月別アーカイブ: 2004年1月

長 新太『ゴムあたまポンたろう』

 「ゴムあたま」に「ポンたろう」?、この絵本、タイトルに引かれて手に取りました。表紙には、気を付けの姿勢をした丸坊主の男の子が横になって宙に浮いています。

 ページをめくると、冒頭からいきなりナンセンス・ワールドに突入。

とおくの ほうから おとこのこが とんできました。
あたまが ゴムで できている
「ゴムあたまポンたろう」です。
やまに ポン! と ぶつかると、
ボールのように とんでいきます。

 「どこから来たの?」「どうして飛んでるの?」「なぜ頭がゴムなの?」、読んでいる方のアタマのなかもゴムみたいにぐにゃぐにゃになってきます。もうこの不思議な世界に身をゆだねるしかありません。

 この「ポンたろう」、ずっと直立不動で無表情、気を付けの姿勢のまま、グングン飛んでいき、おかしなものにどんどん当たります。大男の頭に生えた野球のバットとかお化けのお父さんの頭、木々にはバレーボールのボールにされ、ハリネズミにはサッカーのボールにされます。ゴムのあたまはどんなものに当たっても痛くないんだそうです。

 おかしいのは、全体を通じてとってもナンセンスなのに、妙に論理的なところ。たとえば、花はやわらかいから当たっても飛んでいくことができないとか、アタマの当たるいいところを探していたりとか、針に刺さると飛んでいけなくなるとか、言われてみればたしかに筋が通っていて、それがおかしい。

 絵は、全編にわたってオレンジやピンクのカラフルな蛍光色が使われ、桃源郷のようなあやしい雰囲気をかもしだしています。そういえば、古いお寺のはるか上空を「ポンたろう」が飛んでゆく場面もありました。

 一見したところ無表情にみえる「ポンたろう」ですが、微妙に表情があるのがまたおもしろい。たとえばバラの花が咲いているところでは、目を閉じてバラの香りを楽しんでいるようだし、バラの棘やハリネズミの針が出てくるとまゆを少しだけしかめています。

 最後に「ポンたろう」はゴムの木に抱かれて眠ります。遊び疲れた子どもが気持ちよく寝ている、そんな感じで、やさしい気持ちになります。

▼長 新太『ゴムあたまポンたろう』童心社、1998年

読み聞かせの楽しみ

 絵本と育児本をテーマとしたウェブログ、OKI*IKU Note「『読むこと』は目的じゃない」という記事がありました。

「これはいい絵本だ!」自分が読んで感動した絵本ほど、子どもにちゃんと見てほしいとはりきってしまいます。しかし子どもは大人の思うようには絵本を見てくれません。
[中略]
「読んでほしい」という思いが強ければ強いほど、親としてはイライラしてしまいがち。けれど『赤ちゃんと脳科学』(小西行郎:著/集英社新書/2003/05)という本の中で読み聞かせについて書かれた文章を読んで、「絵本を読むこと」が読み聞かせの目的ではないのだなと気づきました。
[中略]
大切なのは絵本を読むことそれ自体よりも、それを使いながらどうコミュニケーションするかということ。

 たしかにそうだなあと思いました。私も、ついつい自分の都合で絵本を選んだり、子どものことを考えないで読み聞かせをしているなと少し反省。

 読み聞かせのとき、うちの子どもはたいてい、私のひざの上に座っているか、ふとんのなかでとなりに横になっているんですね。だから、子どもの表情が見えなくなりがちだなとあらためて思います。

 また、同じ絵本を二人で読んでいるとはいっても、子どもはやはり絵本の画面全体を見ていて、読み聞かせをする私はどうしても文章の文字を追ってしまいます。そうすると、見ているものも違ってきます。

 でも、見ているものが違うから、いろいろ子どもと話しができることもあります。私が気が付かなかったディテールを教えてもらったりもします。これも、一つのコミュニケーションかなと思います。

 最近は私も、読み聞かせをしながら、なるべく子どもの表情を見るようにしています。ニコニコと楽しそうにしていたり、「おもしろいねー」って笑っていたり、はっと緊張していたり、そんな子どもの様子が伝わってきます。そうなると、自分もいっしょになって絵本を楽しめるような気がします。

武田英子/清水耕蔵『八方にらみねこ』

 まずは、裏表紙と一つになった表紙の絵が目を引きます。目をぎりっと見開き、口をぐっと一文字に結び、両手足をしっかりと踏みしめたねこ、まわりはメラメラと赤黒く燃え上がる炎、そして、白く筆で書いたように荒々しい「八方にらみねこ」のタイトル。

 この表紙からもうかがえますが、物語は日本の昔ばなしのスタイルをとっています。「じいさ」と「ばあさ」に拾われた子ねこの「みけ」。「じいさ」と「ばあさ」はおかいこを飼っているのですが、ねずみに食い荒らされてたいへん困っていました。そこで、「みけ」は、ねずみからおかいこを守ろうとするのですが、まったく歯が立ちません。

「ねこだと いうのに、こんな ことでは
なさけない。ねずみどもが こわがっていた
やまねこさまに、 にらみの じゅつというのを
おそわろう。」

 こうして、「みけ」は「やまねこさま」のもとで厳しい「にらみの しゅぎょう」に入ります。

 この絵本は、絵もまた純和風。とくに修行の場面の描き方はたいへんな迫力です。「やまねこさま」が登場するところでは、まるで歌舞伎の隈取りをしたような顔だけが黒い画面に浮かびます。そして、ごうごう燃えさかる炎のなか、「みけ」の顔つきがだんだんと引き締まっていく様子が、黒と赤を基調にして強烈に描きだされています。

 それから、この絵本では遠景の使い方も印象的。

 たとえば最初の場面、子ねこの「みけ」が登場するところ。雪の降る山里の景色が2ページいっぱいに広がり、その右下に本当に小さく、とぼとぼと歩く子ねこの姿が描かれています。子ねこの真上の木の枝には赤い葉が一枚だけ残っており、それが、モノクロのような画面のなかで目を引きます。

 あるいは、「みけ」が「やまねこさま」に「にらみの術」を教わろうと山に分け入っていくところ。ここでも、2ページいっぱいに暗く深い山々が黒々と描写され、「みけ」は左ページの上の方にごく小さく描かれています。それは「みけ」の無力さを表していて、と同時に、それでも前を向いて山を登っていく姿に「みけ」の強い決意が伝わってきます。

 もう一つ新鮮に感じたのは、「みけ」の修行が終わって「ばあさ」と「じいさ」のもとに帰るときの場面転換です。

 修行の場面は黒と赤、そして「みけ」が「にらみの術」を身につけたシーンでは、左ページのはしから光が差し込むように描かれています。ページをめくって「みけ」がうちに戻るシーンになると、黄色や緑やピンクを使い、春の山々があたたかく明るく鮮やかに描写されています。読み聞かせをしていて、この色の移り変わりには、ほっとため息が出ます。

 文を担当された武田英子さんのあとがき(「この物語について」)には、養蚕が日本人の生活や社会を支えてきたことにふれ、次のように書かれていました。

美しい絹の糸を吐くおかいこが元気に育ってくれるようにと、人々は、日夜見守り、心身をつかい、とりわけ主婦の働きは大きいものでした。
[中略]
今日では、いろいろな化学繊維が開発され、この物語のじいさやばあさが経験したような養蚕の苦労は、だんだん忘れられていくようです。だからこそ、そのことを伝えたくて、清水耕蔵さんの絵に託して、この絵本を心をこめてつくりました。

 たしかに、この絵本、絵のすばらしさはもちろんですが、養蚕という人びとの営みを伝えていることも大事ですね。絵本をもっぱら教育のためのものとは思いませんが、でも、絵本を通じて人びとのさまざまな営みや世界について知ることができるなら、それは、子どもにとって(また大人にとっても)有意義と思います。

 ただちょっと考えてしまうのは、読み聞かせをしている大人自身の生活体験が貧弱かもということです。たとえば、うちの子どもも「じいさ」と「ばあさ」が働いている場面を見ながら「おかいこさまって何?」と聞いてくるのですが、私自身、養蚕のことを実地に知っているわけではありません。子どもに話せることは、どうしても頼りないものになってしまいます。

 そんなに難しく考えなくてもよいのかもしれません。でも、この絵本の読み聞かせをしながら、これでいいのかなあ、なんて少し気になりました。

▼武田英子 文/清水耕蔵 絵『八方にらみねこ』講談社、1981年(新装版:2003年)

イブ・スパング・オルセン『つきのぼうや』

 この絵本のおもしろさは、なんといっても絵本のかたち。タテ35cmにヨコ13cmという、ちょっと他にない縦長です。本棚に入れるのも一苦労。でも、この縦長の紙面がストーリーと密接に結びついて非常に効果的に使われています。いったん読み終えると、むしろ、タテにながーい造本が自然に思えてくるほどです。

 池に映った自分の姿が気になるお月さま、ある晩、月の坊やを呼び出します。

ちょいと ひとっぱしり
したへ おりていって、
あの つきを つれてきてくれないか。
ともだちに なりたいのだ。

 お月さまは、自分の姿が映っていることが分からず、もう一つ別の月が地上にいるんだと思っているわけです。月の坊やもまた素直にお月さまの頼みをきき、かごをさげて元気よく地上に向かって駆け下りていきます。

 ここで、この絵本の縦長のつくりが生きてきます。高い高い空の上から地上に向かってどんどん下りてゆく様子が、縦長の紙面を使って描かれます。一つのページに複数のエピソードが上から下へと順番におかれていて、そのエピソードのたびに月の坊やもまた2回も3回も登場するのです。上から下への移動が縦長の紙面にそのまま表現され、読み聞かせをしていると、月の坊やといっしょに地上へ下りてゆくような気持ちになれます。

 また、空から地上に駆け下りるとはいっても、一本調子なものではなく、かごを上に持ってふんわり飛んだり、風にふかれて横に飛んだり、仰向けだったりうつぶせだったり、おもしろく描かれています。

 下りていく間に月の坊やは、お月さまのように、まあるいものにたくさん出会うのですが、どれもお月さまとはちょっと違います。最後は、まちの通りをすぎて水のなかに飛び込み、さらに下りていきます。そして海の底で見つけたのが手鏡。この手鏡をかごに入れて、月の坊やはもときた道を帰っていき、お月さまのところに戻ります。奥付のページには、手鏡に映った自分に話しかけるお月さまの姿が描かれています。

 ちょっとナルシシズムな結末ですが、お月さまだからよいのかもしれませんね。

 あと、「月の坊や」とはいっても、見た目は人間の子どもとまったく変わらずに描かれているのもおもしろいところです。

 原書の刊行は1962年。デンマークの絵本です。

▼イブ・スパング・オルセン/やまのうち きよこ 訳『つきのぼうや』福音館書店、1975年

絵本学会のウェブサイト

 1997年設立の新しい学会。そのウェブサイトです。

 この学会は「絵本の表現の分野により立脚した、絵本学という独自の学問領域の確立」を目的にしているとのことで、設立趣旨では次のように書かれています。

今日、絵本表現の場は想像以上に広がっています。考え方や対象の定め方も様々なら、表現性も実に多様です。多様な表現の世界を持つこれらの絵本を、単純な概念で分類することには無理があります。しかし、絵本の形式がそれほど単純でないことが十分承知されながら、一般的には、教育的意味や文学的意味をもって語られることが多いのが実状です。
[中略]
絵本を固定した一つの表現形式とみなすだけでなく、表現の位相を把握し解明していくための研究が、新しい視野を拓くものと期待されるのです。それは、絵本学とも呼ぶべきものであり、絵本というメディアを介して研究される新たな学問領域だといえるでしょう。
[後略]

 なんだか難しそうですが、要は、たとえば子どものためのもの・教育のためのものといったふうに単純化せずに、絵本の持つ多様性と深みをそのまま丸ごと受け止めよう、ということでしょう。とても真っ当な考え方じゃないかなと思います。

 ウェブサイトでは、年に一度の絵本学会大会や絵本フォーラムの内容が非常に詳しく掲載されており、かなり充実しています。

 たとえば、どんなことがテーマになっているかというと、

  • 絵本と絵本美術館(2003年度大会)
  • 絵本はコラボレーションの場(2002年度大会)
  • 絵本とおとな・絵本とこども(2001年度大会)
  • 再度、昔話絵本を考える(絵本フォーラム2002)
  • 絵本とことば(絵本フォーラム2001)
  • こども、絵本、いのち(絵本フォーラム2000)

 大会やフォーラムでは、研究発表に加えて、ワークショップ(2003年度はからくり玩具作りやモビール作り)や作品発表などもあり、おもしろそうです。また、研究者だけでなく、絵本作家やデザイナー、教員や学芸員や司書など、いろんな分野の人が参加されています。

 あと、絵本学会では『ブックエンド』という雑誌(機関誌)を発行していて、その目次も見ることができます。

 2002年の創刊号では、宇野亜喜良さんの絵本「ぼくはへいたろう」が巻頭カラーで載っていたり、島田ゆかさんや きたむらさとしさんのエッセイもあって、これも興味深いです。機会があったら、ぜひ一度、読んでみたいです。

 他には、講演・出版・イベントなどの情報が掲載される「絵本学会伝言板」、会員や学校・美術館・図書館などのリンク集もありました。

 このウェブサイト、いろいろ有用な情報が掲載されていて刺激になります。学会とはいっても、あまりかまえなくてよいように思いました。

バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』

 バージニア・リー・バートンさんの絵本といえば、アメリカ絵本の定番の一つと思います。うちの子どもも大好きです。この『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』はもともと1943年に刊行されたそうですが、まったく古さを感じさせない、おもしろさです。

 「じぇおぽりす」という町の道路管理部で働いているトラクターの「けいてぃー」。ある冬の日、大雪に埋もれた「じぇおぽりす」ではなにもかもがマヒしてしまいます。

だれもかれも、なにもかも、じっとして
いなければなりませんでした。
けれども、そのとき ただひとり……
けいてぃーは うごいていました

 「けいてぃー」は「ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!」と、どんどん雪をかきのけていきます。警察も郵便も電気も水道も病院も消防も飛行場も、雪で困っている人たちみんなを助け、「わたしに ついていらっしゃい」と言って、道をつけていきます。大通りも横町も雪をすっかりかきのけます。

 みんなのためにやるべき仕事を着実にやり抜く「けいてぃー」。たとえば次のように書かれています。

けいてぃーは、はたらくのが すきでした。
むずかしい ちからのある しごとが、
あれば あるほど、けいてぃーは
よろこびました。

 また、飛行場の雪をかきのけるときには、

けいてぃーは、もう、すこし くたびれていました。
けれども しごとを とちゅうで やめたりなんか、
けっしてしません……
やめるものですか。

 こうしたかっこよさには、大人でも、ちょっとあこがれますね。絵本の裏表紙には、雪をかきのけて働く「けいてぃー」の後ろ姿が描かれていて、これも、なかなかよい感じです。

 ところで、この絵本にはストーリーやテーマ以上に楽しい仕掛けがいっぱいあり、そこがまた魅力です。

 最初の数ページでは、ページのまんなかを四角に囲い、「けいてぃー」がいろんなアタッチメントをつけられることが描かれています。そのまわりには働くクルマのたくさんのイラストが付いていて、楽しめます。

 また、「じょえぽりす」全体の地図(建物のイラストつき!)もあり、「けいてぃー」が雪をかきわけていく道をそのつど指でなぞったりもできます。各ページには東西南北の方位も書かれています。終わりの方のページには、「けいてぃー」の大活躍ですっかり雪がかきのけられた「じぇおぽりす」の全体が描かれています。地図と比べてみたりすることもできます。

 そして、「けいてぃー」が雪をかきのけて道をつけていくときの描き方も、注目です。

 まず、雪がどんどん積もっていくことを文章で説明したところ。ここでは、ページのはじをぐるっと四角にとりかこむように何本もの電柱を置き、その電柱がどんどん雪にうずもれていく様子を順々に描くことで、時間の流れを表しています。これも、おもしろい表現です。

 次に、雪の「じぇおぽりす」に「けいてぃー」が最初に現れるシーンでは、2ページを丸ごと使った白い画面の左のはじに割と小さめに「けいてぃー」が描かれています。この大きな白い空間が大雪のすごさを物語っていて、と同時に、この白い画面を左から右へ、上から下へ、また斜めにジグザグに「けいてぃー」が通っていくことでその後に道がどんどん出来ていき、町がよみがえっていきます。「けいてぃー」の通ったあとに家々や建物が並んでいくかのようで、その煙突からは煙が上がり、人びとが雪かきをはじめ、いろんな働くクルマが動き出すのです。この画面の使い方はとても印象的です。

 あと、この本では、とびらの次のページに献辞のようなものがあるのですが、よく見ると、バートンさんの他の絵本の主人公たち(たとえば『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』や『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』)が描かれていました。これも、おもしろいですね。

▼バージニア・リー・バートン/いしい ももこ 訳『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』福音館書店、1978年(新版)

スズキコージ『やまのディスコ』

 「しろうまの みねこさん」と「やぎの さんきちくん」は、新しくオープンした山のディスコに出かけます。みんなで楽しく踊っていると、「ライオンの よしおくん」が蜂に刺されてしまい、そのせいで「ライオンの よしおくんの おとうさん」がクワを振り回して駆け込んできて、ディスコはめちゃくちゃに、といったストーリー。

 この絵本のおもしろいところは、まず登場人物のキャラクターです。

 たとえば「このあたりの やまでは いちばんの おしゃれ」「みねこさん」の登場シーン。体重計にのったまま腰に手を当て、前髪にカーラーを巻いて大きな櫛でお手入れしています。真っ赤なミニスカートのワンピースに、これまた真っ赤なハイヒール、なんだかバブル期の「いけいけのお姉さん」を思い出します。

 みんなディスコははじめてなので、バンドが演奏をはじめても突っ立っていると、「みねこさんは エィッと かけごえを かけて、いちばんに」踊り出します。この踊りがまた、吹っ切れています。

 「さんきちくん」も、おしゃれにきめた帽子のファッションに黒のサングラスをかけ、「みねこさん」を後ろに乗せてオートバイをとばします。ディスコで二人があみ出すのが「うぎやまおどり」。うーん、どんな踊りなんだろう?

 「ライオンの よしおくんの おとうさん」もすさまじい暴れっぷりでど迫力だし、ディスコがめちゃくちゃになってもすぐ次の商売のことを考える「くまのたいしょう」もおかしい。激しく踊り狂う他の動物たちもおもしろいです。

 他にも笑えるディテールがいろいろ。このディスコの入場料は「くりのみ 10こ」で、自慢はなんとハチの巣のミラーボール。しかも、まだハチが住んでいるのです。当然、ミラーボールが回り出すと、ディスコのなかをハチが飛び回ります。みんなは腰をかがめて踊るのですが、そのうち「くまのたいしょう」が網をかぶって出てきて、

「みなさーん、あと、くりのみ 5こを はらえば、
はちよけの あみを かして あげましょう、
さあ、さあ、はりきって まいりましょう」

 うーん、なんて商売にがめついんだ。しかも、みんな網をかぶって踊り続けるのです。バンドマンも手に網をつけてギターやベースを演奏し続けます。いやー、すごすぎ。

 絵は、いうまでもなく、どこを切ってもスズキコージ印。派手でどぎつく、実ににぎやかな色彩です。たとえば裏表紙、なんの変哲もない森の描き方一つとっても、色の選び方、木々の輪郭の付け方、木々の並べ方など、あやしい雰囲気がただよってきます。あと、描かれている動物たちの多くは、目がまん丸になっていて、これも一種、異様な感じを増しています。嫌いな人はとことん嫌いかもしれませんが、あやしさとユーモアが結びついていて、私はとても好きです。

 それから、もう一つ注目されるのが、文に使われているフォント。これがまた、手書き風のあやしい感じのフォントなんですね。正確には分かりませんが、このフォント、スズキコージさんの絵本でしか見かけないような気がします。スズキコージさん御用達のフォントなのかもしれません。

▼スズキコージ『やまのディスコ』架空社、1989年

スズキコージさん関連のウェブサイト

 片山健さんと並んで、うちで人気の絵本作家がスズキコージさんです。とても個性的で強烈な造形と色彩が魅力です。

 本当は今日はそのスズキコージさんの絵本を1冊紹介しようと思っていたのですが、仕事が忙しく、記事が書けません。

 でも、せっかくなので、スズキコージさん関連のウェブサイトを3つ、紹介したいと思います。今後も、いろいろ絵本に関するウェブサイトの紹介リンクをやってみようと考えています。

 まずは、スズキコージさん公認のウェブサイトZUKING。プロフィール、イベントや個展の情報、著作リスト、掲示板、さらにはグッズ(缶バッチ! これ、なかなかよいです)の販売もされています。スズキコージさんのイラストなどもあしらわれていて、要チェックです。

 それから、静岡県、浜北市立図書館スズキコージコーナー。なぜここに?と思ったら、スズキコージさんは浜北市生まれで、2001年に浜北市立図書館に壁画を制作されていました。その壁画の写真も掲載されています。他に、市民のみなさんから寄贈された資料(絵本や児童図書の挿絵、雑誌・カレンダー・パンフレットなど)の一部も見ることができます。じっさいの図書館のなかにもスズキコージコーナーがあるようです。

 そして、復刊ドットコム『スズキコージ』復刊特集ページ。復刊リクエストのあった本がリストアップされています。これをみると、たくさんの本が絶版になっていて、それでも、根強いスズキコージファンの多いことが分かります。スズキコージさんの絵本は、好きな人はだんぜん好きだと思います。『クリスマスプレゼントン』という絵本が復刊が決定しているようです。私は読んだことがないので、ぜひ今度、手に取ってみたいです。

 明日はなんとか絵本の紹介を投稿したいのですが、仕事次第ですね。うーん、ちょっとため息です。

むらまつたみこ『みなみのしまのプトゥ』

 舞台はバリ島、主人公のプトゥは生まれて10ヶ月の男の子、赤ちゃんです。表紙では、南国の木々の下、プトゥがプルメリアの花を手に持ち笑顔で振り返っています。そんなプトゥの一日を描いたのがこの絵本です。

 この絵本では、いまの日本ではほとんどありえない子育ての姿が描写されています。三世代同居どころか複数の家族が同居、夫婦共働きで日中はおばあちゃんとおじいちゃん、さらには近所の子どもたちまでが赤ちゃんのめんどうをみています。互いに子育てし合う社会、地域のなかに子育てがしっかりと根付いている、そんな印象を受けます。

 そのあたりのことは、巻末の「作者からのひとこと」でも触れられていました。作者のむらまつさんは、4年間、バリ島で生活したそうです。少し長いですが、引用します。

島で生活していて、ちょっとややこしい事が、ひとつありました。それは、どの子がどの親の子なのか、ときどきわからなくなることです。島では、他人の子も自分の子も、区別があまりありません。私がお世話になったいくつかの民家でも、いつもいっしょに食事をしたり、テレビを見たりしていたのは、実はとなりの子どもだった―――なんてことは、めずらしくありませんでした。これが赤ちゃんの場合、昼は、手から手へとわたされて、夜になると、しぜんに親元にもどっているのです。なんともふしぎなことでした。

 プトゥもまた、おかあさん、おじいちゃん、いとこのワヤンとカデ、隣に住んでいるコマンちゃん、といったふうに手から手へと渡されていきます。こんなおおらかな子育て環境は、いまの日本ではまず成立しませんね。

 それから、もう一つ、この絵本でなにより気になった(?)のが、食べ物の描写です。バリ島でふつうに食べられているものが幾つか登場するのですが、どれも、とてもおいしそうです。

 最初の場面に登場するのは、屋台で売られる朝ご飯のおかゆ。遠景で描かれているので、どんなおかゆなのかはまったく分かりませんが、屋台が朝ご飯を売っているところにそそられます。

 それから、プトゥのおじいちゃんが飲んでいる「コピ」。これは「みなみのしまのコーヒー」とのことですが、ガラスの容器に入れられています。砂糖をたくさん入れて飲むようです。

 そして、プトゥのおばあちゃんが作る「ジャジャン・ウリ」。これは、もち米とヤシの実と赤砂糖で作るおかしだそうです。その作り方も2ページにわたって説明があります。油で揚げるところからすると、甘い味のせんべいみたいなものかなと思いますが、どうでしょう。

 最後に、学校が終わったあとに子どもたちが屋台で買っている「あつあつのにくだんごいりスープ」。屋台には「BAKSO NYLA」と表記されていますが(意味は分かりません)、これ、とてもおいしそうです。暑い南国の食べ物だから少し辛い味付けでしょうか。

 絵は版画に水彩で彩色したものかなと思っていたら、切り絵だそうです。アリス館新刊情報に説明がありました。顔の眉毛と鼻の描き方が特徴的。全体を通じてあたたかみのある色彩で、南の島のおおらかな日常がよく伝わってきます。

 最後のページ、おかあさんにだっこされて小さな寝息をたてはじめたプトゥを、みんなが実にやさしい笑顔で見守っています。飼いイヌまでニコニコ。「トッケー、トッケー。チ、チ、チ、チ、チ。」というやもりの鳴き声が聞こえてきます。幸せな情景です。

 この絵本は、むらまつさんの第一作目の絵本とのこと。ぜひ第二作目の絵本も読んでみたいと思いました。

 と、ここまで書いていったん投稿したあとでGoogle で検索してみたら、なんと、むらまつさんのインタビュー須玉オープンミュージアムに掲載されていました。このウェブサイトは、特定非営利活動法人 文化資源活用協会が運営しており、「山梨県須玉町の歴史や文化、自然や環境に関する情報をデータベース化し、インターネット上につくられた電子博物館」だそうです。なかなかおもしろい取り組みですね。

 で、むらまつさんは須玉町在住とのことで、インタビューになったそうです。テキストデータはないようですが、Windows Media Player か Quick Time Player で6分くらいのインタビューを視聴できます。バリ島では、赤ちゃんは朝から晩までずっと誰かがだっこしていて「宙に浮いている」そうです。

▼むらまつたみこ『みなみのしまのプトゥ』アリス館、2003年

いとうひろし『ルラルさんのにわ』

 いとうひろしさんのルラルさんシリーズの一作目。ルラルさんシリーズは、うちの子どももとても好きです。

 主人公のルラルさんは、芝生の庭をとても大切にしていて、動物たちが入ろうとすると、パチンコで追い払ってしまいます。誰も庭に入れません。ところが、ある朝、ワニが庭に入り込みます。かみつかれると恐いので様子を見ていると、ワニいわく、

「なあ、おっちゃん。ここに ねそべってみなよ。
きもちいいぜ。しばふが おなかを ちくちくするのが
たまらないよ。」

 試しに寝そべってみると、その気持ちよさにうっとり。自分が大事にしていながら見失っていたものに気が付いたルラルさん、それからは動物たちを追い払ったりせず、みんなでいっしょに芝生に寝そべるようになります。

 このおおらかなストーリーに加えておもしろいと思ったのは色の使い方です。たぶん水彩と色鉛筆だと思うのですが、使われる色が限定されています。たとえば緑色でも、芝生の緑と木々の緑と山の緑がすべて同じ色になっており、動物たちについても、鳥も犬も猫もワニもオレンジと黄色で描かれています。しかも、基本的にベタで均質な色合いです。どのページにも同じ色が同じように現れ、その結果、全体を通じて紙面に安定感があり、と同時にページをめくるごとに色のリズムも生まれているように感じます。

 使用する色が限定される絵本というと、ディック・ブルーナさんのミッフィーシリーズが有名ですが、それほどではないにしても、この絵本もまた意図的に色を限っているのかなと思います。

 あと、主人公のルラルさんがユニーク。客観的にみると、丸底メガネ(ワニを丸太と間違えるほど目が悪い)にはげ頭でちょび髭、一人暮らしで中年のあやしい「おっちゃん」です。でも、とてもユーモラスで(たぶん)おしゃれなおじさんです。

 ワニとルラルさんが気持ちよさそうに芝生に寝そべっている様子、また、終わりのページでルラルさんとたくさんの動物たちが芝生にゆったりと寝そべっている様子をみていると、自分も芝生にごろんと横になりたいなあとついつい思ってしまいます。のーんびりした気持ちになれる絵本です。

▼いとうひろし『ルラルさんのにわ』ポプラ社、2001年