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H.A.レイ/エミイ・ペイン『ポケットのないカンガルー』

 お母さんカンガルーの「ケイティ」は、おなかのポケットがありません。だから、小さな坊やの「フレディ」をどこにも連れて行くことができないのです。ポケットのことを考えるたびに、「ケイティ」は悲しくなり、大きな涙が落ちてきます。この絵本は、そんな「ケイティ」が最後の最後に「ポケット」を手に入れる物語。

 前半は悲しい展開です。他の動物の真似をしてなんとかポケットなしで子どもを運ぼうとするのですが、うまくいきません。そのたびにがっかりして泣いてしまうわけです。

 そんな「ケイティ」ですが、常に前向き。なんとかしようと頑張ります。そして、ついに、「フクロウ」からヒントをもらい、最高の「ポケット」を見つけるわけです。

 このメリハリのある物語は、明るい色彩で勢いのある絵と、とてもよく呼応していると思います。それが一番よく表れているのは、「ケイティ」が素晴らしいポケットに「フレディ」を入れて、汽車よりも速くフルスピードでジャンプしている画面。見開き2ページをいっぱいに使った躍動感あふれる描写です。

 ところで、この絵本、読みようによっては、子育てをめぐる困難とその解決を描いているようにも思えました。つまり、子育ては、他の人の真似をしてもうまくいかず、自分で工夫しないといけないということ。まさに唯一無二の出来事が起こるわけです。また、場合によっては、市場が助けになることもあること。それでも、周りの自発的なサポートが必要であること。

 そして、「ケイティ」がそうであったように、助けられた者は今度は、みずから助ける者になること。

 いや、それほど大したことではないかもしれませんが、いろいろ読み取れる気がします。

 巻頭には、レイさんから日本の読者へのメッセージが掲載されていました。また、カバーには、訳者の西内さんの案内が載っています。1970年に邦訳が刊行され、その後、1994年に原作と同じ判型で復刊されたそうです。

 原書”KATY No-Pocket”の刊行は1944年。1972年にリニューアルされているようです。

▼画家 H.A.レイ/作者 エミイ・ペイン/訳者 西内ミナミ『ポケットのないカンガルー』[改訂版]偕成社、1994年、[印刷:大日本印刷(株)、製本:造本工業(株)]