この絵本のおもしろさは、なんといっても絵本のかたち。タテ35cmにヨコ13cmという、ちょっと他にない縦長です。本棚に入れるのも一苦労。でも、この縦長の紙面がストーリーと密接に結びついて非常に効果的に使われています。いったん読み終えると、むしろ、タテにながーい造本が自然に思えてくるほどです。
池に映った自分の姿が気になるお月さま、ある晩、月の坊やを呼び出します。
ちょいと ひとっぱしり
したへ おりていって、
あの つきを つれてきてくれないか。
ともだちに なりたいのだ。
お月さまは、自分の姿が映っていることが分からず、もう一つ別の月が地上にいるんだと思っているわけです。月の坊やもまた素直にお月さまの頼みをきき、かごをさげて元気よく地上に向かって駆け下りていきます。
ここで、この絵本の縦長のつくりが生きてきます。高い高い空の上から地上に向かってどんどん下りてゆく様子が、縦長の紙面を使って描かれます。一つのページに複数のエピソードが上から下へと順番におかれていて、そのエピソードのたびに月の坊やもまた2回も3回も登場するのです。上から下への移動が縦長の紙面にそのまま表現され、読み聞かせをしていると、月の坊やといっしょに地上へ下りてゆくような気持ちになれます。
また、空から地上に駆け下りるとはいっても、一本調子なものではなく、かごを上に持ってふんわり飛んだり、風にふかれて横に飛んだり、仰向けだったりうつぶせだったり、おもしろく描かれています。
下りていく間に月の坊やは、お月さまのように、まあるいものにたくさん出会うのですが、どれもお月さまとはちょっと違います。最後は、まちの通りをすぎて水のなかに飛び込み、さらに下りていきます。そして海の底で見つけたのが手鏡。この手鏡をかごに入れて、月の坊やはもときた道を帰っていき、お月さまのところに戻ります。奥付のページには、手鏡に映った自分に話しかけるお月さまの姿が描かれています。
ちょっとナルシシズムな結末ですが、お月さまだからよいのかもしれませんね。
あと、「月の坊や」とはいっても、見た目は人間の子どもとまったく変わらずに描かれているのもおもしろいところです。
原書の刊行は1962年。デンマークの絵本です。
▼イブ・スパング・オルセン/やまのうち きよこ 訳『つきのぼうや』福音館書店、1975年