「絵本を知る」カテゴリーアーカイブ

片山健さんの表紙 富士ゼロックスの広報誌『グラフィケーション』142号

 今日、届いた富士ゼロックスの広報誌、GRAPHICATION グラフィケーションの最新号(142号)、片山健さんが表紙の絵を担当されています。冬の野外(?)で遊ぶ子どもたちの姿が描かれています。のびやかで暖かで、なかなか、よい感じです。

 GRAPHICATION、1年くらい前から送ってもらっているのですが、毎号、非常に興味深い特集で、楽しみにしています。今回の特集は「子どもたちは、いま…」。片山健さんの表紙と呼応しています。また、連載の執筆陣も、粉川哲夫さん、平井玄さん、結城登美雄さん、池内了さん、他と、かなり強力です。

 あと、GRAPHICATION の表紙は毎号、いろんな方が担当されているのですが、絵本作家の方も割とよく描かれています。たとえば、ここ1年くらいだと、スズキコージさん、ささめやゆきさん、山口マオさん。

 これだけの内容を備えたメディアが、原則無料で購読できるのは、本当に驚きです。ずっと刊行し続けてほしい広報誌です。関心のある方は、ぜひ、上述のサイトをのぞいてみて下さい。バックナンバーの表紙や目次も見ることができます。

アートンの期間限定「絵本カフェ」

 六本木経済新聞 – 広域六本木圏のビジネス&カルチャーニュース、1月19日付けの記事、ニュース – アートン、西麻布に期間限定の「絵本カフェ」

 出版社、アートンが、西麻布の韓国茶菜房「三丁目カフェ・スーペ」で、期間限定の「絵本カフェ」を開いたそうです。「三丁目カフェ・スーペ」が店舗拡張を予定しており、その工事開始までとのこと。韓国やインドの絵本が並べられ、お絵かきスペースもあるとのこと。写真も付いていましたが、子どもも一緒に入れそうな感じです。

 アートンのサイトを見てみたのですが、とくに関連情報は載っていないようでした。韓国茶菜房「三丁目カフェ・スーペ」の紹介のセクションは、韓国茶菜房三丁目カフェ『スーペ』韓国伝統茶・お菓子・お粥・お酒・小夜食です。

 絵本カフェ、最近かなり流行っているようですね。以前のエントリー、「絵本を知る: 「丸の内ブックカフェ」」でも、丸の内の期間限定の絵本カフェのことを書きましたが、期間限定ではない通常の絵本カフェも全国各地にあるようです。ウェブサイトを開設しているカフェも多いようで、検索をかけると、結構あります。そのうち、(時間ができたら)簡単なリンク集を作ってみたいと思います。

高知県立図書館が「大人のための絵本」コーナーを開設

 1月13日付けの高知新聞の夕刊記事、高知新聞ニュース■生活に役立つ県立図書館 丸地館長が新機軸次々■によると、高知県立図書館では、「大人のための絵本」コーナーが今月末まで開設されているそうです。

 記事の主要部分は、昨年4月に館長に就任された丸地真人さんの様々な新機軸の紹介です。丸地さんは、かの有名な浦安市立図書館の司書をされていた方で、異例の登用で館長に招かれたとのこと。丸地さんの年齢は、なんと41歳! これは大抜擢なんじゃないでしょうか。よくは分かりませんが、公立図書館の館長というと、それなりに年配の方が多い気がします。41歳の若さは、かなりの驚きです。もしかして、都道府県立図書館のなかでは最年少の館長だったりして。

 しかし、その若さと浦安市立図書館での経験を生かして、斬新な取り組みをされているようです。浦安市立図書館といえばビジネス支援が割と有名と思いますが、高知県立図書館でもさっそくビジネスコーナーが設けられているようです。

 で、「大人のための絵本」コーナーですが、これは企画展の一つ。高知県立図書館のサイト、高知県立図書館 Kochi Prefectural Libraryを見てみると、戌年にちなんだイヌ関連のコーナーや南海地震やアスベスト、鳥インフルエンザ、「功名が辻」など、アクチュアルなテーマでいろいろな展示が行われています。うーむ、すごいですね。上記の記事にも書いてありましたが、大型書店なみの充実ぶりです。

 「大人のための絵本」コーナーについては、柳田邦男さんの『砂漠でみつけた一冊の絵本』で取り上げられている絵本を中心にしていると説明がありました。高知新聞の記事に載っている丸地さんの言葉では、12月は自殺者が一番多いと知ったことが開設のきっかけだそうです。「厳しい社会でまいっている大人に、絵本の力で元気になってもらいたい」とのこと。実際、コーナーで読みふける大人の男性もいるそうです。

 サイトでの説明を少し引用します。

 「絵本は子どもが読むもの」そう考えていらっしゃる方はいませんか?

 よく考えて創られた絵本はとても奥深く、大人にも大きな感動を与えてくれるものです。
 年末年始にかけて楽しいイベントが目白押しの中で、様々な悩みを抱えていらっしゃる方も 少なくありません。大人に生きる力を与えてくれる絵本をご紹介することも図書館の役割の一つです。

 まったくその通りですね。この展示が、これまで絵本に縁のなかった大人に、絵本の奥深さと広がりを知る機会になるなら、素晴らしいと思います。

 ただ、ちょっとひねくれた見方かもしれませんが、「大人に生きる力を与えてくれる絵本」という表現には、若干の抵抗を感じます。いや、本当に私の感覚が歪んでいるのかもしれませんが、「生きる力」というのが、どうもなー。

 うーむ、この違和感をどう説明したらよいのか、よく分からないのですが、なんとなく絵本=癒しというフォーマットが醸成されている気がしてしまうのです。もちろん、癒しの要素は大きいとは思いますが、でも、個々の絵本のポテンシャルはそれに収まるものではないような……。いや、なんだか無意味なケチをつけている気もしますね。すいません。

 それはともかく、高知県立図書館、これからの展開に注目です。

「こどものともセレクション」の思い出を募集

 昨日の記事で紹介した福音館書店の「こどものともセレクション」ですが、今日更新されたこどものとも50周年記念ブログこどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店からのお知らせの最新記事、こどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店から(第27回)によると、刊行を記念して同セットの絵本にまつわる思い出を募集するそうです。「こどものとも」折込付録に掲載するとのこと。

 詳細は次回の「福音館書店からのお知らせ」に掲載されるそうですが、福音館のホームページのレビュー欄に書き込むか、あるいは郵送・FAX・メールで受け付けるようです。

 うちでは『ふくのゆのけいちゃん』が本当に大事な絵本になっているのですが、ただ、「思い出」というにはまだ早すぎますね。

 それはともかく、関心のある方は、ぜひ応募されてみてはいかがでしょう。

「こどものともセレクション」が刊行

 福音館書店から1月に「こどものともセレクション」が刊行されるそうです。福音館書店に案内のページ、福音館書店|こどものともセレクションがありました。引用します。

「こどものとも」50年の歴史の中から、1970年代を中心に近年の話題作まで、物語絵本、民話、ナンセンス、写真、字のない絵本など、様々なジャンルの絵本15冊を厳選しました。思い出の絵本がハードカバーで再登場です。

 ラインナップを見てみると、なかなかバラエティに富んだ内容です。読んだことがないものが多いのですが、 なかがわりえこさんと、やまわきゆりこさんの『ちいさいみちこちゃん』、谷川俊太郎さんと和田誠さんの『とぶ』、谷川俊太郎さんと長野重一さんの写真絵本、『よるのびょういん』が惹かれます。

 そして、非常にうれしい単行本化が二つ。長新太さんの『どろにんげん』と、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』です。

 長新太さんの『どろにんげん』は、これまで単行本化されなかったのが不思議なくらいの大傑作だと思います。いや、傑作というよりは怪作と言った方がよいかもしれません。これはもう、未読の方はぜひ読んでみて下さい。もちろん、長さん一流のナンセンスなのですが、どことなく底知れないというか、独得の凄みのある絵本です。

 いや、別に何か怖いわけではありません。しかし、この『どろにんげん』も含めて、長さんの絵本には、ある種のホラーの系譜があると私は思っています。

 それから、秋山とも子さんの『ふくのゆのけいちゃん』。こちらの単行本化は、本当にうれしいの一言です。「こどものとも」版で、うちの子どもと一緒に何百回も読んだ、まさに思い出(いや、まだ早すぎるかな?)の絵本です。ぼろぼろになって、表紙や背表紙を補強してさらに読みました。テキストは完全に覚えてしまいました。なぜあんなに好きだったのか謎なのですが、とにかく、うちの子どもの一番のお気に入りだったのです。

 実は、今はあまり手に取らなくなってしまったのですが、せっかくなので、購入してみようかなと思います。単行本で持っていたい絵本です。でも、たぶん、ぼろぼろになった「こどものとも」版もずっと持っているでしょうね。

絵本の復刊の動き

 読売新聞、1月3日付けの記事、懐かしの絵本 続々復刊 : とれたて!ミックスニュース : ニュース : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)。1950年代から70年代にかけて出版された絵本や児童書の復刊が続いているそうです。

 筆頭に挙げられているのは、『ちびくろ・さんぼ』(瑞雲社)。これは、かなり話題になりましたね。これまでに30万部発行したとのことで、すごいです。他にも、学研、光文社、集英社が絵本や児童書を復刊しているそうです。

 復刊ドットコムの担当者の方の話もありましたが、全体の復刊リクエストのうち1割近くが児童書分野。当然ながら、子どもというよりは親世代からのリクエストのようです。

 なんとなくですが、絵本や児童文学は、記憶の奥底に深く刻まれるものなのかなと思います。もう一度読んでみたいという気持ちの強さが違うのかもしれません。たとえば、bk1はてなこどもの本のカテゴリーの質問一覧を見ても、子どもの頃に読んだ絵本や児童文学のタイトルを教えてほしいという質問が並んでいます。こんなふうに、ある程度確かなニーズがあるから、復刊がビジネスとして成り立っていると言えるかもしれません。

 もう一つ思うのは、世代による違いです。こういう絵本や児童文学の記憶がきちんと存在するのは、もしかすると、戦後のある一定の時期以降のことなのかもしれません。いや、出版の歴史をきちんと調べたわけではないので、よくは分かりませんが……。

 世代ということに関連しますが、上記の記事での赤木かん子さんの指摘は、なるほどなと思いました。赤木さんは復刊ブームを「ノスタルジー出版」と評し、次のように言われています。

ただ子どもや孫に与えても、自分と同じように感動するとは限りません。大人が楽しむ一種の古典文学として支持されていくでしょう」

 自分が感動したからといって、必ずしも子どもが感動するわけではない……。たしかに、そうですね。絵本や児童文学の記憶はおそらく非常に個人的なものではないかと思います。だから、簡単に共有できるものはないでしょう。だから、復刊絵本は、大人のための絵本の一パターンとして定着するということ。

 もちろん、世代を超えて受け継がれていく絵本も確実に存在するわけで、親が楽しんだ絵本を子どもも楽しむこともあります。ただ、押しつけにならないように気を付ける必要はあるかなと思いました。

宮城県美術館の絵本原画コレクション

 先のエントリー、絵本を知る: 「こどものとも」の絵本展が新潟県立万代島美術館で開催、で紹介した『こどものとも』の原画展ですが、サイトの「こどものとも」の絵本展に掲載されている情報をよく見ると、多くの原画が宮城県美術館所蔵となっていました。

 そこで、宮城県美術館のサイト、宮城県美術館をのぞいてみると、今度、彫刻家の佐藤忠良さんの絵本原画展が開催されるようです。サイトの該当箇所は、最新ニュース – 展示です。「彫刻家が描く 佐藤忠良の絵本原画」と銘打たれ、会期は2006年1月21日(土)から3月26日(日)まで。展示されるのは、14の作品の208点。有名な『おおきなかぶ』も含まれています。これらの原画もすべて、宮城県美術館所蔵だそうです。

 宮城県美術館は、どうやら、かなりの数の絵本原画を所蔵しているようです。サイトの所蔵作品の特色のページによると、福音館書店『こどものとも』の原画を中心に204作品(2890枚)の絵本原画コレクションがあるとのこと。で、どうも、これらはすべて寄贈のようなんですね。

 美術情報サイト eArt-美術館展覧会情報【宮城県美術館】によると、1998年に「絵本原画の世界「こどものとも」の絵画表現1956-1997」を開催し、それを契機として、177タイトル、2800点余りの絵本原画の寄贈を受けたとあります。2002年に開催された「はじめての美術 絵本原画の世界」に出品された絵本作家さんのリストも載っていましたが、そうそうたる顔ぶれ。同じく、美術情報サイト eArt-美術館展覧会情報【宮城県美術館】をみると、長新太さんの代表作も初期から最近まで数多く所蔵し、2004年には「おしゃべりな絵 長新太展」を開催。うーむ、これはすごい。

 それで、宮城県美術館がこのように絵本原画をコレクションしている背景について、少しネットで検索してみました。すると、国際子ども図書館のサイトの国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館、「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の第三回議事要旨第3 回国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会 議事録(PDFファイル)に関連情報を見つけました。

 この「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の説明は、サイトの国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館 国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会とはに載っています。国立国会図書館が国際子ども図書館の開館に向けて当初策定した諸計画のなかで、まだ十分に展開できていないサービスがあり、しかも現行の国際子ども図書館の書庫は平成24年前後には満杯になってしまうそうです。そのため、施設の増設も考慮しながら今後の図書館サービスの方向性について調査審議するために設置されたとのこと。国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館 調査会委員名簿を見ると、会長代理には松居直さんが就任されています。

 それで、平成16年9月12日に第一回の会議が開かれ、平成17年3月16日の第3回では、絵本の原画の取り扱いに関連して、松居直さんから「宮城県美術館 絵本原画コレクションの現状と課題」というレポートが提示されたとのこと。(おそらく)松居さん自身の報告とそれをめぐる議論が議事録に残されています。全12ページのうち6ページ目からです。

 ざっと読んでみたのですが、きわめて興味深く、また重要な問題がたくさん指摘されています。答申の文言を作っていくという議論の議事録ではありますが、そのためにむしろ、絵本の原画をめぐってクリティカルな点がかなりはっきり出されている気がします。これはぜひ一読をおすすめします。

 とりあえず、宮城県美術館の絵本原画コレクションについてだけまとめてみると、コレクションは1998年から本格的に開始。福音館書店では「こどものとも」を発刊した当初、創刊号から原画を残す方針だったそうです。これはきわめて先駆的な取り組みかなと思います。原画倉庫を用意して、そこで保管していたそうですが、すべてを収蔵するのは困難となり、その結果、宮城県美術館に1号から100号までの原画が預けられることになったとのこと。その後も寄贈され、1998年から7年間で8000点に及んでいるそうです。ただ、絵本の原画の保存はたいへんな手間がかかり、宮城県美術館でもかなり苦労されていることが記されていました。

 で、今回ネットで検索して発見した「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の議事録と答申、非常に重要な資料だと思いました。あらためて全体に目を通してみたいと思います。それにしても、こういう資料をPDFファイルでネットに公開しているのは素晴らしいですね。

「こどものとも」の絵本展が新潟県立万代島美術館で開催

 こどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店から(第24回)に書かれていましたが、『こどものとも』の原画展、『「こどものとも」の絵本展』が新潟県立万代島美術館にて、2005年12月23日(金)から2006年2月12日(日)まで開催されるそうです。12月23日スタートですから、いわば絵本のクリスマス・プレゼント。このスケジュール、なかなか粋です。

 こどものとも50周年記念ブログの記事によると、山本忠敬さんのアトリエの一部を再現して展示するそうです。絵本が生まれてくる創作の現場を少しだけ見ることができるわけですね。これは興味深い。

 平凡社の別冊太陽で3巻まで刊行されている絵本作家インタビュー集、『絵本の作家たち』では、絵本作家のみなさんのアトリエの写真が見開き2ページで掲載されているのですが、どれも非常に個性的で、おもしろいです。今回の展覧会では、それを実地に見学することができるわけです。

 新潟県立万代美術館のサイトは、新潟県立万代島美術館。美術館の概要のところに書かれていますが、信濃川河口の万代島地区に立地する複合施設「朱鷺メッセ」のなか、万代島ビル5階のフロアが美術館になっているそうです。この万代島ビルは、140メートル31階、日本海側では一番のノッポビル。

 この美術館のモチーフは、1945年以降の「現代の美術」の収集と紹介。そしてアジア諸国の美術の紹介です。

 複合施設のなかに現代美術館があるというのは、けっこう流行なのかもしれませんね。以前行ったことがある、熊本市現代美術館(サイトは熊本市現代美術館)もそんな感じでした。

 それはともかく、今回の原画展の紹介ページは、「こどものとも」の絵本展。『こどものとも』創刊号『ビップとちょうちょう』、「ぐりとぐら」シリーズ、「ばばばあちゃん」シリーズ、『はじめてのおつかい』、『かばくんのふね』、『三びきのこぶた』、『ぞうくんのあめふりさんぽ』など、全部で260点が展示されるそうです。

 これだけの量の絵本原画にふれられる機会はあまりないんじゃないでしょうか。それも、「こどものとも」です。長く愛されてきた絵本ですから、子どもも大人も一緒に楽しめますね。

 会期中には松居直さんの講演会、美術鑑賞講座にワークショップなどが開かれるとのこと。もちろん、絵本の読み聞かせも行われるようです。

 しかし、いかんせん新潟……。うちからはちょっと遠すぎます。この展覧会、全国を巡回してほしいところです。うちの近くにも来ないかなー。

 

絵本の映画化を少し考えてみる

 先日、「あらしのよるに」シリーズの映画化について書きましたが、そういえば、最近、絵本の映画化が続いているような気がします。去年のクリスマスには、オールスバーグさんの『急行「北極号」』が3Dアニメ化されていますし、今年は同じくオールスバーグさんの『ザスーラ』が『ジュマンジ』に続いてCGばりばりの実写映画化され、現在公開中ですね。

 オールスバーグさんの絵本は、たしかにストーリーや素材は映画向きかなと思います。とくに『ジュマンジ』や『ザスーラ』は、あっと驚く舞台設定とジェットコースターのようなストーリー展開。これを映画にするのも、うなずける気がします。

 でも、『ザスーラ』の予告編をネットで見てみたんですが、やっぱり、もともとの絵本の魅力が消し飛んでしまっているような気がします。オールズバーグさんの絵本は、一見派手そうにみえて、実際に読んでみると、きわめて寡黙なんですね。モノクロで静謐といってよい画面です。これが、映画だとフルカラーのCGになってしまう……。原作絵本が持っていた、静かでありながらも独得のダイナミズムは、失われるように思います。

 考えてみると、絵本と映画というのは、メディアの特性として、相当に違いがあります。もちろん、音や音楽が付くことは一番大きな相違点と言えそうですが、ページを単位にした静止画と、リアルな時間の流れのなかで終始動いている画面の違いは、かなり大きいような気がします。

 絵本の場合には、静止画であるがゆえに、物語のすべての要素を画面に定着させることは不可能です。描かれない部分がたくさんあり、そのため逆に、描かないことによって多くのことを語ることができると思います。読み手の多様なイメージを喚起することで、はじめて完結すると言えるかもしれません。

 ところが、映画の場合には(とくに近年のCGを多用した映画の場合には?)、可能なかぎりすべてをダイレクトに描写することに力点があるような気がします。私たちが実際には見ることのできないものをもCGを使って描くわけです。いわばそのスペクタクルが映画の魅力の一端だと思います。

 もちろん、映画のなかにも、描かないことによって、描写を切りつめることによって、何かを物語る場合も多々あります。でも、絵本の描写の限定性とは比べものにならないでしょう。

 また、ページを単位にしている絵本は、遡ることができますし、進行のスピードも自由に読み手が調節できます。子どもと一緒に読んでいて、ページをめくる手を止めて、あれこれ話したりもできます。でも、映画では無理です。物語るスピードは、通常、映画それ自体によって定められ、受け手がそれを調節するのはかなり困難です。むしろ、受け手がコントロールできないところに、映画の独得の魅力があるような気がします。

 こんなふうに考えてみると、絵本を映画化するのは、いろいろと難しい面があるのかなと思います。絵本と映画は、メディアとしてまったく違った物質で出来ていると言っていいかもしれません。

 まあ、考えすぎかもしれませんが、なんとなく感じたことを書いてみました。また機会があったら、絵本と映画、少し突っ込んで考えてみたいと思います。

 それはともかく、『ザスーラ』。私が一番気になるのは、ラストの扱いです。原作絵本の、あの切ない結末が映画ではどう描かれるのか。あまり見たいとは思わないのですが、ちょっとだけ気になります。

ちくま文庫で『完訳グリム童話集』が刊行開始

 ちくま文庫、12月の新刊に『完訳グリム童話集1』がラインナップされていました。さっそく注文して、昨日、届きました。この本は1999年10月に筑摩書房より刊行を文庫したもの。これから毎月1冊ずつ、全7巻で完結のようです。

 ページをめくってみると、通常のちくま文庫よりも字が少し大きめ。紙も若干、厚手のような気がします。第1巻には全部で20編の童話が収録され、有名なものだと「ヘンゼルとグレーテル」が含まれています。カラーやモノクロの美しい挿絵も入っており、なかなかよい感じです。巻末には、この挿絵についてと、原本の初版と第七版の違いについて解説がありました。今回の全集は第七版に基づいているとのこと。

 グリム童話というと、私が子どもの頃に読んだ(あるいは聞いた)きりで、ずっと縁遠かったのですが、自分の子どもと一緒に絵本を読むようになってから、あらためて、これはおもしろいなあと感じていたところでした。とくにスズキコージさんとフェリックス・ホフマンさんが手がけられた絵本。恐いような不思議なような、独得の魅力があります。

 今回の文庫化、かなり楽しみです。原作と絵本を比べてみても、おもしろいかもしれませんね。