月別アーカイブ: 2005年7月

屋外で絵本の読み聞かせをする「こかげ文庫」

 中日新聞、7月24日付けの記事、菊川・正法寺など涼しげな境内で「こかげ文庫」始まる

 神社や公会堂の涼しい木陰を利用して、幼児や児童に絵本に親しんでもらうという夏休みの企画。主催は、菊川市立図書館菊川文庫と子ども読書連絡会。なんと、19年前から続いている取り組みだそうです。

 いやー、これ、すごく気持ちよさそうですね。掲載されている写真を見ても、実にいい感じです。j神社やお寺の境内というちょっと非日常的な空間、夏の焼けた土と空気のにおい、セミの鳴き声、そして木陰の少しずつ変化する光……。絵本を読むのに、こんなすばらしい舞台は他にないです。いいなあ。

 読む絵本も、長さ20メートルの障子紙を使った巻き絵本や大型紙芝居など、いろいろ工夫されているようです。

 菊川市立図書館菊川文庫のウェブサイトは、菊川市立図書館菊川文庫

「こどもの本ブックフェア2005」

 京都新聞、7月24日付けの記事、京都新聞 電子版:児童書や絵本など10万冊一堂に
左京でブックフェア2005
。児童図書や絵本など10万冊を展示・販売するイベントです。掲載されている写真を見ても、絵本がずらりと平積みになっており、かなり大規模なブックフェアのようですね。

 主催しているトーハンのサイト、TOHAN Web Siteのなかに、案内がありました。TOHAN Web Site/TOHAN NEWS/2005年6月3日:2005こどもの本ブックフェア全国4会場で開催~子どもたちの興味や思考力を引き出す多彩な展示やイベントを展開~です。

 説明によると、今年で7回目を迎えるイベントだそうで、福岡、熊本、京都、岡山で開催とのこと。今年は、なんと、飯野和好さんの「ねぎぼうずのあさたろう」をメインキャラクターにしたのだそうで、会場には飯野和好コーナー「飯野和好わぁるど」を設置、原画風パネル展示や飯野さんのおはなし会とサイン会も開催。うーむ、これはちょっと見てみたい。

 あと、柳田邦男さんの「大人にすすめる絵本」や食育、戦後60年をテーマにしたコーナーもあるそうです。

 来場者が多くて人混みで大変かもしれませんが、子どもと一緒に遊びに行くとけっこう楽しいかもしれませんね。

紙芝居の作者を探している宮城県図書館

 河北新報、7月20日付けの記事、河北新報ニュース 紙芝居描いたのは誰? 宮城県図書館所蔵の約5万枚

 宮城県図書館には約5万3000枚の街頭紙芝居が所蔵されており、東日本最大級のコレクション。そのうち、作者が明らかになっているのは、約1300枚分のみとのこと。それ以外の作者は、ペンネームが分かっても、本名の分からないものが多いそうです。

 この記事ではじめて知ったのですが、紙芝居は、絵描き、着色、せりふが別人による共作の場合が多く、しかも、一人の作家が様々なペンネームを使い分けていることもあるそうです。なんとなくですが、紙芝居は、文字通り路上で作られ楽しまれるもの。つまり、規格された商品とはまた違った性格を持っているように感じました。

 と同時に、この紙芝居の文化がまさに路上においては消えかかっていることも確かかと思います。宮城県図書館所蔵の紙芝居は、宮城県内最後の紙芝居師である井上籐吉さんが寄贈されたものが中心だそうです。井上さんは現在、82歳。現役で街頭紙芝居を行っている方は、ほとんどいらっしゃらないのかもしれません。

 とはいえ、記事に掲載されている写真を見ても、たいへん個性的でおもしろそうな内容。当時の社会情勢を強く反映したものも多いそうです。市井の貴重なサブカルチャーとしても、紙芝居の作者の方々に光が当たるのはとても大事なんじゃないかと思いました。

 宮城県図書館のウェブサイトは、宮城県/図書館/表紙

長谷川義史さんの「目標」

 朝日新聞関西の7月20日付けの「旬の顔」、asahi.com: 絵本作家 長谷川義史さん(44)-旬の顔-関西

 これはおもしろい! 長谷川義史さんがこれまでと現在を語られています。長谷川さんが描かれた絵本、最近とても多いと思っていたら、去年は10冊、今年もすでに6冊、刊行されているそうです。うーむ、すごいハイペース。

 とはいえ、絵本を描き始めた当初はなかなか、うまくいかなかったとのこと。中川ひろたかさんの文に絵を描く仕事が一つの転機になったそうです。

背景を細部まで描きこみ、文にだじゃれをまき散らし、本の見返しまで埋め尽くす。持ち前のサービス精神が本領を発揮し始めた。

 うーむ、なるほどなあ。「どこどこどこ」の2冊なんて、超絶的なものすごい描き込みですよね。

 子どものころは絵本に縁がなく、読み聞かせなんて「気色悪い」と思っていたのも、おもしろい。小さいころ絵本に接していない方がむしろ、自由に絵本を描けるのかも。

 掲載されている写真のワークショップの様子も、実に楽しそうでよいです。

長新太さんと安西水丸さんの原画展

 朝日新聞地域情報、7月20日付けの記事、asahi.com : マイタウン静岡 – 朝日新聞地域情報:長新太・安西水丸両氏の原画展

 長新太さんと安西水丸さんの原画展が静岡県伊東市八幡野の「NPO法人アートの里 伊豆高原絵本の家」で31日まで開催されています。展示されているのは長新太さんの『おとしものしちゃった』と安西水丸さんの『あげたおはなし』の計24点で、両方とも中山千夏さんが物語を書いた絵本とのこと。中山さんのトークイベントもあるそうです。

 「NPO法人アートの里 伊豆高原絵本の家」のサイトは、伊豆高原 絵本の家。写真を見る限りでは、とてもアットホームで居心地がよさそう。

山中恒さんの「原点」

 読売新聞、7月18日付けの記事、大人なんか信用しないと誓った : あのころ : 育む : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)。「児童読み物作家」、山中恒さんの「原点」が語られています。

 戦中から戦後にかけての社会全体の転換のなかで、大人は信用しないと誓ったことが「原点」。その上で、山中さんが「児童読み物」を書き続けたモチーフがたいへん印象的です。

価値観は時代とともに変わる。それは嫌になるほど味わった。それだけに、あらゆる時代の子どもをドキドキさせるような作品を書きたい。それが願いでした。

 信用できない大人なんか関係ない、そんなものには左右されない強さのある物語……。

 あと、気になったのは戦中の絵本のこと。山中さんは、軍国主義を賛美する絵本に没頭したそうです。絵本というのは、それを取り巻く社会に強く影響を受ける表現形態なんだなと思います。

アンソニー・ブラウン『こうえんで…4つのお話』

 二組の親子とイヌの、公園での出会いを描いた絵本。一方が「ママ」とその息子の「チャールズ」とラブラドールの「ビクトリア」で、他方が「パパ」とその娘の「スマッジ」とイヌの「アルバート」。二組は同じ公園に同じ時間、居合わせるのですが、そのことが、「ママ」「パパ」「チャールズ」「ビクトリア」の4つの視点から4つの物語として別々に語られていきます。

 まず面白いのは、4つの物語が交差しつつ異なるところ。同じ出来事でも、4人それぞれで受け取り方が違うわけです。それぞれの社会的背景や性格の違いと言っていいかもしれません。

 また、4つの語り手の違いが、絵の彩色の違いに現れているところも興味深いです。意気消沈している「パパ」にとって公園はまるで暗い夜のように描かれ、快活で元気な「スマッジ」にとっては明るく鮮やかな原色。加えて、文章のフォントも、4つの物語それぞれで異なります。うーむ、実に凝った作りです。

 イヌの「ビクトリア」と「アルバート」はすぐに仲良く遊ぶのですが、「ママ」と「パパ」、また「ママ」と「スマッジ」、「パパ」と「チャールズ」は、互いにほとんど接点がなく通り過ぎるだけ。そんななか、「チャールズ」と「スマッジ」は少しずつ近づき、心を通わせます。二人が並木の下にたたずむ遠景は、画面のなかで小さく描かれているのですが、掛け替えのない一瞬を表していて、とても美しいです。

 そして、二人の出会いがどんなに「チャールズ」にとって貴重なものだったのかが、公園の空の描写で表されています。最初は暗くどんよりと曇っていた空が、「スマッジ」との出会いとともに、徐々に青空に変わっていきます。これは、「チャールズ」のいわば心象風景と言えそうです。

 二人の出会いと交流には、貧富の差を越えるという含意もあると思いました。「ママ」は裕福なお金持ちで、「パパ」は失業者なんですね。

 あと、この絵本では、画面の端々に実に多くのものが隠されています。隠し絵の要素もふんだんに盛り込まれ、絵探し絵本の趣もあります。うちの子どもも、あれこれ指さして楽しんでいました。読むたびに「あっ!」という発見があって面白いです。

 しかも、単に画面の情報量が多いだけでなく、それは物語や登場するキャラクターに密接に結びついているんですね。シンボリックなところがたくさんあり、ディテールそのものが独自のストーリーを語っているように感じました。

 原書”Voices in the Park”の刊行は1998年。この原書タイトルも、なかなか意味深です。

▼アンソニー・ブラウン/久山太市 訳『こうえんで…4つのお話』評論社、2001年、[凸版印刷]

かこさとし『かいぞく・がいこつ・かいぶつじま』

 うーむ、これは、すごい。タイトルにも示唆されるとおり、海を舞台にした海賊物語。海賊はもちろん、それ以外にも、かなりワルい人たちが登場します。

 何より驚いたのが、物語の結末。まったく予想を裏切った、まさに驚きのオチです。物語の定石を意識的にはずしていると言っていいかもしれません。

 ある意味、急転直下のカタストロフィ。誰も救われず、あとには青い海だけが残る……。ちょっとびっくりしますが、このストーリー展開、私はポジティヴな意味でかなりおもしろいと思いました。

 物語のみならず、絵のタッチも、かこさとしさんの他の絵本とはだいぶ違った印象。荒々しいところが若干あります。それは、見知らぬ場所に連れて行ってしまう、この絵本の物語によく合っていると思います。

 あとがきには次のように記されていました。

恐ろしくない厳しさ、楽しさを伴ったけわしい関係が少しでもお伝えできれば幸いです。

 なんとなくですが、ときとして不条理な自然の猛威、人間の浅知恵なんぞ簡単に凌駕してしまう自然の力がここには描かれているのかもしれません。

 あと、後日もう一度読んでいて気が付いたのですが、タイトルにも含まれている「かいぶつ」、実は前半の絵のなかにも隠れているんですね。よーく見ると、島の形が微妙に「かいぶつ」です。

 ところで、この絵本は、「かこさとし 七色のおはなしえほん」シリーズの1冊。カバーの説明によると、シリーズの絵本はそれぞれ、白、茶、藤、黒、赤、黄、青の七色のうち一色を基調にしているとのこと。それぞれ、「おもしろ絵本」「おもちゃ絵本」「おもあか絵本」と呼ぶそうです。

 で、『かいぞく・がいこつ・かいぶつじま』は「おもあお絵本」。たしかに、海の青を基本色にして、部分的に鮮やかな黄が使われています。この色の対比はなかなか印象的。

▼かこさとし『かいぞく・がいこつ・かいぶつじま』偕成社、1985年、[表紙・カバーデザイン:ヒロ工房、印刷:小宮山印刷、製本:サン・ブック]

ひたすら穴を掘る「遊びのプログラム」 愛知こどもの国

 7月17日付けの朝日新聞の地域情報の記事、asahi.com : マイタウン愛知 – 朝日新聞地域情報:「無意味なこと」楽しもう/こどもの国

 子どもたちが2日間、ひたすら穴を掘り続ける「遊びのプログラム」を、幡豆町の愛知こどもの国(財団法人愛知公園協会)が企画している。こどもの国で開くのは今年が2回目で、すでに定員はいっぱいになった。

 これはおもしろい! 8月23日と24日の2日間、ただひたすら穴を掘り続けるというプログラム。キャンプ場に宿泊し、食事と睡眠時間以外は、ずっと掘り続けるとのこと。

 ねらいは、意味のあることに追い立てられている子どもたちに、「全く無意味なこと」を楽しんでもらうこと。アイデアの元は、谷川俊太郎さんと和田誠さんの絵本『あな』。

 なるほどねえ。『あな』、とてもおもしろい絵本です。哲学的で寓意的な物語に、和田さんのシンプルな描写。いろいろ考えてしまうような深みがあって、なおかつ軽やかなんですね。

 というか、「無意味なこと」を楽しむというのは、けっこう大事かなと思います。意味あることで埋め尽くされた日常にとって、何かエアポケットのようなもの、まさに「あな」が必要。

 2日間掘り続けると、穴は直径2メートル、深さ1.5メートルくらいになるそうです。絵本の『あな』のように、穴のなかに入ることができますね。

 最後には、掘った穴を埋め戻して解散とのこと。無意味さが徹底していて、なんだか爽快。

 愛知こどもの国のサイトは、愛知こどもの国。今回のプログラムについて、とくに説明は見あたりませんでした。

「和田誠の絵本の仕事」ふくやま美術館

 7月16日付けの中国新聞の記事、中国新聞・地域ニュース:絵本原画175点 和田誠の世界

 和田誠さんの絵本原画展。7月16日から9月25日まで、ふくやま美術館で開催。『あめだまをたべたライオン』などの原画175点が展示。8月27日には安西水丸さんの講演もあるそうです。

 ふくやま美術館公式ホームページ和田誠の絵本の仕事に詳しい説明が載っています。『あな』や『ねこのシジミ』の原画も展示されるんですね。見てみたいなあ。