月別アーカイブ: 2006年11月

村山桂子/堀内誠一『たろうのおでかけ』

 「たろう」と「いぬの ちろー」「ねこの みーや」「あひるの があこ」「にわとりの こっこ」が仲良しの「まみちゃん」の誕生日のお祝いに出かけるという物語。

 この絵本は、一見したところ「交通規則のしつけ絵本」のような趣きがあります。「まみちゃん」の家に行く途中で、道路でふざけてはいけない、走ったりしない、信号は守る、横断歩道をきちんとわたる、といった基本的なルールを「たろう」は学んでいきます。交通ルールをちゃんと守らないといけないよといったメッセージが読み取れます。

 しかし、この絵本のすごいところは、そういうしつけ絵本的な枠をどんどんはみ出していく点だと思います。

 一つには、もちろん、「たろう」と動物たちの実に楽しげな様子。カラフルな色彩とのびやかな線は、堅苦しさをまったく感じさせません。「しつけよう」などという押しつけがましさやわざとらしさからかけ離れた描写です。

 そして、もう一つ、とても印象的なのは、交通ルールというものを、徹頭徹尾「つまらない」ものであり仕方なく従うものとしている点です。

 文中、「たろう」たちの「うれしいことがある」から急ぐという感情に対し、大人たちは常に「だめ だめ だめ」とそれをアタマから否定し、交通ルールを守ることを求めます。「たろう」たちはいつもそれを「つまらない」と言い、でも「けがをするのはいやなので」従います。「だめ だめ だめ」と「つまらない」が何度も繰り返されていくわけです。

 もちろん、危ない目にあわないためには、いやでも応でも交通ルールを守らないといけません。交通ルールとは、そのようなものだと言ってもよいでしょう。

 しかし、たしかにそうではあるのですが、この絵本の描写、とくに文章における「だめ だめ だめ」と「つまらない」の繰り返しは、規則というものが徹底して面白みがなく味気ないことを浮き彫りにしていると思います。

 そのことは、物語の展開にもはっきり表れているように感じました。なにより原っぱに着いてからの開放感が実に鮮やか。気持ちのままに思いっきり駆け出す「たろう」たちです。それに対応するかのように、それまで白みの多かった画面は、明るい緑と青に彩られます。

 そしてラストの一文。

はらっぱの みちでは、もう だれも、「だめ だめ だめ!」って、いいませんからね。

 それまでとの落差の激しさは、ルールや規則の存在について、相当にラディカルな見方を示唆していると思うのですが、どうでしょう。

 例によって(?)考えすぎかもしれません。しかし、「しつけ絵本」であるかに見えて「しつけ絵本」からいつの間にか抜け出てしまう、あるいは「外」に出て行ってしまう……まさに「たろう」たちのように、もっと明るく自由な「原っぱ」に駆けていってしまう……そんな絵本になっていると思いました。

 あと、もう一つ、特筆すべきは町の描写。お店さんや様々なクルマの描写がとてもモダンです。これは堀内さんならではと言えるかもしれません。

▼村山桂子 さく/堀内誠一 え『たろうのおでかけ』福音館書店「ものがたりえほん36」、1963年、[印刷・製本:精興舎]

フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン『ゆうびんやのくまさん』

 ご存知「くまさん」シリーズの一冊。今回は郵便屋さんです。駅から小包を運び、はんこを押し、配達し、ポストから回収する……1日の仕事が淡々と描かれていきます。

 他の「くまさん」シリーズと違うのは、物語の日付が明確であること。すなわち、クリスマス・イブです。「くまさん」がいつもかぶっている帽子にはクリスマスならではの小さな飾りが付けられています。雪の降り積もるホワイト・クリスマス、どことなく幸せな空気がまちの描写からは感じられます。

 そして、その幸せを届けているのがまさに「ゆうびんやのくまさん」なんですね。1年の一度のクリスマスの贈り物、それを届けることは、「くまさん」にとって、いつにもまして、やりがいのある仕事なんじゃないかと思います。

 そんな「くまさん」は配達先の家々で歓迎され、また「くまさん」の家にもたくさんの贈り物が届いています。考えてみると、クリスマスは、誰もが互いに互いを大事に気遣うときと言えるかもしれません。それがこの絵本の端々に静かに描かれている気がします。そういえば、ラストページ、「くまさん」はサンタさんにもさりげなく気配りしていますね。

 ところで、今回、非常に注目したのが、「くまさん」の家の暖炉の隣に飾られている写真(?)。どうも結婚式の様子が写っているように見えます。一人は「くまさん」ですよね。その横には、なんとウエディングドレス姿の女性の「くま」が立っています。うーむ、「くまさん」は結婚していたのか! 初めて明らかになる真実!(^^;)といった感じで驚きました。これまでずっと、「くまさん」は独身だと思っていたのです。

 あらためて見直してみると、最初のページ、「くまさん」の家の玄関脇の壁には、可愛い女性の「くま」の写真(?)が飾られていました。ということは、「くまさん」は何か事情があって、奥さんと離ればなれで暮らしているということかな。

 ちょっと考えすぎでしょうか。でも、毎日もくもくと働く「くまさん」にも、クリスマス・イブの夜、愛する奥さんからうれしいプレゼントが届いていたとしたら、なんだか良いなあと思いました。

 原書“Teddy Bear Postman”の刊行は1981年。

▼フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン 作・絵/まさきるりこ 訳『ゆうびんやのくまさん』福音館書店、1987年、[印刷:三美印刷、製本:多田製本]

いとうひろし『くものニイド』

 主人公は蜘蛛の「ニイド」。仲間から「くものすだいおう」と呼ばれるほどの巣作りの名人です。なにせ、小さな虫はもちろん、カブトムシだろうと、ジェット機だろうと、空飛ぶ円盤だろうと、捕まえてしまうのです。ところが、そんなニイドでも、唯一、捕まえられないものがあったという物語。

 その捕まえられないものを捕まえるという展開が、なかなか愉快で面白いのですが、一番、驚いたのが話のオチ。ううむ、これは、ある意味、スゴイかも。まさか、こんなオチを持ってくるとは……。うちの子どもも「えっ!」と唖然としていました。

 それはともかく、絵がけっこう特徴的かもしれません。鮮やかな空の青をバックに、カラフルな色合いで「ニイド」たち蜘蛛が描かれています。いとうさんの他の絵本と比べても、ヴィヴィッドな色彩です。

 あと、主人公「ニイド」の顔がけっこうワル。黒目(?)が小さくて、凶悪そうなんですね。へんに可愛くないのがよいです。

▼いとうひろし『くものニイド』ポプラ社、2006年、[編集:荻原由美、印刷・製本:凸版印刷株式会社]

屋外での父親による絵本読みきかせ

 日本最南端の新聞社、【八重山毎日オンライン】 石垣島・竹富島・黒島・西表島・小浜島・波照間島・与那国島などのローカルニュース 、10月24日付けの記事、父親の読み聞かせ好評/屋外活動に子どもたち大喜び 【八重山毎日オンライン】

 石垣市立白保小学校で行われている父親による屋外での絵本読みきかせです。年2回実施され、10月20日には校内6カ所で父親が持参した絵本を読んだとのこと。写真も掲載されているのですが、とても気持ち良さそう。10月でも石垣島は夏ですね。木陰で夏服の子どもたちがお父さんを囲んでいます。うーん、素晴らしいです。

 面白いのは、子どもたちには事前に絵本名と場所だけが知らされ、誰が読むのかその場所に行くまで分からないこと。自分のお父さんとか、お気に入り(?)のお父さんではなく、絵本それ自体と読む場所それ自体を子どもたちは選ぶわけです。

 なんというか、スリリングな一期一会。

 同じ絵本でも、誰が読むかによって印象はかなり変わるでしょうし、また読み聞かせなら、誰が聞くかによって変わってくるでしょう。その「誰か」がそのときにならないと分からないわけです。

 加えて絵本を読む空間の唯一性。屋外ですから、風も光も土も空気も、その場かぎりです。もちろん、屋内で絵本を読むときも同じですが、屋外ではその唯一無二性を肌で実感できると言えます。子どもたちにとっても、お父さんたちにとっても、毎回、非常に新鮮なのではないかと思います。

 あるいはまた、自分のお父さんとは違うお父さんに出会う、自分の子どもとは違う子どもに出会う、しかも毎回変わっていく、このことの意義はいろんな点で大きいかもしれません。

 記事によると、白保小学校では、すでに10年ほど前から父母による読み聞かせをしているとのこと。屋外での読み聞かせも2002年からスタート。これは全国的に見ても、かなり早い取り組みなのではないかと思います。すごいですね。白保小学校の紹介ウェブページはしらほ小学校。PTA活動が活発との記述があります。

 屋外で子どもと一緒に絵本を読む……一度、やってみたいなあ。