子どもは土いじりが好きですね。私の子どももそうで、砂場遊びとかけっこう好きです。でも、近くの公園(というほどのものでもないですが)の砂場は、カンとかビンとかプラスチックのかけらとか、いろいろゴミが捨てられていて、あまり安心して遊べません。幼稚園では存分に土いじりを楽しんでいるようですが。
この絵本、そんな土いじり、どろんこ遊びの楽しさを描いています。といっても、登場人物(?)は子どもではなく、どろんこの「どろちゃん」、つまり、どろそのものです。頭も手足もあって、眼と鼻と口、それからボタン(?)のようなものも付いていますが、すべてがどろで出来ていて、全身どろ色です。
まず、「どろちゃん」の作り方。
ぼくの つくりかたは かんたんだよ。
つちを コップに 5はい。
みずを コップに 2はい。
よく かきまぜて、
よく こねて。
はい、できあがり。
この文章の付いている絵では、「どろちゃん」自身がどろの入った容器のなかに立って自分でかき混ぜています。よく考えてみると、なかなかシュールな絵柄です。
どろんこ遊びでは、もちろん、土と水のバランスが大事。水が少なすぎても多すぎても、うまく「どろちゃん」はできません。そのあたりをこの絵本では、筆(?)のタッチの違いで印象的に表現しています。土が固すぎてぽろぽろの「どろちゃん」はザラザラしたタッチで描かれ、逆に水分が多すぎてべちゃべちゃの「どろちゃん」は水をたっぷり含ませてぺったりと描かれています。
どろんこを落としたり投げたりしてドカーンと爆発する様子や、足でけってピュッピュッとどろはねする様子も、「どろちゃん」のアクションと筆使いで表されていて、これもおもしろい。
そして、どろんこ遊びの一番の楽しみといえば、どろ団子。この絵本は、「どろちゃん」がころころ転がってどろ団子になり、それを子どもの手が上からつかもうとするところで終わります。このラストからは、「さあ、どろんこ遊びを楽しもう!」という誘いのメッセージがよく伝わってきます。
あと、この絵本ですごいなと思ったのは、どうやら指を使って描かれているところです。全部かどうかはちょっと分かりませんが、画面のあちこちに作者のいとうさんの指紋が付いています。表紙・裏表紙の見返しは、いとうさんの指紋だらけ。絵の具(もしかして本物のどろだったりして?)を指に直接つけて、真っ白い画面に「どろちゃん」を描いていく、これ自体、一種のどろんこ遊びかなと思いました。まさにどろんこ遊びのように、楽しんでこの絵本は描かれたのかもしれませんね。
カバーにはいとうさんからのメッセージがありました。引用します。
どろんこ あそびは
たのしいね
ぎゅっと にぎれば
ゆびの あいだを
どろんこが どろどろ
きみも どろんこあそびを
やってみよう
きっと どろちゃんと
ともだちに なれるよ
▼いとうひろし『どろんこ どろちゃん』ポプラ社、2003年