の説明がまったくないのですが、そうだからこそ、いろいろ想像して楽しめます。

 絵は見開き2ページをいっぱいに使い、どぎつくど派手な色づかい。あやしい雰囲気に満ちています。最初は手足がひょろひょろでやせっぽちの「きゅうりさん」、少しずついろんなモノを身につけ、ページをめくるごとにどんどん姿を変えていくのが、おもしろいです。

 読み聞かせのときは、動物たちの同じセリフを、高い声や低い声、しゃがれ声やくぐもった声など、声音を変えて読んでみたら、うちの子どもは大喜びしていました。同じセリフの繰り返しでも、繰り返しそのものがリズムになっておもしろいし、いろいろ工夫できて楽しめます。

▼スズキコージ『きゅうりさん あぶないよ』福音館書店、1998年

いとうひろしさん関連のウェブサイト

 先日紹介した『どろんこ どろちゃん』の作者、いとうひろしさん関連のウェブサイトです。

 まず、絵本の出版社、絵本館作家紹介

 絵本館で絵本を出されている作家さんが紹介されており、そのなかに、いとうさんご自身のエッセーが掲載されています。原っぱで手にしたバッタの足から絵本が語られていて、おもしろいです。

絵本も同じです。自分の心をひらくきっかけにすぎません。絵本にかいてあることなんてどうでもいいんです。その先が絵本の楽しみ、おもしろさだと思います。

 絵本をきっかけにして心が開かれる、これは子どもだけではなく大人にも当てはまるかもしれませんね。

 続いて、同じく絵本館が書店向けに不定期に発行している絵本館通信「絵本はごちそう」Vol.4(2000.秋号)のなかの「きいてきいてコラム●いとうひろし」。これは、毎回、絵本作家の方にいろいろ質問して答えていただくコーナーのようです。

 いとうさんには、好きな季節、子どものときに大好きだった遊び、好きな食べ物、好きな作家や画家など、10この質問が出されています。好きな絵本も挙げられているので、そのうち読んでみようかなと思いました。桜を背景にしたいとうさんの写真も付いていました。

 とくにおもしろかった回答を2つ引用します。

3.歳をとったら、どんなおじいさんになりたいですか?
 すっごくいじ悪でヘンクツで回りの大人からはきらわれるのに、一部の子どもには、妙に好かれる変なおじいさん。
6.最近、思わずふきだしてしまった出来事は?
  5歳の息子とおふろに入っていました。彼はせっけんのついたスポンジで体をあらっています。「もっとごしごしとおしりもちゃんと洗って」と私。すると彼。「あっ! おしりの穴にせっけんのあわが入っちゃった。でも、いいか。これで、うんちもきれいになるしね」

 この絵本館通信「絵本はごちそう」は、他にもおもしろい記事がいっぱいあって、おすすめです。

 最後に、三井グループの三井広報委員会が発行している『三井グラフ』Volume130 JANUARY-MARCH 2003。特集が「絵本の楽しみ」で、そのなかの記事「この絵本が好き! 絵本のプロが自分のために選んだ5冊」にいとうさんも寄稿されています。

 いとうさんが選んだ5冊は次のとおり。これらも、そのうち読んでみようかなと思いました。

  • 『きょうりゅうきょうりゅう』バイロン・バートン
  • 『ピッツァぼうや』ウィリアム・スタイグ
  • 『ベントリー・ビーバーのものがたり』マージョリー・W・シャーマット/リリアン・ホーバン
  • 『ゼラルダと人喰い鬼』トミー・ウンゲラー
  • 『アルド・わたしだけのひみつのともだち』ジョン・バーニンガム

 この『三井グラフ』Volume130 は、いとうさんの他に、内田麟太郎さん、西村繁男さん、長野ヒデ子さん、石津ちひろさんといった作家の方や、子どもの本専門店メルヘンハウスの三輪 哲さん、たんぽぽ館の小松崎辰子さんが、5冊の絵本を選んでエッセーを寄稿されています。他には、赤木かん子さんのエッセーとおすすめ絵本の紹介、読み聞かせについての記事もあり、なかなか充実しています。こちらもおすすめです。

木村裕一/あべ弘士『あらしのよるに』

 あらためて説明する必要もない超有名シリーズの第一作目。うちの子どもにはまだ難しいかなとも思ったのですが、図書館から借りて読み聞かせをしました。けっこうおもしろかったようです。

 荒れ狂う嵐の夜、ヤギとオオカミが小さな小屋でいっしょになります。暗闇でしかも2匹とも風邪をひいていて匂いが分からず、相手がオオカミ/ヤギであることに気が付きません。そのためもあって、(誤解しながら)なぜか話が合ってしまい、互いに意気投合します。

「なんか、わたしたちって、にてると、おもいません?」
「いよっ、じつは おいらも いま、きが あうなあ~って。」
「そうだ。どうです、こんど てんきの いいひに
おしょくじでも。」
「いいっすねえ。ひどい あらしで さいあくの
よるだと おもってたんすけど、
いい ともだちに であって、こいつは
さいこうの よるかも しんねえす。」

 というわけで、次の日のお昼に小屋の前で待ち合わせをすることにして2匹は別れます。合い言葉は「あらしの よるに」。

あくるひ、この おかの したで、なにが おこるのか。
このはの しずくを きらめかせ、ちょっぴりと かおを
だしてきた あさひにも、そんなこと、わかる はずも ない。

 これがラスト。読み聞かせが終わると、うちの子どもはとたんに「えーっ、続きは? 続きは? 続きはないの?」と聞いてきました。続きがあることを教えると「読みたい! 読みたい!」とせがんできました。うん、うん、私も読みたい。

 実は私もこのシリーズははじめて読むので、このあとどんなふうにストーリーが展開するのか、まったく知りません。というわけで、来週以降、子どもといっしょにシリーズの続編を順々に読んでいこうと思います。

 で、この第一作目についてですが、まず、読み聞かせのしがいのある絵本だなあと思いました。というのは、ヤギとオオカミでセリフの口調がはっきりと違うんですね。どちらかというとヤギはていねいな口調で、これに対し、オオカミは少しくずれた感じの口調になっています。だから、読み聞かせのときも、このセリフの表現の違いに合わせて、(ヤギは少し高い声でオオカミは逆に低い声にするとか)声音を工夫できます。子どもにとっても、内容上少しむずかしいところがあっても、口調と声音の違いは分かりやすいし、楽しめるのではないでしょうか。

 絵は黒を基調としており、暗闇での出会いを印象深く描写しています。モノクロページもありました。基本的にどのページも、見開きの右ページにヤギ、左ページにオオカミを配置し、まんなかに文章がおかれていて、この文章の部分がヤギの絵とオオカミの絵を分断しています。これは、ヤギとオオカミの楽しい(?)会話と、でも両者が本当のことを知らない様子をあざやかに表しているような気がします。

 また、ストーリーと密接に結びつき、絵もとてもスリリングな展開になっています。たとえば、最初の見開きページ、文章では嵐のなかヤギが小屋にたどりついたことだけが書かれているのですが、絵では左ページのはじにオオカミの姿がすで描かれています。ここのオオカミは暖色系の色になっており、その上空の雨もまた暖色系でちょっと見たところでは(文章にオオカミが出てこないこともあり)オオカミの存在には気が付かなかったりします。私も最初、見落としました。

 そして、オオカミが小屋に入ってくる場面では、最初はオオカミが使っている杖だけ、ページをめくるとオオカミの足と口、さらにめくった次のページでついにオオカミの顔が現れるようになっています。文章のなかでも、オオカミの顔が出てくるのと同時にオオカミという言葉がはじめて使われており、なかなかスリリングです。

 それから、先にふれた、見開き2ページでヤギとオオカミの絵が分断されていることですが、一つの絵のなかにヤギとオオカミがいっしょに描かれるのは4回だけかと思います。そのうちの3回は、オオカミの足がヤギの腰にあたったり、稲妻の光で小屋のなかが昼間のように明るくなったり、雷の音で2匹が体を寄せ合ったりと、互いの正体を知ってしまうかもしれない緊迫した場面です。4回目は、結局互いの正体を知らずに2匹が左右に別れていく場面です。

 この絵の構成は、ヤギとオオカミの間の気づきそうで気づかない会話の妙とともに、物語のスリルを高めていると思いました。

 ともあれ、この絵本、続きが本当に楽しみです。なるべく続編の情報をインプットしないで、できるだけ真っさらなまま子どもといっしょに読んでいこうと思います。

▼木村裕一 作/あべ弘士 絵『あらしのよるに』講談社、1994年

つちだのぶこ『カリカリのぼうしやさん』

 この絵本の主人公、「カリカリさん」はハリネズミの帽子屋さんです。お店の帽子はみんな手作りでとても人気があり、いつもお客さんがいっぱい。そんなある日の真夜中のこと、「カリカリさん」がふとんに入ってうとうとしていると、なんと三日月のお月さまが訪ねてきました。

「ふゆのよるは、とてもさむいの。
あったかいぼうしを つくってくれないかしら」
と、おつきさま。

 そこで、「カリカリさん」はお月さまのサイズを測り、帽子づくりに取りかかるのですが、三日月だったお月さまはどんどん太っていきます。いったん完成した帽子も小さくて合いません。困ってしまった「カリカリさん」は、お月さまが太ってもやせても大丈夫な帽子を考えます。

 この絵本、まずはディテールがとてもおもしろい。お店のなかには、いろんな形と色の帽子や手袋があり、毛糸やアクセサリーも売られているようです。なかには、「ムカデのくつした」(18個で1足!)なんてものまであって、なかなかにぎやかで楽しい雰囲気です。

 また、「カリカリさん」は頭のかたちがどんなお客さまでもぴったりの帽子を作ってくれるのですが、たとえばうさぎさんはその長い耳を石こう(?)で型どりしたり、トナカイさんには横になってもらって角のかたちを紙に写したりと、いろいろ工夫している様子がユーモラスに描かれています。じっさいどんな帽子が完成したのかは、うしろの方のページで見ることができます。

 それから、いろんな小物がたくさん描き込まれています。頭のかたちやサイズを記したノート、ベッド脇の机に置いてあるスケッチブック、壁には帽子のデザイン画が貼ってあります。いろんな色や模様の生地、たくさんの毛糸玉、型紙や編み棒や裁縫道具、筆記具やハサミやメジャーや定規など、じっさいに帽子を作るための材料や道具もいっぱい出てきて、他にも、帽子を入れる箱やデザインの文献、仕上がり日を記したノートまであります。こういったたくさんの小物は、「カリカリさん」が充実して働いていることをリアルに物語っているように思います。

 そして、「カリカリさん」が楽しく働きながら、同時に困ったり嘆いたり文句を言ったりしているところもおもしろい。つちださんの他の絵本と同じく、この絵本でも、印刷された文章以外に手書きのセリフがいっぱい書かれていて、たとえば「なんだか いそがしいねぇ」「んまっ、もうねなくちゃね」「はかるのが たいへんだわ、こりゃ」「もう、なんで まいにち ふとるのっ?!」「ハァ たいへんだ こりゃ」とか出てきます。

 働くことを描いた絵本(仕事絵本)はたくさんありますが、たいてい、自分の仕事にいっしょうけんめい真面目に取り組む姿を描いたものがほとんどと思います。でも、ただもくもくと働くなんてことは現実にはあまりないわけで、いろいろ問題にぶつかって「いやんなるよなあ」とか「やってられないよー」と愚痴や文句を言いながら仕事をするのが普通でしょう。その点からすると、この絵本は、従来の仕事絵本の枠をちょっとだけ越えているような気がします。

 キャラクターもストーリーも基本的にはファンタジーなのですが、いっしょうけんめい働いていろんな問題にぶつかり、それに文句を言いながら最後にはいい仕事をする、そんなことが描き出されているように思いました。

 この『カリカリのぼうしやさん』は、つちださんの第一作目の絵本。ところが、非常に残念なことに、現在、出版社に在庫がなく購入することができません。偕成社のウェブサイトでそのように表示されていました。私はこの絵本をはじめ図書館で見つけたのですが、とてもよかったのでぜひ購入したいと思ったときにはすでに在庫なしになっていました。どうしてこんなに楽しい絵本が手に入れられないのか、なんだか悔しいです。この絵本は1998年刊行ですから、そんなに古い絵本でもないのです。

 最近は、つちださんも、斎藤孝さんが文を担当した『おっと合点承知之助』で広く注目されているように思います。この機会にぜひ『カリカリのぼうしやさん』を(そしてシリーズ続編の『マニマニのおやすみやさん』も)復刊してほしいです。

▼つちだのぶこ『カリカリのぼうしやさん』偕成社、1998年

片山健『タンゲくん』

 ある日の晩ご飯のとき、小学生の「わたし」の家にのっそりと入ってきた一匹のネコ。それが「タンゲくん」です。この絵本では、その「タンゲくん」と「わたし」のかかわりあいが描かれています。

 この絵本で魅力的なのは、なにより「タンゲくん」のたたずまい。

 絵本に登場するネコというと、きれいで人なつこくてかわいいネコを思い浮かべるもしれませんが、「タンゲくん」はまったく正反対。表紙と裏表紙で一枚の絵になった「タンゲくん」をみても、世間一般で言うところのかわいさとは無縁です。名前のとおり、左目は大きな傷跡でつぶれていて片目、右目でぎょろりにらんでいます。毛並みもぼさぼさで、トカゲやバッタや気味の悪い虫を取ってきては「わたしたち」を驚かせます。お世辞にもきれいとは言えません。

 しかも、人にこびるところがありません。「タンゲくん」は一応「わたし」の家のネコになるのですが、でも完全に飼い猫になるわけではありません。たとえばこんな感じ。

わたしは タンゲくんが だいすきです。
だから わたしは いいます。
「タンゲくんは わたしのねこだよね」
でも そんなとき、タンゲくんは「カ、カ、」と
へんなこえで ないて、すっと そとへ でていって
しまいます。

 「わたし」が外で「タンゲくん」に会っても、「タンゲくん」は知らんぷりしたり隠れたりします。声をかけても、他のネコといっしょにどこかに逃げてしまいます。

 そんな「タンゲくん」ですが、どこかにくめないんですね。まちでネコのケンカの声がすると、「わたし」は「タンゲくん」じゃないかなと心配になります。夜になると「タンゲくん」は家に帰ってきて「わたし」の上でまるくなります。「わたし」は「タンゲくん」を起こさないように、いつまでもじっとしているのです。

 この「タンゲくん」と「わたし」の関係は、適度な距離がありながら、しかし深いところで通じ合っているようで、魅力的です。ベタベタしているだけより風通しがよくて、こういう関係が絵本のなかに描かれるのは、子どもにとっても(大人にとっても)けっこう大事なんじゃないかなと思いました。

 また、そもそもネコは(野良ネコならなおさら)そんなに人なつこくないのが普通と思います。だから、へんにかわいく描かれたネコより、この絵本の「タンゲくん」の方がよほどリアルに感じます。

 もう一つ、この絵本で気になったのが、「わたし」のお父さんとお母さん。この二人の関係もなかなか良いです。細かなところですが、たとえば、晩ご飯の場面でお父さんがお母さんにビールをついでいたり、別の場面ではお父さんが台所に立って炊事か晩ご飯の後かたづけをしている姿が描かれています。これらは物語の背景にすぎず、さりげない描写なのですが、「わたし」の家族の居心地のよさが伝わってきます。こんなお父さんとお母さんだからこそ、「タンゲくん」がはじめて家にやってきたときも何も言わずに受け容れたんじゃないかなと思いました。

 絵はあざやかな水彩で、まずは「タンゲくん」がど迫力です。また、「わたし」が「タンゲくん」のことを心配したり気にかけたりする様子が繊細に描き出されていて、その気持ちの動きがよく伝わってきます。

▼片山健『タンゲくん』福音館書店、1992年

いとうひろし『どろんこ どろちゃん』

 子どもは土いじりが好きですね。私の子どももそうで、砂場遊びとかけっこう好きです。でも、近くの公園(というほどのものでもないですが)の砂場は、カンとかビンとかプラスチックのかけらとか、いろいろゴミが捨てられていて、あまり安心して遊べません。幼稚園では存分に土いじりを楽しんでいるようですが。

 この絵本、そんな土いじり、どろんこ遊びの楽しさを描いています。といっても、登場人物(?)は子どもではなく、どろんこの「どろちゃん」、つまり、どろそのものです。頭も手足もあって、眼と鼻と口、それからボタン(?)のようなものも付いていますが、すべてがどろで出来ていて、全身どろ色です。

 まず、「どろちゃん」の作り方。

ぼくの つくりかたは かんたんだよ。
つちを コップに 5はい。
みずを コップに 2はい。
よく かきまぜて、
よく こねて。
はい、できあがり。

 この文章の付いている絵では、「どろちゃん」自身がどろの入った容器のなかに立って自分でかき混ぜています。よく考えてみると、なかなかシュールな絵柄です。

 どろんこ遊びでは、もちろん、土と水のバランスが大事。水が少なすぎても多すぎても、うまく「どろちゃん」はできません。そのあたりをこの絵本では、筆(?)のタッチの違いで印象的に表現しています。土が固すぎてぽろぽろの「どろちゃん」はザラザラしたタッチで描かれ、逆に水分が多すぎてべちゃべちゃの「どろちゃん」は水をたっぷり含ませてぺったりと描かれています。

 どろんこを落としたり投げたりしてドカーンと爆発する様子や、足でけってピュッピュッとどろはねする様子も、「どろちゃん」のアクションと筆使いで表されていて、これもおもしろい。

 そして、どろんこ遊びの一番の楽しみといえば、どろ団子。この絵本は、「どろちゃん」がころころ転がってどろ団子になり、それを子どもの手が上からつかもうとするところで終わります。このラストからは、「さあ、どろんこ遊びを楽しもう!」という誘いのメッセージがよく伝わってきます。

 あと、この絵本ですごいなと思ったのは、どうやら指を使って描かれているところです。全部かどうかはちょっと分かりませんが、画面のあちこちに作者のいとうさんの指紋が付いています。表紙・裏表紙の見返しは、いとうさんの指紋だらけ。絵の具(もしかして本物のどろだったりして?)を指に直接つけて、真っ白い画面に「どろちゃん」を描いていく、これ自体、一種のどろんこ遊びかなと思いました。まさにどろんこ遊びのように、楽しんでこの絵本は描かれたのかもしれませんね。

 カバーにはいとうさんからのメッセージがありました。引用します。

どろんこ あそびは
たのしいね
ぎゅっと にぎれば
ゆびの あいだを
どろんこが どろどろ
きみも どろんこあそびを
やってみよう
きっと どろちゃんと
ともだちに なれるよ

▼いとうひろし『どろんこ どろちゃん』ポプラ社、2003年

いちかわなつこ『リュックのおしごと』

 実は私、子どものころパン屋さんになりたいと思っていた時期がありました。パン屋さんのあのにおいがとても好きだったのです。もはや、こんなオヤジには似合わない話ですが(笑)。

 そんなわけで(どんなわけ?)、この絵本の舞台はパン屋さん。リュックは、「まちいちばん おいしい パンを つくる」ジーナの飼っている黒いぬです。この絵本では、ジーナとリュックが朝おきて、パンを焼き、お店を開けるまでの様子が描かれています。

 タイトルで「おしごと」といっているのは、お店をあけるまでにリュックもいろんな「しごと」をするからです。ねぼすけのジーナを起こしたり、開店前のショーウインドーのチェックに、焼きたてパンの味見、やってきたお客さんのお出迎えと大活躍します。

 このリュックがとにかくかわいい。ぱたぱたとしっぽをふったり、ちょっとした仕草もよいです。焼きたてパンの味見のシーンでは、

ばりばり。むしゃむしゃ。
ああ、なんて しあわせな しごと!

なんて文章がついています。食べているリュックの表情をみていると、なんだかうらやましくなります。

 それから、この絵本では、パン屋さんの開店前の仕事が割と具体的に描かれていて、これもおもしろいです。ジーナの得意なシナモンロールについては、材料を混ぜるところから焼き上がるまで、一つ一つのステップが詳しく描写されています。このあたりは、子どもにとって(また大人にとっても)興味が引かれるところと思います。

 また、ジーナのお店では、パン職人のトマや接客のアンも働いていて、みんなで仕事を分担し協力して店を運営している様子がうかがえます。

 絵は、とてもあたたかみのある色調で、まちがだんだん明るくなって色合いが変化するところも丁寧に描かれています。焼き上がったパンを並べたお店の様子は、本当にパンの香りが広がってきそうです。描かれているパンは種類も豊富で、どれもとてもおいしそう。絵を見ているとパンが食べたくなってきます。

 店内をよーく見ると、たなのすみに「ジーナつうしん No.12」というチラシがかかっていて、リュックのイラストも付いています。工房ではパンを作るための機械や道具もきちんと描き込まれ、壁には手を消毒するためのアルコールも置いてあって、こういう細部の描写も魅力的。

 また、表紙と裏表紙の見返しには、シナモンロールをはじめとして、いろんなパンのイラストもあって、これも楽しい。

 私はこの絵本、かなり好きです。うちの子どもも読み聞かせを楽しんでいました。けれども、どうしても気になることが一つだけあります。それは、お話の舞台についてです。

 この絵本の舞台は、まちなみや登場人物をみるかぎり、日本ではありません。そういえば、ジーナの寝室にはイタリアの暖房器具デロンギがあって、机の上には映画『アメリ』のCDかDVD、壁にはトリュフォー監督の映画『突然炎のごとく』のポスターが貼ってあります。

 ところが、工房に貼ってあるメモや容器のラベルはほとんどが日本語、お店で売られているパンの値札もすべて日本語。そのなかに「カレーパン」もあったのですが、(間違いかもしれませんが)「カレーパン」なんて日本にしかないような気がします。しかも、ジーナの本棚には「えいわじてん」「こくごじてん」「わえいじてん」まで揃っています。

 ここは外国なんだろうか、それとも日本なんだろうか、もしかしてジーナは実は日本人で外国のまちでパン屋さんを開いているという設定なんだろうか、と?マークが浮かんできます。

 作者紹介によると、いちかわさんは、日本のパン屋さんでアルバイトをされていたとのこと。であれば日本を舞台にして描かれてもよいような気がします。なぜヨーロッパならヨーロッパ、日本なら日本と舞台を統一しないのか、ちょっと不思議です。

 もちろん、字が読めない子どもからすると、そんなに気にする必要はないかもしれません。また、パンの値札とかは日本語の方が親しみやすいことはたしかです。でも、読み聞かせのとき子どもに聞かれたらなんとも答えようながないなあと思いました。

 そんなに気にする必要はないんでしょうが、ただ、この絵本では朝のパン屋さんの様子が割と具体的でリアルに描かれていて、だから上記のようなことが特に目立つのかもしれませんね。

▼いちかわなつこ『リュックのおしごと』ポプラ社、2002年

『絵本の素』

 インターネットをさまよっていたら、おもしろいものを見つけました。
 個性的な絵本を出版されているビリケン出版から昨年(2003年)の12月に刊行された『絵本の素』です。

 案内文を引用します。

この本は「ビリケン出版」から出ている絵本と同じサイズ、同じページ数です。
表紙、見返し、扉と続き いよいよ本編のはじまりです。ルールは 何もありません。
さあ まっ白な世界に はじめの一歩を踏み出しましょう。

 これ、表紙も裏表紙も見返しも本文も何も描かれていない真っ白い絵本です。つまり、表紙からはじまってすべて自分だけの手作り絵本を作ることができるわけです。

 子どもといっしょに絵本を描いてみたりとか、楽しい使い方がいろいろ考えられそうです。上製本(サイズは260×220㎜)で全部で32ページあるので、かなり本格的な絵本作りもできますね。絵本に関するサークルや学校や図書館などのワークショップで使ってみてもいいかもしれません。

 ちょっと思ったのですが、何も描かないまま持っていても、なんだか楽しそうな気がします。真っ白い絵本をぱらぱらめくってみる、まだこの世にない絵本を想像してみる、それ自体が楽しいかもです。

 あるいは、この白い絵本をじっさいの描かれた絵本を比べてみることで、絵本の表現の技法をあれこれ考えられそうな気もします。

 この絵本、帯はついていて、スズキコージさんが帯のタイトル字と絵を描かれています。サイトの写真をよーくみると、帯の右下には「オンリーワン・アート・ブック」の文字があります。なるほどなーって感じです。

 サイトのニュース記事では、「素敵なのが出来たら見せて下さい? 楽しみにしています」とも書かれていました。本当に受け付けるのかな? もしかして、この『絵本の素』をきっかけに新人絵本作家さんが生まれたりするかもしれませんね。こういう遊び心あふれる企画、なんか、いいです。

▼『絵本の素』ビリケン出版、2003年

長 新太『絵本画家の日記2』

 先日の記事に引き続いて、長 新太さんの『絵本画家の日記2』です。絵本ジャーナル『Pee Boo』10号から30号(1992年10月から1998年11月)に掲載されたものを加筆・再構成されたとのこと。

 この本は2003年刊行。『絵本画家の日記』が1994年刊行ですから、ほぼ10年ぶりに続編が公刊されたことになります。『絵本画家の日記』と比べて本の大きさがひとまわり小さくなり、なかの紙質も少し違うようです。カラーページはありません。前作と同じく、1ページに1日ずつ、長さんの手書きの文章とイラストが載っています。

 絵本をめぐる状況へのユーモアあふれる、しかし鋭い舌鋒はこの本でも変わりありません。たとえば

○月○日。ふつうの画家や、イラストレーター、漫画家など、つきあいはあるが、みんな絵本のことはよく知らない。おそらく、絵本を手にしたこともないだろう。彼らの頭にあるのは大昔の絵本だ。「そんな仕事、やめなさいよ」と言うイラストレーターもいる。さみしい1日。

○月○日。生真面目というのも困りものだ。良識派を自認しているから、正々堂々としている。児童書の選択なども、コンクリートで出来たようなものばかりえらぶ。たまに悪口も書きたくなるよ。「ナンセンスに感動がありますか?」なんて詰問する。あるのでゴジャリマスヨーダ。

○月○日。「質はともかく、売れるものをつくるのが、いい編集者ですよ」と、ある編集者が言う。「質はともかく、売れるものを描くのが、いい絵本作家ですよ」と、ある絵本作家が言う。「質なんかわかりません。売れてるものを買うのが、わたしたちです」と、ある母親が言う。

 消費者である私たち自身が問われているような気がします。

 と同時に、前作以上に、長さんの日常や身のまわりの出来事に対する独特のコメント、夢かうつつか分からない不思議な記述もいっぱいあって、とてもおもしろかったです。

 ただ、なんとなく老いや死を意識したところがあり、それもまたユーモアを含んでひょうひょうとしているのですが、少しさみしい気持ちになりました。

▼長 新太『絵本画家の日記2』BL出版、2003年、定価(本体 1,000円+税)