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むらまつたみこ『みなみのしまのプトゥ』

 舞台はバリ島、主人公のプトゥは生まれて10ヶ月の男の子、赤ちゃんです。表紙では、南国の木々の下、プトゥがプルメリアの花を手に持ち笑顔で振り返っています。そんなプトゥの一日を描いたのがこの絵本です。

 この絵本では、いまの日本ではほとんどありえない子育ての姿が描写されています。三世代同居どころか複数の家族が同居、夫婦共働きで日中はおばあちゃんとおじいちゃん、さらには近所の子どもたちまでが赤ちゃんのめんどうをみています。互いに子育てし合う社会、地域のなかに子育てがしっかりと根付いている、そんな印象を受けます。

 そのあたりのことは、巻末の「作者からのひとこと」でも触れられていました。作者のむらまつさんは、4年間、バリ島で生活したそうです。少し長いですが、引用します。

島で生活していて、ちょっとややこしい事が、ひとつありました。それは、どの子がどの親の子なのか、ときどきわからなくなることです。島では、他人の子も自分の子も、区別があまりありません。私がお世話になったいくつかの民家でも、いつもいっしょに食事をしたり、テレビを見たりしていたのは、実はとなりの子どもだった―――なんてことは、めずらしくありませんでした。これが赤ちゃんの場合、昼は、手から手へとわたされて、夜になると、しぜんに親元にもどっているのです。なんともふしぎなことでした。

 プトゥもまた、おかあさん、おじいちゃん、いとこのワヤンとカデ、隣に住んでいるコマンちゃん、といったふうに手から手へと渡されていきます。こんなおおらかな子育て環境は、いまの日本ではまず成立しませんね。

 それから、もう一つ、この絵本でなにより気になった(?)のが、食べ物の描写です。バリ島でふつうに食べられているものが幾つか登場するのですが、どれも、とてもおいしそうです。

 最初の場面に登場するのは、屋台で売られる朝ご飯のおかゆ。遠景で描かれているので、どんなおかゆなのかはまったく分かりませんが、屋台が朝ご飯を売っているところにそそられます。

 それから、プトゥのおじいちゃんが飲んでいる「コピ」。これは「みなみのしまのコーヒー」とのことですが、ガラスの容器に入れられています。砂糖をたくさん入れて飲むようです。

 そして、プトゥのおばあちゃんが作る「ジャジャン・ウリ」。これは、もち米とヤシの実と赤砂糖で作るおかしだそうです。その作り方も2ページにわたって説明があります。油で揚げるところからすると、甘い味のせんべいみたいなものかなと思いますが、どうでしょう。

 最後に、学校が終わったあとに子どもたちが屋台で買っている「あつあつのにくだんごいりスープ」。屋台には「BAKSO NYLA」と表記されていますが(意味は分かりません)、これ、とてもおいしそうです。暑い南国の食べ物だから少し辛い味付けでしょうか。

 絵は版画に水彩で彩色したものかなと思っていたら、切り絵だそうです。アリス館新刊情報に説明がありました。顔の眉毛と鼻の描き方が特徴的。全体を通じてあたたかみのある色彩で、南の島のおおらかな日常がよく伝わってきます。

 最後のページ、おかあさんにだっこされて小さな寝息をたてはじめたプトゥを、みんなが実にやさしい笑顔で見守っています。飼いイヌまでニコニコ。「トッケー、トッケー。チ、チ、チ、チ、チ。」というやもりの鳴き声が聞こえてきます。幸せな情景です。

 この絵本は、むらまつさんの第一作目の絵本とのこと。ぜひ第二作目の絵本も読んでみたいと思いました。

 と、ここまで書いていったん投稿したあとでGoogle で検索してみたら、なんと、むらまつさんのインタビュー須玉オープンミュージアムに掲載されていました。このウェブサイトは、特定非営利活動法人 文化資源活用協会が運営しており、「山梨県須玉町の歴史や文化、自然や環境に関する情報をデータベース化し、インターネット上につくられた電子博物館」だそうです。なかなかおもしろい取り組みですね。

 で、むらまつさんは須玉町在住とのことで、インタビューになったそうです。テキストデータはないようですが、Windows Media Player か Quick Time Player で6分くらいのインタビューを視聴できます。バリ島では、赤ちゃんは朝から晩までずっと誰かがだっこしていて「宙に浮いている」そうです。

▼むらまつたみこ『みなみのしまのプトゥ』アリス館、2003年