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つちだのぶこ『カリカリのぼうしやさん』

 この絵本の主人公、「カリカリさん」はハリネズミの帽子屋さんです。お店の帽子はみんな手作りでとても人気があり、いつもお客さんがいっぱい。そんなある日の真夜中のこと、「カリカリさん」がふとんに入ってうとうとしていると、なんと三日月のお月さまが訪ねてきました。

「ふゆのよるは、とてもさむいの。
あったかいぼうしを つくってくれないかしら」
と、おつきさま。

 そこで、「カリカリさん」はお月さまのサイズを測り、帽子づくりに取りかかるのですが、三日月だったお月さまはどんどん太っていきます。いったん完成した帽子も小さくて合いません。困ってしまった「カリカリさん」は、お月さまが太ってもやせても大丈夫な帽子を考えます。

 この絵本、まずはディテールがとてもおもしろい。お店のなかには、いろんな形と色の帽子や手袋があり、毛糸やアクセサリーも売られているようです。なかには、「ムカデのくつした」(18個で1足!)なんてものまであって、なかなかにぎやかで楽しい雰囲気です。

 また、「カリカリさん」は頭のかたちがどんなお客さまでもぴったりの帽子を作ってくれるのですが、たとえばうさぎさんはその長い耳を石こう(?)で型どりしたり、トナカイさんには横になってもらって角のかたちを紙に写したりと、いろいろ工夫している様子がユーモラスに描かれています。じっさいどんな帽子が完成したのかは、うしろの方のページで見ることができます。

 それから、いろんな小物がたくさん描き込まれています。頭のかたちやサイズを記したノート、ベッド脇の机に置いてあるスケッチブック、壁には帽子のデザイン画が貼ってあります。いろんな色や模様の生地、たくさんの毛糸玉、型紙や編み棒や裁縫道具、筆記具やハサミやメジャーや定規など、じっさいに帽子を作るための材料や道具もいっぱい出てきて、他にも、帽子を入れる箱やデザインの文献、仕上がり日を記したノートまであります。こういったたくさんの小物は、「カリカリさん」が充実して働いていることをリアルに物語っているように思います。

 そして、「カリカリさん」が楽しく働きながら、同時に困ったり嘆いたり文句を言ったりしているところもおもしろい。つちださんの他の絵本と同じく、この絵本でも、印刷された文章以外に手書きのセリフがいっぱい書かれていて、たとえば「なんだか いそがしいねぇ」「んまっ、もうねなくちゃね」「はかるのが たいへんだわ、こりゃ」「もう、なんで まいにち ふとるのっ?!」「ハァ たいへんだ こりゃ」とか出てきます。

 働くことを描いた絵本(仕事絵本)はたくさんありますが、たいてい、自分の仕事にいっしょうけんめい真面目に取り組む姿を描いたものがほとんどと思います。でも、ただもくもくと働くなんてことは現実にはあまりないわけで、いろいろ問題にぶつかって「いやんなるよなあ」とか「やってられないよー」と愚痴や文句を言いながら仕事をするのが普通でしょう。その点からすると、この絵本は、従来の仕事絵本の枠をちょっとだけ越えているような気がします。

 キャラクターもストーリーも基本的にはファンタジーなのですが、いっしょうけんめい働いていろんな問題にぶつかり、それに文句を言いながら最後にはいい仕事をする、そんなことが描き出されているように思いました。

 この『カリカリのぼうしやさん』は、つちださんの第一作目の絵本。ところが、非常に残念なことに、現在、出版社に在庫がなく購入することができません。偕成社のウェブサイトでそのように表示されていました。私はこの絵本をはじめ図書館で見つけたのですが、とてもよかったのでぜひ購入したいと思ったときにはすでに在庫なしになっていました。どうしてこんなに楽しい絵本が手に入れられないのか、なんだか悔しいです。この絵本は1998年刊行ですから、そんなに古い絵本でもないのです。

 最近は、つちださんも、斎藤孝さんが文を担当した『おっと合点承知之助』で広く注目されているように思います。この機会にぜひ『カリカリのぼうしやさん』を(そしてシリーズ続編の『マニマニのおやすみやさん』も)復刊してほしいです。

▼つちだのぶこ『カリカリのぼうしやさん』偕成社、1998年