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ルドウィッヒ・ベーメルマンス『マドレーヌのクリスマス』

 「マドレーヌ」シリーズのクリスマス絵本。クリスマス・イヴの夜、「パリの、つたのからまる ふるいやしき」では、みんな風邪をひいて寝込んでしまいました。「ミス・クラベル」まで倒れてしまいます。ただ一人、「マドレーヌ」だけは元気いっぱい。みんなの介抱や家事にかいがいしく働いています。

 考えてみれば、この舞台設定、いわば最低のクリスマス・イヴです。本当ならみんなで静かに過ごす聖なる時間、心温まる時間のはずなのに、そんな余裕はまったくありません。みんなのために、はちまきまでして一所懸命はたらく「マドレーヌ」。

 しかし、そんな「マドレーヌ」たちにも、クリスマスはやってきます。しかも、とびきりのプレゼントとともに。いったい、どんなプレゼントだったのか、ぜひ読んでみて下さい。クリスマスの静かな喜びがじんわりと伝わってきて、思わずニコニコしてくる、そんなプレゼントです。

 そのことを一番はっきりと伝えているのは、白みの多い画面がほとんどのなかで、唯一、見開き2ページ全面にわたって彩色されているページ。夜のパリを背景にした美しく軽やかな色彩、そして「マドレーヌ」たちの様子からは、なんだかクリスマスの奇跡を感じます。

 そして、めくった次のページもなんともいえず魅力的。あるいは、子どもよりは、お父さんやお母さんの方が、ぐっとくるかもしれません。こんなふうに暖かなクリスマスを過ごしたいなあと思ってしまいます。

 表紙の美しさも必見ですね。雪が舞い散るなか、パリのエッフェル塔がクリスマスツリーになり、「マドレーヌ」を除いて、みんな後ろ向きに描かれています。聖なる夜です。

 ところで、一つ注目されるのは、他の「マドレーヌ」シリーズとは違って、この絵本では、二色刷りのページがないところ。これまでに読んだ「マドレーヌ」シリーズの絵本は、どれも、ページによって使う色を変え、二色だけのページとカラフルなページとが混じっていました。それはそれで、とてもおもしろい効果があったと思います。でも、この絵本では、二色刷りのページはありません。どうしてかな。あるいはクリスマスを題材にしているからかもしれません。

 あと、「マドレーヌ」のアップがあるのも珍しいかも。「じゅうたんしょうにん」のユーモラスな描写もよいです。

 原書”MADELINE’S Christmas”の刊行は1956年。

▼ルドウィッヒ・ベーメルマンス/江國香織 訳『マドレーヌのクリスマス』BL出版、2000年、[印刷・製本:図書印刷株式会社]

デイヴィッド・ウィーズナー『大あらし』

 主人公はデイヴィッドとジョージの兄弟。二人の住む地域をハリケーンが通過し、その後、倒れた楡の木で遊ぶ様子が描かれていきます。

 読んでいて、なんとなく子どものときのことを思い出しました。嵐がやってくるのは、いわば非日常、だから、どことなくワクワクするところがあったように 思います。窓の外を葉っぱが吹雪きのように飛んでいき、風がうなり、家がギシギシ音を立てる……。ちょっと恐いような、しかし、なんだか気持ちが高ぶるよ うな感覚です。停電になったりすると、部屋の景色そのものも見慣れぬものに一変し、なおさらドキドキしてきます。

 この絵本でも、デイヴィッドとジョージの会話や、停電して非常用ランプに照らされた寝室の様子に、そんな嵐の非日常が表れているような気がしました。

 また、家の外の大嵐に比して、暖炉の前に集まった家族4人の姿は、なんともいえず暖かく安心感に満ちていて印象的。ただ、(少々ひねくれた見方かもしれ ませんが)ちょっと類型的すぎるかなあ。落ち着いていて頼りになるお父さんに、やさしいお母さんといった風情。いかにもアメリカ的な(?)家族像です。

 それはともかく、この絵本の一番の醍醐味は、嵐が去ったあとの描写。根こそぎ倒れた楡の大木は、デイヴィッドとジョージの最高の遊び場。巨大な楡の木 は、二人にとってただの倒木ではなく、次から次へと姿を変えていく魔法の空間、波瀾万丈の冒険の舞台です。夢中になって遊ぶ二人の様子は、横長の見開き2 ページいっぱいに描き出され、実に魅力的。うちの子どもも、かなり惹かれていました。

 とくに、二人が大きな枝の隙間に座っている画面からは、二人の表情といい、木漏れ日の陰影といい、この楡の大木が「とくべつな場所」であることがよく伝 わってきます。いわば秘密基地ですね。こういう自分たちだけの夢と冒険が詰まった空間は、誰にとっても(子どものみならず、たぶん大人にとっても)、あこがれなんじゃないかと思います。

 ところで、物語の結末について、うちの子ども曰く「自分で作ればいいのにねえ」。つまり、「とくべつな場所」は、大嵐が来なくたって自分で作ればいい じゃないかとのこと。うーむ、うちの子ども、なかなか大したものかも(親ばか^^;)。

 原書"Hurricane"の刊行は1990年。もしかすると、この絵本に登場する「デイヴィッド」は、作者のウィーズナーさん自身かもしれませんね。 ファーストネームが同じです。ウィーズナーさん自身の子ども時代の出来事を描いたのかも。

▼デイヴィッド・ウィーズナー/江國香織 訳『大あらし』ブックローン出版、1995年、[印刷・製本:大村印刷株式会社]