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スズキコージ『イモヅル式物語』

 うーん、おもしろい! この絵本は、福音館書店の月刊誌『おおきなポケット』に1995年4月から1996年3月まで連載された「イモヅル式物語」を単行本化したもの。4ページの短い物語が第1話から第12話まで、納められています。

 一話完結型になっているのですが、どれもスズキコージさんらしく非常にユニークです。ナンセンスでクスクス笑いたくなる感じなのですが、こんな発想どこから出てくるんだろうというくらい独創的(?)。一番強烈だったのは、「ヘビの古着屋」と「バリカンくんの仙人修業」かな。

 見返しには、「イモヅル式」について、スズキコージさんの簡単なコメントが記されていました。「次々と色々な楽しくてバカバカしい(?)事件を、……ダラダラとお見せする」のが「イモヅル式」とのこと。なるほど(?)。

 実際、この「イモヅル式」はいろいろなところに読み取れます。たとえば、エピソードとエピソードが、表裏2ページに描かれたイラストで繋がっているんですね。また、句点をあまり打たずに、長い文章が多い点も、「イモヅル式」を感じさせます。

 どんどん話が転がっていき、どこに連れて行かれるか分からない……即興というか、計算ずくではない勢いがあります。けばけばしい色調と激しいタッチも、実にパワフル。まさにスズキコージさんならではです。

 ところで、うちの子ども曰く「この絵本は図鑑みたいだねえ」。大きくて分厚いところがそうだとのこと。なるほどね。大きくてしっかりとした造本は、中の高圧エネルギーに似合っている気がしました。

▼スズキコージ『イモヅル式物語』ブッキング、2005年、[印刷・製本:株式会社シナノ]

片山健さんの表紙 富士ゼロックスの広報誌『グラフィケーション』142号

 今日、届いた富士ゼロックスの広報誌、GRAPHICATION グラフィケーションの最新号(142号)、片山健さんが表紙の絵を担当されています。冬の野外(?)で遊ぶ子どもたちの姿が描かれています。のびやかで暖かで、なかなか、よい感じです。

 GRAPHICATION、1年くらい前から送ってもらっているのですが、毎号、非常に興味深い特集で、楽しみにしています。今回の特集は「子どもたちは、いま…」。片山健さんの表紙と呼応しています。また、連載の執筆陣も、粉川哲夫さん、平井玄さん、結城登美雄さん、池内了さん、他と、かなり強力です。

 あと、GRAPHICATION の表紙は毎号、いろんな方が担当されているのですが、絵本作家の方も割とよく描かれています。たとえば、ここ1年くらいだと、スズキコージさん、ささめやゆきさん、山口マオさん。

 これだけの内容を備えたメディアが、原則無料で購読できるのは、本当に驚きです。ずっと刊行し続けてほしい広報誌です。関心のある方は、ぜひ、上述のサイトをのぞいてみて下さい。バックナンバーの表紙や目次も見ることができます。

スズキコージさんのワークショップ

 スズキコージさんのワークショップを紹介した記事を二つ。一つは、四国新聞社、11月7日付けの記事、香川県のニュース:家族連れら手作り仮面で街をパレード。もう一つは、大分合同新聞社、11月7日付けの記事、大分合同新聞社

 まず、11月3日に、香川県高松市の市美術館にて開催された「仮面ワークショップ」。記事によると、段ボールやひも、木の枝、古布など身近な素材を使って仮面や衣装を手作り。出来上がったら、みんなで仮面や鎧やドレスを身につけて、丸亀町内や兵庫町商店街を練り歩いたそうです。もちろん、パレードの先頭はスズキコージさん。

 これ、いいですねー。写真が載ってないのですが、ものすごく、あやしかったでしょうね(笑)。スズキコージさんの写真コラージュ絵本に、『みんなあつまれ』「こどものとも年少版」2003年9月号(通巻318号)というのがあるんですが、そこに描かれるのが、まさにパレードです。高松では、ラッパや太鼓、笛、マラカスといった楽器を鳴らして練り歩いたそうですが、商店街のなかにいつの間にか、あのスズキコージ・ワールドが出現したわけです。なんだか痛快です。

 ワークショップの会場になった高松市美術館のサイトは、高松市美術館美術課。記事にも記されていますが、現在、ジェームズ・アンソール展を開催していて、その関連で「仮面ワークショップ」となったそうです。アンソールさんは、仮面を絵画に多用し「仮面の画家」と呼ばれており、しかもスズキコージさんはアンソールさんのファンとのこと。スズキコージさんと仮面のかかわり、なかなか興味深いです。

 もう一つのワークショップは、11月5日、大分県中津市本耶馬渓町の「西谷ふるさと村」で開催された「オンボロバスでいこう!」。こちらは、ベニヤ板の上に段ボールを切り貼りして彩色し、「オンボロバス」を作るというもの。

 このワークショップでも、最後は、出来上がった4台のバスを連結して、みんなでパレード。もちろん、音楽付きですね。スズキコージさんとパレード、こちらも興味深い。

 えーっと、実は私、この大分のワークショップ、参加しました。そのうち、記事に書けたらいいなと思いますが、ものすごく楽しかったです。いや、実に素晴らしい秋の一日でした。

 それはともかく、今回の会場の「西谷ふるさと村」は、西谷小学校の廃校を活用し、絵本をテーマにした展示施設を併設しています。他にも、様々な地域づくりの活動拠点になっており、非常にユニークです。サイトは、西谷ふるさと村 TOPページ。近くには、お肌つるつるになる温泉もあり、機会があったら、ぜひまた行ってみたいです。

スズキコージ『おがわのおとを きいていました』

 主人公の女の子、「かなめんちゃん」が裏庭の小川を飛び越えるというお話。この小川、以前飛び越えようとして落っこちてしまったのです。キリギリスや殿様ガエル、フナたちが応援したり、からかったりします。

 小川を飛び越えるのは、大人にとっては、なんてこともないでしょうが、子どもにとっては大変な覚悟がいります。小川を前にした「かなめんちゃん」の様子からは、その緊張が伝わってきます。大きく息を吸って、気持ちを高めて、ついにジャンプ! このあとのページが一種のフェイントになっていて、おもしろい。そして、喜びと安堵を表しているタイトルも、印象的です。

 絵は、スズキコージさんらしい荒々しい筆致。全体にわたって明るい緑が彩色されています。草木はもちろん、小川も緑。

 冒頭の文に記されているのですが、物語の舞台は「はるか はるか きたの くに」。明るい緑は、北国の短い夏、しかし燃え立つような夏を表しているのかもしれません。

▼スズキコージ『おがわのおとを きいていました』学習研究社、2005年(初出:月刊保育絵本<おはなしプーカ>2003年8月号『おがわのおとを きいていました』)、[編集人:遠田潔、企画編集:木村真・宮崎励・井出香代、編集:トムズボックス、印刷所:図書印刷株式会社]

スズキコージ ワールド 滋賀県能登川町立図書館

 7月27日付けの中日新聞の記事、大胆な色使い魅力 能登川で絵本作家スズキコージ作品展。滋賀県能登川町立図書館で、スズキコージさんの作品展「スズキコージ ワールド」が開催されているそうです。8月28日まで。

会場には、見学者の前で音楽を流しながら描いた「ライブペインティング」と呼ばれる大作六点や絵本の原画、陶器の動物や家などを展示し、スズキさんのユニークな作品世界を紹介している。

 おもしろそうですね。とくに「ライブペインティグ」、これはぜひ見てみたいです。去年、スズキコージさんの巨大な作品(布?に描いたもの)を見る機会があったのですが、本当にすごい迫力と美しさで、絵本とは違った魅力がありました。

 能登川町立図書館は、博物館などと一緒になって、能登川町総合文化情報センターのなかにあるようです。ウェブサイトは、能登川町総合文化情報センター総合文化情報センターだよりのページをみると、先週の21日と22日にはスズキコージさんのワークショップも開催されたようです。どんな感じなんだろう。こちらも、一度は参加してみたいです。

スズキコージ『すいしょうだま』

 これは、すごい! 魔法使いの息子が、兄弟の助けを借りて、魔法をかけられたお姫様を救い出すという物語。

 とにかく、ど迫力の絵に圧倒されます。エネルギーに充ち満ちた筆致に、濃密な描き込み。むせかえるほどに充溢する色とかたち。これまでに読んだスズキコージさんの絵本のなかでも、ここまで鮮烈なのは、ちょっとないんじゃないかと思いました。

 物語は、冒頭からとばしています。「魔法使いの女」が登場するのですが、自分の息子たちをちっともかわいがらず、ワシやクジラに変えてしまうのです。これは恐い。

 そして、物語の中ほどに現れる「お姫様」。こちらも強烈!

顔はねずみ色をした、くしゃくしゃのばあさんで
かみの毛をもやしたようないやなにおいを、あたりにまきちらしていた。

付けられている絵は、まさに文章の通り。造形も色合いも、不穏な雰囲気を醸し出しています。もちろん、魔法のせいでこうなっているわけですが、それにしても、「お姫様」のこんな描写、他の絵本ではちょっとお目にかかれないと思います。たぶん、スズキコージさんにしか描けないんじゃないかな。絵本の暗黙のルールを壊していると言えるかもしれません。いや、もちろん、それが素晴らしいと思います。

 さらに、荒ぶる牛との戦いに、真っ赤な火の鳥、潮をぶちまけるクジラと、すさまじい冒険がこれでもかと続きます。

 とにかく熱い画面に押しまくられる感じなのですが、と同時に、そこはかとなくユーモラスなところがあるように思いました。「魔法使いの女」の最後や物語のオチは、なんとなく力が抜けています。

 この絵本は最初、1981年にリブロポートより刊行され、その後、2005年に復刊。復刊ドット・コムに寄せられたリクエスト投票により復刊したそうです。これだけ強烈な絵本ですから、リクエストが集まるのも当然のような気がしました。

▼スズキコージ『すいしょうだま』ブッキング、2005年、[印刷・製本:株式会社シナノ]

イェジー・フィツォフスキ/内田莉莎子/スズキコージ『なんでも見える鏡』

 これはおもしろい! ジプシーの昔話をもとにしているのですが、いわば恋の絵本です。

 主人公は貧乏なジプシーの青年。旅に出たジプシーは、美しい王女のいる国へとやってきます。そこでは「王女から隠れて見つからなかった者が王女の夫になれる」というおふれが出ていました。というのも、王女はとても勘がよく利口で、しかも世界中のものを何でも写し出す魔法の鏡を持っていたのです。美しい王女に一目惚れしたジプシーは、旅の途中で助けた大きな銀色の魚やワシやアリの王様の手を借りて、王女の難題に挑み、最後は王女と結ばれるという物語。

 ジプシーが恋の試練を乗り越えるというのが基本のストーリーなんですが、本当の主人公はむしろ王女かも。実はジプシーは2回も隠れることに失敗するんですね。2回続けて失敗したら重い罰を受けなければならないのですが、そのとき王女は次のように言います。

おまえを 罰しなくては
いけないのだけど、なぜか わたしにはできないわ。
いいこと、もう1かい かくれてごらん。ほんとうに
これでおしまいよ。

 王女はすでにジプシーに恋しているにもかかわらず、まだそれに気づいていない、あるいは気づきたくない(?)わけです。

 そして3回目。ここでタイトルの「なんでも見える鏡」が非常に印象深く生きてきます。いったい鏡に映ったのは何であったか? 昔話にしばしば見られるモチーフかもしれませんが、それでも割れて粉々になった鏡が実に鮮烈。

 ジプシーと王女が結ばれる画面もとても美しい。互いに手を伸ばし合う二人はまるで宙に浮いているかのように描かれています。恋の高鳴りが聞こえてきそうです。そういえば、同じような構図の有名な絵画があったような気がしました。

 絵はグラデーションがかかったような彩色が美しくダイナミック。とくにスズキコージさんらしい(?)のは、やはり、アリの王様ですね。妖しい怪物です。あと、天高く飛ぶワシもなかなかの格好良さ。

 うちの子どもは(たぶん?)恋や愛のモチーフはまだ分からなかったと思うのですが、読み終えて曰く「ジプシーはちょっと若すぎなんじゃない?」。つまり、王女と比べて年齢が若く釣り合いが取れないということのようです。なるほどねえ。

 たしかに絵を見るかぎりでは、年下に見えます。というか、王女ですからジプシーより偉そうなんですね。あるページでは、ジプシーよりも背が高く描かれています。たぶん、ひな壇の上にいるからでしょう。こういうところが、おそらく、「王女」が年上に見える理由じゃないかなと思いました。

 あと、うちの子どもは、物語のはじめでジプシーに「むちばかりくれた主人」が最後に国を追い出されたところがよく分からなかったようでした。うーん、たしかに、分かりにくいかも。

 ところで、とびらの向かい側のページに記されていましたが、どうやらフィツォフスキさんの再話そのものは1966年に書かれたもののようです。巻末の著者紹介によると、フィツォフスキさんは、ポーランドのワルシャワで1924年に生まれ、第二次世界大戦中はナチス占領下のワルシャワで地下抵抗運動に加わり、1944年のワルシャワ蜂起にも参加。ドイツの捕虜収容所で生き抜き、戦後、ポーランドに戻ったそうです。第二次世界大戦の荒波のなかで少年時代・青年時代を生きてきた方です。

 この絵本、おすすめです。

▼イェジー・フィツォフスキ 再話/内田莉莎子 訳/スズキコージ 絵『なんでも見える鏡』福音館書店、1989年

スズキコージ『クリスマスプレゼントン』

 今回も、うちの子どもは、サンタクロースの山に大受けしていました。巨人の顔で、内部が何かの基地みたいに描写されています。これは、うちの子どもにはたまらない魅力ですね。そういえば「プレゼントンおじさん」の村の家々も煙突が顔みたいになっています。

 ところで、主人公の「メリー」が「プレゼントンおじさん」の村に行っている間、まったく外見が同じの「雪のメリー」が「メリー」の代わりに町で生活しています。「プレゼントンおじさん」曰く「メリー、ここに いたいだけ、ゆっくりしておいき」。

 これは、なんというか、子どもの一つの願望を表しているかもしれないなと思いました。つまらない日常から抜け出て魔法と冒険に生きる、しかも自分の同じ姿形の分身が自分の身代わりになってくれる、誰にも帰りなさいと言われることなく楽しい毎日がすぎていく……。

 それでも最後は町に戻ります。「プレゼントンおじさん」たちとも別れ、もう一人の自分である「雪のメリー」にもさよならを告げます。その心情が何か具体的に書かれているわけではありませんが、この別れの場面とそして「メリー」の手に残されたガラス玉の描写は非常に印象的。なんだろうな、考えすぎかもしれませんが、「子ども」の「メリー」にとってのクリスマスがこれで終わったのかもしれないと思いました。

▼スズキコージ『クリスマスプレゼントン』ブッキング、2003年

まど・みちお/スズキコージ『おならはえらい』

 今日は3冊。この絵本ではまどさんの詩が4つ収録されています。うちの子どもに一番うけていて、また私にとっても印象深いのは、やはり、タイトルにもなっている「おならはえらい」。引用します。

おならは えらい
でてきた とき
きちんと
あいさつ する
こんにちは でもあり
さようなら でもある
あいさつを…
せかいじゅうの
どこの だれにでも
わかる ことばで…
えらい
まったく えらい

 付けられているスズキさんの絵も、おおらかでインターナショナルです。

▼まど・みちお 詩/スズキコージ 絵『おならはえらい』童心社、1990年

長谷川摂子/スズキコージ『たいこたたきのパチャリントくん』

 この絵本、表紙・裏表紙の見返しには、得体の知れない生き物の影がたくさん描き込まれています。物語のなかで一番不気味なのが「サンヨルチュウ」。真っ黒で足が何本もあり、虫のような生き物。何十匹もいて「いつも すなに つばを まぜて くろい まちを つくっています」。「パチャリントくん」たちが壊して壊しても、別の場所にどんどん黒いまちを作っていく様子が、なんとも気味が悪い。でも、それもまた、この絵本の魅力です。

▼長谷川摂子 さく/スズキコージ え『たいこたたきのパチャリントくん』「こどものとも」2000年3月号(通巻528号)、福音館書店、2000年