「こどものとも」の記念誌が12月に刊行

 福音館書店のこどものとも50周年記念ブログ、いつも楽しみにしているのですが、こどものとも50周年記念ブログ: 福音館からのお知らせ第10回に、たいへん楽しみな告知が載っていました。なんと、12月初旬に、これまでの「こどものとも」「こどものとも年中向き」のすべてを紹介する記念誌、『おじいさんが かぶを うえました—月刊絵本「こどものとも」50年の歩み』が刊行されるそうです。

 内容紹介を少し引用します。

本文256ページの中には、様々なジャンルの絵本の紹介、著者ごとの紹介、絵本誕生の秘密、こどものとも603作品(増刊号含む)、年中向き200作品、計803作品すべての紹介、と盛りだくさんの内容です。

 上記のうち「絵本誕生の秘密」は、「こどものとも50周年記念ブログ」に掲載されているエッセイとは別で、すべて違う絵本作家の方の原稿になるそうです。これは本当におもしろそう。今から実に楽しみです。256ページということで割とコンパクトですが、どんな造本になるかも注目ですね。

 ウェブログで連載しているエッセイも書籍にまとめるといいんじゃないかなと思いますが、どうでしょう。

 ともあれ、今回の記念誌、期待して待ちたいと思います。

桑原隆一/栗林慧『アリからみると』

 これは、すごい! アリの目線から撮影した写真絵本。トノサマバッタ、イナゴ、ウスバキトンボ、ショウリョウバッタ、オオカマキリ、ノコギリクワガタにカブトムシと、いろんな虫たちの驚きの写真が次から次へと登場します。まさにセンス・オブ・ワンダー。

 文字通りアリの視線から見ているので、どの虫たちも画面に収まりきらないほど巨大で、ものすごい迫力です。私もうちの子どもも思わず「おーっ!」と感嘆の声を上げたほどです。

 ページをめくっていると、まるで自分がアリになったような感覚。なんだか怪獣映画のような趣もあります。アリがトノサマバッタやオオカマキリを見上げる構図は、人間がゴジラを見上げる構図と同じなんですね。青い空や遠くの木々などが背景に写っており、画面に奥行きがあることも、そんな感覚を起こさせます。

 また、虫たちの格好良さは特筆もの。キリリと伸びた足、鋭角的に曲げられた環節、木々や地面をがっちりつかむツメ、まるで鎧のように整えられた硬い外皮、繊細な模様を浮きだたせた羽……なんともいえない機能美に満ちています。クワガタやカブトムシの角なんて、(もともと魅力的ではありますが)普段見ているのとは別物の立派さ。昆虫という生き物の凄みを感じ取れます。

 ところで、考えてみると、これらの写真は、アリの目に本当に映っているものとはだいぶ違うんでしょうね。昆虫の眼は複眼ですし、視野も広いでしょうから、写真とは異なる景色が見えていると思います。その意味では、アリの「目」というよりは、アリの「視点」から見る、と理解するのがよいかもしれません。もちろん、だからといって、この写真絵本の素晴らしさは変わりありません。

 それはともかく、この写真、どうやって撮影したんだろう? たぶん特殊なレンズや機具を用いるのでしょうが、虫たちは逃げたりしないのかな。なんだか舞台裏を知りたくなってきます。検索してみたら、カメラマンの栗林慧さんは、同様の写真絵本を何冊も公刊されており、解説書も執筆されていました。今度また図書館で探してみようと思います。

▼桑原隆一 文/栗林慧 写真『アリからみると』福音館書店、2001年(「かがくのとも傑作集」としての刊行は2004年)、[印刷:日本写真印刷、製本:多田製本]

シャーロット・ゾロトウ/メアリ・チャルマーズ『にいさんといもうと』

 兄さんと小さな妹の絆を描いた絵本。「にいさん」はいつも「いもうと」をからかって泣かせてばかりいます。でも、本当は「いもうと」をとても大事に思っているんですね。だから、泣かせるとはいっても、それはあくまでカッコだけ。ちゃんとフォローしていて、「いもうと」もすぐにニッコリ。

 この絵本では、そんな日々のエピソードが幾つも描かれていくのですが、二人のやりとりが実にほほえましい。一つ一つのしぐさが繊細に描き出されていて、二人がとても仲良しであることがよく伝わってきます。読んでいて、なんだか、あたたかな気持ちになります。

 とくに印象的なのは色の配置。黒以外には、明るい青と黄の二色しか使われていないのですが、それは「にいさん」(青)と「いもうと」(黄)の服の色なんですね。そして、最後に二人が一緒に描く「おひさまのえ」はまさに青と黄で彩色されています。青い空の中ほどに黄色の「おひさま」が浮かんでいる絵。

 この絵は、まさに二人の絆の深さを表現しているように思えてきます。からかってばかりいるけれども、「いもうと」をあたたかく見守っている「にいさん」。それは、裏表紙に描かれた二人の姿にも表れています。

 原書”Big Brother”の刊行は1960年。なんとも可愛い絵本です。

▼シャーロット・ゾロトウ 文/メアリ・チャルマーズ 絵/矢川澄子 訳『にいさんといもうと』岩波書店、1978年、[印刷:精興社、製本:牧製本]

伴奏付きの読み聞かせ

 asahi.com 8月31日付けの記事、asahi.com : マイタウン秋田 – 朝日新聞地域情報:「グループかぜ」代表谷京子さん読み聞かせ。秋田市で読み聞かせ等の活動をしている「グループかぜ」が取り上げられています。

 おもしろいのは、読み聞かせに伴奏を付けるという取り組み。絵本も紙芝居も絵を見せられる人数には限りがあるため、もっとたくさんの子どもに楽しんでもらおうと始めたのだそうです。物語を語りながら、その場面をイメージした音楽を演奏。「語りと伴奏」がグループのスタイルとのこと。

 なるほどね。絵がなくても、音楽があることで、格段に想像の幅が広がりますね。もしかすると、曲はオリジナルなのかな。

 もう一つ、非常に納得したのが、次のこと。

 「ただ、どの子も歌や読み聞かせが好きとは限らない。そんな子が会場でつらい思いをしないよう気を使う」と谷さん。

 これは、たしかにそうなんですよね。歌が苦手な子どもは結構いると思います。いや、私自身、歌はちょっと苦手です。音楽や歌が付くと、自分が歌っていなくても、なんだか恥ずかしくなります。引いてしまうというか、さめてしまうというか……。

 でも、そこまで配慮するのは、なかなか、すごいことですね。

尾崎秀子さんの「語り」ボランティア

 asahi.com 8月31日付けの記事、asahi.com : マイタウン秋田 – 朝日新聞地域情報:尾崎秀子さん 子どもたちに「語り」。「語り」ボランティアを20年にわたってされている尾崎さんについての記事です。尾崎さんは、農村などに伝わる物語を「おはなし会」などで子どもたちに話されているそうです。「語り」というのは、つまり、絵本などは使わないで、物語を子どもたちに語って聞かせること。

 絵本の読み聞かせとの違いを指摘されているところが興味深い。

長女の通う小学校でプロの「語り」を聴いたのがきっかけ。「絵本を読まれるのとは違い、自分の頭の中で自由に絵を描ける」魅力に感動した。

 なるほどなあ。たしかに、絵本の読み聞かせの場合には、どうしても絵に縛られるところがあると思います。その点で、「語り」は自由に想像できるわけですね。

 と同時に、絵によって逆に想像力がかき立てられるというか、絵があることで逆に想像力が広がり深まることもあるかと思います。

 まあ、どちらがよいというわけではなく、それぞれの特性があると理解すべきでしょうね。

 あと、尾崎さんのお話でおもしろかったのは、農村に伝わる物語には「ムラ社会」特有の教えが色濃く表れているということ。人と同じである方がよい、思ったことを口に出さない方がよい、といったことです。これは、たしかにそうだなあと思います。

 別の角度から言うと、こういう農村に独特の慣習をどう読み替えていくかが、昔話の再話の一つのポイントになるのかもしれません。

ポプラ社が小中学生向け文庫を10月に創刊

 NIKKEI NET の8月30日付けの企業ニュース、NIKKEI NET:企業 ニュース:ポプラ社、10月に小中学生向け文庫を創刊。「ポプラポケット文庫」というシリーズを新しく刊行するそうです。これは、「ポプラ社文庫」の後継という位置づけ。

ポプラ社文庫の表紙デザインが「今の小中学生には幼すぎる」(ポプラ社)ことから、大人が持っても違和感のないデザインにする。

 なるほどねえ。うーん、つまり、小中学生だけでなく、大人もターゲットに入っていると理解してよいようです。福音館書店が数年前に福音館文庫を始めましたが、これと同じ路線かなと思います。福音館文庫のサイトは、福音館書店|福音館文庫。左記のサイトにも、子どもだけでなく、「子どもの心をもったすべての人々」を対象していることが記されていました。たしか、福音館文庫が創刊されたときの宣伝のパンフレットも、明らかに大人(とくに若い女性)向きになっていました。

 少しうがった見方かもしれませんが、少子化を考えると、これまで以上に対象者を広げていく必要性が高まっていると言えるかもしれません。また、近年の絵本ブームや児童文学の再評価も、この傾向を後押ししていると思います。出版社にとっては、自社の歴史的蓄積を再活用できるメリットもあるでしょうね。

 ポプラ社のサイトは、ポプラ社。サイトにまだ案内は載っていないようです。

スズキコージ『おがわのおとを きいていました』

 主人公の女の子、「かなめんちゃん」が裏庭の小川を飛び越えるというお話。この小川、以前飛び越えようとして落っこちてしまったのです。キリギリスや殿様ガエル、フナたちが応援したり、からかったりします。

 小川を飛び越えるのは、大人にとっては、なんてこともないでしょうが、子どもにとっては大変な覚悟がいります。小川を前にした「かなめんちゃん」の様子からは、その緊張が伝わってきます。大きく息を吸って、気持ちを高めて、ついにジャンプ! このあとのページが一種のフェイントになっていて、おもしろい。そして、喜びと安堵を表しているタイトルも、印象的です。

 絵は、スズキコージさんらしい荒々しい筆致。全体にわたって明るい緑が彩色されています。草木はもちろん、小川も緑。

 冒頭の文に記されているのですが、物語の舞台は「はるか はるか きたの くに」。明るい緑は、北国の短い夏、しかし燃え立つような夏を表しているのかもしれません。

▼スズキコージ『おがわのおとを きいていました』学習研究社、2005年(初出:月刊保育絵本<おはなしプーカ>2003年8月号『おがわのおとを きいていました』)、[編集人:遠田潔、企画編集:木村真・宮崎励・井出香代、編集:トムズボックス、印刷所:図書印刷株式会社]

青森市がブックスタート事業をスタート

 陸奥新報、8月30日付けの記事、陸奥新報WWW-NEWS:絵本楽しみ親子で触れ合い 青森市が子育て事業。青森市で、今年度、4歳児検診時に絵本を手渡す「ブックスタート事業」を始めたそうです。4歳児検診のときに渡すので、実質的には4月以降に生まれた赤ちゃんが4ヶ月になる8月にスタートとのこと。

 ただ絵本を手渡すだけでなく、赤ちゃんとの向き合いを伝えたり、図書館が赤ちゃんの名前で図書カードを発行したりしているそうです。写真が掲載されていましたが、絵本のほかにお薦めブックリストや子育て相談窓口情報を載せたパンフレットが入った「ブックスタート・パック」というセットを渡しているんですね。これは、いろいろ役立ちそうです。

 保健所だけでなく、図書館や読み聞かせのボランティアグループも連繋しているのは、とても充実していて良いんじゃないかと思います。横のネットワークがあるのは、子育て支援という意味でも大事なポイントかもしれません。

 ブックスタートについては、特定非営利活動法人ブックスタートが、活発に活動していますね。ウェブサイトは、特定非営利活動法人 ブックスタート。サイトの説明によると、2005年3月31日時点で、全国653の自治体でブックスタートが実施されているそうです。全国の市町村数は2544なので、約4分の1の市町村が実施していることになります。すごいですね。

 青森市の「ブックスタート・パック」も、この特定非営利活動法人ブックスタートのものを活用しているようです。ブックスタート・パックに紹介がありました。

あべ弘士『えほんねぶた』

 あべ弘士さんによる「絵本ねぶた」制作の様子を撮影した写真絵本。「絵本ねぶた」は、弘前市の金剛山最勝院というお寺で絵が描かれ、青森で組み立てられ、青森ねぶた祭の「市民ねぶた」の前ねぶたとして運行されたそうです。あべさんが作られたのは、一般に青森ねぶたとして知られる立体の組ねぶたではなく、弘前ねぷたと同じ平面の扇ねぶた。

 この絵本では、制作のプロセスが一つ一つ写真で紹介されているのですが、和紙や墨汁、絵の具、筆といった画材や「ねぶた絵」作りの技法、組み立て方などが詳しく説明されており、興味深いです。なかでもロウソクのロウを使って描くのが、おもしろい。明るく透明感が出るとともに、絵の輪郭として独特の効果があるんですね。

 和紙は横3.6メートル、縦2.4メートルの巨大なもの。表側の絵(鏡絵)と裏側の絵(見送り絵)の2枚で、たくさんの動物が描かれていきます。カラフルで楽しい雰囲気です。そして、中央に大きく描かれるのは、あべさんが絵を担当した絵本、『トラのナガシッポ』のトラと、ご存じ『わにのスワニー』のワニがモチーフ。

 和紙の上に直接ひざをついて絵筆で少しずつ彩色していくあべさんの姿からは、緊張感がありながらも楽しそうな現場の雰囲気が伝わってきます。とくに、お寺の本堂におかれた和紙に最初の筆を下ろした写真が、とても美しい。大きな真っ白い和紙が広げられ、その一部にたっぷりの墨でアザラシの輪郭を描くあべさん。これからワクワクするような楽しいことが始まる……そんな期待に満ちた画面です。

 もちろん、完成した「絵本ねぶた」がまちを練り歩く写真もあります。たくさんの写真がコラージュされているのですが、ねぶたそのものではなく、祭りに参加している人たち、「はねと」が中心。激しくはじける(?)あべさんも写っています。子どもたちの写真もいっぱい。威勢のいいお囃子やかけ声が聞こえてくるようで、祭りのエネルギーと活気に満ちています。

 もう一つ印象的なのは、冒頭と巻末の絵のページ。ここの4ページないし3ページのみ、あべさんが絵を描いており、真ん中すべてが写真なんですね。最初のページでは、あべさんのルーツと「ねぶた」との関わりが語られ、最後の3ページには祭りの終わりが描かれています。ゆく夏を惜しむような切なさのある絵、そして、めくったラストページは、もう秋。東北の激しく短い夏が去っていったことを実感できます。この絵本は、「ねぶた」とともにあった一夏のドキュメントなんですね。

 ところで、今回の「ねぶた」制作については、2004年6月9日付けの東奥日報に関連記事が載っています。Web東奥・ニュース20040609_13:あべ弘士さんが絵本ねぶた制作です。記事によると、あべさんは2年連続で「絵本ねぶた」を制作されたそうです。

▼あべ弘士『えほんねぶた』講談社、2005年、[ブックデザイン:沢田としき、撮影:恩田亮一・柏原力・編集部、印刷所:株式会社精興社、製本所:大村製本株式会社]

二宮由紀子/あべ弘士『くまくん』

 逆立ちをした「くまくん」、「自分は今さかさまだから、もしかして”くま”じゃなくて”まく”なんじゃないか」と考えました。いろんな動物たちも、「くまくん」(「まくくん」?)のマネをして逆立ちし、名前が逆さまになっていくというお話。

 いやー、なんとも、ナンセンスな展開。「くまくん」以外はみんな、元の名前がいいや、となるんですが、逆立ちした名前とそれがよくない理由は、読んでいてへなへなと脱力してくる感じです。一種の言葉遊びですが、名前が逆さまになるだけで、ずいぶんイメージが変わるんですね。その横滑りぶりが、とてもおかしい。予想通りと言うべきか、「かばくん」も登場していました。

 ラストのオチも、ユニーク。また別の言葉遊びが始まりそうです。

 考えてみれば、こういう言葉遊びは、子どもにとって、なじみ深いかもしれません。あだ名もその一つかなと思います。大人になると、名前をいじるのは失礼という社会常識が邪魔しますが、子どもにとっては、とても身近な遊び。その楽しさがこの絵本には表されていると思います。

 絵は、白い画面に動物だけが描かれており、森や草原といったような背景描写は一切ありません。でも、この画面のシンプルさは、言葉遊びというモチーフによく合っていると思いました。名前を逆に読むのは、とても抽象的な操作なんですね。逆立ちも、上を下に、下を上にというごく単純なアクション。だから、余計な装飾をそぎおとした画面が、しっくりくるように感じます。

 あと、ページのめくりのリズムも印象的です。「くまくん」と動物たちとのやりとりがあり、そしてページをめくると逆立ちしているのです。めくったときのインパクトが効いています。

▼二宮由紀子 作/あべ弘士 絵『くまくん』ひかりのくに、2004年、[印刷所:図書印刷株式会社]