月別アーカイブ: 2006年1月

片山健さんの表紙 富士ゼロックスの広報誌『グラフィケーション』142号

 今日、届いた富士ゼロックスの広報誌、GRAPHICATION グラフィケーションの最新号(142号)、片山健さんが表紙の絵を担当されています。冬の野外(?)で遊ぶ子どもたちの姿が描かれています。のびやかで暖かで、なかなか、よい感じです。

 GRAPHICATION、1年くらい前から送ってもらっているのですが、毎号、非常に興味深い特集で、楽しみにしています。今回の特集は「子どもたちは、いま…」。片山健さんの表紙と呼応しています。また、連載の執筆陣も、粉川哲夫さん、平井玄さん、結城登美雄さん、池内了さん、他と、かなり強力です。

 あと、GRAPHICATION の表紙は毎号、いろんな方が担当されているのですが、絵本作家の方も割とよく描かれています。たとえば、ここ1年くらいだと、スズキコージさん、ささめやゆきさん、山口マオさん。

 これだけの内容を備えたメディアが、原則無料で購読できるのは、本当に驚きです。ずっと刊行し続けてほしい広報誌です。関心のある方は、ぜひ、上述のサイトをのぞいてみて下さい。バックナンバーの表紙や目次も見ることができます。

アートンの期間限定「絵本カフェ」

 六本木経済新聞 – 広域六本木圏のビジネス&カルチャーニュース、1月19日付けの記事、ニュース – アートン、西麻布に期間限定の「絵本カフェ」

 出版社、アートンが、西麻布の韓国茶菜房「三丁目カフェ・スーペ」で、期間限定の「絵本カフェ」を開いたそうです。「三丁目カフェ・スーペ」が店舗拡張を予定しており、その工事開始までとのこと。韓国やインドの絵本が並べられ、お絵かきスペースもあるとのこと。写真も付いていましたが、子どもも一緒に入れそうな感じです。

 アートンのサイトを見てみたのですが、とくに関連情報は載っていないようでした。韓国茶菜房「三丁目カフェ・スーペ」の紹介のセクションは、韓国茶菜房三丁目カフェ『スーペ』韓国伝統茶・お菓子・お粥・お酒・小夜食です。

 絵本カフェ、最近かなり流行っているようですね。以前のエントリー、「絵本を知る: 「丸の内ブックカフェ」」でも、丸の内の期間限定の絵本カフェのことを書きましたが、期間限定ではない通常の絵本カフェも全国各地にあるようです。ウェブサイトを開設しているカフェも多いようで、検索をかけると、結構あります。そのうち、(時間ができたら)簡単なリンク集を作ってみたいと思います。

長新太『にゅーっ する する する』

 これはすごい! 地面のようなものから一本の「手」が「にゅーっ」と突き出て、いろんなものを「する する する」と引きずり込んでいくという物語(?)。文章のほとんどは「にゅーっ」と「する する する」の繰り返しになっています。

 とにかく絵のインパクトが強烈。「手」に捕まったいろんなものが地面(?)にアタマからずぶずぶとはまりこんでいきます。足の先だけが地面(?)から突き出ていたりします。靴が脱げて転がっていたりします。

 いや、これは見ようによっては、明らかににホラーですね。突き出てくる「手」にしても、ぐにゃぐにゃしていて、この世のものとは思えません。地面のように見えるものも、地平線いっぱいにまで広がり、赤オレンジ色をしています。空はピンクと黄色です。ある種、彼岸の景色かもしれません。

 うちの子どもも、ちょっと怖かったようです。読み終わったあとで「読まなければよかったかなー。夢に出てくるかも」なんて言っていました。

 いや、もちろん、長さんの絵本ですから、どことなくユーモラスです。最後のページも、おかしみがあります。面白いような怖いような、なんともいえない魅力のある絵本です。

 ところで、「手」が出てくる地面なんですが、「地面」とは簡単に言えない気がしてきました。もっと柔らかで、なま暖かいもの。泥とか。もしかすると、絵の具かもしれないな。固形ではないです。

 考えてみると、こういう柔らかなものにはまりこむというモチーフは、長さんの他の絵本でも読み取れる気がします。あくまで、なんとなくなんですが……。

▼長新太『にゅーっ する する する』福音館書店、1989年(「年少版こどものとも」としての発行は1983年)、[印刷:大日本印刷、製本:多田製本]

高知県立図書館が「大人のための絵本」コーナーを開設

 1月13日付けの高知新聞の夕刊記事、高知新聞ニュース■生活に役立つ県立図書館 丸地館長が新機軸次々■によると、高知県立図書館では、「大人のための絵本」コーナーが今月末まで開設されているそうです。

 記事の主要部分は、昨年4月に館長に就任された丸地真人さんの様々な新機軸の紹介です。丸地さんは、かの有名な浦安市立図書館の司書をされていた方で、異例の登用で館長に招かれたとのこと。丸地さんの年齢は、なんと41歳! これは大抜擢なんじゃないでしょうか。よくは分かりませんが、公立図書館の館長というと、それなりに年配の方が多い気がします。41歳の若さは、かなりの驚きです。もしかして、都道府県立図書館のなかでは最年少の館長だったりして。

 しかし、その若さと浦安市立図書館での経験を生かして、斬新な取り組みをされているようです。浦安市立図書館といえばビジネス支援が割と有名と思いますが、高知県立図書館でもさっそくビジネスコーナーが設けられているようです。

 で、「大人のための絵本」コーナーですが、これは企画展の一つ。高知県立図書館のサイト、高知県立図書館 Kochi Prefectural Libraryを見てみると、戌年にちなんだイヌ関連のコーナーや南海地震やアスベスト、鳥インフルエンザ、「功名が辻」など、アクチュアルなテーマでいろいろな展示が行われています。うーむ、すごいですね。上記の記事にも書いてありましたが、大型書店なみの充実ぶりです。

 「大人のための絵本」コーナーについては、柳田邦男さんの『砂漠でみつけた一冊の絵本』で取り上げられている絵本を中心にしていると説明がありました。高知新聞の記事に載っている丸地さんの言葉では、12月は自殺者が一番多いと知ったことが開設のきっかけだそうです。「厳しい社会でまいっている大人に、絵本の力で元気になってもらいたい」とのこと。実際、コーナーで読みふける大人の男性もいるそうです。

 サイトでの説明を少し引用します。

 「絵本は子どもが読むもの」そう考えていらっしゃる方はいませんか?

 よく考えて創られた絵本はとても奥深く、大人にも大きな感動を与えてくれるものです。
 年末年始にかけて楽しいイベントが目白押しの中で、様々な悩みを抱えていらっしゃる方も 少なくありません。大人に生きる力を与えてくれる絵本をご紹介することも図書館の役割の一つです。

 まったくその通りですね。この展示が、これまで絵本に縁のなかった大人に、絵本の奥深さと広がりを知る機会になるなら、素晴らしいと思います。

 ただ、ちょっとひねくれた見方かもしれませんが、「大人に生きる力を与えてくれる絵本」という表現には、若干の抵抗を感じます。いや、本当に私の感覚が歪んでいるのかもしれませんが、「生きる力」というのが、どうもなー。

 うーむ、この違和感をどう説明したらよいのか、よく分からないのですが、なんとなく絵本=癒しというフォーマットが醸成されている気がしてしまうのです。もちろん、癒しの要素は大きいとは思いますが、でも、個々の絵本のポテンシャルはそれに収まるものではないような……。いや、なんだか無意味なケチをつけている気もしますね。すいません。

 それはともかく、高知県立図書館、これからの展開に注目です。

「こどものともセレクション」の思い出を募集

 昨日の記事で紹介した福音館書店の「こどものともセレクション」ですが、今日更新されたこどものとも50周年記念ブログこどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店からのお知らせの最新記事、こどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店から(第27回)によると、刊行を記念して同セットの絵本にまつわる思い出を募集するそうです。「こどものとも」折込付録に掲載するとのこと。

 詳細は次回の「福音館書店からのお知らせ」に掲載されるそうですが、福音館のホームページのレビュー欄に書き込むか、あるいは郵送・FAX・メールで受け付けるようです。

 うちでは『ふくのゆのけいちゃん』が本当に大事な絵本になっているのですが、ただ、「思い出」というにはまだ早すぎますね。

 それはともかく、関心のある方は、ぜひ応募されてみてはいかがでしょう。

「こどものともセレクション」が刊行

 福音館書店から1月に「こどものともセレクション」が刊行されるそうです。福音館書店に案内のページ、福音館書店|こどものともセレクションがありました。引用します。

「こどものとも」50年の歴史の中から、1970年代を中心に近年の話題作まで、物語絵本、民話、ナンセンス、写真、字のない絵本など、様々なジャンルの絵本15冊を厳選しました。思い出の絵本がハードカバーで再登場です。

 ラインナップを見てみると、なかなかバラエティに富んだ内容です。読んだことがないものが多いのですが、 なかがわりえこさんと、やまわきゆりこさんの『ちいさいみちこちゃん』、谷川俊太郎さんと和田誠さんの『とぶ』、谷川俊太郎さんと長野重一さんの写真絵本、『よるのびょういん』が惹かれます。

 そして、非常にうれしい単行本化が二つ。長新太さんの『どろにんげん』と、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』です。

 長新太さんの『どろにんげん』は、これまで単行本化されなかったのが不思議なくらいの大傑作だと思います。いや、傑作というよりは怪作と言った方がよいかもしれません。これはもう、未読の方はぜひ読んでみて下さい。もちろん、長さん一流のナンセンスなのですが、どことなく底知れないというか、独得の凄みのある絵本です。

 いや、別に何か怖いわけではありません。しかし、この『どろにんげん』も含めて、長さんの絵本には、ある種のホラーの系譜があると私は思っています。

 それから、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』。こちらの単行本化は、本当にうれしいの一言です。「こどものとも」版で、うちの子どもと一緒に何百回も読んだ、まさに思い出(いや、まだ早すぎるかな?)の絵本です。ぼろぼろになって、表紙や背表紙を補強してさらに読みました。テキストは完全に覚えてしまいました。なぜあんなに好きだったのか謎なのですが、とにかく、うちの子どもの一番のお気に入りだったのです。

 実は、今はあまり手に取らなくなってしまったのですが、せっかくなので、購入してみようかなと思います。単行本で持っていたい絵本です。でも、たぶん、ぼろぼろになった「こどものとも」版もずっと持っているでしょうね。

H.A.レイ/エミイ・ペイン『ポケットのないカンガルー』

 お母さんカンガルーの「ケイティ」は、おなかのポケットがありません。だから、小さな坊やの「フレディ」をどこにも連れて行くことができないのです。ポケットのことを考えるたびに、「ケイティ」は悲しくなり、大きな涙が落ちてきます。この絵本は、そんな「ケイティ」が最後の最後に「ポケット」を手に入れる物語。

 前半は悲しい展開です。他の動物の真似をしてなんとかポケットなしで子どもを運ぼうとするのですが、うまくいきません。そのたびにがっかりして泣いてしまうわけです。

 そんな「ケイティ」ですが、常に前向き。なんとかしようと頑張ります。そして、ついに、「フクロウ」からヒントをもらい、最高の「ポケット」を見つけるわけです。

 このメリハリのある物語は、明るい色彩で勢いのある絵と、とてもよく呼応していると思います。それが一番よく表れているのは、「ケイティ」が素晴らしいポケットに「フレディ」を入れて、汽車よりも速くフルスピードでジャンプしている画面。見開き2ページをいっぱいに使った躍動感あふれる描写です。

 ところで、この絵本、読みようによっては、子育てをめぐる困難とその解決を描いているようにも思えました。つまり、子育ては、他の人の真似をしてもうまくいかず、自分で工夫しないといけないということ。まさに唯一無二の出来事が起こるわけです。また、場合によっては、市場が助けになることもあること。それでも、周りの自発的なサポートが必要であること。

 そして、「ケイティ」がそうであったように、助けられた者は今度は、みずから助ける者になること。

 いや、それほど大したことではないかもしれませんが、いろいろ読み取れる気がします。

 巻頭には、レイさんから日本の読者へのメッセージが掲載されていました。また、カバーには、訳者の西内さんの案内が載っています。1970年に邦訳が刊行され、その後、1994年に原作と同じ判型で復刊されたそうです。

 原書”KATY No-Pocket”の刊行は1944年。1972年にリニューアルされているようです。

▼画家 H.A.レイ/作者 エミイ・ペイン/訳者 西内ミナミ『ポケットのないカンガルー』[改訂版]偕成社、1994年、[印刷:大日本印刷(株)、製本:造本工業(株)]

絵本の復刊の動き

 読売新聞、1月3日付けの記事、懐かしの絵本 続々復刊 : とれたて!ミックスニュース : ニュース : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)。1950年代から70年代にかけて出版された絵本や児童書の復刊が続いているそうです。

 筆頭に挙げられているのは、『ちびくろ・さんぼ』(瑞雲社)。これは、かなり話題になりましたね。これまでに30万部発行したとのことで、すごいです。他にも、学研、光文社、集英社が絵本や児童書を復刊しているそうです。

 復刊ドットコムの担当者の方の話もありましたが、全体の復刊リクエストのうち1割近くが児童書分野。当然ながら、子どもというよりは親世代からのリクエストのようです。

 なんとなくですが、絵本や児童文学は、記憶の奥底に深く刻まれるものなのかなと思います。もう一度読んでみたいという気持ちの強さが違うのかもしれません。たとえば、bk1はてなこどもの本のカテゴリーの質問一覧を見ても、子どもの頃に読んだ絵本や児童文学のタイトルを教えてほしいという質問が並んでいます。こんなふうに、ある程度確かなニーズがあるから、復刊がビジネスとして成り立っていると言えるかもしれません。

 もう一つ思うのは、世代による違いです。こういう絵本や児童文学の記憶がきちんと存在するのは、もしかすると、戦後のある一定の時期以降のことなのかもしれません。いや、出版の歴史をきちんと調べたわけではないので、よくは分かりませんが……。

 世代ということに関連しますが、上記の記事での赤木かん子さんの指摘は、なるほどなと思いました。赤木さんは復刊ブームを「ノスタルジー出版」と評し、次のように言われています。

ただ子どもや孫に与えても、自分と同じように感動するとは限りません。大人が楽しむ一種の古典文学として支持されていくでしょう」

 自分が感動したからといって、必ずしも子どもが感動するわけではない……。たしかに、そうですね。絵本や児童文学の記憶はおそらく非常に個人的なものではないかと思います。だから、簡単に共有できるものはないでしょう。だから、復刊絵本は、大人のための絵本の一パターンとして定着するということ。

 もちろん、世代を超えて受け継がれていく絵本も確実に存在するわけで、親が楽しんだ絵本を子どもも楽しむこともあります。ただ、押しつけにならないように気を付ける必要はあるかなと思いました。

バーナード・ウェーバー『アリクイのアーサー』

 主人公はアリクイの男の子「アーサー」。この絵本では、「アーサー」のお母さんの「わたし」が語り手となり、5つの物語が語られています。どれも、ほほえましい親子のやりとりが描かれており、読んでいるとニコニコしてきます。

 一番最初のページでは、お母さんが「ふだん」の「アーサー」を紹介するのですが、これがまた実に愛情にあふれています。なにせ「もんくなしに すばらしい むすこ」なのです。この辺り、私も非常によく分かります。いやまあ、要するに親ばかなんですね。

 で、そんな素晴らしい「アーサー」も時々、「こまった子」になってしまう。その5つのエピソードが語られるのですが、「こまった」とはいっても、もちろん、かわいく愛らしいものです。うちで一番受けたのは、「アーサー」の食べ物の好き嫌いのこと。なにせ「アリクイ」ですから、人間の好き嫌いとは訳が違います。つい笑ってしまいます。

 絵は、「アーサー」とお母さんの表情がよいです。二人ともあまり表情が変わらないのですが、会話のやりとりに応じて、微妙なニュアンスが描かれ、なかなかおもしろい。目元のちょっとした違いです。

 唯一不満(?)なのは、この絵本では、お父さんがまったく登場しないことかな(^^;)。

 原書”An Anteater Named Arthur”の刊行は1967年。

▼バーナード・ウィーバー/みはらいずみ 訳『アリクイのアーサー』のら書店、2001年、[印刷:精興社]