ご存知「くまさん」シリーズの一冊。今回は郵便屋さんです。駅から小包を運び、はんこを押し、配達し、ポストから回収する……1日の仕事が淡々と描かれていきます。
他の「くまさん」シリーズと違うのは、物語の日付が明確であること。すなわち、クリスマス・イブです。「くまさん」がいつもかぶっている帽子にはクリスマスならではの小さな飾りが付けられています。雪の降り積もるホワイト・クリスマス、どことなく幸せな空気がまちの描写からは感じられます。
そして、その幸せを届けているのがまさに「ゆうびんやのくまさん」なんですね。1年の一度のクリスマスの贈り物、それを届けることは、「くまさん」にとって、いつにもまして、やりがいのある仕事なんじゃないかと思います。
そんな「くまさん」は配達先の家々で歓迎され、また「くまさん」の家にもたくさんの贈り物が届いています。考えてみると、クリスマスは、誰もが互いに互いを大事に気遣うときと言えるかもしれません。それがこの絵本の端々に静かに描かれている気がします。そういえば、ラストページ、「くまさん」はサンタさんにもさりげなく気配りしていますね。
ところで、今回、非常に注目したのが、「くまさん」の家の暖炉の隣に飾られている写真(?)。どうも結婚式の様子が写っているように見えます。一人は「くまさん」ですよね。その横には、なんとウエディングドレス姿の女性の「くま」が立っています。うーむ、「くまさん」は結婚していたのか! 初めて明らかになる真実!(^^;)といった感じで驚きました。これまでずっと、「くまさん」は独身だと思っていたのです。
あらためて見直してみると、最初のページ、「くまさん」の家の玄関脇の壁には、可愛い女性の「くま」の写真(?)が飾られていました。ということは、「くまさん」は何か事情があって、奥さんと離ればなれで暮らしているということかな。
ちょっと考えすぎでしょうか。でも、毎日もくもくと働く「くまさん」にも、クリスマス・イブの夜、愛する奥さんからうれしいプレゼントが届いていたとしたら、なんだか良いなあと思いました。
原書“Teddy Bear Postman”の刊行は1981年。
▼フィービ・ウォージントン/ジョーン・ウォージントン 作・絵/まさきるりこ 訳『ゆうびんやのくまさん』福音館書店、1987年、[印刷:三美印刷、製本:多田製本]