主人公は「うさぎのこ」。この子はたった一つの言葉しか言えませんでした。それが、なんと「うんちっち」。お母さんやお父さんやお姉さんが何と言っても、「うんちっち」としか答えません。そんなある日、「うさぎのこ」は「オオカミ」に食べられてしまいます。さあ、いったい「うさぎのこ」はどうなってしまうのか……。
いやー、これはおもしろい! 最近、読んだ絵本のなかではベストの1冊です。なによりおかしいのが「うんちっち」という言葉。うちの子どもはまず、これに大受けでした。やっぱりねー、汚いものは楽しいんですよね。子どもは、こういう大人が嫌がるような言葉、眉をひそめるような言葉を言いたがるところがあります。この絵本での「うんちっち」の連呼(?)には、大人のつまらない良識を笑い飛ばしてしまう、そんなパワーを感じます。
そして、ストーリーも実に秀逸。いきなり「オオカミ」に食べられちゃうところにびっくりしました。恐ろしいというのではなく、呆気にとられる感じです。ちなみに、うちの子どもは冷静に一言、「まるのみだね」。
この急展開のあとも「あっ!」と驚きの物語。もちろん、「うさぎのこ」はちゃんとお父さんやお母さんのもとに帰ってきます。そして、大爆笑のラスト。うちの子どもも大受けでした。どういう結末なのかは、ぜひ読んでほしいと思います。いや、実にすばらしい(?)絵本です。なんというか、突き抜けたおもしろさ!
いや、考えようによっては、少々乱暴なストーリーとも言えます。どうして「オオカミ」の「おいしゃさん」が「うさぎ」で、しかも、その「おいしゃさん」が他ならぬ「うさぎのこ」のお父さんなのか?とかね。でも、この絵本には、そんなことはお構いなしの力強さがあります。
それから、主人公の「うさぎのこ」や「オオカミ」の描写も、とてもユーモラス。「うさぎのこ」は、まん丸な眼で、前歯が1本抜けた口を開け、後ろに手で組んで「うんちっち」。単純にかわいいとか愛らしいのではなく、どことなく不気味なところが魅力です。
ところで、この絵本は、左ページに文字、右ページに絵という作り。左ページの文字はかなり大きく印刷されており、うちの子どもでも読めそうなくらいです。
で、「うさぎのこ」が言い続ける「うんちっち」なんですが、よーく見ると、一箇所だけ、文字の配置が他と違っています。それは、「オオカミ」が「うさぎのこ」に「ぼうやをたべても いいかい?」とたずねたところ。「うさぎのこ」はもちろん、「うんちっち」と答えるのですが、この「うんちっち」だけ、「うん」と「ちっち」の間にわずかにスペースが空いています。つまり、「うん ちっち」と文字が並べられているわけです。そして、めくった次のページでは、「オオカミ」が「うさぎのこ」をぺろりと食べてしまう。
なるほどなーと、何だか感心してしまいました。たぶん原書でも、同様な文字配置になっているんでしょうね。要するに、「オオカミ」にとっては、「うん」(つまり「食べていいよ」)と言ったのと同じというわけです。「オオカミ」にとってそのように聞こえたということか、それとも実は「うさぎのこ」自身、「うん」と「ちっち」の間にブレイクを入れて答えたのか……。いやー、なんだか深読みできそうです(^^;)。
あと、おもしろいなと思ったのは、文字の左ページと絵の右ページの背景色。多くの見開きでは左ページと右ページの背景色が違っており、しかもかなりコントラストの強い配色。背景色のみならず、描かれているものの多くも、眼がチカチカしてくるような強烈な色合いです。
そんななかで、左ページと右ページの背景色がほとんど同じ見開き画面が幾つかあります。すべてがそうだというわけではありませんが、物語のポイントになるところ、「あっ!」と気持ちが引き込まれるところが、そういう画面構成になっていると思いました。
当たり前といえば当たり前ですが、色の配置について非常に確信的というか、作り込まれている気がします。
ところで、今回、子どもと一緒に読むとき「うんちっち」という言葉のイントネーションを少し工夫してみました。あんまり抑制をつけないで、詰まったような感じで、平板に言ってみたのです。我ながら、なかなかおもしろい効果。うちの子どもにかなり受けました。曰く「うんちっちは、全部、その言い方で言って!」。いや、受けてよかったです(^^;)。
原書”Caca boudin”の刊行は2002年。この絵本、おすすめです。
▼ステファニー・ブレイク/ふしみ みさを 訳『うんちっち』PHP研究所、2005年