月別アーカイブ: 2005年7月

親と子の絵本ワールド・イン・いしかわ2005

 北國新聞社の記事、きょうのニュース:夢の1万8千冊ずらり 絵本ワールド、きょう16日開幕 金沢と鳥越

「親と子の絵本ワールド・イン・いしかわ2005」(同実行委員会、北國新聞社主催 )は十六日、金沢市文化ホールと白山市鳥越小の二会場で開幕する。「絵本のまなざし、 つながる世界」をテーマに、絵本や児童図書の展示即売、絵本が育てる心についての講演 会などを三日間にわたって繰り広げる。

 7月16日から18日の開催。サイトは絵本ワールド・イン・いしかわ

 黒井健さんや長谷川摂子さん、佐々木正美さんの講演、松居直さんも加わってのパネルディスカッションと盛り沢山の内容。石川県に住んでいたらぜひ参加したいくらい。

 子どもの読書推進会議の説明によると、「絵本ワールド」は、2000年の「子ども読書年」に民間の読書関連14団体で結成された「子どもの読書推進会議」が主催している事業。絵本ワールドに記されていますが、石川県の他に全部で13地域で開催予定だそうです。

アンソニー・ブラウンさんの絵本原画展 円山川公苑美術館

 7月15日付けの神戸新聞の記事、神戸新聞ニュース:但馬/2005.07.15/大人も楽しめる83点 英国の人気作家 豊岡で絵本原画展

 会期は9月11日まで。「ウィリー」シリーズなど、13作品の83点を展示。最新作の『おんぶはこりごり』の原画もあるそうです。

 ブラウンさんの原画展は、日本では2003年以来2年ぶり。あまり開催されていなかったんですね。

 美術館のサイトは、円山川公苑美術館。今回の企画展についてとくに説明はないようです。

 ブラウンさんの絵本は視覚的な仕掛けがたくさんあって、原画展はとてもおもしろいんじゃないかと思います。

ふくだとよふみ/なかのひろみ/まつもとよしこ『ぞう どうぶつえんであそぼ』

 これは、おもしろい! ゾウのモノクロ写真絵本。ただの動物写真ではありません。ゾウの全身像はもちろんですが、ここまでやるかというくらいの接写がたくさん。どうやって撮影したのか、まさに驚きの写真です。

 たとえば、鼻のしわしわのアップや鼻の穴、口や牙などなど、すぐそば数十センチで間近に見ているかのようなど迫力の写真が次から次へと登場します。ゾウのおっぱい、耳の穴や長くりっぱな眉毛、身体のあちこちに生えた毛、足の裏のひびなんて、はじめて見ました。これは本当にすごいです。

 とくに人間の目の高さから見上げたゾウの姿は、実に大きくりっぱで、文字通り偉大。カラーではなくモノクロであることが、なおさら、ゾウという生き物のすごみを感じさせるように思いました。ゾウの身体に刻まれた皺の深さなんて、モノクロだからこそ表現できるんじゃないでしょうか。

 巻末、裏表紙の見返しには、一つ一つの写真の解説と、ゾウの生態に関するたくさんの豆知識が掲載されています。こちらにも、驚きの説明がいろいろありました。非常に興味深いです。

 奥付を見ると、取材・撮影協力は群馬サファリパークとのこと。表紙の見返しのイラストは、どうやら、ふくだとよふみさんや、なかのひろみさん、まつもとよしこさんの家族や友人たちのようです。以前読んだ『う・ん・ち』同様、楽しい本作りの雰囲気が伝わってきます。

 この写真絵本、それ自体の大きさは小さめ(18×15㎝)ですが、内容はまさに必見。うちの子どもも、かなり気に入っていました。おすすめです。

▼ふくだとよふみ 写真/なかのひろみ 企画・文/まつもとよしこ 構成・デザイン『どうぶつえんであそぼ ぞう』福音館書店、2004年、[印刷:鏡明印刷株式会社、製本:大村製本]

こどものとも50周年記念ブログを企画・制作、Dcube Co., Ltd.(株式会社ディキューブ)

 ネットをさまよっていて偶然見つけたのですが、こどものとも50周年記念ブログの企画・制作は、Dcube Co., Ltd.(株式会社ディキューブ)という会社が担当されたそうです。ディキューブのブログ、Dcublogにプレスリリースも含めた記事、Dcublog: 福音館書店「こどものとも50周年記念ブログ」をリリースしましたが掲載されていました。

 会社・事業案内 Dcube Co., Ltd.を見てみると、ディキューブは書籍の印刷を中心とした萩原印刷の子会社で、出版社のサイト構築、ネット上での出版社の事業展開や販売促進のサポートが主要業務のようです。

 それで、こどものとも50周年記念ブログですが、上記のプレスリリースでは、今回のウェブログの記事管理の特徴についても説明されています。トップページに時系列で記事を並べるのではなく、カテゴリー別の最新記事1件を載せるというやり方です。これは、ウェブログの活用法としては、なかなか新鮮で、おもしろい試みと思います。

 福音館書店で担当されている販売促進部宣伝企画課の方のコメントも掲載されていました。少し引用します。

「こどものとも」バックナンバー全点の紹介を、1週間毎に少しずつ公開していくという今回の企画は、図鑑や百科事典を週刊誌として少しずつ刊行していくというかつて流行った出版形態を、ホームページでやってみたらどうなるか、という試みだったわけですが、ブログを利用することで、読者からの反応をビビッドに受けとめることができ、非常に刺激的です。

 週刊誌スタイルの出版形態をウェブサイトでやってみるとのこと、なるほどなあと納得しました。このやり方、他の出版社のサイトでもウェブログの導入を促すかもしれませんね。

 ただ、ちょっと気になるのは、このまま各カテゴリーの記事がどんどん増えていったとき、過去記事へのアクセスがきちんと確保されるかどうか。1年間限定、50回分なので大丈夫なのかもしれませんが、たとえば「こどものとも」バックナンバー 過去の話題のページだと、過去のバックナンバーの紹介がどんどんページ下部に下がっていきます。なんとなくですが、更新を重ねるごとにアクセスしずらくなるように思いました。

 それと、たとえば刊行年や絵本作家名をキーにして、該当するバックナンバーがリスト化されていると便利かなという気もします。もちろん、Movable Type の標準機能で記事検索が可能なので問題ないとも言えますが、とはいえ、何か一工夫あると、もっとよいような……。

こどものとも50周年記念ブログの鳥越信さんのエッセイ

 こどものとも50周年記念ブログ、今回は1957年度刊行の12冊の紹介です。なかでも注目は長新太さんの絵本デビュー作、がんばれ さるの さらんくん。画像は表紙しか見られませんが、当時の「こどものとも」のラインナップと比べると、かなり異色かも。写実的でもなければメルヘン調でもなく、省略と誇張が効いていて、独特のラディカルさを感じます。2006年1月に復刊予定とのことですが、今度、図書館に行ったとき「こどものとも傑作集」版がないかどうか探してみようと思います。ぜひ読んでみたいです。
 当時の「ことものとも」のなかで長さんの絵が個性的であることに関わると思うのですが、鳥越信さんのエッセイ、「こどものとも」創刊のころもたいへん興味深く読みました。
 またもやはじめて知ったのですが、鳥越さんは、岩波書店編集部で絵本シリーズ「岩波の子どもの本」や「岩波少年文庫」を担当され、また岩波書店退職後も、絵本と児童文学の世界でいろんな取り組みを続けてこられた方だそうです。
 それで、今回のエッセイで鳥越さんは、「こどものとも」が創刊されたときの印象を記されています。とてもおもしろいと思ったのは、「こどものとも」の一冊一作主義に感動すると同時にかなり失望された点。一つは絵が白い部分のないべったりと描かれたものであったことで、もう一つは名作の再話・翻案絵本が含まれていたことです。
 たしかに、サイトに掲載されている「こどものとも」の表紙画像を見直してみると、たいてい紙面全体に彩色されており、白い空間を生かしたものはあまり見あたりません。描き方や筆遣いの違いは当然でしょうが、白い空間の扱いもまた、その後の絵本との大きな違いと言えそうです。いまの絵本からすると、どことなく違和感があり、その理由の一つが、空間と色のつかみ方なのかなと思います。
 しかしまあ、サイトには表紙画像しか載っていないので、本文では違うものがあるかもしれませんね。鳥越さんも創刊号の「ビップとちょうちょう」について書かれているわけですし、いいかげんなことは言えません。
 ただ、当然のことではありますが、絵本の表現が、歴史的にいろんな試行錯誤をへて、広げられ深められてきたことは確かかと思います。その一つの表れが、鳥越さんが指摘されている、紙面の白い部分の扱いではないかなあと考えました。
 それはともかく、鳥越さんの今回のエッセイは割と辛口。「50周年おめでとう」とお祝いするのではなく、間違っていたと思われる点も率直に指摘する(しかも、ご自身が担当された「岩波の子どもの本」の誤りも同時にきちんと書く)。これはなかなかすごいことではないかと思います。そして、そのエッセイを掲載する福音館書店もすばらしいなと思いました。

かこさとし/赤羽末吉『あるくやま うごくやま』

 かこさとしさんの「かがくの本」シリーズの1冊。長い長い時間のなかで、山もまた様々にかたちを変えていくことが説明されています。雨や雪や氷河によって削られ流され、あるいは地震や火山によって大きく変化し、そしてまた草や木の生長によっても作用されていく……。一瞬たりとも止まることなく、山がいつも動いていることが分かります。

 冒頭では、山のかたちが変わることが「すわりばしょをかえたり」「あるきだしたり」「ふとったり」「しわだらけになったり」と、まるで人間であるかのように記されていました。それ自体おもしろいのですが、加えて、赤羽さんの絵がまた秀逸。山々に眼と口が付いており、笑っているような考えているような、なんともおかしな表情です。表紙も同様なんですが、まさに赤羽さんならではの大らかでユーモラスな描写。

 考えてみると、赤羽さんが科学絵本の絵を担当されるのは、かなり珍しいかもしれません。そもそも、かこさとしさんと赤羽末吉さんが組んだ絵本は他にないんじゃないでしょうか。巻末にラインナップが載っていたのですが、この絵本が含まれている「かがくの本」シリーズの多くは、かこさん以外の方が絵を担当されていました。

 私は最初、赤羽さんの絵は科学絵本には向かないんじゃないかと思ったのですが、実際読んでみると、そうでもなかったです。

 いや、たしかに、山に眼や口が付いているユーモラスな絵柄は表紙と冒頭ページだけで、あとは文章の説明をそのまま解説するような絵になっています。その点では、赤羽さんの個性があまり出てこない印象もあります。

 しかし、限定された色遣い、骨太でのびやかな筆致は、やっぱり赤羽さんの絵であって、他の誰のでもありません。白みの多いシンプルな画面からは、何百年、何千年にもわたる長い時間の流れのなかで少しずつ山が姿を変えていく様子を感じ取ることができます。過剰な色や説明的すぎる線を省略していることが逆に、この絵本の主題に密接に寄り添うことになっているように思いました。

 奥付には、かこさとしさんのエッセイ、「固定した考えにとらわれないこと」が載っています。こちらも非常に興味深い。不動であるかに見える山が長い時間の流れのなかでは激しく動くこと、それを描くことで何を伝えたかったのか、簡潔に述べられています。本当は引用しない方がよいのかもしれませんが、自分用のメモとして一部、引用させていただきます。

このことは、正しい科学への第一歩である、条件や環境をかえると物事はまるでちがった結果となること、固定した見方、考え方にとらわれないことへの発展として、わたしは極めて大切にしたいと思っています。

 ところで、この絵本、うちの子どもには、だいぶ、おもしろかったようで、興味深そうに聞いていました。まずは崖の地層を描いた画面に反応。曰く「これ、見たことあるよねえ」。二人でいろいろ話しているうちに、思い出しました。また火山を描いたところでは、去年、旅行した阿蘇山のことを話しました。なかなか楽しいです(^^;)。

 巻末に載っていた「かこ・さとし かがくの本」シリーズのラインナップ、うちの子どもはだいぶ惹かれたようで、全10冊のタイトルを読まされました。「これも読みたいねえ」「これも読みたーい!」というもの多数(^^;)。次に図書館に行ったとき借りてこようと思います。

 ちなみに、このシリーズは、第17回サンケイ児童出版文化賞を受賞したそうです。タイトル一覧の上部に記されていました。

▼かこさとし 著/赤羽末吉 絵『あるくやま うごくやま』童心社、1968年、[表紙レイアウト:辻村益朗、写真植字:東京光画株式会社、製版・印刷:小宮山印刷株式会社、製本:サンブック株式会社]