月別アーカイブ: 2005年12月

アーノルド・ローベル『ふくろうくん』

 一人暮らし(?)の「ふくろう」の5つのお話。どれも、どことなく孤独と寂しさが奥底にあるように感じるのですが、と同時に、軽やかなユーモアに包まれています。くすくすと笑いたくなってくる感覚です。

 それが一番表れているのは、なんといっても「なみだの おちゃ」。ずっと悲しいことばかりが列挙されていくのですが、最後の2ページでそれが一気に反転します。いや、というか、そもそも最初のページからして違いますね。「ふくろう」曰く「さあて、ぼく はじめるよ」。なんの屈託もなく、快活そのものです。

 そして、ラスト1ページの開放感。悲しいことはたくさんあるし、とことん悲しいのだけれど、でも、それに囚われることはないんだな。そういう気分になります。

 うちの子どもは、やはり「なみだの おちゃ」の味が気になるようでした。話が終わる前に、ちゃんと予想していました。うちの子ども、涙の味をどんなふうに感じてきたのかな。それが、「なみだの おちゃ」のように「とても いいもん」になっているといいなと思います。

 あと、「おつきさま」のお話も、なんだか子どもの頃のことを思い出しました。夜の帰り道、いつまでも付いてくる月に、たしかに友情のようなものを感じていたと思います。

 絵は、「ふくろう」の大きく見開かれた目が印象的。一人ぽつんとたたずんでいる、そんな雰囲気があります。

 原書”Owl at Home”の刊行は1975年。

▼アーノルド・ローベル/三木卓 訳『ふくろうくん』文化出版局、1976年、[印刷:文化カラー印刷、製本:大口製本]

宮城県美術館の絵本原画コレクション

 先のエントリー、絵本を知る: 「こどものとも」の絵本展が新潟県立万代島美術館で開催、で紹介した『こどものとも』の原画展ですが、サイトの「こどものとも」の絵本展に掲載されている情報をよく見ると、多くの原画が宮城県美術館所蔵となっていました。

 そこで、宮城県美術館のサイト、宮城県美術館をのぞいてみると、今度、彫刻家の佐藤忠良さんの絵本原画展が開催されるようです。サイトの該当箇所は、最新ニュース – 展示です。「彫刻家が描く 佐藤忠良の絵本原画」と銘打たれ、会期は2006年1月21日(土)から3月26日(日)まで。展示されるのは、14の作品の208点。有名な『おおきなかぶ』も含まれています。これらの原画もすべて、宮城県美術館所蔵だそうです。

 宮城県美術館は、どうやら、かなりの数の絵本原画を所蔵しているようです。サイトの所蔵作品の特色のページによると、福音館書店『こどものとも』の原画を中心に204作品(2890枚)の絵本原画コレクションがあるとのこと。で、どうも、これらはすべて寄贈のようなんですね。

 美術情報サイト eArt-美術館展覧会情報【宮城県美術館】によると、1998年に「絵本原画の世界「こどものとも」の絵画表現1956-1997」を開催し、それを契機として、177タイトル、2800点余りの絵本原画の寄贈を受けたとあります。2002年に開催された「はじめての美術 絵本原画の世界」に出品された絵本作家さんのリストも載っていましたが、そうそうたる顔ぶれ。同じく、美術情報サイト eArt-美術館展覧会情報【宮城県美術館】をみると、長新太さんの代表作も初期から最近まで数多く所蔵し、2004年には「おしゃべりな絵 長新太展」を開催。うーむ、これはすごい。

 それで、宮城県美術館がこのように絵本原画をコレクションしている背景について、少しネットで検索してみました。すると、国際子ども図書館のサイトの国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館、「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の第三回議事要旨第3 回国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会 議事録(PDFファイル)に関連情報を見つけました。

 この「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の説明は、サイトの国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館 国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会とはに載っています。国立国会図書館が国際子ども図書館の開館に向けて当初策定した諸計画のなかで、まだ十分に展開できていないサービスがあり、しかも現行の国際子ども図書館の書庫は平成24年前後には満杯になってしまうそうです。そのため、施設の増設も考慮しながら今後の図書館サービスの方向性について調査審議するために設置されたとのこと。国際子ども図書館:これからの国際子ども図書館 調査会委員名簿を見ると、会長代理には松居直さんが就任されています。

 それで、平成16年9月12日に第一回の会議が開かれ、平成17年3月16日の第3回では、絵本の原画の取り扱いに関連して、松居直さんから「宮城県美術館 絵本原画コレクションの現状と課題」というレポートが提示されたとのこと。(おそらく)松居さん自身の報告とそれをめぐる議論が議事録に残されています。全12ページのうち6ページ目からです。

 ざっと読んでみたのですが、きわめて興味深く、また重要な問題がたくさん指摘されています。答申の文言を作っていくという議論の議事録ではありますが、そのためにむしろ、絵本の原画をめぐってクリティカルな点がかなりはっきり出されている気がします。これはぜひ一読をおすすめします。

 とりあえず、宮城県美術館の絵本原画コレクションについてだけまとめてみると、コレクションは1998年から本格的に開始。福音館書店では「こどものとも」を発刊した当初、創刊号から原画を残す方針だったそうです。これはきわめて先駆的な取り組みかなと思います。原画倉庫を用意して、そこで保管していたそうですが、すべてを収蔵するのは困難となり、その結果、宮城県美術館に1号から100号までの原画が預けられることになったとのこと。その後も寄贈され、1998年から7年間で8000点に及んでいるそうです。ただ、絵本の原画の保存はたいへんな手間がかかり、宮城県美術館でもかなり苦労されていることが記されていました。

 で、今回ネットで検索して発見した「国際子ども図書館の図書館奉仕の拡充に関する調査会」の議事録と答申、非常に重要な資料だと思いました。あらためて全体に目を通してみたいと思います。それにしても、こういう資料をPDFファイルでネットに公開しているのは素晴らしいですね。

「こどものとも」の絵本展が新潟県立万代島美術館で開催

 こどものとも50周年記念ブログ: 福音館書店から(第24回)に書かれていましたが、『こどものとも』の原画展、『「こどものとも」の絵本展』が新潟県立万代島美術館にて、2005年12月23日(金)から2006年2月12日(日)まで開催されるそうです。12月23日スタートですから、いわば絵本のクリスマス・プレゼント。このスケジュール、なかなか粋です。

 こどものとも50周年記念ブログの記事によると、山本忠敬さんのアトリエの一部を再現して展示するそうです。絵本が生まれてくる創作の現場を少しだけ見ることができるわけですね。これは興味深い。

 平凡社の別冊太陽で3巻まで刊行されている絵本作家インタビュー集、『絵本の作家たち』では、絵本作家のみなさんのアトリエの写真が見開き2ページで掲載されているのですが、どれも非常に個性的で、おもしろいです。今回の展覧会では、それを実地に見学することができるわけです。

 新潟県立万代美術館のサイトは、新潟県立万代島美術館。美術館の概要のところに書かれていますが、信濃川河口の万代島地区に立地する複合施設「朱鷺メッセ」のなか、万代島ビル5階のフロアが美術館になっているそうです。この万代島ビルは、140メートル31階、日本海側では一番のノッポビル。

 この美術館のモチーフは、1945年以降の「現代の美術」の収集と紹介。そしてアジア諸国の美術の紹介です。

 複合施設のなかに現代美術館があるというのは、けっこう流行なのかもしれませんね。以前行ったことがある、熊本市現代美術館(サイトは熊本市現代美術館)もそんな感じでした。

 それはともかく、今回の原画展の紹介ページは、「こどものとも」の絵本展。『こどものとも』創刊号『ビップとちょうちょう』、「ぐりとぐら」シリーズ、「ばばばあちゃん」シリーズ、『はじめてのおつかい』、『かばくんのふね』、『三びきのこぶた』、『ぞうくんのあめふりさんぽ』など、全部で260点が展示されるそうです。

 これだけの量の絵本原画にふれられる機会はあまりないんじゃないでしょうか。それも、「こどものとも」です。長く愛されてきた絵本ですから、子どもも大人も一緒に楽しめますね。

 会期中には松居直さんの講演会、美術鑑賞講座にワークショップなどが開かれるとのこと。もちろん、絵本の読み聞かせも行われるようです。

 しかし、いかんせん新潟……。うちからはちょっと遠すぎます。この展覧会、全国を巡回してほしいところです。うちの近くにも来ないかなー。

 

ルドウィッヒ・ベーメルマンス『マドレーヌのクリスマス』

 「マドレーヌ」シリーズのクリスマス絵本。クリスマス・イヴの夜、「パリの、つたのからまる ふるいやしき」では、みんな風邪をひいて寝込んでしまいました。「ミス・クラベル」まで倒れてしまいます。ただ一人、「マドレーヌ」だけは元気いっぱい。みんなの介抱や家事にかいがいしく働いています。

 考えてみれば、この舞台設定、いわば最低のクリスマス・イヴです。本当ならみんなで静かに過ごす聖なる時間、心温まる時間のはずなのに、そんな余裕はまったくありません。みんなのために、はちまきまでして一所懸命はたらく「マドレーヌ」。

 しかし、そんな「マドレーヌ」たちにも、クリスマスはやってきます。しかも、とびきりのプレゼントとともに。いったい、どんなプレゼントだったのか、ぜひ読んでみて下さい。クリスマスの静かな喜びがじんわりと伝わってきて、思わずニコニコしてくる、そんなプレゼントです。

 そのことを一番はっきりと伝えているのは、白みの多い画面がほとんどのなかで、唯一、見開き2ページ全面にわたって彩色されているページ。夜のパリを背景にした美しく軽やかな色彩、そして「マドレーヌ」たちの様子からは、なんだかクリスマスの奇跡を感じます。

 そして、めくった次のページもなんともいえず魅力的。あるいは、子どもよりは、お父さんやお母さんの方が、ぐっとくるかもしれません。こんなふうに暖かなクリスマスを過ごしたいなあと思ってしまいます。

 表紙の美しさも必見ですね。雪が舞い散るなか、パリのエッフェル塔がクリスマスツリーになり、「マドレーヌ」を除いて、みんな後ろ向きに描かれています。聖なる夜です。

 ところで、一つ注目されるのは、他の「マドレーヌ」シリーズとは違って、この絵本では、二色刷りのページがないところ。これまでに読んだ「マドレーヌ」シリーズの絵本は、どれも、ページによって使う色を変え、二色だけのページとカラフルなページとが混じっていました。それはそれで、とてもおもしろい効果があったと思います。でも、この絵本では、二色刷りのページはありません。どうしてかな。あるいはクリスマスを題材にしているからかもしれません。

 あと、「マドレーヌ」のアップがあるのも珍しいかも。「じゅうたんしょうにん」のユーモラスな描写もよいです。

 原書”MADELINE’S Christmas”の刊行は1956年。

▼ルドウィッヒ・ベーメルマンス/江國香織 訳『マドレーヌのクリスマス』BL出版、2000年、[印刷・製本:図書印刷株式会社]

絵本の映画化を少し考えてみる

 先日、「あらしのよるに」シリーズの映画化について書きましたが、そういえば、最近、絵本の映画化が続いているような気がします。去年のクリスマスには、オールスバーグさんの『急行「北極号」』が3Dアニメ化されていますし、今年は同じくオールスバーグさんの『ザスーラ』が『ジュマンジ』に続いてCGばりばりの実写映画化され、現在公開中ですね。

 オールスバーグさんの絵本は、たしかにストーリーや素材は映画向きかなと思います。とくに『ジュマンジ』や『ザスーラ』は、あっと驚く舞台設定とジェットコースターのようなストーリー展開。これを映画にするのも、うなずける気がします。

 でも、『ザスーラ』の予告編をネットで見てみたんですが、やっぱり、もともとの絵本の魅力が消し飛んでしまっているような気がします。オールズバーグさんの絵本は、一見派手そうにみえて、実際に読んでみると、きわめて寡黙なんですね。モノクロで静謐といってよい画面です。これが、映画だとフルカラーのCGになってしまう……。原作絵本が持っていた、静かでありながらも独得のダイナミズムは、失われるように思います。

 考えてみると、絵本と映画というのは、メディアの特性として、相当に違いがあります。もちろん、音や音楽が付くことは一番大きな相違点と言えそうですが、ページを単位にした静止画と、リアルな時間の流れのなかで終始動いている画面の違いは、かなり大きいような気がします。

 絵本の場合には、静止画であるがゆえに、物語のすべての要素を画面に定着させることは不可能です。描かれない部分がたくさんあり、そのため逆に、描かないことによって多くのことを語ることができると思います。読み手の多様なイメージを喚起することで、はじめて完結すると言えるかもしれません。

 ところが、映画の場合には(とくに近年のCGを多用した映画の場合には?)、可能なかぎりすべてをダイレクトに描写することに力点があるような気がします。私たちが実際には見ることのできないものをもCGを使って描くわけです。いわばそのスペクタクルが映画の魅力の一端だと思います。

 もちろん、映画のなかにも、描かないことによって、描写を切りつめることによって、何かを物語る場合も多々あります。でも、絵本の描写の限定性とは比べものにならないでしょう。

 また、ページを単位にしている絵本は、遡ることができますし、進行のスピードも自由に読み手が調節できます。子どもと一緒に読んでいて、ページをめくる手を止めて、あれこれ話したりもできます。でも、映画では無理です。物語るスピードは、通常、映画それ自体によって定められ、受け手がそれを調節するのはかなり困難です。むしろ、受け手がコントロールできないところに、映画の独得の魅力があるような気がします。

 こんなふうに考えてみると、絵本を映画化するのは、いろいろと難しい面があるのかなと思います。絵本と映画は、メディアとしてまったく違った物質で出来ていると言っていいかもしれません。

 まあ、考えすぎかもしれませんが、なんとなく感じたことを書いてみました。また機会があったら、絵本と映画、少し突っ込んで考えてみたいと思います。

 それはともかく、『ザスーラ』。私が一番気になるのは、ラストの扱いです。原作絵本の、あの切ない結末が映画ではどう描かれるのか。あまり見たいとは思わないのですが、ちょっとだけ気になります。

ちくま文庫で『完訳グリム童話集』が刊行開始

 ちくま文庫、12月の新刊に『完訳グリム童話集1』がラインナップされていました。さっそく注文して、昨日、届きました。この本は1999年10月に筑摩書房より刊行を文庫したもの。これから毎月1冊ずつ、全7巻で完結のようです。

 ページをめくってみると、通常のちくま文庫よりも字が少し大きめ。紙も若干、厚手のような気がします。第1巻には全部で20編の童話が収録され、有名なものだと「ヘンゼルとグレーテル」が含まれています。カラーやモノクロの美しい挿絵も入っており、なかなかよい感じです。巻末には、この挿絵についてと、原本の初版と第七版の違いについて解説がありました。今回の全集は第七版に基づいているとのこと。

 グリム童話というと、私が子どもの頃に読んだ(あるいは聞いた)きりで、ずっと縁遠かったのですが、自分の子どもと一緒に絵本を読むようになってから、あらためて、これはおもしろいなあと感じていたところでした。とくにスズキコージさんとフェリックス・ホフマンさんが手がけられた絵本。恐いような不思議なような、独得の魅力があります。

 今回の文庫化、かなり楽しみです。原作と絵本を比べてみても、おもしろいかもしれませんね。

映画『あらしのよるに』が公開されたそうです

 映画の『あらしのよるに』が今日(12月10日)から公開だそうです。公式ホームページは映画「あらしのよるに」オフィシャルサイト:: 映画「あらしのよるに」オフィシャルブログ ::まであります。MovieWalker には木村裕一さんのインタビューも掲載されていました。MovieWalker レポート 【単独インタビュー】人気絵本「あらしのよるに」が遂に映画化!原作・脚本を手掛けたきむらゆいちが、作品の面白さを語る

 インタビューでも語られていますが、今回の映画は、木村さん自身が脚本も手がけられたとのこと。木村さんにとってははじめての映画脚本だそうです。『あらしのよるに』はファミレスで書いていたという裏話もあります。このあたりについては、公式サイトにもインタビューが掲載されていました。MovieWalkerのインタビューから一部を引用します。

だから、10年かけて描いてきた7巻のお話を一度全部壊して、大事な要素を拾い集める作業をしました。その結果、子供が読んだらオオカミとヤギのお話でも、大人が読んだら民族の違いの話とか、戦争の話とか、恋愛の話にも解釈できる、そういういろんな見方ができるところが、この作品の面白さだと気付いたんです。

 なるほどなあと思いました。たしかに、「あらしのよるに」のシリーズには多面的な要素があるように思います。

 でも、正直言って、私はこの映画、あまり興味がわいてきません。なぜなら、キャラクター造形や絵柄が、原作のあべさんの絵とは、あまりにもかけ離れているからです。

 「あらしのよるに」シリーズは、絵本だと私は認識しています。もちろん、どちらかといえば文章主体ですし、ストーリーが抜群に面白いのですが、でも、あべさんの描く絵の魅力も非常に重要な要素だと思うのです。省略の効いた禁欲的な線と色、緊張感のある画面構成、とても抑制されているがゆえに逆に多くのことがじんわりと伝わってくるような絵です。

 これに対し、映画の方は、とりあえずネットで見るかぎりでは、原作の絵が持っていたテンションがすっかり抜けてしまっている気がしました。お子様向けといっていいかもしれません。なんだか、ひいてしまいます。

 語弊があるかもしれませんが、今回の映画化では、原作のあべさんの絵はあまり、というか、ほとんど考慮されていないように思います。公式サイトのインタビューをみても、あべさんの絵にふれたものは見あたりません。

 もちろん、あの絵をそのままアニメにすることは不可能でしょうし、公式サイトのインタビューでも杉井ギサブロー監督や木村裕一さんが語っているように、絵本は絵本、映画は映画、別のものと考えればよいのでしょう。

 でもなあ、「あらしのよるに」は、やっぱり、あのあべさんの絵があったからこそだと思うんだけどなあ……。あべさんは今回の映画をどう見られているのかなあ……。

 しかし、こんなことは、映画をちゃんと見てから書け!って感じかもしれませんね。