月別アーカイブ: 2004年7月

瀬川康男『ぼうし』

 なんといったらいいのか、すべてが圧倒的に構築された絵本。何一つとしてゆるがせにしないで徹底的に作り込まれているように感じます。カラーとモノクロ(?)の組み合わせの妙、場面転換のリズム、独自な味わいの字体、幾何学化され抽象化された輪郭、画面に広がっていく不思議な文様、……実に美しい。私がえらそうに言えることではありませんが、まさに一級の芸術作品と思います。しかも、それだけではありません。なおかつユーモラスなところがまたすごい! この絵本、おすすめです。

▼瀬川康男『ぼうし』福音館書店、1987年

ジビュレ・フォン・オルファース『うさぎのくにへ』

 今日は2冊。双子(?)の幼い子ども、「むくむくちゃん」と「ぷくぷくちゃん」が、森のなかで「かあさんうさぎ」に連れられていくという物語。原書の刊行は1906年。すでに100年近くの時間がたっているわけですが、まったく古さを感じさせません。

 絵のページはどれも、上5分の1がモノクロ、下5分の4がカラーで2つの絵に分かれています。上と下とで互いに結びつき立体的なメッセージを発しているかのようです。また、カラーで描かれた森のなかの様子は、ほとんどどのページも下3分の1に「むくむくちゃん」と「ぷくぷくちゃん」、ウサギたちが配置され、上3分の2は並んだ木々の幹と枝が描かれています。その統一的な美しさにはため息が出ます。

 そしてこの描写のリズムが崩れるのが、「おとうさん」である「森の番人」が子どもたちを見つけ家に連れ帰る最後の2ページ。非常に象徴的です。この絵本、おすすめです。

▼ジビュレ・フォン・オルファース/秦 理絵子 訳『うさぎのくにへ』平凡社、2003年

吉沢葉子/斎藤隆夫『おおぐいひょうたん』

 恐いと言えば、この絵本の「おおぐいひょうたん」。半端じゃなく恐いです。なにせ「にくが くいたい、にくが……」「にくだ、にく、もっと にくが くいたい……」と言って、足の指にしゃぶりついてくるんですよ。ヒツジも牛もラクダも何十匹も食べてしまうのです。がぶりと食いついたら、ぜんぜん離れない……。いや、物語のラストではちゃんと退治されるのですが、でも恐い。さすがに今回はうちの子どもも「恐いねー」と言っていました(^^;)。あ、念のため付言すると、この絵本はとてもおもしろい絵本です。恐いは恐いけど、おすすめです。

▼吉沢葉子 再話/斎藤隆夫 絵『おおぐいひょうたん』「こどものとも」1999年1月号(通巻514号)、福音館書店、1999年

長谷川摂子/スズキコージ『たいこたたきのパチャリントくん』

 この絵本、表紙・裏表紙の見返しには、得体の知れない生き物の影がたくさん描き込まれています。物語のなかで一番不気味なのが「サンヨルチュウ」。真っ黒で足が何本もあり、虫のような生き物。何十匹もいて「いつも すなに つばを まぜて くろい まちを つくっています」。「パチャリントくん」たちが壊して壊しても、別の場所にどんどん黒いまちを作っていく様子が、なんとも気味が悪い。でも、それもまた、この絵本の魅力です。

▼長谷川摂子 さく/スズキコージ え『たいこたたきのパチャリントくん』「こどものとも」2000年3月号(通巻528号)、福音館書店、2000年

内田莉莎子/小野かおる『くまのしっぽ』

 今日は3冊。この絵本はベラルーシ(Belarus)の昔話をもとにしています。ベラルーシってどこだろうと思い、調べてみました。外務省のウェブサイトのベラルーシ共和国のセクション。歴史や政治制度、経済などの基本的な情報が掲載されています。

▼内田莉莎子 訳/小野かおる 絵『くまのしっぽ』「こどものとも年中向き」1996年9月号(通巻126号)、福音館書店、1996年

稲田和子/川端健生『しょうとのおにたいじ』

 3冊目。子どもを食べられてしまった「しょうと」の鬼退治の物語。「しょうと」というのは、鳥のほおじろのことで、中国地方での呼び名だそうです。この絵本、いろいろ謎があります。最初に出てくる「おじぞうさん」はどうして鬼退治にいっしょに行かないのか? 赤鬼、青鬼、黒鬼の3匹が「しょうと」の子どもをのみこんでいるのに、どうして退治されるのは赤鬼だけなのか? うーん、何かありそうです。

 それはともかく、川端健生さんの絵がよいです。おさえた色合いにかすれた筆致、キャンバス(?)の生地がそのまま生かされていて、昔話の雰囲気を出しています。

▼稲田和子 再話/川端健生 画『しょうとのおにたいじ』「こどものとも」1996年2月号(通巻479号)、福音館書店、1996年

長谷川摂子/スズキコージ『たいこたたきのパチャリントくん』

 2冊目。いやー、めちゃくちゃおもしろい! 「ぐしゃりとつぶれたおおきなやかん」から出てきた「パチャリントくん」の冒険物語。どこに連れて行かれるのか分からない、ジェットコースターのような展開に度肝を抜かれました。ちょっと破壊的なところもよいです。なんだかまだ続きがありそうな終わり方なのですが、もしかすると続編があるのかも。というか、ぜひ続きを読みたい(^^;)。スズキコージさんの絵も、炸裂しまくっています。空も波打ち歪んでいます。これはすごい。この絵本、おすすめです。

▼長谷川摂子 さく/スズキコージ え『たいこたたきのパチャリントくん』「こどものとも」2000年3月号(通巻528号)、福音館書店、2000年

V.グロツェル/G.スネギリョフ/松谷さやか/高頭祥八『むらいちばんのりょうしアイパナナ』

 今日は3冊。主人公の男の子、アイパナナの描写がよいです。はじめはがかわいく健気、「ねずみのははおや」の魔法で変身すると、たくましくりりしい青年です。なかなかカッコイイです。

▼V.グロツェル/G.スネギリョフ 再話/松谷さやか 文/高頭祥八 画『むらいちばんのりょうしアイバナナ』「こどものとも 年中向き」1997年2月号(通巻131号)、福音館書店、1997年

パット・ハッチンス『びっくりパーティー』

 「あしたうちへあつまってね」とウサギがフクロウを誘うのですが、フクロウは聞き間違えてしまいます。他の動物たちにもどんどん間違って伝わっていき……といった物語。いわば伝言ゲーム。相手の言ったことを誰もちゃんと聞いてなくて、おかしいです。あと、この絵本では、動物たちの毛なみの描写が様式化されていて、なかなか美しいです。原書の刊行は1969年。

▼パット・ハッチンス/舟崎克彦 訳『びっくりパーティー』ポプラ社、1977年。

久里洋二『ゴキブリちゃん』

 みんなに嫌われている「ゴキブリちゃん」、一念発起して音楽を勉強し、すてきな音を奏でられるようになります。そして、人間たちと仲良くなったというお話。主人公の「ゴキブリちゃん」は、かわいく描かれているのですが、設定に無理があるような……(^^;)。また、「汚い」「臭い」という表現が割と直裁に出てきます。そんなに気にするほどではありませんが、少し抵抗を感じました。

▼久里洋二『ゴキブリちゃん』ARTBOXインターナショナル、2004年