月別アーカイブ: 2004年11月

ボニー・ガイサート/アーサー・ガイサート『マウンテンタウン』

 19世紀後半、アメリカの「ゴールドラッシュ」の時代にロッキー山脈にできた小さなまち。なかには、鉱物が掘り尽くされたあと姿を消してしまったまちもあったそうですが、いまに至るまで残っているまちもあります。この絵本が描くのは、そんな山のなかの小さなまちの1年。あたかもカメラを近づけたり遠ざけたりするかのようにして、自然のなかに抱かれたまちとそこでの人びとの生活が、時間の流れのなかで浮かび上がってきます。
 遠くからまち全体を俯瞰した画面には、冬から春へ、夏から秋をへてまた冬へ、といった四季の移り変わりが美しく描写されています。粉雪の舞い降りる冬やうすく緑が広がる春先、そして夏の終わりの嵐……繊細なエッチングがすばらしいです。
 まちの住民の生活ぶりも、たとえば7月4日の独立記念日や「伝統の日」の岩の穴あけコンテスト、秋のアメリカンフットボールなどの行事とともに描かれ、興味深い。古くからの鉱山の様子も断面図になっており、しかも銀行強盗付き(!)でこれもおもしろいです。巻末の解説(?)にも書いてあるのですが、生活の変化についていろいろと細かに描写されており、ぜんぜん見飽きません。
 ちょっと絵探し絵本の趣向もあります。うちの子どもといっしょに「青い車」を探したりしました。とくにうちの子どもに受けていたのは「ハイイログマ」。意外なところにいるんですね。原書の刊行は2000年。この絵本、おすすめです。
▼ボニー・ガイサート 文/アーサー・ガイサート 絵/久美沙織 訳『マウンテンタウン』BL出版、2002年

佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』

 またまた「ムッシュ・ムニエル」シリーズの一冊。今回は月を研究している双子の博士、「ニッチモはかせ」と「サッチモはかせ」が登場。「ムニエル」が魔法で地上に降ろした月をめぐって、双子の博士との間で騒動になります。たくさんの月(!)夜空にあがり、そしてニセモノの月がパラパラと落ちてくる画面は実にシュールです。「ムニエル」が使う魔法は歌声を空き瓶につめて花火のように打ち上げるというもの。考えてみると、けっこうロマンチックかもしれませんね。でも、どうやら「ムニエル」は音痴のようです。
▼佐々木マキ『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』絵本館、2001年

長谷川義史『どこどこどこ いってきまーす』

 今日は3冊。うちの子どものリクエストにより、『どこどこどこ』、また図書館から借りました。もう一回読みたくなったとのこと。もう忘れているかなあと思っていたら、私もうちの子どももけっこう覚えていました。だいぶ苦労して楽しんだからねえ。それにしても、あらためて見てみると、本当にすごい描き込みです。
▼長谷川義史『どこどこどこ いってきまーす』ひかりのくに、2003年

斉藤洋/杉浦範茂『ルドルフとイッパイアッテナ』

 最近ずっと毎日読む絵本が1冊だったのは、この本を少しずつ読んでいたから。「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズの第一作です。私と妻とで交替で読んでいったのですが、なかなかおもしろかったです。ラストのイヌの「デビル」との対決は緊迫した展開で、子どもともども盛り上がりました。
 以前読んだ『ルドルフといくねこくるねこ』のときも思いましたが、このシリーズの基本はなんとなくハードボイルドですね。登場するネコたちは必要以上に甘えないし依存しない。表紙の杉浦さんの絵の通り、キッパリとまっすぐに生きている、そんな印象を持ちました。と同時に、いろいろ笑えるところも多くてユーモラス。うちの子どももだいぶ受けていました。
▼斉藤洋 作/杉浦範茂 絵『ルドルフとイッパイアッテナ』講談社、1987年

木葉井悦子『クロ てがみかこう』

 アフリカで生まれ小金井町で暮らしているイヌの「クロ」。もともとの飼い主(?)アフリカの「ムフおじさん」に、主人公の女の子「わたし」が「クロ」の1年間の様子を手紙に書くという物語。「クロ」と「わたし」の交流が四季折々の自然のなかで描かれており、その強いきずなが伝わってきます。

 絵はダイナミックで迫力があります。まずは表紙、「わたし」と「クロ」が背中合わせに座って笑っている画面がなんとも暖かな雰囲気。本文では、ドクダミの葉摘み、梅雨の雨、夏の川遊び、台風、大晦日の準備など、自然の風情が勢いのある筆致で描かれています。ラストページは赤いポスト。つまり、手紙を出すんですね。裏表紙の見返しには周辺の地図が描かれているのですが、「わたし」の家の隣に「おじいちゃん」の家があり、そこがとても自然豊かであることが分かります。

 はじめの方のページ、家の郵便受けをよく見ると「木葉井」と表札がかかっていました。もしかすると「クロ」は作者の木葉井さんが飼っている(飼っていた)実在のイヌなのかもしれません。

▼木葉井悦子『クロ てがみかこう』「こどものとも」1991年6月号(通巻423号)、福音館書店、1991年