月別アーカイブ: 2006年4月

スズキコージ『イモヅル式物語』

 うーん、おもしろい! この絵本は、福音館書店の月刊誌『おおきなポケット』に1995年4月から1996年3月まで連載された「イモヅル式物語」を単行本化したもの。4ページの短い物語が第1話から第12話まで、納められています。

 一話完結型になっているのですが、どれもスズキコージさんらしく非常にユニークです。ナンセンスでクスクス笑いたくなる感じなのですが、こんな発想どこから出てくるんだろうというくらい独創的(?)。一番強烈だったのは、「ヘビの古着屋」と「バリカンくんの仙人修業」かな。

 見返しには、「イモヅル式」について、スズキコージさんの簡単なコメントが記されていました。「次々と色々な楽しくてバカバカしい(?)事件を、……ダラダラとお見せする」のが「イモヅル式」とのこと。なるほど(?)。

 実際、この「イモヅル式」はいろいろなところに読み取れます。たとえば、エピソードとエピソードが、表裏2ページに描かれたイラストで繋がっているんですね。また、句点をあまり打たずに、長い文章が多い点も、「イモヅル式」を感じさせます。

 どんどん話が転がっていき、どこに連れて行かれるか分からない……即興というか、計算ずくではない勢いがあります。けばけばしい色調と激しいタッチも、実にパワフル。まさにスズキコージさんならではです。

 ところで、うちの子ども曰く「この絵本は図鑑みたいだねえ」。大きくて分厚いところがそうだとのこと。なるほどね。大きくてしっかりとした造本は、中の高圧エネルギーに似合っている気がしました。

▼スズキコージ『イモヅル式物語』ブッキング、2005年、[印刷・製本:株式会社シナノ]

五味太郎『きみは しっている』

 岩陰に隠した肉を取られてしまったコンドル君、いったい誰が盗んだんだろうと犯人を捜す物語。

 この絵本、かなり凝っています。一つは読者参加型であること。地の文の多くはコンドル君の語りなのですが、読者に話しかける調子になっており、それが面白い効果を生んでいます。読み聞かせをしていて、コンドル君になりきる感じで楽しいです。

 絵も、コンドル君が読者の方を真正面から向いているページがあったり、読者(子ども)の反応を前提にして作られているページがあったりして、ユニーク。絵本としては珍しい表現かもしれません。

 で、読者は、コンドル君の肉を見張っていたという設定になっています。だから、タイトルの通り「きみは しっている」というわけなのですが、ここがとても重要なポイントです。

 これ以上はネタバレになるので書けません。ぜひ、読んでみてください。あっ!と驚くこと請け合いです。うちの子どもも大受けでした。いや、面白い絵本です。

▼五味太郎『きみは しっている』岩崎書店、1979年、[印刷所:光陽印刷株式会社、製本所:小高製本工業株式会社]

谷川俊太郎/和田誠『とぶ』

 空を飛ぶ夢を見た「まこと」が本当に空を飛べるようになるという物語。まさにファンタジーなのですが、細やかで体感的な描写が印象的です。なにせ初めて空を飛ぶわけで、そのあたりの様子がきちんと言葉にされています。手足を使ってのバランス、空の上の静寂さや雲の冷たさなど、なにげない表現なのですが、飛ぶことの身体的な感覚がよく伝わってきます。

 絵は、和田誠さんの軽快な色彩がとても美しい。飛ぶとはいっても、ふわふわ浮いているような感じですね。飛行機のように空間を切り裂くのではなく、風にのって空と一体化するような感覚。たとえばマンガのように飛行のベクトルを強調するような表現はありませんし、また「まこと」の表情があまり変わらないことも、その自然さを表している気がします。

 そして、ラストページ。文章の付いていないこのラストページが、なにより強く心に響きました。なんだろうな。うまく言えませんが、未知なるものへの期待というか、そんなことを感じるのです。

 この絵本は、「こどものとも」50周年記念出版の1冊です。

▼谷川俊太郎 作/和田誠 画『とぶ』福音館書店、1978年(単行本化は2006年)、[印刷:精興社、製本:清美堂]

荒井良二さんがNHK教育「あいのて」の美術を担当

 4月から始まったNHK教育の幼児向けの新番組「あいのて」、荒井良二さんが美術を担当しています。番組のサイトは、幼稚園・保育所番組のひろば|あいのて

 サイトには荒井さんの名前は見あたりませんが、ちゃんとクレジットが流れていました。というか、実際に番組を見れば一目瞭然、最初のタイトルバックからして、まさに荒井さんの絵です。

 スタジオのセットもすべて、荒井さんならではの軽やかでカラフルな色彩が踊っています。もしかすると、登場するキャラクターの衣装デザインにも荒井さんが関わっているかもしれません。なんだかそんな気がします。

 荒井良二さんのマネージメント(?)を担当されているRights Management Inc.のブログ、くうねるしごとの3月31日付けのエントリー、くうねるしごと: 「あいのて」のスタジオセットメイキング番組明日放送によると、スタジオセットは、荒井さんがライブペインティングで作られたそうです。そのメイキング番組も、4月1日と8日にNHK教育で放送されたとのこと。がーん、見逃しましたー。非常に残念です。かなり貴重な映像ですよね。うーん、再放送してほしいなあ。

 それはともかく、サイトの説明によると、「あいのて」は幼稚園・保育所番組の一つ。身の回りの様々な音(ノイズ)に“あいのて”を入れ楽しむことをテーマにしているようです。いわば音楽のプロトタイプですね。実際の番組内容は、非常にユニーク。かなり可笑しいです。とくに受けたのは、「ワニバレエ」。ナンセンスかつシュールな歌と踊りです。

 番組の中心になっているのは、野村誠さんという作曲家の方。ウェブサイトは、野村誠のページ。即興演奏や幼児の音楽遊びについての本も出版されています。そのうち、読んでみたいと思いました。

 また、ブログ、野村誠の作曲日記も開設されていて、活発に活動されている様子がうかがえます。4月12日付けのエントリーには、「あいのて」の第1回目の放送について簡単なコメントが記されているのですが、テレビのスピーカーの音質の問題など、細部にまで気を配って番組を作られている様子が分かります。

 たしか、荒井良二さんも音楽活動をされていたと思うのですが、もしかすると野村さんとは知り合いだったりして……。

川端誠『さくらの里の風来坊』

 川端誠さんの「風来坊」シリーズの1冊。時代劇絵本ですが、派手な立ち回りもチャンバラもありません。侍たちの理不尽な仕打ちに何もできなかった「風来坊」が、一心不乱に木彫りの像を彫り上げるという物語。「風来坊」シリーズの他のものと違い、活劇としての要素はほとんどなく、読みようによってはかなり重いものが込められています。絵本としては異色と言ってよいかもしれません。

 とはいえ、立ち回りを演じるよりも、お寺のお堂でひたすら彫り続ける「風来坊」の姿は、見る者に強く迫ってくるように思います。考えてみれば、時代劇にとってチャンバラは一つの側面でしかなく、階級社会の矛盾やそこに生きる人びとの苦しみを描くこともまた、重要なテーマでしょう。その点からすると、この絵本は、時代劇絵本の一つの可能性を試したものと言えるかもしれません。

 ただ、武士と市井の人びとの隔絶などは、子どもにとっては、少々、難しいでしょうね。また、この絵本では、絵に描かれる時間の流れが直線ではありません。左ページに仏像を彫る「風来坊」の現在の姿、右ページにはフラッシュバックする過去の出来事が描写されています。このあたりも、絵本の表現としては珍しいでしょうし、小さい子どもには分かりにくいと言えます。

 それでも、川端さんの力強い筆致に引き込まれます。うちの子どもも、読み終わると、ふーっと息を吐いていました。タイトルにもなっている「さくらの里」の描写には、悲しい美しさがあります。

 ところで、川端さんの他の絵本でも感じたですが、川端さんの絵は、光の描写がなかなか鮮烈。骨太にぐいぐい描かれているように見えて、その一方では、明暗の対比や光の扱いがとても繊細であるように思いました。

▼川端誠『さくらの里の風来坊』BL出版、1997年、[印刷:丸山印刷株式会社、製本:大日本製本紙工株式会社]

ミコスラフ・サセック『ジス・イズ・ケープケネディ』

 ご存じNASAのケネディ宇宙センターのあるケープケネディ(ケープカナベラル)を描いたノンフィクション絵本。前半はケープケネディに隣接するココアビーチが描写され、後半は宇宙基地と、そしてロケットの発射です。

 ココアビーチはいわば「ロケット発射台の観光地」。あらゆるお店がロケットや宇宙に関係づけられていて、なかなか面白いです。

 ふつう、海外絵本の邦訳では、お店の看板などの表記は日本語に差し替えられる場合が多いと思いますが、この絵本では、原書の英語表記のままになっています。軽やかでカラフルな色合いとも相まって、それが、たいへん効果的であるように思いました。英語の手書きのレタリングを日本語に直していたら、雰囲気は台無しです。そもそも看板というのは、街の表情を伝える上で、とても重要なポイントじゃないかと思います。

 それはともかく、うちの子どもにとって魅力的だったのは、やはり後半の宇宙基地とロケットの描写。マーキュリー計画のアトラスロケットの打ち上げが臨場感たっぷりに描かれていきます。うちの子どもは、とくに様々なかたちのアンテナが面白かったようで、また1961年にチンパンジーがロケットに乗って弾道飛行に成功したことに驚いていました。

 実は私も、読んでいて、ずいぶん昔の話だなあと思ったのですが、あとになって気がつくと、原書“This is Cape Kennedy”の刊行は1963年なんですね。だから、マーキュリー計画成功の熱気がさめやらぬ時代に刊行されたわけです。まさに有人宇宙飛行の黎明期。現在とのタイムラグについては、巻末に少し注記がありました。日本との関係もふれられていて、この間のロケット開発のスピードを実感できます。

 別の見方をすれば、ロケットや宇宙旅行について、明るい希望を持っていた時代と言えるかもしれません。それは、ラストの数ページにも表れている気がします。というか、宇宙へのそうしたあこがれは、今でも変わりないのかもしれませんね。

 ただ、その一方で、ロケット開発が当時の冷戦を背景にしていたことも確かです。そのこともまた、この絵本からは、かなりはっきりと読み取れます。フロリダの青い空、美しいビーチ、宇宙への憧憬、最先端の科学技術、そして軍事開発。それが一つに集まっているのがケープケネディという場所。

 とはいえ、絵は明るく軽快。古さをまったく感じさせません。途中まで刊行年を勘違いしていたほどです。

 この絵本は、世界の様々な都市を取り上げた“This is ……”シリーズの一冊。他には、ニューヨーク、パリ、ロンドン、サンフランシスコ、ミュンヘン、等があるようです。また読んでみたいと思います。

▼ミコスラフ・サセック 著/松浦弥太郎 訳『ジス・イズ・ケープケネディ』ブルース・インターアクションズ、2006年、[装幀:加藤雄一、日本語版編集:荒木重光、印刷・製本:大日本印刷]