今日は1冊。トランプの家から出てきた兵隊たちが、どちらがさかさまなのか、けんかをするお話。たとえばエッシャーのそれのように、どの絵も、部分的に上下が逆転し、空間がねじれていて、おもしろい。見開き2ページを180度回転させながら読んでいきました。なんだかアタマがくらくらしてきます。ラストページは地球。まるい地球のうえにいるから、誰もがみんな上下さかさまってことかもしれませんね。
ところで、うちの子どもが気が付いたのですが、どのページにも必ずジョーカーが登場します。「あ、ここにいる!」とそのつど見つけて楽しみました。あと、裏表紙が必見です。まさに「さかさま」。この絵本、おすすめです。
▼安野光雅『さかさま』福音館書店、1969年
「絵本」カテゴリーアーカイブ
デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』
今日は、ラストページに描かれている、主人公の男の子の部屋に注目。うちの子ども曰く「お魚ばっかりだねえ」。たしかに、魚介類をモチーフにしたいろんなものが部屋に飾ってあります。なるほど。主人公の男の子は魚介類ファン(?)で、だから、魚介類のかたちの雲を描いたというわけですね。とすると、一番最初のページで、男の子がバスの窓に指でなぞって魚を描いていたのも理解できます。いろいろ伏線が張ってあって、おもしろいです。
▼デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』BL出版、2000年
ジョン・バーニンガム『ショッピング・バスケット』
今日は2冊。お母さんにおつかいを頼まれた「スティーブン」、ところが途中でいろいろな動物たちが品物をよこせと言ってきます。それを切り抜けていく物語。どの動物もけっこう乱暴で、なんというか、まちなかでカツアゲをしているような描写。「スティーブン」の肩に手をおいて顔を近づけ、すごんでいます。うーむ、こういうのって私が中学生のときにもいたなあ。これに対し「スティーブン」はいつも沈着冷静、創意工夫で突破していきます。でも、結局は、買ったばかりの品物を一つずつなくしていくのですが……。
基本的に見開き2ページで動物たちが「スティーブン」にすごんでいる場面が描かれ、めくった次の見開き2ページで「スティーブン」がそれをどう切り抜けたのかが描写されています。緊張と解放が交互に現れ、次はどうなるんだろうと楽しめます。最初の方のページには「スティーブン」が動物たちに出会う場所があかじめ描写されており、また一つずつなくなっていく品物もそのつど描かれていて、これもおもしろい作り。あ、カツアゲなんて書きましたが、絵はとてもユーモラスで、恐いということはないです。原書の刊行は1980年。
▼ジョン・バーニンガム/青山南 訳『ショッピング・バスケット』ほるぷ出版、1993年、[表紙デザイン:羽島一希]
ウィリアム・スタイグ『ザバジャバ ジャングル』
今日は1冊。やはり謎の多い物語。「へんてとこなトリ」(どうも「フローラ」という名前らしい)はどうして「レオナルド」を助けたんだろう? 「レオナルド」はなぜ動物の裁判にかけられたんだろう? 「レオナルド」のお母さんとお父さんはどうして捕まっていたんだろう? いろいろサイドストーリーがありそうな感じです。それにしても、「レオナルド」、いつも沈着冷静、果敢に前に進んでいく姿はなんだか大人びていて、りっぱ。でも、物語のラストでお父さんやお母さんといっしょになる場面では、笑みが広がり、子どもらしい表情です。
▼ウィリアム・スタイグ/おがわえつこ 訳『ザバジャバ ジャングル』セーラー出版、1989年
もとしたいずみ/荒井良二『すっぽんぽんのすけ デパートへいくのまき』
「すっぽんぽんのすけ」シリーズの第3弾。今回、「すっぽんぽんのすけ」は「おかあさん」と一緒にデパートに出かけるのですが、そこに現れるのが、ご存じ、イヌの忍者たち。大暴れをする忍者たちに、「すっぽんぽんのすけ」が立ち向かいます。
第1弾はお風呂上がり、第2弾は銭湯と、これまでのところハダカなのが当たり前の舞台でしたが、今回はお客さんがいっぱいいる、まちなかのデパート。いったいどうやって「すっぽんぽんのすけ」に変身(?)するのかと思ったら、なるほどねーのアイデア。つまり、スーパーマンですね。
でも、そうはいっても真っ裸なわけで、それに声援(?)を送るお客さんや店員さんが、なんともおかしい(^^;)。みんな当たり前に接しているんですね。
そんななか、今回、注目なのが「係長」。いや、何のセリフもありませんし、文章中にもまったく出てこないのですが、絵のなかにだけ描き込まれている人物です。メガネをかけて七三分け、割と真面目そう。この「係長」だけは、なぜか「すっぽんぽんのすけ」が「すっぽんぽん」であることに焦りまくり、汗をダラダラ流して、表情豊かに反応しています。この「係長」のリアクションを見ているだけで、いろいろ伝わってきます(^^;)。あるいは、裏の主人公かも。
うちの子どもは、「すっぽんぽんのすけ」の術に突っ込みを入れていました。「返しの術だけだねえ」。相手が攻撃してこないと使えないという、考えてみれば不思議な術ですね。
あと、「すっぽんぽんのすけ」の「おかあさん」、洋服選びに夢中で、自分の息子がどうなっているのか、まったく分かっていません。いいかげん気付けよ!って感じです(^^;)。
▼もとしたいずみ 作/荒井良二 絵『すっぽんぽんのすけ デパートへいくのまき』鈴木出版、2004年
佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』
今日は2冊。この絵本は「ムッシュ・ムニエル」シリーズの1冊。ひょんなことでサーカスの一員になった「ムニエル」が、いろんな魔法を見せる物語。たくさんの魔法の呪文を使うのですが、同じ呪文でも一つが成功すると別のものがおかしくなって、サーカスは大混乱。絵は以前読んだものよりもだいぶマンガ的。コマ割りやセリフのフキダシがけっこうあります。とはいえ、魔法の結果がめくった次のページに描かれており、めくったときのインパクトがおもしろいです。
▼佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルのサーカス』絵本館、2000年
長新太『つきよのかいじゅう』
今日は1冊。昔から怪獣がいると言われている山奥の深い湖。もう何十年も怪獣が出てくるのを待っている一人の男の前に、ついに怪獣が浮かび上がってきます。その正体とは……。いやー、これはびっくり! いわばゲシュタルト転換。驚きの展開に口あんぐりです。一度知ってしまうと表紙もまともに(?)見られなくなります。
それはともかく、月の光に青く照らされた湖の風景がとても美しい。小さく描かれた男の影も、その姿勢の変化が実に多くのことを物語っています。満月だった月がラスト、半月になっているのも印象的。この絵本、おすすめです。
▼長新太『つきよのかいじゅう』佼成出版社、1990年
佐々木マキ『ぶたのたね』
今日は1冊。走るのがとても遅くて、これまで一度もブタを捕まえて食べたことがない「おおかみ」(食べるのは野菜と木の実だけ)、「きつねはかせ」からなんと「ぶたのたね」をもらいます。この種をまいて「はやくおおきくなるくすり」をふりかけると、「ぶたの木」の芽が出てどんどん大きくなり、ついにたくさんの「ぶたの実」がなります。りっぱな木に鈴なりになった「ぶた」「ぶた」「ぶた」……! いやー、実にシュールでインパクトのある画面です。他にも「ぞうのマラソン」など「えっ!」と驚くおかしさ。この絵本、おすすめです。
▼佐々木マキ『ぶたのたね』絵本館、1989年
ウィリアム・スタイグ『ザバジャバ ジャングル』
今日は1冊。誰も入ったことがないという「サバジャバジャングル」。主人公の「レオナルド」は、不思議な動物や植物と出会ったり、いろんな危機を乗り越えて、先を進んでいきます。この絵本、まず設定がおもしろい。最初「レオナルド」は、どうして自分がジャングルにいるのか自分でも分からず、それでも「とにかく すすまなくちゃ!」ということでどんどん歩いていきます。物語の最後になってジャングルにいる理由が明らかになるのですが、いろいろ謎が残ります。説明があまりなくて、なんだか魔法をかけられたような感じ。それはまた、先に何が現れるかまったく分からない未踏のジャングルを進む「レオナルド」と同じ境遇で、おもしろいです。絵は、濃密なジャングルの草木の合間にいろいろ生き物が描き込まれていて、これも楽しい。カラフルな色合いで草木にまぎれているので、発見があります。うちの子どもは、怪獣の化石の「おしりのあな」に受けていました。好きだねえ。原書の刊行は1987年。
▼ウィリアム・スタイグ/おがわえつこ 訳『ザバジャバ ジャングル』セーラー出版、1989年
デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』
ある日、学校の課外授業でニューヨークのエンパイア・ステートビルを訪れた男の子。展望台で小さなの雲の子と出会います。雲の子に載って空に飛び立った男の子がたどり着いたのは「セクター7」、ニューヨークの周辺地域にさまざまな雲を送り出し管理する空中浮遊施設。そこで巻き起こる騒動が描かれています。
この絵本は、文字がなく絵のみ。そのため、絵を見ながら自分でストーリーと会話を考えて読み聞かせをしました。これがなかなかおもしろい。なにより絵がとても魅力的で、まるで一編の映画を見ているよう。文章を考えるのにも、まったく苦労しません。いろいろ細部を発見しながら読み聞かせに工夫することもできます。
絵は、ふわふわ浮かぶ雲の描写も表情豊かで素晴らしいのですが、心引かれるのはやはり、タイトルにもなっている「セクター7」。お城のように巨大な空中浮遊施設で、そのメカニックな造形は、ハイテクというよりは、どことなく懐かしさを感じます。プロペラや風車、人力の大きなボード、職員たちはクリップにコルクボードで鉛筆を使い、古い型の受話器にスタンド、雲のスタイルが描かれた青写真の図面……。施設の内部は古いつくりの大きな駅を思い起こさせます。こういういわば人間(?)くさい部分が物語の楽しい結末にも生きているような気がします。
カバーの著者紹介によると、ウィーズナーさんは、この絵本のために視界ゼロの日を選んでエンパイア・ステートビルを訪れたのだそうです。その日にビルの展望台にはウィーズナーさん一人だったとのこと。原書の刊行は1999年。この絵本、おすすめです。
▼デイヴィッド・ウィーズナー『セクター7』BL出版、2000年