月別アーカイブ: 2004年9月

武井武雄/吉田絃二郎/宮脇紀雄『たおされた き』

 今日は3冊。この絵本は「武井武雄絵本美術館」シリーズの1冊。ある高い山の上にある大きな一本のクスノキ。夜には小鳥の宿になり、下に生えている小さな草花たちを雨や風から守っていたのですが、殿様のお城を直すために切られてしまうという物語。草花たちは、自分たちがクスノキに助けられて生きていることをまったく分かっておらず、結局、枯れていきます。ラストシーンも象徴的で、少し教育的と言えるかもしれません。絵は、顔がおもしろい。殿様の顔、太陽の顔、草花にも顔がついていてシュールです。でも、クスノキには顔は描かれていないんですね。
▼武井武雄 絵/吉田絃二郎 原作/宮脇紀雄 再話『たおされた き』フレーベル館、1998年

たむらしげる『おばけのコンサート』

 古い家に住んでいる「ちいさな おばけ」がハーモニカを吹いていると、いろんなお化けが楽器を持って訪ねてきます。みんなで陽気に演奏会、お化けの歌を歌い踊るというお話。見開き2ページを基本にし、「トントン!」というドアをたたく音に合わせてページをめくるごとに新しいお化けが登場するという楽しい趣向。このリズムがラストのおちにも生きています。よく見ると、たむらさんの絵本でおなじみのロボットの「ランスロット」も小さく描き込まれ踊っています。2000年に一度刊行されたものの再刊。この絵本、おすすめです。
▼たむらしげる『おばけのコンサート』福音館書店、2004年

赤羽末吉『おへそがえる・ごん 3 こしぬけとのさまの巻』

 「おへそがえる・ごん」シリーズの第3巻。完結編です。今回は、かみなりの「へそとりごろべえ」が登場。「ごん」や「けん」、「どん」、そして「ぽんた」と「こんた」、みんなで協力して、「あかぐん」と「みどりぐん」のいくさをやめさせます。ユーモラスな描写は相変わらず絶好調で大いに笑ったのですが、と同時に、今回は激しい戦争とそれがもらたらすものが印象深く描かれています。シリーズの他の巻と同じく、白と黒以外は赤と緑の2色のみが使われているのですが、その赤の色使いがこれまでになく鮮烈。それは表紙にもはっきりと表れていて、子どもを背負って走る「おへそがえる・ごん」を赤黒い炎が取り巻いています。ところで、「おへそがえる・ごん」シリーズ、これで終わりだと思うとなんだか悲しいです。第3巻で物語はもちろん完結していますが、登場するキャラクターの実に生き生きとした活躍からすると、まだまだおもしろい続きがありそうなのに、もうおしまい。名残惜しい気持ちになりました。
▼赤羽末吉『おへそがえる・ごん 3 こしぬけとのさまの巻』福音館書店、1986年

アネット・チゾン、タラス・テーラー『まほうにかかった動物たち』

 今日は3冊。「まほうの色あそび」シリーズの1冊。今回、「ハービィ」とイヌの「アンジェロ」は、古い魔法の本に載っていた実験の話を読み、色の魔法を使って、からだの色を変える不思議な動物を創造します。パーンと飛び出した動物たちを追いかけて、湖の古いお城のある島に向かうというストーリー。シリーズの他の絵本と同じく、紙のページの間に彩色した透明なビニールのページがはさんであり、それをめくると鮮やかに動物たちが浮かび上がってきます。紙面とビニール面の色や模様が重なりずれていくときの美しさ。めくるというアクションによって二次元の色と形がダイナミックに変化していき、おもしろいです。うちの子どもも、一人でビニールのページを動かして楽しんでいました。通常の紙面での彩色の仕方や白の残し方もスタイリッシュ。独特の味があります。原書の刊行は1980年。
▼アネット・チゾン、タラス・テーラー/竹林亜紀 訳『まほうにかかった動物たち』評論社、1984年

ヒルデ・ハイドゥック-フート/佐久間彪『きいてよ こいしが はなしてる』

 この絵本はだいぶ前に古本屋で購入したのですが、至光社から刊行されている「月刊カトリック保育絵本」の1冊。裏表紙には「かみさまに はじめて きがつく えほん」と書かれたマークも付いています。とはいえ、そんなに宗教色は強くありません。画面はいろんな色と大きさの石がさまざまに配置されて描かれ、それに文章が付いています。寓意的な物語。なんとなく個人と社会の関係のあり方について考えさせられます。

それに ぼく きゅうくつなの すきじゃない
ほらね このほうが ずっと いい
いっしょなのに ひとり
ひとりなのに いっしょ

奥付を見ると、もともとはドイツで出版された絵本のようです。
▼ヒルデ・ハイドゥック-フート 作/佐久間彪 文『きいてよ こいしが はなしてる』「こどものせかい」第48巻第5号、至光社、1995年

横溝英一『はこねのやまの とざんでんしゃ』

 今日は2冊。この絵本で描かれるのは箱根登山鉄道。箱根湯本駅から強羅駅まで、114と112の2両連結の電車が走ります。単線であるためすれ違いの待ち合わせが必要であることや、急な坂を上ったり急なカーブを走るための様々な工夫(特別のブレーキやスイッチバックや水タンク)の説明があり、なかなか興味深い。いろんなお客さんと車掌さんのやりとりも人間味にあふれています。絵はとても写実的。季節は秋なのですが、途中の美しい紅葉と、山を登るにつれて木々の葉が減っていく様子もていねいに描かれています。巻末には地図も付いていました。読んでいると、ぜひ一度、箱根登山鉄道に行ってみたくなります。1993年には「かがくのとも傑作集」として単行本化。この絵本、おすすめです。
▼横溝英一『はこねのやまの とざんでんしゃ』「かがくのとも」1989年11月号(通巻248号)、福音館書店、1989年

アネット・チゾン、タラス・テーラー『動物たちのかくれんぼ』

 以前読んだ『三つの色のふしぎなぼうけん』と同じく「まほうの色あそび」シリーズの1冊。「ハービィ」とイヌの「アンジェロ」は、アフリカ(?)に出かけて昆虫採集。帰ってからその写真のスライドを友だちに見せていくという設定です。今回も、紙のページの間に彩色した透明なビニールのページがはさんであり、それがおもしろい効果を生んでいます。いわゆる隠し絵ですね。ビニールのページをめくるといろんな動物が現れます。今度は何が出てくるんだろうと楽しめます。
▼アネット・チゾン、タラス・テーラー/竹林亜紀 訳『動物たちのかくれんぼ』評論社、1984年

竹内通雅『だまちゃん』

 ネコ(?)がいろんな動物たちの体のいろんな部分がどんどん自分にくっつけていくというストーリー。ウサギの耳、ブタの鼻、ニワトリの口、タヌキのしっぽにタコの足、カニのハサミと、どんどん付け加わっていきます。
 しかも、このネコ、かなり乱暴。相手がいやがっていていも、無理矢理、交換します。エリック・カールさんの『ごちゃまぜカメレオン』と少し似ていますが、描写はもっとダイナミック。手書きのセリフ文字もたくさん描き込まれ、そこにもネコの傍若無人ぶりが現れています。
 後半になると、今度は立場が逆転し、シカやライオンやタカなどが自分からネコにたてがみや角や翼などをあげていき、ネコは困った顔。なんとも妙ちきりんな怪物ができがります。
 そして、驚きのラスト。「えっ、そうだったのか!」とびっくりしました。これはなかなかすごい。もう一度よくみてみると、とびらのページやラストの前のページにそれとなくヒントが描かれているんですね。でも、表紙が少し謎。うーむ、何か含意がありそうでないような……。
▼竹内通雅『だまちゃん』架空社、2004年