「絵本を知る」カテゴリーアーカイブ

飯野和好さんの「出会い」

 クリップしている読売新聞の記事、好きなように描いた幼時: あのころ : 育む : 教育 : Yomiuri On-Line (読売新聞)。飯野和好さんが、小さいころから絵本作家になるまでを語られています。

 秩父でのチャンバラごっこ、中学のときの初恋、高校に1日しか行っていないことなど、生活史的背景がうかがえるのですが、とくに興味深いのが数々の出会い。中学で初恋の女性に惹かれて美術部に入ったこと、高崎市のデパートに勤めて売り場の広告を描いていたころに出入りの業者に絵の勉強を勧められたこと、セツ・モードセミナーでの長沢節さんの言葉、堀内誠一さんに言われたこと、など、いろんな人との出会いを通じて、絵本作家としての飯野さんが生まれたことが分かります。

 たとえば高崎市のデパートで出入りの業者に会わなかったら……、絵の勉強でセツ・モードセミナーに入っていなかったら……、あるいは堀内誠一さんに出会ってそのファンタジー論を読んでなかったらどうなったか。最初から絵本作家を目指していたわけではなく、いわば偶然の出会いを経て、飯野さんのいまの時代劇絵本が誕生したと言えそうです。

 もともと持っている能力や素質は大きいにしても、どんな人に出会うか、またその出会いから何を自分のものとするかが、その人の人生を決めていくのかもしれませんね。

お父さんのための書店の絵本コーナー

 クリップしている記事、パパ絵本読んで! 書店に特設売り場 職場へ配達 : 出版トピック : 本よみうり堂 : Yomiuri On-Line (読売新聞)。お父さんと絵本を結びつける取り組み、かなり広がっているようです。リードを引用します。

父親が子どもと絵本を読む機会を増やしてもらおうと、書店や父親グループが様々な取り組みを行っている。

 本文で取り上げられているのは、ご存じ、絵本ナビ パパ’s絵本プロジェクト。そして、全国に約150店舗ある未来屋書店での取り組みです。

 未来屋書店では、先日出版された「パパ’s絵本プロジェクト」の『絵本であそぼ!』(小学館)で紹介されている絵本、70~80冊をセレクト。書店の中央の目立つ場所に、父親向けの絵本コーナーを設置したそうです。掲載されている写真を見ると、表紙を前に出して絵本がずらっと並べられています。これは、すごい! 店舗の担当者の方のお話も載っていましたが、「このコーナーを設けたことで、会社帰りにスーツ姿で絵本を買っていく男性も増えた」とのこと。

 「パパ’s絵本プロジェクト」関連だと、メンバーで絵本ナビ事務局の金柿秀幸さんが編集された『幸せの絵本』についても、リブロ池袋本店や東京・浜松町のブックストア談でフェアが開催されている(された)そうです。金柿さんのウェブログ、Making of 『幸せの絵本』に記事が書かれていました。

 お父さんと絵本を結びつける取り組み、個々の書店に徐々に浸透していることが分かります。お父さんにとって、絵本がどんどん身近になっていることの表れとも言えそうです。

 また、こういう取り組みは、書店にとって、たぶんメリットがあるんじゃないかなと思いました。少々うがった見方かもしれませんが、話題になりますし、なにより新しい購買者を発掘できますよね。

 上記の記事では、お父さんの職場に定期的に絵本を届ける、絵本ナビのサービス、絵本ナビ 絵本クラブも紹介されていました。現在、60人ほどが利用しているそうです。

 子どもと一緒に絵本を読むことの楽しさ・おもしろさ、これは一度知ってしまうと、もう病みつきです(^^;)。そのうち、お父さんが子どもと一緒に絵本を読むことは、別に特別なことではなく、当たり前のことになるんじゃないかな。

TULLY’S COFFEE(タリーズコーヒー)の「タリーズ・ピクチャーブックアワード」

 先日、タリーズコーヒーに偶然たちよったときのこと。カウンターの前に見慣れない絵本が数冊、並んでいるのです。なんだろうと思い、店員さんに聞いてみたところ、「タリーズ・ピクチャーブックアワード 2004」の受賞作とのこと。説明の載っている「TULLY’S TIMES」をもらって帰りました。

 それによると、このプロジェクトは、タリーズコーヒーの経営理念の一つである「子どもたち青少年の育成を促すために、地域社会に貢献する」に基づいてはじまったそうです。「絵本を通じて若手アーティストを発掘・育成し、またその絵本を読む子どもたちへ夢や希望を与えたい」というのがプロジェクトの主旨で、2003年が第一回、2004年は二回目の開催。

 TULLY’S COFFEE のサイトを検索してみると、次のページが見つかりました。

 上記のページによると、応募資格は「プロアマ・国籍・職業については不問。年齢35歳未満」。つまり、若手の発掘ということです。このアワードから、将来の絵本作家が生まれるかもしれませんね。

 あと、審査・選考は、タリーズコーヒーの来客者約300人と保育園の園児約100人によっておこなわれたそうです。絵本の専門家による審査ではなく、一般の方や子どもたちが審査するというのは、なかなかおもしろいですね。この手の公募としては珍しいかもしれません。

 受賞作はタリーズコーヒーの店舗で販売されるほか、上記のオンラインショップでも購入できるようです。ただ、2004年の入賞5作品は、現在すべて品切れ入荷待ちの状態。かなりの人気です。上記のオンラインショップでは「作者から子どもたちへのメッセージ」も読むことができます。

 絵本の売り上げの一部は、NGO 子どもたちのための国際援助団体:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに寄付するそうです。サイトをのぞいてみると、タリーズコーヒーも協賛企業の一つに挙がっていました。

 また、「TULLY’S TIMES」に載っていたのですが、タリーズコーヒーでは、絵本やおもちゃなどを用意したキッズコーナーを設置した店舗があるそうです。首都圏を中心に2005年3月現在で12店舗とのこと。アワードの受賞作品はこのキッズコーナーにも並べられるそうです。

 以上の取り組み、企業のいわゆる社会貢献活動の一つと言えます。絵本に焦点を当てたメセナは割と珍しい気がしますが、どうなんでしょう。そのうち時間があったら調べてみたいです。

 なんとなく思ったのですが、こういったメセナが行われるようになったのも、近年の絵本ブームが一つの契機になっているのかな。絵本作家を目指す人たちがそれなりに厚みのある層をなしており、また絵本を受容する側もより関心が高まり、しかも幅が広がっていること。絵本をめぐるこうした社会状況の変化を背景にして、一般企業がメセナの対象に絵本を加えるようになったのかもと考えました。

 でもまあ、もう少し調べてみないと分かりませんね。いいかげんなことは言えません(^^;)。

 それはともかく、2004年の受賞作のラインナップでは、最優秀作品賞を受賞した池内梢さんの『プンクトとことりたち』のほか、西村博子さんの『ここだよ!』と見杉宗則さんの『どうぶつむらのうんどうかい』がおもしろそう。次の機会があったら、タリーズコーヒーで読んでみたいです。

稲垣吾郎さんによる絵本の朗読:フジテレビ「忘文」

 ネットをさまよっていて偶然、知ったのが、フジテレビの番組「忘文」(わすれぶみ)。日曜は 早起きがオトク : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)という記事に紹介が載っていました。日曜日の早朝、午前5時45分から放映されている15分番組。ウェブサイトは忘文です。

 SMAPの稲垣吾郎さんが一般公募した手紙と絵本を1冊、朗読するという内容。「忘文」という名前は、中国の故事「忘草(わすれぐさ)」に由来し、「それを読むと日頃の憂いを忘れさせてくれる文」ということだそうです。手紙は、家族や友人に宛てたもので、その相手を前にして稲垣さんが読むとのこと。

 そして絵本。サイトには、2003年10月にスタートしたときからのバックナンバーが掲載されているのですが、当初は文学作品などのいわゆる「名文」を朗読していたようです。で、それが絵本に変わるのは、総集編をはさんで2004年の10月辺りから。そのラインナップをみると、佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』、ガース・ウイリアムズさんの『しろいうさぎとくろいうさぎ』、トミー・アンゲラーさんの『すてきな三にんぐみ』、レオ=レオニさんの『スイミー』といった名作が多いようです。でも、最新の3月13日は島田ゆかさんの『かばんうりのガラゴ』。

 どんなふうに読んでいるのかなあ。一度見てみたいです。稲垣さんの声は、割と落ち着いていると思うので、けっこう絵本の朗読に合うかもしれませんね。

 あと、撮影は公園など野外でおこなわれているそうです。緑のなかで日差しを浴びながら絵本を朗読する……。うーん、なんか、いいですねー。15分という短い番組ですが、日曜の朝にぴったり。

 あ、そうだ! うちの子どもに絵本を読むときも、たまに外で読むとよいかも。図書館や家のなかで読むのとは違い、もっと開放的で気持ちいいような気がします。

 もう少し暖かくなったら、一度、試してみたいですね。でもまあ、少し恥ずかしいかな(^^;)。

『絵本であそぼ!』パパ’s絵本プロジェクトの本が2月末に刊行

 絵本ナビ パパ’s絵本プロジェクトの本が、2月末に出版されるそうです。昨年、刊行された『幸せの絵本』に続き、今度はパパ’s絵本プロジェクト! すごいなあ。たしか『幸せの絵本』の第二弾も刊行予定になっていたと思いますし、次々と本が出ますね。

 【楽天ブックス】【予約】 絵本であそぼ!~子どもにウケるお話し大作戦:パパ’S絵本プロジェクト/安藤哲也・金柿秀幸・田中尚人では、詳しい内容紹介が掲載されていました。

 全体で13のテーマ、計90冊の絵本を紹介。コワイ話、ビロウな話、ナンセンスな話、のりもの絵本、昆虫もの、等々、実際に「パパ’Sお話し会」でウケた絵本をセレクトとのこと。これはおもしろそうです。

 あと、ぜひ読んでみたいのは、コラム&トーク。パパ’S絵本プロジェクト結成のいきさつや、絵本を読むことについての3人のメンバーによる鼎談、全国のパパへのメッセージが掲載されるようです。

 楽天ブックス限定の予約特典もあるとのことで、いまから予約してみようかな。

マタニティ・ブックスタート(続)

 先日、書いた記事、絵本を知る: マタニティ・ブックスタートに、YuzYuzさんからトラックバックをもらいました。YuzYuz | マタニティ・ブックスタートです。

 yuz さんの記事では、赤ちゃんが絵本に接することそれ自体、したがってブックスタートそれ自体に私が懐疑的と書かれているように読めました。でも、先の記事で私が考えていたのは、そういうことではありませんでした。私の書き方が言葉足らずだったなと少し反省しています。そこで、いろいろ補足しながら、もう一度、自分の考えをまとめてみたいと思います。うまくいかないかもしれませんが……。以下、かなり長文です。

 まず、私は、たとえばゼロ歳児の赤ちゃんが絵本に接することそれ自体に懐疑的・否定的なわけではありません。むしろ、逆です。絵本を破ったり、なめたり、遊び道具にしたり、また最後まで読まなくても、父親や母親と一緒に赤ちゃんが絵本に接するのはよいことと思っています。

 じっさい、うちの下の子どもは現在1歳ですが、ゼロ歳児のときから絵本を読んでいます。もちろん、遊び道具になることが多いですし、読んでいる途中で飽きてしまったり、放り出したりしていました(実は先々週くらいから最後まで楽しんで読むようになりました。これについてはまた別の記事で書きたいと思っています)。

 でも、「だからダメだ」などとは私は考えませんでした。当人が楽しそうにしていましたし、私自身も子どもと一緒に楽しむことができたからです。繰り返しになりますが、「絵本は最後のページまで読まないとダメ」とか「絵本で遊んではダメ」とは私は考えていません。ちなみに、このことは、現在5歳の上の子どものときも同様でした。

 というわけで、yuz さんが下記のように書かれていることに、私はまったく同意見です。

ブックスタートで重要なのは、あくまでも本を通した触れ合いの時間を取ることであって、絵本を読ませることではないからです。
・赤ちゃんを抱っこして、声をかけて上げること。
・触れ合った場所から、保護者の方の声が直接届くこと。
こういう触れ合いの機会の一つの手段として「絵本を読」んでいるのではないでしょうか。
また、一冊を通して読む必要もありません。
私がブックスタート事業に関わっていた時には
「赤ちゃんのご機嫌の良い時に読んであげてくださいね」などの声かけも行っていました。
赤ちゃんが飽きちゃったら、絵本が途中でもおしまいにしてしまいます。
でも結構赤ちゃんも興味を持って見てくれるものですよ。

 私も、赤ちゃんにとって「絵本としての認識」が必要とは考えていません。というか、そもそも、それは無理な話であって、そういう認識がないのは当たり前と思っています。

 ですので、私の記事で yuz さんが引用されている次の箇所は、(少なくとも私の意識では)何かネガティヴな含意を込めて書いたわけではありません。

 とはいえ、生まれてしばらくの赤ちゃんに絵本を読んでも、おそらく赤ちゃんは絵本を受け入れないのではないでしょうか。少し大きくなってからも遊び道具にすることが多いと思います。そもそも絵本が「絵本」として認知されるのは、それなりに条件が整わないと難しい気がします。

 いまになって読んでみると、「絵本を受け入れない」という一文は表現が強すぎるなと思います。これは筆(というかキーボード)が滑ってしまいました。とはいえ、上記の箇所は、ネガティヴな評価もポジティヴな評価もなく、事実としてこうなんじゃないかと自分が思ったことを書いたつもりでした。

 では、マタニティ・ブックスタートの何に対して私が疑問を持っていたのかと言えば、上記の箇所のすぐあとで書いた点です。くどくなって恐縮ですが、引用します。

 そうだとすれば、親が期待するほどには赤ちゃんが絵本を楽しんでくれないとき、逆に絵本なんていらないということになりはしないか……。考えすぎかもしれませんが、絵本とのかかわり方が阻害されることもありうるように思いました。もちろん、このあたりについては、事前にきちんと伝えておけばよいのでしょうが……。

 あと、この取り組みがある種の方向に進んでいくと、たとえば「胎教によい絵本の読み聞かせ」とか「胎教におすすめの絵本」といったところまで行くかもしれませんね。最近は絵本ブームと言われていますし、もしかすると、どこかの出版社がすでに企画を立てているかも。たぶん出版社にとっては新しい市場になるような気がします。

 上記で私は、二つのことを考えていました。

 一つは、赤ちゃんと絵本に関する、親の側の理解が行き届くかどうかという問題です。つまり、母親や父親が赤ちゃんに絵本を読むとき、たとえば「最後まで読まないといけない」「絵本をおもちゃにしてはいけない」といったふうに考えて、無理に読ませたりしないかどうか……。赤ちゃんにとって絵本は遊び道具でまったくかまわないし、最後まで読む必要もなく、ふれ合いの時間が大事なんだということ、このことを親の側がちゃんと理解できるようになっているかどうか、です。

 yuz さんも少し触れられていますが、それが「絵本」であるがゆえに、早期教育として捉えられる部分も根強いんじゃないかと考えました。親の側からすれば、せっかく絵本を赤ちゃんに読むんだから、英語絵本を読もうとか、きちんと最後まで読んで言葉を早く覚えさせたいとか、繊細な絵に触れさせて美的な感覚を身につけさせたいとか、そういう意識がどうしても入ってきがちでしょう。ブックスタートの現場でいろいろ説明があっても、親の側がそれをきちんと理解せず、何か教育的なものになってしまう可能性はけっこうあると思います。

 私はブックスタートの取り組みを実地に知っているわけではないので、誤解している部分もたぶんあるでしょう。それでも、ブックスタートで絵本を母親や父親に渡すとき、「絵本を読ませる」のではなく「ふれ合いの時間」が大事ということや、絵本に過剰に教育的な意味を込める必要はないこと、こういうことがちゃんと伝わっているかなあという、そういう疑問だったわけです。

 で、上記のようなことが伝わっていないとしたら、絵本に接するせっかくの機会が、赤ちゃんにとっても、母親や父親にとっても、楽しめないものになるかもしれないと思いました。それが結果として、その後の絵本との付き合い方にネガティヴに影響することもありうるかなと考えたわけです。

 もう一つは、こうしたブックスタートがマタニティ・ブックスタートにまで広がっていったとき、それは出版社等にとって一つの新しい市場になるのだろうと考えました。このことは、もちろんポジティヴな面もあるでしょうが、ネガティヴな面もあると思いました。

 これについては、以前書いた記事、絵本を知る: 『子どもの本~この1年を振り返って~2003年』(その2)で、日本子どもの本研究会絵本研究部の代田知子さんの文章を引用しながら考えたことに関連します。詳細はリンク先を読んでいただければと思いますが、代田さんは、赤ちゃん絵本とブックスタートの現状について、若干の危惧を表されていました。

 私なりに敷衍するなら、ブックスタート運動の高まりとともに赤ちゃん絵本がどんどん出版されるようになったけれども、どこか当の赤ちゃんを置き去りにしてはいないかという心配です。代田さんがふれている例で言うなら、「赤ちゃん絵本」と言いながら実際には赤ちゃんが楽しめないものが多かったり、あるいは、質はともかく値段を安くしてどんどん絵本を出そうとする出版社側の姿勢があったり、ということです。

 こういう側面に注目するなら、マタニティ・ブックスタートの広がりも、いろいろ気を付ける点があると考えたわけです。もちろん、「胎教によい絵本の読み聞かせ」が唱えられたり「胎教におすすめの絵本」が出版されることをそもそもネガティヴに見る必要はないでしょう。結果として、すぐれた絵本にふれる機会が増すなら、それはよいことと思います。

 とはいえ、代田さんが書かれていたのと同様に、マタニティ・ブックスタートの流れにのって出版社がいろいろ新しい商品やサービスを出していったとき、質が十分に確保されるのかどうか、またブックスタートの本来の主旨や理念がきちんと生かされるかどうか、若干、危うい面があるのではないかと疑問に感じたわけです。

 だいぶ長くなってしまいましたが、多少なりとも先日の記事の不十分な点や表現の至らないところを補足できていればと思います。先にも書きましたが、私はブックスタートの取り組みを実地に知っているわけではありません。自分の子どもと一緒に絵本を読むなかで考えたことや感じたことに基づいて書いているにすぎません。たぶん、いろいろ間違いや誤解もあると思いますが、とりあえず記事をアップします。YuzYuz さんの記事にもトラックバックしたいと思います。

中学生による手作り絵本の読み聞かせ

 先日の記事で高校生による読み聞かせを取り上げたのですが、今度は、中学生による読み聞かせです。『中日新聞』2005年1月21日の記事「浜松・蜆塚中生らが 幼稚園で手作りの絵本を読み聞かせ」。少し引用します。

浜松市蜆塚中学校の三年生約七十人が二十日、近くの浜松海の星幼稚園を訪れ、手作りの絵本を園児たちに読み聞かせた。家庭科の幼児の遊びについて学ぶ授業の一環で、一人一冊ずつ作製した。

 検索したら、浜松市立蜆塚中学校のサイトもありました。サイトのなかでは、今回の取り組みについて説明は見つかりませんでした。

 最近の家庭科ではこういう授業もおこなわれているんですね。手作り絵本というところがまたすごい。

 2作ほど絵本の内容も紹介されています。それを見る限りでは「しつけ絵本」の類が多いのかも。とはいえ、園児たちへの呼びかけや、やりとりも作り込まれ、工夫されているようです。

 最後に中学生の感想の声も掲載されていました。「楽しんでもらえるように、反応を見ながら読みました」とのこと。うーむ、なかなか。

 私は自分の子どもと一緒に絵本を読むだけですが、けっこう、子どもの反応を忘れがちです。どうしても文字に集中してしまいますし、隣にいる子どもの様子をいつも、きちんと見ているとは、とても言えません。

 集団での読み聞かせなら、なおさら緊張してしまい、まわりが見えなくなるかも。これに対し、この記事の中学生のみなさんは、たいしたものです。

 見知らぬ異年齢の相手のことを考えて絵本を手作りし、相手の反応を見ながらそれを読み聞かせする……こういう活動は、あるいは、コミュニケーションの力を育成するのに効果があるのかもしれないなと思いました。

 しかしまあ、ことさら教育的な効果をねらうよりは、その場をともに楽しむことが重要なんでしょうね。

マタニティ・ブックスタート

 『朝日新聞』のasahi.com : MYTOWN : 山口の記事「おなかの赤ちゃんに読んで/出産前の母親に絵本」。山口県小野田市の取り組みです。少し引用します。

0歳から絵本を通して言葉と心を育むため、出産後の母親に絵本を贈る「ブックスタート」運動が全国の自治体に広がる中、小野田市は出産前に贈る独自の「マタニティー・ブックスタート」に取り組んでいる。育児で忙しい出産後より、おなかの赤ちゃんにゆっくり読んであげながら出産を迎えてほしいという。

 うーん、どうなんでしょうね、これ。

 いや、たしかに有意義な部分も大いにあると思います。母親が(もちろん父親も)絵本に接する機会がそれだけ早くなるわけですし、それは赤ちゃんが生まれてからの絵本とのつきあい方にもよい影響を及ぼすと言えます。また、母親にとっても父親にとっても、絵本を渡されることで、自分たちが「親」になることをこれまで以上に自覚できるかもしれません。さらに、記事でも書かれていましたが、出産前の方が余裕があるというのも重要な点でしょう。

 とはいえ、生まれてしばらくの赤ちゃんに絵本を読んでも、おそらく赤ちゃんは絵本を受け入れないのではないでしょうか。少し大きくなってからも遊び道具にすることが多いと思います。そもそも絵本が「絵本」として認知されるのは、それなりに条件が整わないと難しい気がします。

 そうだとすれば、親が期待するほどには赤ちゃんが絵本を楽しんでくれないとき、逆に絵本なんていらないということになりはしないか……。考えすぎかもしれませんが、絵本とのかかわり方が阻害されることもありうるように思いました。もちろん、このあたりについては、事前にきちんと伝えておけばよいのでしょうが……。

 あと、この取り組みがある種の方向に進んでいくと、たとえば「胎教によい絵本の読み聞かせ」とか「胎教におすすめの絵本」といったところまで行くかもしれませんね。最近は絵本ブームと言われていますし、もしかすると、どこかの出版社がすでに企画を立てているかも。たぶん出版社にとっては新しい市場になるような気がします。

 まあ、少し考えすぎかな。どんなもんでしょう。

絵本の読み聞かせのいろいろなかたち

 子どもたちに向けた集団での絵本の読み聞かせというと、その担い手はやはり女性が中心かと思います。とはいえ、最近は、いろんな取り組みが試みられるようになってきたようです。そこで、ここ数ヶ月に右サイドバーの MyClip でクリップした記事に基づき、そうした試みの幾つかを簡単にまとめてみようと思います(といっても、かなり長文になってしまいました^^;)。

男性による読み聞かせ

 まずは男性による読み聞かせ。近年、とみに注目されてきました。その筆頭はもちろん、絵本ナビ パパ’s絵本プロジェクト。新聞や雑誌などのマスメディアでもさかんに取り上げられていますね。

 なんと長野県には「伊那支部」も発足。北原こどもクリニックの北原文徳さんらによる取り組みです。そのライブレポートもあります。なんか、いいなあ。とても楽しそうです。

 北原さんのウェブサイトでは、絵本についての興味深い考察がおとうさんと読む「絵本」しろくまの不定期日記に掲載されており、こちらもおすすめです。

 えー、少々こっぱずかしいのですが、北原さんのウェブサイトのリンク集では「絵本を読むお父さんなら、「今日の絵本」に訊け!」と、うちの今日の絵本にリンクを張っていただいています。いや、「訊け!」っていうほどの内容がなくて恐縮なのですが、本当にありがたいなあと思っています。この場を借りて、感謝いたします。

 話を元に戻して、男性による読み聞かせですが、陸奥新報に2004年11月21日に掲載された記事男性の読み聞かせ、子供たちを魅了。青森県での取り組みです。

 こちらはパパ’s絵本プロジェクトとはとくに関連はなく、単独の活動のようです。少し記事を引用します。

県内で初となる男性の読み聞かせグループ「お話ちゃんこなべ」(高嶋豊明代表)が二十日、絵本の読み聞かせを弘前市門外二丁目の堀越公民館で行い、児童を引き付けた。これまで読み聞かせといえば主に女性だったが、「男性の包容力のある声で聞くのもいい」と好評だった。

 「お話ちゃんこなべ」のメンバーは、弘前市や青森市に住む男性6人。結成は2004年9月。なかには、絵本を読み聞かせするのが今回はじめてという方もいらしたそうです。もちろん、本番の前には1週間かけて練習をされたとのこと。

 男性による絵本読み聞かせ、徐々に広がってきているようです。

高齢者による読み聞かせ

 続いて、年齢限定、60歳以上の高齢者による読み聞かせ。中日新聞の記事にあったのですが、いまは見ることができないようです。そこで、Google にキャッシュしてあったものから引用します。滋賀県長浜市での取り組みです。

長浜市内の小学校で、60歳以上のメンバーが集まる本の読み聞かせボランティア「ジーバーぽこぽこ」が活動している。子どもたちの読書習慣の支援と、高齢者の健康維持、増進につなげようという一石二鳥の試み。県内では初の取り組みだ。

 記事によると、2004年6月に長浜市の保険センターが高齢者の読み聞かせボランティアを募集。8回にわたり講義や実技を受講し、その後、9月からじっさいの活動をはじめたとのこと。メンバーは17人。かなり人気があるようで、市内の小学校から引っ張りだこだそうです。

 「ジーバーぽこぽこ」という名前の由来は、おじいさんやおばあさんからいろんな話が出てくるという意味。なるほど、おもしろいですね。

 記事の最後に説明があったのですが、高齢者による読み聞かせは、東京都老人総合研究所が健康増進に効果的として提案しているそうです。

 同研究所のサイトを検索してみると、広報誌の老人研NEWSに関連記事を見つけました。No.205 平成16年11月(PDFファイル)の「トピックス シニア読み聞かせボランティアのあゆみ」です。

 この記事によると、すでに1990年代にアメリカで同種のプログラムが実施されており、日本では、同研究所が中心になって、東京都中央区、川崎市多摩区、滋賀県長浜市の3地区でおこなわれているようです。活動開始後6ヶ月ごとにお年寄りのフォローアップ健診をし、お年寄りの心身の健康にとっての意義を評価するとのこと。また、お年寄りの読み聞かせが小学校などの教育現場に対してどんな意義や効果を持っているかも聞き取りを進めていく予定だそうです。かなり本格的な調査研究です。

 そういえば、お年寄りに対する読み聞かせの取り組みもあったと思います。でも、もしかすると、お年寄りがみずから小学校に出向いて絵本を読む方が、お年寄りにとってはよりよいかもしれませんね。

高校生による読み聞かせ

 今度は若い世代の読み聞かせ。岩手日報の2005年1月7日の記事、読書会が結ぶ世代の絆 伊保内高生徒。少し引用します。

今回で25年目を迎えた九戸村の伊保内高(牛崎隆校長、生徒182人)の子ども読書会は6日、村内各地区で始まった。7日までの2日間、生徒60人が村内21会場を回り、児童・幼児に宮沢賢治の童話を読み聞かせたり、手作りの紙芝居を上演して交流を深める。

 今年で25年目! 生徒60人で村内21会場! うーむ、これはすごい。ハンカチ落としなどのゲームもするそうです。参加した子どもたちの声も載っていますが、とても楽しそう。毎年、楽しみにしている子どももいるとか。小さいときに読書会に参加した子が高校生になって今度は読み手として活動していることもあるそうで、これは素晴らしいですね。

 うちの子どもを見ていても思うのですが、異年齢の子どもと遊ぶ機会がとても少ないです。高校生と接する機会などほぼ皆無。また逆に、高校生が幼児や小学生と接することもあまりないのではないでしょうか。そういうなかで、児童や幼児と高校生が交流できる読書会は、非常に有意義なんじゃないかと思います。

 岩手県立伊保内高等学校のサイトもありました。子ども読書会のセクションには詳しい情報が掲載されています。

 見てみると、参加する高校生は男子の方が多いんですね(男子32人・女子20人)。学校の公式の行事ということもあると思います。とはいえ、女子よりもむしろ男子にとって、この取り組みはよい経験になるんじゃないでしょうか。いや、私の高校時代を振り返ってみても分かるのですが、こういう子ども読書会は自分の社会を広げる一つのきっかけになると思います。

 サイトのトップページによると、この子ども読書会は平成16年度の善行青少年表彰を受賞したそうです。この表彰については、青少年育成ホームページ平成15年度善行青少年等表彰についてに説明がありました。

 ただ、Google で検索してみると、伊保内高校は、岩手県の高校再編の対象になっており、存続を求める運動がおこなわれているようです。おそらく少子化の問題が背後にあるのでしょう。当事者ではありませんし細かな事情が分からないので何も言えませんが、これだけ優れた活動に取り組んでいる高校がなくなってしまうのは、非常に惜しいと思います。

共有地としての絵本の読み聞かせ

 今回は、ほんの少しのクリップした記事しか見ていませんが、それでも、読み聞かせにはいろんな可能性があるなあと思いました。

 とくに感じたのは、読み聞かせが双方向的であること。もちろん、読み聞かせは子どもたちのために行われるわけですが、でも、それは子どもたちに対して絵本をただ読んでいくだけではありません。

 男性にせよ、高齢者にせよ、高校生にせよ、読み聞かせを通じて自分たちもまた多くのものを得ていると思います。東京都老人総合研究所ではお年寄りに対する読み聞かせの効果が一つの研究テーマになっていましたし、岩手県の伊保内高校の子ども読書会も高校生自身にとっての教育的意義は大きいでしょう。

 しかも、いずれの取り組みでも、参加した子どもたちもまた、楽しんでいるようです。つまり、読み聞かせをする側の独りよがりではなく、なにより子どもたちにとって魅力的な時間と場所を作れているということ。

 こんなふうに考えてみると、絵本の読み聞かせというのは、いわば共有地のようなものかなあと思いつきました。

 理解が間違っているかもしれませんが、みんなで一緒になって作り上げている空間であり、しかも、そこから誰もが多くのものを得て学んでいる空間。それが絵本の読み聞かせのときに現れてくる空間かなあと。

 いや、私自身は自分の子どもに絵本を読んでいるだけなので、集団での読み聞かせがどのようなものなのかじっさいにはよく分かりません。とはいえ、読む側から聞く側への一方的な情報伝達ではなく、読む側と聞く側が双方向的にともに何かを作って獲得していく場なんじゃないかなと考えました。そして、それは、うちの子どもに絵本を読むときにも当てはまるような気がします。

岸田典大さんの絵本パフォーマンス

 クリップしていた記事、札幌テレビ放送のSTVニュースで取り上げられていた「絵本パフォーマー」岸田典大さん。以前、北海民友新聞の記事にも掲載されていました。

 STVニュースでは映像も見ることができます。自作自演、オリジナルの音楽に合わせて絵本を読む、というか「歌う」パフォーマンス。子どもたちから手拍子まで起きています。うーむ、すごい! これ、一回ぜひ実地に見てみたいですね。

 実は今年の8月にわが家のアイドル(?)飯野和好さんによる『ねぎぼうずのあさたろう』浪曲調読み聞かせをじっさいに見ることができたのですが(そのうち必ず記事にする予定です^^;)、それに匹敵するかも。

 検索してみたら岸田さんのウェブサイトもありました。絵本パフォーマー・岸田典大のHP~絵本パフォーマンスは絵本と音楽の新しい世界です。詳しいプロフィールに「絵本パフォーマンス」の説明、今後のライブスケジュール、ライブの感想、BBSや日記(RSS付き)まであります。非常に充実した内容。

 ウェブサイトでの「絵本パフォーマンス」の説明は次の通り。

市販の絵本にオリジナル音楽をつけて、ステージパフォーマンスとして行なっているのが、『絵本パフォーマンス』です。

 なんとなく、飯野和好さんが言われていた「芸能」としての読み語りを思い出しました。これについては絵本を知る: 『飯野和好と絵本』(その3)に書きました。

 ウェブサイトからリンクされているそら色ステーションでも岸田さんのパフォーマンスとインタビューを視聴できます(リンク先のページの一番下にあります)。いや、ほんとにすごい! 歌っているというか、もうラップですね。北海民友新聞の記事だと、なんと『ぐりとぐら』はヒップホップ調(!)になっているそうです。おもしろいなあ。

 思ったのですが、これはもう歌って踊れますね。いや、じっさい踊れそうです。考えてみれば、踊りたくなる絵本ってありますよね。それを実現してしまっている……。絵本の読み聞かせは声に出して聞くというところで体感的なものですが、さらにその先に行けそうです。身体全体で絵本を感じ取る、なんてこともおかしな話ではないでしょう。この点にかかわって、ウェブサイトでは次のように書かれていました。

従来の読み聞かせのイメージとはがらりと変わっているのではないでしょうか。紙芝居的で、ミュージカルチックで、ボードビルっぽい読み聞かせ。

 ページをめくりながら子どもに静かに読んでいくといったいわば読み聞かせに関する私たちの常識を完全に打破していて、なんというか実に痛快です。いや、絵本パフォーマンスの方が実は絵本の本質に迫っているのかもしれません。

 絵本パフォーマンスの絵本LISTのところを見ると、スズキコージさんの『サルビルサ』や『ウシバス』、長谷川集平さんの『トリゴラス』、片山健さんの『どんどん どんどん』に長新太さんの『キャベツくん』、センダックさんの『かいじゅうたちのいるところ』にスタイグさんの『みにくいシュレック』、等々とすごいラインナップ。うーむ、『サルビルサ』と『トリゴラス』と『どんどん どんどん』、これはぜひとも見て聞いて感じてみたいです。

 ライブの様子については、岸田さんのウェブサイトからリンクが張ってあるきっかけ空間 BRICOLAGE – ブリコラージュ –にとても詳しくリポートが掲載されていました。本当に楽しそうです。