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デイヴィッド・ウィーズナー『大あらし』

 主人公はデイヴィッドとジョージの兄弟。二人の住む地域をハリケーンが通過し、その後、倒れた楡の木で遊ぶ様子が描かれていきます。

 読んでいて、なんとなく子どものときのことを思い出しました。嵐がやってくるのは、いわば非日常、だから、どことなくワクワクするところがあったように 思います。窓の外を葉っぱが吹雪きのように飛んでいき、風がうなり、家がギシギシ音を立てる……。ちょっと恐いような、しかし、なんだか気持ちが高ぶるよ うな感覚です。停電になったりすると、部屋の景色そのものも見慣れぬものに一変し、なおさらドキドキしてきます。

 この絵本でも、デイヴィッドとジョージの会話や、停電して非常用ランプに照らされた寝室の様子に、そんな嵐の非日常が表れているような気がしました。

 また、家の外の大嵐に比して、暖炉の前に集まった家族4人の姿は、なんともいえず暖かく安心感に満ちていて印象的。ただ、(少々ひねくれた見方かもしれ ませんが)ちょっと類型的すぎるかなあ。落ち着いていて頼りになるお父さんに、やさしいお母さんといった風情。いかにもアメリカ的な(?)家族像です。

 それはともかく、この絵本の一番の醍醐味は、嵐が去ったあとの描写。根こそぎ倒れた楡の大木は、デイヴィッドとジョージの最高の遊び場。巨大な楡の木 は、二人にとってただの倒木ではなく、次から次へと姿を変えていく魔法の空間、波瀾万丈の冒険の舞台です。夢中になって遊ぶ二人の様子は、横長の見開き2 ページいっぱいに描き出され、実に魅力的。うちの子どもも、かなり惹かれていました。

 とくに、二人が大きな枝の隙間に座っている画面からは、二人の表情といい、木漏れ日の陰影といい、この楡の大木が「とくべつな場所」であることがよく伝 わってきます。いわば秘密基地ですね。こういう自分たちだけの夢と冒険が詰まった空間は、誰にとっても(子どものみならず、たぶん大人にとっても)、あこがれなんじゃないかと思います。

 ところで、物語の結末について、うちの子ども曰く「自分で作ればいいのにねえ」。つまり、「とくべつな場所」は、大嵐が来なくたって自分で作ればいい じゃないかとのこと。うーむ、うちの子ども、なかなか大したものかも(親ばか^^;)。

 原書"Hurricane"の刊行は1990年。もしかすると、この絵本に登場する「デイヴィッド」は、作者のウィーズナーさん自身かもしれませんね。 ファーストネームが同じです。ウィーズナーさん自身の子ども時代の出来事を描いたのかも。

▼デイヴィッド・ウィーズナー/江國香織 訳『大あらし』ブックローン出版、1995年、[印刷・製本:大村印刷株式会社]