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バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』

 一ヶ月ぶりに「けいてぃー」。うちの子どもは「冬といえば、この絵本だよね」と持ってきました。「けいてぃー」の活躍を見ていると、寒い冬でもなんだか体のなかから力がわいてくる感じです。

 以前も思ったのですが、この絵本は絵も文も実にリズミカル。たとえばページのすみを囲うさまざまなイラストや線模様、あるいは除雪した道に付いたキャタピラの跡や脇によけられた雪の模様、「けいてぃー」が通った道々やその周囲に立ち並ぶ家々、ページ内の文章の配置……。いろいろなかたちと線と色が、何か秩序と力と流れを持ってリズムを刻んでいます。

 線と線、曲線と曲線、かたちとかたち、色と色が、響き合い共鳴し合い、まるで音楽が聞こえてくるような感じ。あるいは美しく力強いダンスを見ているような感じと言っていいかもしれません。それは、降り続く雪のリズムや、「けいてぃー」の規則正しいエンジン音、また「じぇおぽりす」というまちそれ自体の息吹をも伝えていると思います。

 そもそも絵本にとって、リズムというのはとても大事な要素なんじゃないかなと今回あらためて感じました。

▼バージニア・リー・バートン/石井桃子 訳『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』福音館書店、1978年

バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』

 久しぶりに「けいてぃー」。読む前に「けいてぃーって、男の子だと思う?女の子だと思う?」と聞いてみたら、うちの子ども曰く「男の子!」。

 うーん、やっぱり、そう思っていたか。いや、実は私もしばらく前までは「けいてぃー」は男の子だと思い込んでいたのです。間違いに気付いたのは、バージニア・リー・バートンさんの伝記を読んだとき。原書の一部が写真で掲載されていたのですが、代名詞が”she”だったのです。英語だと代名詞で女性か男性かはっきり分かるのですが、日本語だとそのあたりがあいまいになります。というか、考えてみれば、そもそも「けいてぃー」という名前は女性の名前ですよね。いかに自分が既成のものの見方にとらわれているか、あらためて痛感しました。ほんとにつまらない先入観です。

 それで、今回うちの子どもにも「けいてぃー」は女の子なんだよと説明しました。「えー! 女の子なの!」とびっくりしていました。本文扉の前のページに描かれている、バートンさんの他の絵本の主人公たちを指して「じゃあ、これは?これは?」。スチーム・ショベルの「メアリ」も「いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう」も女の子だよと言うと「へぇー!」。うちの子ども、少し驚きはしたようですが、「あ、そうなんだ」と割と自然に受け止めていました。

 絵本はまずは楽しむものですが、しかし、そこに何が描かれているのか、もっと自覚的でないといけないなと反省。

▼バージニア・リー・バートン/石井桃子 訳『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』福音館書店、1978年

バージニア・リー・バートン『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』

 バージニア・リー・バートンさんの絵本といえば、アメリカ絵本の定番の一つと思います。うちの子どもも大好きです。この『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』はもともと1943年に刊行されたそうですが、まったく古さを感じさせない、おもしろさです。

 「じぇおぽりす」という町の道路管理部で働いているトラクターの「けいてぃー」。ある冬の日、大雪に埋もれた「じぇおぽりす」ではなにもかもがマヒしてしまいます。

だれもかれも、なにもかも、じっとして
いなければなりませんでした。
けれども、そのとき ただひとり……
けいてぃーは うごいていました

 「けいてぃー」は「ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!」と、どんどん雪をかきのけていきます。警察も郵便も電気も水道も病院も消防も飛行場も、雪で困っている人たちみんなを助け、「わたしに ついていらっしゃい」と言って、道をつけていきます。大通りも横町も雪をすっかりかきのけます。

 みんなのためにやるべき仕事を着実にやり抜く「けいてぃー」。たとえば次のように書かれています。

けいてぃーは、はたらくのが すきでした。
むずかしい ちからのある しごとが、
あれば あるほど、けいてぃーは
よろこびました。

 また、飛行場の雪をかきのけるときには、

けいてぃーは、もう、すこし くたびれていました。
けれども しごとを とちゅうで やめたりなんか、
けっしてしません……
やめるものですか。

 こうしたかっこよさには、大人でも、ちょっとあこがれますね。絵本の裏表紙には、雪をかきのけて働く「けいてぃー」の後ろ姿が描かれていて、これも、なかなかよい感じです。

 ところで、この絵本にはストーリーやテーマ以上に楽しい仕掛けがいっぱいあり、そこがまた魅力です。

 最初の数ページでは、ページのまんなかを四角に囲い、「けいてぃー」がいろんなアタッチメントをつけられることが描かれています。そのまわりには働くクルマのたくさんのイラストが付いていて、楽しめます。

 また、「じょえぽりす」全体の地図(建物のイラストつき!)もあり、「けいてぃー」が雪をかきわけていく道をそのつど指でなぞったりもできます。各ページには東西南北の方位も書かれています。終わりの方のページには、「けいてぃー」の大活躍ですっかり雪がかきのけられた「じぇおぽりす」の全体が描かれています。地図と比べてみたりすることもできます。

 そして、「けいてぃー」が雪をかきのけて道をつけていくときの描き方も、注目です。

 まず、雪がどんどん積もっていくことを文章で説明したところ。ここでは、ページのはじをぐるっと四角にとりかこむように何本もの電柱を置き、その電柱がどんどん雪にうずもれていく様子を順々に描くことで、時間の流れを表しています。これも、おもしろい表現です。

 次に、雪の「じぇおぽりす」に「けいてぃー」が最初に現れるシーンでは、2ページを丸ごと使った白い画面の左のはじに割と小さめに「けいてぃー」が描かれています。この大きな白い空間が大雪のすごさを物語っていて、と同時に、この白い画面を左から右へ、上から下へ、また斜めにジグザグに「けいてぃー」が通っていくことでその後に道がどんどん出来ていき、町がよみがえっていきます。「けいてぃー」の通ったあとに家々や建物が並んでいくかのようで、その煙突からは煙が上がり、人びとが雪かきをはじめ、いろんな働くクルマが動き出すのです。この画面の使い方はとても印象的です。

 あと、この本では、とびらの次のページに献辞のようなものがあるのですが、よく見ると、バートンさんの他の絵本の主人公たち(たとえば『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』や『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』)が描かれていました。これも、おもしろいですね。

▼バージニア・リー・バートン/いしい ももこ 訳『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』福音館書店、1978年(新版)