「ゴムあたま」に「ポンたろう」?、この絵本、タイトルに引かれて手に取りました。表紙には、気を付けの姿勢をした丸坊主の男の子が横になって宙に浮いています。
ページをめくると、冒頭からいきなりナンセンス・ワールドに突入。
とおくの ほうから おとこのこが とんできました。
あたまが ゴムで できている
「ゴムあたまポンたろう」です。
やまに ポン! と ぶつかると、
ボールのように とんでいきます。
「どこから来たの?」「どうして飛んでるの?」「なぜ頭がゴムなの?」、読んでいる方のアタマのなかもゴムみたいにぐにゃぐにゃになってきます。もうこの不思議な世界に身をゆだねるしかありません。
この「ポンたろう」、ずっと直立不動で無表情、気を付けの姿勢のまま、グングン飛んでいき、おかしなものにどんどん当たります。大男の頭に生えた野球のバットとかお化けのお父さんの頭、木々にはバレーボールのボールにされ、ハリネズミにはサッカーのボールにされます。ゴムのあたまはどんなものに当たっても痛くないんだそうです。
おかしいのは、全体を通じてとってもナンセンスなのに、妙に論理的なところ。たとえば、花はやわらかいから当たっても飛んでいくことができないとか、アタマの当たるいいところを探していたりとか、針に刺さると飛んでいけなくなるとか、言われてみればたしかに筋が通っていて、それがおかしい。
絵は、全編にわたってオレンジやピンクのカラフルな蛍光色が使われ、桃源郷のようなあやしい雰囲気をかもしだしています。そういえば、古いお寺のはるか上空を「ポンたろう」が飛んでゆく場面もありました。
一見したところ無表情にみえる「ポンたろう」ですが、微妙に表情があるのがまたおもしろい。たとえばバラの花が咲いているところでは、目を閉じてバラの香りを楽しんでいるようだし、バラの棘やハリネズミの針が出てくるとまゆを少しだけしかめています。
最後に「ポンたろう」はゴムの木に抱かれて眠ります。遊び疲れた子どもが気持ちよく寝ている、そんな感じで、やさしい気持ちになります。
▼長 新太『ゴムあたまポンたろう』童心社、1998年